オワタ式な神機使いの生き方   作:てっちゃーんッ

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第7話

 

〜 アナグラ 〜

 

 

 

 

「いつ見ても糖尿病になりそうな液体だな」

 

『ただのオラクルでしょ?』

 

「でも色がなぁ」

 

『オラクルに保存料はあっても着色料は無いよ』

 

 

 

肩に付けているトランシーバーから聞こえるリッカの声。彼女からツッコミを受けながらオワタ式の神機にチクっと注射する。

 

ちなみに注射してるこれはOアンプルの事であり、オラクルポイントを即座に回復する便利なアイテム。

 

ゲームではゴクリと飲んでたけれど神機に直接注入して回復する手段もあるらしい。

 

もちろん飲むタイプもあるけど個人差によっては拒否反応起こして吐いたりするらしい。

 

なので俺は男らしく♂ブスリ♂と刺せるタイプを使用している。

 

オラオラ、嬉しいだるぉ??

 

 

さて、戦闘でもないのになぜOPを回復させるような真似をするのか? 理由は簡単だ。

 

とある実験を行っているからだ。

 

それは…

 

 

 

「リッカ、オラクルリザーブのストックが7を超えた!予想以上だ…実験は成功だ」

 

『予想よりも成功上回った結果だね! いやほんとにすごいのが出来たよ! これは間違いなくブラストの"革命"だよマロン!』

 

「そうだな。この実験を通してただ誤射するための神機じゃなくなった事になる。むしろ誤射してしまっても良いくらいの価値が生まれたんだ。 革命どころではないかもなしれない」

 

『いや、さすがに誤射は遠慮してあげて?』

 

 

ちなみだがブラストの誤射に関しては仲間に殺傷的ダメージの危害が加わらない。

 

オラクル同士が拒否し合うから体は傷つかない。その代わりハンマーで吹き飛ばされたような衝撃を受けてしまうが。

 

ただし、スナイパーは冗談抜きでやばい。

傷つかなくても肉体が衝撃で抉れる可能性あり。

まあスナイパーで誤射なんてしないだろうが。

 

 

 

『そ、それで?リザーブ分のバレットは撃ち放つのかな?』

 

「ワクワクしてるところ悪いけど撃つわけないでしょう?そんなことしたらアナグラ半壊するぞ」

 

『…え?アナグラを半壊させるなんてどんなバレットを作ったの?』

 

「………」

 

『え?なにその無言? なんか怖いよ?』

 

「……見たい?」

 

『い、いや、やめとく…』

 

「そうか、懸命な判断だと思うよ」

 

『う、うん』

 

 

 

しかしオラクルリザーブの話を持ち込んでから三ヶ月が経過したけど、こんなに早く開発が進むとは思わなかった。

 

流石アナグラの整備士リッカさんってところだ。

 

俺のワガママに付き合ってくれた彼女には感謝しかない。

 

冷やしカレードリンク一年分に値する。

いや、一年分ではまだ足りないくらいか?

 

 

 

「ホラホラホラホラ!ぶち込んでやるぜぇ!」

 

 

実験は終わったので神機の中にあるオラクルポイントを消費させようと思い、バレットエディット実験室を壊さない程度のバレットを撃ち放つ。

 

たまに遊び心込めて星の形をしたレーザービームを披露したり、かの有名な内臓破壊弾をターゲットにぶち込んで鮮烈に散らしたり、ダメージよりも魅せるバレットを放ったりする。

 

時折トランシーバーからリッカの驚き声が聞こえたり、この実験にたまたま立ち寄った神機使いは窓ガラス越しから目を見開いたりと驚きを示してくれる。

 

アナグラ唯一のバレットエディット製作者の一人として反応してもらえるのは非常に嬉しい限りだ。ちなみにアナグラのバレットエディッターで有名なのは俺以外だとサクヤさんくらい。

 

ゲームでは簡単に作れちゃうけど実際にこうして作り上げようとするとシステムが複雑過ぎて放り投げてたくなる。

 

wikiなんてない世界だからね。

 

そんで作成に慣れるまでが非常に大変。

 

そのため市販で売ってるので充分だと言う神機使いが殆ど。

 

だからバレットエディット実験室の主な利用者はそう多くない。

 

ちなみに『GE2』の『抗重力』に似たシステムを導入したバレットエディットも制作中だ。

 

仕組みはかなりややこしいけど瞬発的な破壊力が期待できる。

 

てかこれを作った一人でシエルって何者だよ?

