オワタ式な神機使いの生き方   作:てっちゃーんッ

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第16話

 

 

〜 集落 〜

 

 

 

「レンカ!会いたかった!会いたかった!!」

 

「うわっ!?ね、姉さん…!!?」

 

 

ここまで来た時の旅路で怪我を負ってた脚だったが、完治したことを知らせるように元気よくレンカに飛びつくイロハ。

 

好きな男を離すまいと強く抱きしめて再開を喜ぶ姿に周りの人たちは微笑ましい姿に笑っている。レンカはどうするべきか迷いながらも、とりあえずイロハの再会に喜びながら背中をポンポンと叩いて撫でていた。

 

二人はしばらく放置しておこう。

 

 

 

「あ、女将さん。彼女をお風呂に案内してくれませんか?ここまでの旅路でボロボロになってしまって」

 

「あらあら、そうね。 なら早速案内するわ」

 

「あ、あの…わ、わたし…」

 

「ほら、こっちにいらっしゃっい。女の子はいつだって綺麗じゃないとね。こんなおばさんよりも若いんだから大事にしなさい」

 

 

そう言って湯船にドナドナされるアリサ。

 

あとまだレンカはイロハに捕まっている。

 

てか、尻尾があったらブンブンしてるなアレ。

 

 

「なぁ親爺さん。 あの二人絶対そうですよね」

「ああ、あれは間違いなくホの字だ」

「いやー、若い頃を思い出しますなぁ」

「ああ^〜、良いっすねぇ〜」

 

 

どうやらイロハは集落の人々に愛されてるようだ。

 

まぁここに集う難民たちは皆力を合わせて生き残る事を強く誓った者同士。助け合いは必須。

 

それにイロハは幼い頃から図鑑を読んでいたりと本の知識が豊富であり、なにより植物に関する知識はここにいる誰よりも豊富だ。

 

プランターで育てている植物は彼女のお陰で増殖に成功していた。

 

おおよそ100人分の食べ物を120人分にしたレベルであり、彼女の貢献度は高い。

 

そんなわけで彼女の存在はこの集落に置いて重宝されるが、まあそれ抜きで彼女の優しい性格もあり皆から愛されているとのこと。

 

ちなみに玉砕した男が二人いたらしい。

 

そりゃイロハって魅力的な女性だ。

 

性格も優しく、素敵な女性だ。

 

たが、そんな彼女にも心に決めた男がいる。

 

今目の前で繰り広げる光景が答えだ。

 

ちなみにレンカはまだ知らない。

 

二人は違う血を引いた義姉弟であることを。

 

まあ、イロハ次第ではすぐゴールだな。

 

 

 

「しかし、この神機…」

 

 

 

今見るとレンカの神機はズタズタだ。

 

盾も壊れている。

 

俺のオラクルバレットを防がせたことがトドメとなったのだろう。

 

一応レンカやアリサを巻き込まないためのバレットを使用させたが、それでも衝撃と風圧で壊してしまったらしい。

 

それほどボロボロだったのか、俺の調整ミスか。

 

まあどのみち死んだ神機らしい。

 

レンカ達が生きてるだけマシとしよう。

 

 

「あ、あのぉ、ゴッドイーター様?その背負ってるモノってなんですか?」

 

「おお?気になるかお嬢ちゃん?コイツはアラガミを殺殺(コロコロ)して来た時に手に入れた素材だ。本体は跡形もなく消したけどこの素材は持ち主が生きてると思ってまだ消失しないんだ」

 

 

 

まぁ、今は俺がこのマント(翼刃)の親機だし。

 

だってあれだけ変異種ピターのオラクルをガブガブ吸ったんだ。

 

主が絶命しても、絶命した主のオラクルが俺の神機にたっぷり含まれてる。まだ生きてると勘違いしてんのか自然消滅してない。

 

残念だったな、ピター。

盛大に利用させてもらう。

 

 

 

「んっ〜、レンカぁぁ…………すき

 

「ね、姉さん……」

 

 

 

義姉さんのクソデカ感情も時間の問題だろう。

 

姉のメテオに耐えれるレンカが気になるところさんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてヒートアップしていたイロハは落ち着きを取り戻すと、周りから見られていた事を思い出して赤面していた。

 

ふつうに美人かわいい。

 

