〜 アナグラ 〜
ひとときの平和の中、アナグラ。
朝起きて食事を済ませた神機使い達はミッションが開始されるまでこのラウンジでのんびりと雑談しながら過ごしていた。
「おはようございます、タツミぱいせん」
「おう、おはよう!マロン!」
どうも。
甘そうな名前の男、台場マロンです。
さて、エレベーターから降りるとタツミぱいせんといつも通り朝の挨拶を済ませる。
その後ブレンダンとも挨拶を済まして軽く雑談を行い、それぞれの今後の予定などたわいもない話を繰り広げる。
まあタツミぱいせんから切り出される話は二割型ヒバリちゃん関連だけどな。
相変わらずお熱ですね。
そんな感じに会話を弾ませてると少し遅れてエレベーターからもう一人が降りてきた。
その人物は衛生兵の台場カノン。
または我が愛しい姉である。
しかし、そんな彼女の口から…
「うぅ…マロンの所為で腰が痛いです…」
「「「!!??」」」
ブラスト並みの爆弾発言が投げ込まれた。当然ながらカノンの言葉を聞いてた他の神機使いは目を見開いた。
そして姿勢悪く階段にもたれかかっていた俺はその発言にズルリと足滑らせてゴロゴロと落ちる。隣の受付カウンターにいるオペレーターのヒバリさんから心配されながらもカノンと交互に見合わせる。先ほどの爆弾発言が気になるらしい。
とりあえず誤解を解こう。
「おい、姉さん。 それ誤解生むから止めろ」
「だってぇ……」
涙目で中腰で腰をさすりながら情けない声を出す我が愛しい姉上よ、その姿は可愛いと思うけどとりあえずタツミぱいせんとブレンダンぱいせんの視線が痛い。オワタ式のペラペラな防御力にひどく効いちゃう。
そんなこと考えながら我が姉の額を指で小突いていると後ろからタツミぱいせんはため息つきながら俺の肩に手を乗せて…
「マロン。姉に溺愛してるのはわかる。カノンも弟君を大事にしてるのもよく分かってる。だから君たち二人が何しようと俺たちは見守るだけだ。 だけどなマロン!もしもの時はちゃんと男として責任を…!」
「ちげーよ」
「ぐえっ!!」
雑談時に飲み干した空き缶をタツミぱいせんの顔に押し付けて没シュート。
その勢いで階段からゴロゴロ転がり落ちる。
あと我が姉が腰の痛みは朝起こしてあげたときに出来た痛みだ。何せバレットエディットの作成を手伝って欲しいと言ったのに、その約束の日に気持ちよくお寝坊さんしていた。
ノックしても目覚める気配は無く仕方ないので無防備に鍵が空いていた扉を開けてメガホンの咆哮で叩き起こしてやった。すると我が姉は驚いてベッドから落ちて腰を打った流れだ。
そこら辺は説明すると一部の人たちは納得してくれた。まあ中にはまだ疑っている人もいるがそれは仕方ないだろう。なんだかんだで俺とカノンが仲良いのはそこそこ有名だから。疑われるのも仕方ない。
「とりあえず姉さんはこっちだ。あとブレンダンさん、カノンはお借りしていきます」
「あ、ああ、わかった」
それと我が姉の部屋の上からもドスンと音が聞こえた。
位置的には多分リンドウさんの部屋だったか?
しかしこんな時間まで眠ってたという事はサクヤさんと仲良くしっぽりやってたのかな?