 

ブラッドの力が後押ししたとは言え短期間で完成に漕ぎ着けたのはマジの天才だ。

 

俺なんてリッカと共同作業でやっとやぞ。

 

 

「あ、弾切れか」

 

 

それからオラクルポイントは空になる。

 

実験は成功の二文字で終了となった。

 

 

 

「しかし長かった」

 

 

本当にここまで長かった。

 

神機使いとしては半年超えたくらいの時を過ごしたけどやはり長く感じた。

 

でもこれで……

 

 

 

「ブラストに革命を起こせる…」

 

 

ブラストの売りは破壊力。

 

でも仲間との連携に向かない。

 

殺傷的ダメージは無かろうとも誤射されるのはとても危険であり、この武器種は嫌われていた。

 

また1発1発が多量のオラクルポイントを消費してしまうため小刻みな遠距離攻撃が望めない。

 

だけどオラクルリザーブのおかげでストック量に見合った破壊力を作り上げればアラガミの殲滅性が増す。

 

つまりトリガーひとつで勝負にケリをつけれるほどだ。それも一瞬で。

 

これがゲーム画面なら愉快な一面になるだろうけど実際のところかなりエグい事をやろうとしてるわけだ。

 

最終目標として天高く落下して爆ぜる"あの"オラクルバレットを作ってやろうと思ってるけど果たしてどんな光景になるだろうか?間違いなく至るところにどデカいクレーターが出来るよね。極東も顔が真っ青だ。

 

『マロンくんお疲れ。神機をメンテナンスするから戻ってきてね。あと冷やしカレードリンクは一本温めてるから』

 

「わかった、ありがとう」

 

 

 

てか冷やしカレー温めたらただのカレーになるのでは? それを考えながら実験室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「かんぱーい!」」

 

 

 

リッカは冷やしカレードリンク。

 

俺は湯煎でホカホカに温まっている冷やされてたカレードリンク。

 

互いに缶同士をカチンとぶつけ合いプルタブを開ける。

 

やっぱりリッカくんの……

実験後の……

一杯の……最高やな!

 

 

 

「そうだ、マロンくん! オラクルリザーブ開発成功に続いて朗報があるよ!」

 

「?」

 

「マロンくんの『制御ユニット』についてなんだけどね、ついに新装できそうだよ!」

 

「んぐっ!? ゴホッ、ごほっ!」

 

「だ、大丈夫!?」

 

「あ、ああ……すまん」

 

 

 

あまりの朗報にカレードリンクが喉の器官に詰まって咳き込んでしまう。

 

てか鼻にカレーが入って地味に痛い。

 

もしこれが辛口のカレードリンクなら最悪だったな。

 

 

 

「それで、制御ユニットに関しての朗報なんだけど… それってマジか?」

 

「うん!だからマロンくんが初期から使ってるその制御ユニットを取り外してとうとう新装できるの!」

 

「っ、そうか……やっとなのか」

 

 

それはつまり、俺の装備を取り替えると言うことだ。

 

今までそんなことできなかったのにゴッドイーター歴約半年目にしてやっと初期装備変更ができると言うことだ。

 

ああ、なんか…

 

オラクルリザーブの開発成功の流れからして制御ユニットの取り替え可能までくる涙出てきたな。

 

よくここまでやってこれたな…俺。

 

 

 

「ちなみにどんな制御ユニットなんだ?」

 

「マロンにピッタシのがあったよ」

 

「そりゃ良かった」

 

 

 

制御ユニットにも種類がある。

 

戦闘に向く奴から、そうでない奴まで。

 

そこそこ種類が存在する。

 

無論、俺のオワタ式装備にあった制御ユニットであれば助かる。

 

間違っても【剣攻撃力↑】なんて装備は意味が無いからな。

 