そんな姉弟のくっつきイベントは終わりを告げてレンカはイロハから治療を受けている。

 

外で生活してた頃もレンカが無茶してらしく、その度にイロハが怪我を治すのは良くあったらしい。久しぶりにレンカの傷を治療したりと大好きな弟の面倒見れて幸せそうにしている。

 

そんな俺は二人の邪魔しまいと思って集落を見回り中だ。

 

途中難民達がプランターで育てた野菜などを頂いて試食した。

 

ちなみにリンドウは極東支部不在中。

 

そのため最近集落の様子を見に来てないらしい。

 

たしかにアナグラであまり見かけなかったな。

 

特務か?

 

てか、同じ第一部隊のリンドウに特務の案件入ってるそれのせいで第一部隊とは関係ない俺がレンカとアリサの救助に選ばれたんだよな?

 

別に貧乏くじとは言わないけど、本来あのような緊急ミッションは俺じゃなくてリンドウのクラスが行くべきだろう。

 

てか変異種ピターを掻い潜って助けに行くムーブは本来オワタ式がやるべきじゃない。

 

殺しちまったけど。

 

さて、極東はどう反応するやら…

 

 

 

「マロンさん…」

 

「お? アリサか、どうした?」

 

 

お風呂に入って汚れを落としたのかロシア人の白い肌が綺麗にみえる。

 

なんなら夕陽に照らされた肌は少し色っぽい。

 

 

 

「風呂上がりに外とは、湯冷めしないか?」

 

「心配ありがとうございます」

 

 

 

随分としおらしくなったな。

 

ただの女の子だ。

 

 

 

「そうだ、アリサにお薬渡しておかないと」

 

「え?」

 

「はい、精神安定剤らしきもの。強力だからあまり過剰に取り込むなよ?」

 

「っ!あ、ありがとうございます…」

 

 

 

よく見ると小さく手を震わせながら薬を受け取る。まだ精神面が安定してないようだ。

 

そりゃそうか。あのピターに叩きのめされてプライドも体もボロボロだ。取り繕う余裕もないらしい。

 

 

 

「で? 何か用があったんじゃないのか?」

 

「ぁ……は、はい…」

 

「?」

 

「その………ええと、た、助けていただいて、ありがとうございます…」

 

「気にすんなよ。可愛い後輩達が危ないって聞いたんだ。なんだかんだで俺も私情を挟んで駆けつけたさ。それに俺と同じ新型が居なくなるのは寂しいし」

 

「寂しい、ですか…」

 

「そりゃそうだろ。微々たる時間の中でも言葉を通わした仲だ。関わり持った人が失われていくなんて苦しいほかあるまい。あと、アナグラにいる以上は少なからず仲間だろ?」

 

「……なか、ま…」

 

 

 

慣れない言葉なんだろうか。

 

信じられる人はいても、仲間はいなかった。

 

アリサのゴッドイーターの人生は多分そうなのかもしれない。

 

 

 

「アリサ、少し話しないか?」

 

「……はい」

 

 

 

近くのベンチに腰掛け、アリサを隣に招く。

 

彼女は横に座った。

 

 

 

「俺の昔話をしようか。アリサも気になってたと思う部分だ。オワタ式の秘密もだよ」

 

「!」

 

 

興味はあるようだ。

 

俺は語る。

 

 

「俺ってさ、今と比べて最初のうちは新型として不完全な欠陥品と言われた。それからプロトタイプと名付けられた。最初はプロトタイプの名が嫌いで仕方なかった。しかし研究者達は俺を通して反省点などを炙り出し、次こそは不自由させないように新型の研究が進められた。踏み台として使われたといえば聞こえは悪い。しかし次の者たちの糧なったと考えれば、俺も多少は割り切れた」

 

 

 

そう受け入れないと、やってられなかった。

 

もしかしたらこれが正しい感情だ。

 

 

 

「しかし俺はそれでも恨んだよ。極東は成功の二文字を得るために成功率を高くする神機を選んだ。それがオラクルソードと超回避バックラーの二つ。しかも俺のオラクルは不安定だ。取り替えが効かない。しかし剣は殺せない、盾で守れない。そんな自分を呪った。しかしなんだかんだで俺は新型としての骨組みは得ていたから神機の変形機構は可能だった。 そこから先は好きにしろって感じでゴッドイーターとして放たれて俺に見合った役職についた。それが調査隊。討伐隊の次に、死亡率が高い仕事だ」

