オワタ式な神機使いの生き方   作:てっちゃーんッ

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第6話

 

〜 贖罪の街 〜

 

 

 

いま、三人は死にものぐるいで走ってる。

 

 

 

「調査隊の馬鹿野郎!何がオウガテイルの群れだ!くそッ!」

 

「持っているスタングレネードが不良品な上にこの編成で禁忌種のポセイドンとかアホくさ」

 

「は、早く逃げましょう!」

 

 

 

しかしこうも簡単に接触禁忌種と出会えるなんて極東支部はアラガミの動物園なんだって今一度再確認できる。しかも亜空間ミサイル攻撃を得意とするポセイドンがお相手だ。

 

姉さんはポセイドンと出会った事ないから対策も分からず困り果てている。

 

ソーマは交戦経験はあるようだけどこの編成だとまず死人が出ることを恐れて"今は"撤退に力を入れていた。

 

もしこれが禁忌種ではない普通のやわらか戦車ならソーマも俺も戦えるのだがカノンを入れた編成なら色々と準備不足だ。

 

 

「ソーマ! 左!」

 

「なに!? うおっ!!」

 

 

ソーマの進行方向に亜空間からミサイルがこんにちはしてきた。

 

俺が声をかけるまでは気づかなかったようだ。

 

カノンも未知のアラガミに怯えながらも撤退する足を緩めない。

 

 

「た、建物はどうですか!?」

 

「亜空間ミサイルは建物越しでも攻撃してくる上に狭い室内だと爆発から逃げれないから却下だ。逃げるなら空間の狭いところだ。もしくはかなり遠くに逃げるくらいだな!」

 

「だとしたらこの先どうするのマロン!?」

 

「どうするもなにもぶっ殺すだけだ!アラガミは殺す!!」

 

「ソ、ソーマさん!」

 

 

 

そう"今は"撤退に力を入れてるだけでポセイドンを殺せるタイミングがあるならソーマはまったくもってその気だ。

 

しかし姉さんは別だ。

彼女だけ交戦経験が無い。

 

奴の情報も頭に入れてないのだから。

 

ちなみに俺は一瞬だけどポセイドンとは出会ったことはある。いつだったか屋上から飛び降りて来たポセイドンが目の前にダイナミックエントリーしてきた。急な禁忌種とのエンカウントは死を覚悟したが足場が悪すぎるその場所で着地して、それで床が崩れて巨体はそのまま落ちて行った。

 

出オチなポセイドンに思考が追いつかなかったが、とりあえずなんとかなったとホッとしてたところに次は亜空間ミサイルが飛んできた時はマジでビビった。

 

その場から必死に逃げて生き延びた。距離を取れば亜空間ミサイルは飛んでこなかった。

 

さて過去の経験からわかること。それは飛んでくる亜空間ミサイルにも射程圏内ってのがあると言うこと。距離を大きく取れば攻撃は飛んでこない。だから死ぬ気で逃げて奴から距離さえ取れたなら生存は確定するはず。まあ戦車相手に逃げれるかわからないが。

 

あとソーマは自分がゴッドイーターである事と自分がアラガミを殺すために生まれたことを考えると逃げに徹するなんてあり得なかった。

 

今にでも殺しに掛かろうと苦虫を潰したような顔で堪えている。

 

 

「ちっ!マロン!お前はお前の姉を連れて離れろ!邪魔だ!」

 

「そうしたいのは山々なんだけどさ」

 

「くっ…はぁ……はぁ……」

 

「俺たちのように彼女はスタミナはずば抜けてないからな。不可能だ」

 

「ならおれが抑える!お前らは早くこの域から消えろ!」

 

「落ち着けよ、ソーマ。まず()()()ポセイドンを一人で相手して抑えれるほどソーマは強いのかよ?この場にリンドウさんがいるなら分かる。あとソーマはアレと交戦経験があるだろう。しかしそれは極東では無い出張先でのアラガミだろ?ここは極東であってその時と意味が全く違う。アレは極東のアラガミだ。自殺行為ならやめてくれ」

 

「黙れ…!」

 

 

フードから見せるソーマの顔は激しい焦りを感じさせる。

 

そしてこう思ってるに違いない。

 

__(死神)が引き寄せてしまったのだ…と。

 

 

 

 

 

「アレは俺が倒す!だからお前らは__!!」

 

「だから…なんです? 死神だから… あの厄災を引き寄せたから… あなたは責任を取るなんて言うのですかっ?」

 

「!」

 

 

 

怒りで興奮していたソーマはカノンの言葉により声が詰まる。

 

 

「はぁ、はぁ…くふぅ……ごめんなさい。呼吸落ち着きました。それでソーマさんは自分のせいだと、ありもしない事を言うのですか?」

 

「!」

 

「あなたが… あなたが死神だから、あのアラガミを引き寄せたなんて私どうでも良いです!変な責任感を負わないでください!」

 