オラクルソードは攻撃力0である。

 

あー、でもリッカが見つけてくれたのなら装備するかな?するよ、うん。

 

そもそも俺は初期の頃から使っているこの制御ユニットがあまり好きになれない。

 

だって名前が『プロトタイプ』だ。

俺にとって皮肉でしか無い。

 

ゴッドイーターとしての生まれも方も関わってなんか嫌だった。

 

 

「リッカが見つけてくれた俺に見合う制御ユニットか。なんだろう」

 

「マロンくんは偵察向きな働きをする神機使いだからね。それに見合った制御ユニットを探していた。そして奇跡的に一つだけマロンくんのオラクルを暴走させずに使えるちょうどいい制御ユニットがあることがわかったの」

 

 

何度も言うけど俺のオラクルは些か不安定な働きをしている。タツミ先輩と同じかそれ以上に適合率が不安定らしい。その結果としてオラクルソードと超回避バックラーがピッタリと俺にくっ付いている。それ以外を受け付けない。

 

でもまだ銃と制御ユニットには取り替えの可能性があった。慢心はできないが俺のオラクル因子にあまり影響を及ぼさないモノなら取り替えが可能である。

 

しかし今までそれが無かった。

 

 

 

「でも確認取れた当時はそれはまだ存在しない制御ユニットだったけどね」

 

「…存在しない、とは?」

 

「ええと、研究データには残っていたけど開発はされてない状態だった。理由としては素材不足が主な理由なんだけど、それ以前にこの制御ユニットに見合った使用者がいない事が原因なんだよ。なので私が漁るまではお蔵入りな制御ユニットだったけれど、これがマロンくんのオラクルと安定して適合することがわかったのでサカキ博士と話してこれの研究を進めたんだ」

 

「うん」

 

「サカキ博士と共同だったから研究速度は早かった。まぁデータ上によると既に完成されていたようなもんだから素材さえ集めてしまえば作れるから、長く使えるよう頑丈に作るくらいだった。それでオラクルリザーブ開発の片手間に進めてたらねいつのまにか完成しました」

 

「完成しちゃったかー」

 

「そんでもって改良したよ!」

 

「改良もしちゃったかー」

 

 

 

やっぱりこの人凄いわ。

 

「無いから作ろう!」で開発してしまうその実行能力の高さが極東のエンジニアって感じだ。

 

そんでもってリッカたんマジ天使。

 

 

 

「しかしサカキ博士も共同で開発してくれるとは考えなかった」

 

「神機使いの研究をしているサカキ博士からすると制御ユニットこそ理解が深い人だから問題無く請け負ったんだよ。あとスターゲイザーとして探究心が旺盛だから興味云々でこの研究に喜んでたし。と、言っても彼の本音は多分そこじゃ無いね」

 

「?」

 

「マロンくんに負い目があったんだよ、博士はね」

 

「!!」

 

「君を不自由な神機使いとして作り上げたのは紛れもなくサカキ博士を含めた研究者達だ。 そして神機使いに立ち会うサカキ博士は研究者(狂人)である。 でもその前にサカキ博士は狂い無き人としてヒト(可能性)に立ち会う観察者なんだよ。 だから手を貸した… いや、そう言った機会を待っていたのかも知れないね」

 

 

機会。

それは……

 

 

「償いのつもりか?」

 

「かも知れないね」

 

 

 

あの時のことは覚えている…

 

後悔したサカキ博士の顔を。

または…

 

失敗に項垂れた研究者の顔でもあった。

どっちも併さった表情だった。

 

起こしてしまったのはもう仕方ない。

俺もそうやって強引に受け止めた。

 

サカキ博士は…

 

あの後どのようにこの結果を受け止めて、今もスターゲイザーを務めているのかわからない。

 

でも俺のことを気にかけてくれていたからこそリッカと共同で研究してくれたのだろう。

 

なら、そこに感謝しなければならない。俺をゴッドイーターとして生かしてくれるなら。

 

 

「リッカ、制御ユニットを見せてくれないか? どんなモノなのか見たい」

 

「いいよ」

 

 

 

俺の望みを了承したリッカは立ち上がって手招きする。

 