 

「でも、あなたが生きてるのは、あなたが強かったからじゃないですか?」

 

「そうでもない。今は昔よりも全面的にマシになったが最初の頃なんかはオワタ式のストレスに押し潰されそうで辛かった。そして脳が恐怖心を殺した。余計な感情は死につながる。だから恐怖心を麻痺させた。元々握っている神機故に死にやすいのなら死亡率なんて関係ない。今考えたらかなり自暴自棄だったかもしれない動きだ。無意識に。それで死んでしまっても別に良いかなと、考えてそうしてたのかもしれない…」

 

「!」

 

「中途半端だった。死にそうだから死ぬときはそれで良いとか考えてた割には、死にたくないために試行錯誤を繰り返して生存率を上げようとしていた。当時はなぜそんなブレッブレな思考でゴッドイーターやってたのか分からなかった。死ぬのが恐ければ神機使いなんて引退すれば良かったのに。でもゴッドイーターを続けた。約束事があるから」

 

「約束??」

 

「姉さんとの約束。それは使命感。もしくはただの独りよがり。脆弱な依存だったかもしれない。しかしそれは絶望するしかない世界で唯一俺を生かしてくれる淡い願いでもあった。そうやって生きないとならない理由を作り、死なないように俺を後押しする。だから、生きてた」

 

 

 

そう。

 

中身は死んでた。

 

しかし外側はまだ生きていた。

 

まるで本当のオワタ式のようであった。

 

 

 

「生きていれば、恐らくなんかある。荒ぶる神に殺されそうにな世界だけど、場違いすぎる神頼み的な希望感を持ちながら俺は限られた強さを引き出しながらなんとか生きた。この世の神様からは何も無かった。でもヒトからは何かあった。そしてオワタ式に負けたくない本当の理由(リッカ)を見つけた」

 

 

 

 

__こんな世界で神に祈らない。

 

__人は、人でしか、助けれない。

 

 

 

 

「まさしく愛だよね」

 

「あ、愛…?です、か?」

 

「ああ。俺はリッカって女性に助けられて、ここまでやってきた。そしてそれは愛情に変わっていた。しっかり台場マロンって人間に彼女が注いでくれた。俺は満たされた。この体に」

 

「…」

 

「………言ってることわかる?」

 

「え?ぁ、は、はい」

 

「あー、まだ子供には愛とかそういうのは難しかったか」

 

「なっ…! こ、子供扱いしないでください!」

 

「オイオイ、そう言ってるうちは子供だぞ?」

 

「よ、余計なお世話です…!」

 

 

 

なんか、良い感じだな?

 

年相応って感じ。

 

生意気な小娘って思ってたけど、こうなれば普通にかわいいな。

 

まあ一番可愛いのはリッカですけど。

 

 

「まあ、今日は何とか生きた。だから明日は今日よりも死なないように生きる。それで良いじゃないか」

 

「そ、そんな緩い心持ちで、良いんですか?」

 

「気立てはな、苦手でも自分で解決するべき感情なんだよ」

 

 

 

俺は立ち上がる。

 

 

 

「アリサ。薬は手段だ」

 

 

 

振り向く。

 

 

 

「しゅ、だん…?」

 

「薬は一時的に傷を抑える便利な道具だ。しかし治すのは自分だ。自分で自分を治すんだ。人間はそれを繰り返してきた生き物だ。アリサが頑張らなければならない」

 

「治すのは……自分…」

 

「その薬はあげる。でもあくまで手段だ。解決するべき痛みは向き合って、理解して、治す方法は__」

 

 

 

 

___アラガミが来たぞー!!

 

___避難しろー!! 早くー!!

 

___うああああ!!

 

 

 

 

「タイミング、わるっ」

 

 

 

アラガミは空気を読まない害悪。

 

はっきりわかんだね。

 

てか良いところだったのに。

 

一度はやってみたかった熱血少年漫画ムーブの出番すらも食らってしまうとかマジ卍。

 

 

 

「ア、アラガミ!? ぁ、ぁぁ! ぃ、いや!! た、助け__」

 

「落ち着け」

 

 

 