気持ちよく寝ていたところで何か申し訳ない事したか。
「とりあえずエディット実験室に行くぞ」
「あ、ちょっ、ちょ!急に引っ張らないでぇ」
戦いが起きれば勇敢に立ち向かう我が姉もアナグラにいる時はこうもヘナチョコだ。
そこが可愛いけれど少しはしっかりしてよね。
「ぐっ、…頭がいてぇ…」
「ソーマじゃないか。今日は非番なのか?ゆっくりな朝だな… って、頭支えてどうした?」
「知らん!下から突然爆音が聞こえて寝床から落ち… ああ!くそッ!誰だ!朝からこんなクソくだらないイタズラを起こした野郎は!」
「マロン」
「あの野郎!今日こそは捻り潰してやる!」
「いいのか隊長?」
「構わん。空き缶ぶつけられた上に階段から転げ落ちたせいで俺も頭が痛い」
「そこは自業自得だと思うが」
アナグラのひとときの平和である。
♢
〜 バレッドエディット実験室 〜
「どう? 完成したか?」
「なんかうまくいかない。モルカー爆撃の威力あげようと着火地点に爆発を重ねたんだけど何にも弾けないよ?」
「モルカーじゃなくてモルターな?プイプイする爆発なんて可愛さだけだろ。あと何も弾けてないように見える原因は爆発を重ねていることが原因。爆発が相殺し合ってる」
「そ、そうなの?」
「一瞬だけ爆発が起きてるけど爆発したことを目視確認できないだけ。もし爆発をハッキリとさせるなら時間差で弾けさせるくらいにしなければならない」
「え、ええと……ええ?」
「とりあえず付着式の時限爆弾式に変更する。そうすれば仲間にも時間差で爆発させれることを知らせれるからな。そうすれば誤解も減るはず。あと時間経過で爆発の威力をあげるエディットも行おうね」
「う、うん!」
少々頭がポンコツな姉のバレッドエディットを手伝って一時間が経過していた。
まぁバレッドエディットなんて仕組みが複雑すぎるため神機使いから不人気だ。
でもゴッドイーターをプレイしてる俺からしたら仕組みは大体理解してるので難しくは無い。
しかしその代わり俺の階級はまだ低いのでエディットで使える種類が少ない。
そのため アレ が作れないのだ。
そのアレとはまず→空中に打ち上げる→ある程度停滞させる→その間に威力を上昇させる→それを地面に打ち付ける→ドバァー!と大爆発を起こす→見ろアラガミがゴミのようだ!→彼女ができる。
そんなバレッドエディットだ。
まあこっちの世界でそんなことすればバレッドエディットの可能性に皆は戦慄すると思うけど原作ゲームをしていた俺はワンボタンでそこら中に汚ねぇ花火が打ち上げていた。なかなか爽快な一撃。せっかくだからこの世界でも早く打ち上げてその光景を見てみたいところだ。ブラスト使いだからこそのロマンである。
「マロン、その… いつもありがとうね」
「?」
不意に姉からお礼を言われる。
「私いつもみんなに迷惑かけてる。そして弟のマロンにもこうして色々と迷惑かけてしまっている。えへへ、頼りない姉だよね」
「それは半分違うな、姉さん」
「え?」
「迷惑かけてるところはそりゃ仕方ないと思うよ。でも頼りないとは思ったことないよ」
俺は姉の… いや、カノンの頭に手を置いてゆっくりとポンポンと叩いて慰める。
撫でられた驚きから徐々に恥ずかしさを気にし始めたカノンの顔は赤く染め始める。
俺と彼女との身長差はあまり無い。
これではどちら妹弟なのかわからない状態だ。
しかしそんなこと気にもせず俺は自分を批難するカノンを否定し続けた。
「姉さんに大変な一面はあるけれど、その分頼られる一面もあるんだよ。何がどうとか、これがこうとか、姉さんの美点などを言い切るには時間がかかるけど俺はちゃんと知っている。だからそうやってあまり自分を批難しないで」
「マロン…」
「数週間前にもさ、ミッションの同行に嫌われまいとするために自分の報酬を仲間に与えるために横流しを行って、レアモノ女神説を作り上げて好かれようとしていた。だけど俺は止めた時姉さんに言った。姉さんは家族を守ろうとするためにゴッドイータになった。そして命かけて戦うその世界で姉さんは逞しく立ち向かい続けている。そんな姉さんをダメな人だなんて俺は思わない。無力な人々を守るためにアラガミを殺し続けて、そしてそんな人々は戦う姉さんのことをとても頼りに思ってるよ」
彼女は立派だ。
自信を持たせたい。
両肩をポンポンと強く叩いて伝えてる。
カノンは大丈夫だと。
「さぁ、無力な人々を守るためにアラガミ殺すバレッドエディットは幾らか完成した。そのため実験を行うよ、姉さん」
「う、うん! わかった。 同行よろしくねマロン」
ニコニコと笑顔を作り出す我が姉。
やはり可愛い顔をしている。
「… っと言うわけで、覗き見してるソーマは非番だけどミッション行こうぜ。そして一緒にオラクル塗れになろうや」
「ふぇ!?」
「おまえ…いつから気づいてた?」
物陰から顔を見せるソーマ。
見つからないと思ってたのかな?