「くっ、ッッ!!マロン!テメェ!また余計な事を!」

 

「姉さんは優しいからな。随分前にソーマがどうして辛そうにすることが多いのかを聞いてきた。だから俺は答えた。それだけ」

 

「っ、コイツら…!」

 

「はいはい、ツンデレ死神自称者を抱えた設定はここまでにしとけ…… そろそろ来るぞ」

 

「「!!」」

 

 

 

カノンの呼吸を整えさせて、ソーマと言い争いをしていれば当然奴が追いかけにやって来る。

 

まぁ、このメンバーでは逃げきれるとは思ってないので半分あきらめていた。

 

逃げることについては俺ひとりなら可能だ。

 

戦うより逃げるのが得意。

 

 

 

「聞け、二人とも。この近くには地下鉄が通っていた場所が存在している。故に足元が脆い。これは俺が調査隊として実際にその場まで調査したから言えることだ。極東にはアラガミとの交戦に向かない場所として報告してある。そんでもってあのポセイドンはとても重たいアラガミだ。そしてあいつを今から誘う場所は脆い足場のあるエリア…… あとは分かるよな?」

 

「!!… だけどマロン、その足場にポセイドンが乗っただけで崩れるの?」

 

「崩れるかはわからない。なので脆い場所のど真ん中にポセイドンを誘導する。そしてポセイドンの動きを止めてからソーマが真上からチャージクラッシュを叩き込む。その勢いで床を崩してポセイドンを地下に落とすわけだ」

 

「待て。そうなるとポセイドンこ動き止めるにも誰がその役目を受けるつもりだ?もしやヒョロヒョロのお前が囮になるとは言うんじゃねぇな!?」

 

「そ、そうですよ!ホールドトラップも無いのに!」

 

「大丈夫だ。俺は囮として任されるためのバレッドエディットを持っている」

 

「「!」」

 

「これでもソロで活動している調査隊だ。逃げるためのモノは多く用意している。今回のミッションでも驕りなくこのブラストに仕組んでいるんだ。今は得意な俺を頼りにしろ」

 

 

ポセイドンはなんとかしなければならない。

 

何せ回収のヘリコプターも近づけないから。

だからなんとかできる俺の言葉を聞いた二人は決断する。

 

 

「ソーマが頼りだ。思いっきり頼むぞ」

 

「……ッ、ちっ、なら早くポイントを告げろ。他のアラガミが集う前にな」

 

 

本当はホールドトラップが手っ取り早い。

 

しかし「当たらなければどうって事ない」精神の俺は身軽さを追求するためにバレッド以外のアイテムは極力持ち込まないスタイル。仮に何か持ち込んだとしても仲間と一緒にミッションを向かうときくらいだ。

 

今回は仲間のために回復アイテムを少量持ち込んだがオウガテイルだけだと聞いてたので対大型アラガミ専用のアイテムは持ち込んでいない状態だ。しかし万が一のために準備を怠ったミスだなこれは。あと他に何か現れてもソーマがいるからと軽く慢心していた。しかし現れたのは禁忌種だった。極東をナめてたわ。

 

 

「配置につけ!そんでもって絶対に死ぬな!」

 

 

姉と同じブラストを構えて向かって来るポセイドンの正面に立つ。

 

 

 

「グォォォオオオ!!」

 

 

 

うわー、デケェなオイ。

 

でも過去に姉さんは俺を助けようとするためにこうしてアラガミの目の前に立ちはだかったんだ。何倍も大きなオウガテイルを相手に。

 

 

 

「…」

 

 

だけど今回は姉さんが立ちはだかった時の何倍も何倍もヤベーヤツだ。

 

マジでヤベーヤツだ。

 

オワタ式装備のゴッドイーターがポセイドンと対面するなんて正気の沙汰も良いところ。

 

側から見れば自殺行為に過ぎない。

 

でも……そこに大差はない。

俺は何やっても一撃死確定な体だ。

 

不意に死ぬことなんてあり得る。

 

けれど…

 

 

 

「怖いとか、震えるとか、既に忘れた体だ」

 

 

恐怖心なんていつだったか麻痺していた。

 

ほんの少しの緊張感が身体を蝕んでるだけ。

 

でも失敗したら死ぬ??