軽くチョップして彼女のパニックを止める。

 

 

「あうっ…」

 

「俺たちはゴッドイーターだ。それを忘れない」

 

 

 

しかしこの状態で戦わせられない。

 

 

 

「俺は討伐に向かう。アリサは隠れてな」

 

「っ!…そ、それは!」

 

「命令は三つ。死ぬな。死にそうなったら逃げろ。そんで隠れろ。運が良ければ隙をついてぶっ殺せ」

 

「え?」

 

「あ、これは受け売りだぞ?とりあえずそんな感じに隊長らしくない素敵な命令がある。だから命令に従ってアリサは隠れてろ」

 

「わ、私はそんな…」

 

「ゴッドイーターとして、神機を握れる?」

 

「神機…」

 

 

 

震える手が証拠。

 

それではアラガミを喰らえない。

 

その震えに気づいたアリサは苦しそうな顔をする。

 

俺は手を伸ばして崩れそうになる帽子を整えてあげながら肩を叩く。

 

アリサは顔を上げてこちらを見るが、不安に塗り潰された目が渦巻いてることがよく分かった。

 

 

「今のアリサはそういうことなんだろう。まあ任せておけ。これでも俺はゴッドイーターだ」

 

 

 

俺はアリサを置いて悲鳴の元に走り出す。

 

壁に立てかけていたオラクルソードを握りしめるとスキル効果が発動されたのか、体は羽のように軽くなる。

 

強制解放剤をひと舐めしてほんの一瞬だけユーバーセンスだけを発動。

 

って…!!

ボルグ・カムランのオラクル反応!?

 

おいおい!?

 

 

「極東が動物園なのはわかるけど、流石に無法地帯すぎる…」

 

 

 

多分おそらく森の中を突き抜けてやってきたんだろう。

 

そうなるとカムランが通ったところの木々が倒されて道ができてしまうかもしれない。

 

早めになんとかする必要があるな。

 

まだアンプルあったか??

 

 

 

「マロン!」

 

「レンカ、さっきぶり。とりあえず住民の避難を急がせろ。怪我してる者がいたら即座に運んでやれ。ゴッドイーターの身体能力なら余裕だろう」

 

「マロンは?」

 

「アラガミは俺が殲滅する。 今は俺しか出来ないからな」

 

「それは……」

 

「バーカ!そこで負い目を持つならそれはお門違いだ。レンカはレンカなりの役目を果たしてきた。今は運悪く戦えないだけ。けれど今のレンカの出来ることはあるだろう?姉さんを守ってやれ」

 

「!!…わかった、気をつけてくれ」

 

「オワタ式だから気をつけるのは慣れてるさ」

 

 

 

心配させないように言葉を返してオラクル反応を捉えた方向に走る。

 

建物の屋根の上に飛び移り、望遠鏡を使って様子を伺う。

 

カムランが我が道のように堂々と進んでいた。

 

 

 

「極東の中に入れずとも生きようとしてる人々がいるんだよ… だから、そろそろいい加減にしようか、アラガミ…!!」

 

 

 

静かな怒り。

 

ボルグ・カムランに接近する。

 

広いところに出たボルグ・カムランの頭に火属性のモルター爆弾を放って怯ませる。

 

その隙にボルグ・カムランの真下にスライディングして真上に砲撃した。

 

 

 

「内臓破壊は痛烈だぞ、存分に楽しめ!」

 

「ギィィィ!!!??」

 

 

 

装甲の硬い正面から攻撃しても弾かせる。

 

ならばみんな大好き『内臓破壊弾』でマゾゲー無印すらも解決だ。

 

それにこのバレットの利点はあまり爆散しないことだ。

 

この集落には建物や倉庫がある。

 

なのであまり激しい戦闘はしたくない。

 

だからこのバレットが役に立つ。

 

お陰でボルグ・カムランは弾ける体内に苦しんでいる。

 

そりゃ外部には何も支障が起きていないの内側ではぐちゃぐちゃにされているんだ。

 

かるくホラーだよね。

 

 

 

「てか、内臓破壊食らわせてもまだ生きてんのか、たまげたなぁ」

 

 

 

打ち所が甘いだけか?

 

それならもう一撃同じ内臓破壊弾を放つべき思う…が、そのためのOPが足りない。

 

ピターから回収したオラクル使っちまうか??