「俺が姉さんの頭をポンポンしてるときにガラスに反射してソーマが映ってたよ」
「………ちっ」
少しだけおマヌケさんでしたね。
そして我が姉は俺に慰められていた姿を見られたと思い、再び顔を赤く染めながら手をワタワタとして戸惑っていた。
「姉弟愛を特等席で覗き見たんだ。バレッドエディットの実験に付き合って下さいな?せーんーぱーい」
「……なんでこうなった」
それでもなんだかんだで断らないソーマやさしい。
♢
〜 贖罪の教会 〜
「ああ、それでアナグラ中で俺を追っかけてたのか。そりゃ悪いことしたな」
「はぁぁぁ…」
「ええと…そのぉ……」
クソでかため息を聴きながら上から順に、オワタ式、ツンデレ死神、誤射姫と、こりゃまた奇妙な組み合わせでのミッションだ。
ちなみに標的はオウガテイルの群れである… が、なぜか調査不足な事を報告されている。
は?マジ?調査隊は何やってんの?
そのためこのミッションでは別のアラガミが存在するらしい。現れても中型アラガミ程度ならまだ良い。しかし強すぎるアラガミがこのミッションに存在するならば充分に警戒しなければならない。
「どうやらオウガテイルの群れ以外に中型以上のアラガミが存在するらしい。現れる前提で考えて動くぞ」
「だ、大丈夫です!ソーマさんがいますから!」
「……そう思うなら、おれと行動しない事だな」
「ふぇ?」
ソーマはカノンを冷たく突き放す。
いつも通りの対応。
しかしカノンの言葉は『ソーマが俺たちを守ってくれる』と言う意味として受け止めれる。
そのためかソーマが微かに動揺していた。
俺はそれを逃さなかった。
だからなのか、そのフードの下では苦しそうな顔をしているように見える。
「俺も姉さん同様に頼りにしてるからな、ソーマ」
「やめろ」
「いいや、純粋に頼りにしてる。だって此方はブラスト使いが二人だぜ? 俺の近接武器も前衛として意味無さない。実質後衛が二人だ。しかしそこに強靭なバスター使いのソーマが居るならば鬼に金棒。大きな安心感がある訳さ。これを頼りにならないで何になる?」
「そ、そうですよ! ソーマさん程の神機使いがいるなら何にも怖くありません!」
「…ちっ、面倒な野郎共だ」
「なっ! わ、私は野郎じゃありません! 女性ですよ!!」
「姉さん、そう言う事じゃないぞ?」
「…………はぁ、とっとと片付けるぞ」
色々と複雑な気持ちに襲われていたソーマだったが俺やカノンのやり取りによってどこかバカらしくなったのかまたため息を吐く。
その姿を見たカノンは再びワタワタと慌て始めるが野郎扱いが気に入らない感情も見え隠れさせていた。
そして…
「オラァ!バラバラに散ってしまえよ!!」
今日の朝に作り上げた姉弟の結晶。
オラクルバレッドを射ち放つ。
集まったオウガテイルを一撃粉砕を行う。
見ていてすごくグロいです。
「あっははは!! こんなのどうヨぉ!!」
銃口を地面に落としてトリガーを引くとオラクルが地上を走った。
弾はオウガテイルの足元を通ると急に真下からブラストが吹き荒れる。
腹元から胴体を抉られたオウガテイルは次々と絶命していった。
「すごいすごい!見てよぉマロン!ソーマ!オウガテイルの臓器が赤く真上に吹き飛んで血まみれだよ! キャハハハ!!!」
「……」
「……」
ソーマもカノンがトリガーを引けば人格が変わる事はよく知っているため、それなりに耐性はあったがそれでも言葉にし辛いのは皆同じであった。しかしボムマスターのスキルでも搭載されてるか?
心なしか爆撃の威力が増してる気がする。
「ありゃオラクルポイントが切れるまであの調子だな。近づけないね」
「おい、おまえの姉は一体なんなんだ?」
「んー?二重人格。知らない?」
「……知らん」
「そうか。まあ、良くありげな過去の話だよ?今の頃よりも弱かったアラガミ防壁が食い破られてまだ小さな俺はオウガテイルに追いかけられると壁に追い込まれた。そしたら姉さんが割り込んできたんだ」