おれは彼女の様なエンジニアだけが入る事を許される研究室に招かれた。

 

目を引く様なモノが沢山置いてある。彼女の努力が多く飾られている。

 

彼女は立ち止まり、アーカイブのボタンをカチカチと入力して画面を立ち上げる。

 

そしてしばらく流れていた『loading』の大文字が流れて、画面が切り替わる。

 

制御ユニットの画面が出てきた。

 

 

「これが…」

 

 

よくわからない細胞や単語。

 

モニターの隅では数字がいまも働く。

 

辛うじて読むことができる英文などが記載されていた。しかし…

 

 

「名前が………無い?」

 

 

どこにも制御ユニットの"名前"が書かれていないのだ。

 

 

 

「リッカ? これは?」

 

「うん、マロンの疑問通りこの制御ユニットにはまだ名前が付いてないの」

 

 

 

リッカはボタンを入力する。

 

すると画面が切り替わる。

 

そこには『 scout(スカウト)』と画面の上側に大きな文字で書かれていた。

 

 

「これは偵察隊や調査隊に属する神機使いが良く扱う制御ユニット…… あ!もしかしてコレか!?」

 

 

だとしたらありがたい!!

この制御ユニットなら随分と楽になる!!

 

しかし…

 

 

「違うよ、これはただの……過程だよね」

 

「………え?」

 

 

 

違う??

 

違うのか??

 

これじゃ無い??

 

それより彼女の言う『過程』とは??

 

もう一度画面を見る。

 

すると気づいた。

 

画面の右側に『Derivation』と書かれた英文。

 

そんなリッカは俺の視線の先に気づいたのか少し微笑んでボタンを再びクリックする。

 

すると先程最初に見せられた名前のない制御ユニットの画面に切り替わった。

 

 

「待てよ…」

 

 

英文の意味を思い出す。

確か『Derivation』とは『 派生 』って意味だ。

 

または『導出』って意味もあったか?

 

そして先程見せてもらった『スカウト』の『派生』により生み出された『制御ユニット(進化系)』だとしたら……

 

 

「!」

 

 

これは願った以上のモノになる。

 

つまり!!

 

 

「これ、もしかしてイーグル______」

 

「『イーグルアイ』では無いよ」

 

 

え?

 

違う…のか??

 

 

「これはイーグルアイよりもっとすごい制御ユニット。改良に改良を重ねた最高の一品。だからこれをイーグルアイと呼ぶことが出来ない」

 

「そうなのか」

 

「これが無名なのは台場マロンと言うゴッドイーターが名付けてもらい、台場マロン専用として使う事を望まれた制御ユニットだから。私とサカキ博士はそうしてもらおうと思ったからまだ名前を入れてないんだ」

 

「!!」

 

「さぁ、腕輪を出して、この機械に乗せて」

 

「あ、ああ…」

 

 

 

大人しく腕を乗せる。

 

そして小さなチューブが腕輪にはめ込まれる。

 

リッカがカチカチと設定する。

 

 

 

「待っている間にこれを見て」

 

「?」

 

 

 

モニターに何かが映し出される。

 

そこには…

 

 

『マロンくん。この映像を観てるという事はその制御ユニットを受け取ってくれることになるんだね。ありがとう』

 

「サカキ博士…!」

 

『君には苦労させてしまった。しかしこの機会はスターゲイザーとして、または研究者としてチャンスを貰えたのだと思っている。だから私は少しでも君に対する償いになるだろうと考えてリッカくんと共にこれを作った。どうか受け取ってもらいたい』

 

「……償い…か」

 

『君がプロトタイプとして土台となり、新型の研究は多い進んだ。だからこそとても理不尽極まりない結果を君の体に刻んだ。それは愚かなんだろう。でも私は今も続ける。君が一人のゴッドイーターとして、または一人目の新型神機使いとして可能性を見るために、スターゲイザーの私はそれを望むよ』

 

 

 

それだけ言うと映像は終わる。

 

 

「サカキ博士は制御ユニットの研究に力を注いだ。その目的はさまざまだ。でも台場マロンと言うゴッドイーターのために手がけた。それは間違いないよ」

 