 

いや、これは確保しておきたい、今後の研究のために。

 

ならカムラン自身からオラクルを吸収しないとならないな。少し面倒だな。

 

そう考えて銃形態から剣形態に変えた瞬間だ。

 

 

真横からボルグ・カムランに砲撃が数発ほど襲いかかった。これは……アサルト?

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ……!!」

 

 

「ア、アリサ?」

 

 

 

額に大量の汗を流して、ガタガタと神機を震わせながらも、アサルトの銃口はアラガミに。

 

彼女の瞳はまだゴッドイーターを失っていない。

 

脆く崩れそうな彼女だが、でもそこにいた。

 

 

「運が…はぁ、はぁ…良ければ、不意をついて…はぁ…はぁ……ぶっ殺せ…でした…ね」

 

「そうだな。とても命溢れる判断だと思う」

 

 

 

そう一言残してボルグ・カムランの体にオラクルソードを斬りつけて、オラクルを回収しながら2歩後ろに下がり、神機を斜めに構えインパルスエッジを撃ち放つ。

 

ブラストの火力でボルグ・カムランは胴体を貫かれると、断末魔をあげながら絶命した。

 

 

「ありがとう、すごく助かった」

 

 

コアを引き抜いた後アリサにお礼を言う。

 

すると彼女はその場に膝から崩れ落ちる。

 

相当無理したようだ。

 

しかし、その眼は先程とは少し違う。

 

 

「私はゴッドイーターなんです。だから、逃げも隠れも、しない。守られるだけじゃない。強く、なりたい。私は、ゴッドイーターに、なりたい…ッ、です…」

 

 

 

感情を抑えきれない彼女は静かに涙を流す。

 

体はガクガクと震えていた。

 

しかしゴッドイーターな彼女は息を吹き返そうとしていた。

 

 

「まろんさん、わ、わたし、なれますか?ゴッドイーターに…」

 

「ああ、もちろん」

 

 

 

即答する。

 

俺は原作ゲームの彼女を知ってるから。

 

そして目の前の彼女を知ったから。

 

なら、ゴッドイーターになれる。

 

 

 

「俺が、ゴッドイーターにしてやるよ」

 

「!」

 

 

 

地面に落ちた帽子、それと涙。

 

白い髪の毛に触れて、グシャグシャと撫でる。

 

 

 

「子供……扱い…しないで、いい、ですから…」

 

「ポロポロ泣いてよく言うわ」

 

「うるさい…です。ドン引き…です、よ…」

 

「そうかよ」

 

 

 

しばらくして泣き止んだ。

 

彼女は涙を拭って立ち上がる。

 

 

 

「動けるな?」

 

「ええ、マロンさんからもらった鎮静剤を飲んだので。大丈夫です」

 

「そうか。それは良かった。じゃあとりあえず避難した人たちを安心させたいから状況報告と事故処理に入る。レンカも呼んで手伝って」

 

「わかりました」

 

 

 

しっかり涙をぬぐいとてもいい顔になる。

 

そして夕日に照らされる彼女はとても美しいんだ。そう思えるほどに。

 

もう、生意気な小娘なんて、言葉に当てはめれない……こともないか。

 

彼女はまだまだ子供だ。

 

でも子供って本当に成長が早いもんだ。

 

またひとつ強くなった気がする。

 

 

 

「あ、それと一つだけ言い忘れてた」

 

「?」

 

「渡した薬なんだけど、それただの"眠気防止剤"だからな」

 

「……………ふぇ??」

 

 

 

消失するボルグ・カムランを横で間抜けな声が広がる。

 

 

 

「俺は一言も『鎮静剤』と言ってないから」

 

「!!?」

 

 

 

つまり、彼女は鎮静剤なんかに頼らず自分の力だけで動いたという訳だ。

 

とても強い女の子だぞ。

 

 

 

「まぁ結果論として"目が覚めた"からコレでいいだろうよ」

 

 

「なっ!…なっっ!なぁっっ…!!?」

 

 

 

そう言って俺は避難場所まで足を進めた。

 

良い色だ。

 

良い夕日の色だ。

 

後ろからうるさく聞こえる子供な声と共に。

 

ゴッドイーターを染める、穏やかな色に。

 

 

 

 

つづく

 


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