 

いやいや、そんな考えは抱いていない。

 

紙一重を生きてきた俺は既に狂っている。

 

だから禁忌種のポセイドンだろうと関係ない。

 

恐れずにブラストのトリガーを引いた。

 

 

「震えろ!オラクルの檻だ!」

 

 

ブラストから放たれたオラクルはポセイドンを囲うように地面を走る。

 

5つのオラクルがポセイドンを閉じ込める柱となって地面から真上に伸びる。

 

神々しい異質なオラクルに驚いたポセイドンは足を止めてしまい、周りを見渡す。

 

禁忌種としての知能の高さが警戒心を持ち合わせるようになる。それが奴の失敗。

 

そしてポセイドンの腹元からブラストが打ち上がった。

 

 

「粉々にしてあげるね!!」

 

 

怯んだ隙にカノンが先ほどオウガテイルを血祭りにしたバレッドでポセイドンの弱点の腹を貫くいた。粉砕された腹と共に悲鳴をあげるポセイドンだが絶命に至らない。

 

しかしそれは充分であった。

 

 

 

「堕ちろォォ…!!」

 

 

ソーマのチャージクラッシュを振り下ろすには充分過ぎるほど隙を作れるからだ。

 

 

「グォォオ!!!?」

 

 

荒神を殺すために生まれた死神の一撃は轟音を響かせながら、ギリシャ神話の名を持つ海神を地底に叩き伏せたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜 神機整備室 〜

 

 

「死ぬかと思った(小並感)」

 

「普通死ぬよね?」

 

 

どうも、甘い名前を持つ男マロンです。

 

ポセイドンを地底にねじ伏せてから必死に逃げて無事アナグラに帰還して報告書を提出し終えたところです。

 

とりあえず俺はあそこの調査隊のガバガバ調査を許さないと思います。同じ調査隊として許せません。今度ソーマと一緒に〆てやる。

 

ちなみに後のソーマは口数少なかった。しかし俺たちとの壁がまた一つ無くなったように気がした。命懸けで逃げて協力したからな。少しは信頼を置いてくれると嬉しい。

 

あと姉さんはアナグラに帰還してラウンジに一歩踏み込んで、膝から崩れ落ちて意識を失いました。

 

まぁ、仕方ないね。

 

何せ初めて出会うポセイドンの危険性を間近で感じて、自分達よりも凶悪な強敵と命懸けの鬼ごっこ。そんな寿命縮めるような緊張感から解放されたら誰だってそうなる。

 

それに俺とソーマの情報が無ければ間違いなくあの場で姉さんは死んでいただろう。

 

そのくらいのことが分かる姉さんならどれだけ小さな隙間を潜り抜けて命拾いしたことか身に染みている筈だ。でも今は安心して良い。ふかふかの布団で寝てる。

 

さて俺自身も疲弊してましたがリッカさんが本気で心配してくれたので顔を出した。彼女の顔を見ればこうして生きてることを実感できる。

 

有り難い。

 

 

「しかし、よく全員で生きて戻れたらものだな、禁忌種を相手に」

 

「その割には余裕そうに見えるのは気のせいかな?」

 

「気のせいではないよ。俺の心が麻痺してるだけだ。危機感は持っている。しかし一歩間違えれば命が消えることに対しての恐怖心があまりないんだ。死んだら困る。その程度には受け止めている。でも脳が拒む。怖さを。だから周りの人間からすると余裕そうに見えるんだろうな俺って」

 

「それは…」

 

「サカキ博士も言ってた。ストレスを背負いすぎて脳みそが麻痺していると。恐怖で体を硬直させるのは危険だと脳みそが理解してるから恐怖心を抱えないようにしてる。まともじゃないってさ。まあゴッドイーターって時点でまともではないがな」

 

「っ…でも、そんなのもっと自分を大切にできなくなるよ…」

 

 

彼女は悲しんでくれる。

 

可哀想な俺を。

 

 

「できる、限り自分を大切しようとしている。でもそうなってしまったんだ。この体は」

 

「……マロン…」

 

「俺は壊れたつもりはない。でもどこか壊れてしまった。それは良いことなんだろうか…」

 

「………少しで良い、じっとして」

 

 

ギュ__と、後ろから抱きしめられる。

 

俺を心配してくれる彼女の優しさ。

 

恐怖心を遮断してしまった体だけど、抱きしめて震えてくれる彼女の腕は分かる。

 

俺に悲しんでくれることを。

 

 

「無理……しないで」

 

「ああ、できたら、そうしたいな……リッカ」

 

 

俺はいつからこうなったのか。

 

もっと自分を悲しむべきだろう。

 

でももうそれは疲れた。

 

何度も悲しんでいたから。

 

それでも今はこうして息をして、ゴッドイーターとして立っているのは姉さんがいるから。

 

そして俺は生きるから。

 

そうしなければならないから。

 

心がどうにかしてしまっても、ゴッドイーターになった以上はアラガミを喰らい続ける。

 

それがこの役割。それは腕に刻まれた因子と共に死ぬまで続くんだから。

 

 

 

 

 

 

__オワタ式 。

 

それは諦めを誘い、恐怖心を奪うだけ。

 

普通を諦めて、狂気を普通として受け止める。

 

ああ、その通りだ。

 

ゲームと同じように、狂った装備。

 

それを今命懸けてやるのだから。

 

ならどこか壊れても仕方ないのだろう。

 

そうでなければ成り立たない。

 

それがオワタ式だから…

 

 

 

 

つづく


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