 

カチカチと入力して、機械が作動する。

 

そして腕が少しビリビリしてきた…

 

 

「そして完成させたこの制御ユニットなんだけど…」

 

「?」

 

「ここだけの話。この制御ユニットに使われてるアラガミの素材は今のマロンくんの数段上の階級じゃなければ使うことが禁止されてる素材なの」

 

「なに? それって、つまり…それは」

 

「これだけで理解してくれるのマロンくんの事だからこれ以上は説明しないけど、つまりそう言う事だよ。さて、少しイタイけど耐えてね」

 

「ッ!?あああー!痛い!痛い!痛いぃ!痛いんだよぉ!!」

 

 

 

いやいやいや。

 

これ少しどころじゃねーぞ!?

 

 

 

「おやしらずを抜くよりはまだマシだと思うから堪えて」

 

「それを基準に考える程に痛いって事だよなソレ!」

 

「ふふ、かもね。はい、終わり。 お疲れ様」

 

「おうふ…」

 

 

 

ヤベェ、すげー痛かったゾ。

ゴッドイーター辞めたくなりますよ…

 

涙目になりながらもリッカにお礼を言う。

 

そして画面の方に目を向ければ第一使用者の欄に俺の名前が刻まれていた。

 

これは光栄に思うと良いのだろうか?

 

 

「しかし制御ユニットの切り替えでこんなに痛み伴うのか?」

 

「個人差によるかな? でもマロンくんの場合仕方ないとしか言えないかもね」

 

「神機だけではなく制御ユニットすら装備を変える事を嫌がるのか俺のオラクルは。面倒な体になったな本当に」

 

「それでもまだ制御ユニットは取り変えれそうだから変えたまでだよ。その代償で先ほどの痛みを伴うことになるけどね…」

 

「でもそれだけで済むならまだ良いさ。それにやっと装備を変えることができたんだ。今はとても嬉しいに決まってるよ」

 

「うん、よかった。 そう言ってくれると頑張って開発した甲斐があったよ」

 

「じゃあ……とびっきりの名前をつけるか」

 

「そうだね。 私はそうしてくれたらすごく嬉しいよ」

 

 

 

 

イーグルアイよりも上を行く制御ユニット。

 

 

それはつまり原作ゲームにも存在するスカウトの派生で作られたイーグルアイの派生で誕生する制御ユニットの事。

 

偵察兵のために存在すると言っても過言ではないレベルでゴッドイーターを支える上級クラスの制御ユニット。

 

だからオリジナルの名前をつける事なく、俺は原作ゲームに存在するその物の名前をつける事にした。

 

それは…

 

 

 

「【シャドウ】と、名付けよう」

 

「わかった、そう入力するね」

 

 

 

リッカはボタンを入手し、モニターに映しだされる上の枠に一つ一つ文字が入力される。

 

 

_____ shadow(シャドー)

 

または ___ 『シャドウ』でも良い。

 

こうしてプロトタイプを脱ぎ捨てた俺の制御ユニットが手に入った。

 

 

「ああ…やっと……か」

 

 

 

神のいない世界で願ってた。

 

プロトタイプから脱することを。

 

 

 

「リッカ、ありがとう」

 

「もう、そんな泣きそうな顔しないで」

 

「ぇ?…今、俺、そんな顔してるのか?」

 

「あはは、そんな事ないよ。嘘だって」

 

「おいおい勘弁してくれ。実際のところ泣きたい気持ちでいっぱいなんだけど」

 

「なら、泣いちゃう?」

 

「辞めとく。せっかくスタートラインに立てたのにみっともないから」

 

「みっともなく無いよ。ここまで頑張ってきた証なんだ。少しくらい感情のままに()()()も良いんじゃ無いかな?」

 

「!!」

 

 

 

震える…か。

 

しばらく忘れていた感情。

 

今なら正しい反応なのか?