___ 私の弟を食べるなぁ!!
___ 許さない! 許さないから!!
「ゴッドイーターでもない頃の弱さ。オウガテイルの目の前に仁王立ちな姉さんは恐らく死ぬ気だった。大口を開けて襲ってきた。それは恐怖そのもの。でも…」
__来い! ぶっ殺してやる!
__私の大事なモノを奪おうとするなら!
__グチャグチャにして殺してやる!
「啖呵を切って鉄パイプを構えたんだ。この時だったかな?姉さんに人格が現れたのは。証拠に姉さんは睨みつけていた。子供の何倍も大きな相手だとしても、大口を開けて噛み付こうとするその恐怖を目の前にしても、姉さんは荒ぶる神様を相手に対立をやめなかった」
「……」
「まあその後すぐにゴッドイーターが駆けつけてオウガテイルを倒してくれた。助かったことを実感すると足腰から力が抜け落ちた姉さんは地面に座り込んだ。握りしめていたパイプも手放して。しかし不意に呟やかれたんだ」
__私……今の私より強くなりたい。
__そして戦える人間になりたい。
__アラガミなんか吹き飛ばせる。
__そんな、そんな自分が欲しいよ。
「姉さんは幼い時から弱い自分を少なからず憎んでいた。男に産まれていたのなら今よりも強くなれた筈だとか色々と考えてた」
「……」
「そして今がある感じだ。運命に選ばれたのか適合率が高いこともあり無事にゴッドイーターとなった。その時には姉さんの中にある別の人格は戦う時が来ると大いに発揮されるようになっていた。だからアレは…」
ソーマから視線を外して、視線を移した先はいまも荒ぶっている姉の姿。
「臓物千切れろ! 張り裂けろ! ぶっといので貫いてやるよ!あっははは!!!」
オウガテイルが吹き飛んていた。
鮮血舞う贖罪の教会の外でアラガミの断末魔が響き渡り、そしてあの時の弱さはいまはもう過去の事らしい。
ボムマスターのスキルでも搭載してるのか怪しいくらいに激しい爆撃がそこら中に飛び交っていた。
「自己暗示に近いモノかもな」
それが良いのか悪いのか、判断はできない。
でもゴッドイーターになろうとするカノンにとって必要な力なのかもしれないから。
「……なぜそれを俺に話す?」
「深い理由は無い。ただほんの少しだけ理解して欲しかっただけ。姉さんは悪気があって誤射してる訳じゃないことを知って欲しかったんだ。たしかに姉さんはポンコツなところがあり、戦闘でも度々迷惑かけてる。でも悪い子じゃないから嫌わないで欲しい… って事を弟が誤解を解いてるだけだ」
まぁソーマにこんなこと言ってもおそらく「俺には関係ない… 」と切り捨てられるかもしれなかった。
でも俺は姉のことを知って欲しかった。
彼女は優しい気持ちを持っている素敵な人。
それを理解して欲しかった。
これは俺の独りよがりだ。
けど…
「マロン、一つ聞く。おまえの姉のカノンとは血の繋がりは無いはずだ。なのになぜそこまでカノンの事を思える?」
「!」
むしろ追求してきた彼に驚いて、少しだけ目を見開いた。しかし俺はカノンを見ながら軽く微笑んで答える。
「そんなのカノンが大事だからに決まってるだろ。血の繋がりは無いけれど俺は大事だよ。それだけで充分だと思う」
「……理解できないな」
「大事にしたいと思える相手が出来たらソーマも分かると思う。そこに血の繋がりなんて関係ないって事も含めてな」
「…」
「ちなみにソーマの事を気にかけて大事にしてるのはエリックだって言っておくゾ」
「……知らん」
「あと俺も」
「おまえは余計だ」
「じゃあエリックは良いって事だよな?なるほどな」
「おい、黙れ。 叩き潰されたいか?」
いつも通り、暴力的な冷たい言葉。
しかしそれがソーマだ。
「なぁ、ソーマ」
「………なんだ」
「俺はエリックといつまでもソーマを放っておかないからな。うざったいくらいにつきまとってやる」
「普通それを口から言うか?」
どこかもう諦めたかのように疑問をぶつけるソーマに対して俺はドヤ顔でこう言った。
「愛の告白は言葉からじゃないと伝わらないだろ?」
「くたばれマロン」
流石バスターブレード使い。
告白なんて簡単に両断してくれた。
つづく
GE2と言えばブラッドアーツ。
そしてブラスト。
イコールとして、つまり、そう言うことになる。
シエルの開発は偉大でしたね。
ではまた