 

困惑してしまう俺を見た彼女は困ったように笑いながら手を広げてこちらを抱きしめてきた。

 

 

「!!」

 

「マロン。わたしはエンジニアだよ。直す事が得意エンジニアなんだ。だけど君の不安定なオラクルも、君を呪縛する神機も、君の麻痺したその恐怖心も、何も直してあげることができない。ただ支えるだけなんだ。わたしはそれしかできないんだよ」

 

 

彼女は悲しく笑う。

 

 

「けれど一つも出来ない事はない。わたしが君にやってあげれる事はマロンくんにしてあげるよ。だからね…」

 

 

こちらの両肩に手を置いて、その悲しさをかき消すようにストンと胸元に顔を寄せて…

 

 

 

「わたしも君と震えるから。だから君も震えて、心のままに慄えてね」

 

「……俺は、もらってばかりだな」

 

「そんなことない。君が戦って、皆を守る。そこに私も含まれてるから、貰ってばかりなんて思わないで。だからマロン。誰かから貰うためにも、誰かに与えるためにも、君が死んだらダメだよ」

 

「……ああ、死なない。約束する」

 

 

 

そうだ。死ねない理由が出来た。

 

そして初めて怖い理由が出来た。

 

ここまで注がれた彼女の思い、そして与えてくれた賜物を、オワタ式を言い訳にして抱えて死ぬなんて絶対にお断りだ。

 

それを無化にしてしまう痛みと、繋げてくれたものが絶たれてしまう悲しみと、それが引き金となる恐怖は彼女から与えられた制御ユニットと共に今この体に刻まれた。

 

死んではならない理由が出来たんだ。

 

 

 

「リッカ」

 

「?」

 

「ありがとう」

 

「ふふっ、どういたしまして」

 

 

 

 

ちゃんと心で生きてみよう。

 

オワタ式を言い訳にせず。

 

台場マロンとして待ってくれる人のために。

 

恐怖心が本物であることを正しく思い出しながら俺はゴッドイーターとして、戦っていく。

 

決めた今日から始める、それだけ()の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜 屋上 〜

 

 

 

「やぁ、なに黄昏ているんだい?」

 

「エリックか、お帰り」

 

 

戦場から戻ってきた親友に労わりの言葉を掛け、自然と横に並び合う。

 

屋上のフェンス越しから外を眺めれば色んなゴッドイーター達が戻ってくる。または夜にミッションへ旅立つゴッドイーターもいた。

 

あのヘリに乗ってる神機使いが五体満足でこの極東に戻ってくるだろうか?

 

そんなこと考えながら夕焼けを味わう。

 

 

 

「いい目をするようになったね」

 

「どうした突然?」

 

「まぁ、聞きたまえ。君はオワタ式故に僕達とは違う道を歩みながらゴッドイーターをしないければならない。そのためには色々な事を考えて打開策を生み出し、ただでさえ低いその生存率を何とかしなけらばならない。それを考える君の目はまるで…… 機械的だった」

 

「!」

 

「生きるための努力は人に活力を与える。そして君は生きるための努力を重ねてきた。けれど何か違う。君の目はただそこに至るまで遂行しようとする目だ。その上でそこに至るまでの道を既に理解してるような感じにも捉えれてね、まるで作業のようにも見えた」

 

「…」

 

 

 

エリックは本当に良く人を見ている。

 

『そこに至るまで遂行』

『理解してるような』

『まるで【作業】のようにも見えた』

 

ああ、間違いない。

 

これはこの世界の『元ゲームプレイヤー』として吸収した知識から来てる俺の目だ。

 

そしてエリックには俺は自分がこの世界のゲームプレイヤーだと打ち明けてはいない。

 

しかしエリックは異常で異質なその違和感をしっかりと俺から見極めていた。

 

 

「なにを経験してそのような眼差しを覚えたのかは僕にはわからない。最初の僕は痛みを知らない温室育ちの僕だったからね。だから君がゴッドイーターになる前はどれ程を抱え、どれ程の事を考え、どれ程の経験を積んで来たのかもわからない」

 

「……別に、そんな大した事ではないさ」

 

 

 

そう、大した事ではない。

 

ゲーム画面の中の"都合が良過ぎる分身"を動かしていただけだ。

 

そこに映る格好良さに憧れていただけだ。

 

セーブボタンとリセットボタンを楽しんでただけだ。

 

ひたすらセコイ事(原作知識持ち)で生き延びてるだけだ。

 

だから俺はエリックが感心を抱く程の人間ではない。

 

 

 

「でも、今の君はそうじゃない」

 

「……え?」

 

「強い意志を抱いたよう男の眼をしてる。覚悟を決めたような眼をしてる。生きたいと思える息遣いだ。経験と効率から生み出されたその答えだけに目指す歩みでは無くなり、その足踏みには本心から溢れた感情が篭っている。なぜなら君が"こうしたい"と訴えてるからだね」

 

「そうなのか?」

 

「うん、とても伝わるよ。 その眼からはたしかに訴えている」

 

「……そうか」

 

 

 

エリックの今の話は周りからしたら何のことなのか分からないだろう。

 

だけど俺にはそれが理解できて、エリックも自分だけそれが分かっていればいいと余計なことは考えない。

 

そしてエリックからは俺の変化を喜んでいるようにも感じる。サングラス越しから喜んでる事を訴えいた。

 

 

 

「もしかして、心配させてしまった?」

 

「少しはね。まぁ、君の置かれた状況を見ると仕方ない事とは思ってたさ。そして僕は見守るしかできなかった。しかし、今日の君の横顔見たら変えられたんだと思えたんだ。だからもう心配はしてないさ」

 

「そうか。 なんかすまんな」

 

「なに、気にするな。こんなご時世だ。何かしら抱えていてもおかしくはない。そこにソーマくんも、マロンくんも、大差ない」

 

「そうかい。それにしてもエリックは良く人を見ているよな」

 

「これでも僕は親が動かす大企業の跡を継ぐ人間なんだ。まだ御曹司であるが人を見極める力を必要としなければならない。だから僕はそう言った練習などを積んでいる訳だ」

 

「なるほど。 ……華麗だな」

 

「フッ」

 

 

 

ナルシストで、少々面倒で、無理してでも余裕ぶり、周りからは反感買われやすい立ち振る舞いを行うが、彼はたしかにこの世界で戦い、一人の人間として完成しようとしてる。

 

オウガテイルに頭から喰われるだけの存在(NPC)ではない。

 

それを証明してくれた。

 

 

 

「なんか色々ありがとうよ、エリック」

 

「礼には及ばんよ。と、言うより礼を言われる理由は無いがね。ただ僕は『変わったな』と伝えただけだ」

 

「それならそうと簡潔に言えよ」

 

「まあまあ、こうして君と少しだけ長く話す時間が欲しくなっただけだ。 あまり怒らないでくれたまえ」

 

「別に怒ってはないさ。俺も話が出来て嬉しいよエリック。でもあまり油断しすぎんなよ?いつか足元すくわれることになって、それでオウガテイルに頭から喰われることだってあり得るんだからな。俺もお前も」

 

「おいおい?それでは足元から食われるのか、頭から食われるのか、はっきりしないじゃないか。一体どっちなんだい?」

 

「それはアラガミの性格によるかな」

 

「はははっ!アラガミ相手にたい焼き理論を持ち込むなんて君くらいだよ!」

 

「おっと??エリックはたい焼きの事を知ってんのか?」

 

「知ってるよ。 たい焼きもどきな物を幼い頃に食べたことあるからね」

 

「たい焼きもどき…って、それ本当にたい焼きの形してたかよ?」

 

「んー…グボロ、みたいな形してたかな?」

 

「おいおい、幼い頃にアラガミ食らってたとか既にゴッドイーターしてた件について」

 

「フッ、当たり前じゃないか。なんせ僕は…」

 

 

 

 

 

 

___華麗なる神機使い(ゴッドイーター)だからさ

 

 

 

 

 

 

 

そう言って俺の肩を叩おて横を通り過ぎる。

 

そんなエリックの後ろ姿は大きくて…

 

背負ってるモノも計り知れなくて…

 

ただ、華麗なる生き様を見せていた。

 

 

 

 

「……原作知識って、なんだろうな」

 

 

 

多分、恐らく。

 

一番、無意味なんだと思う。

 

それが改めてハッキリした瞬間でもあった。

 

 

 

「…」

 

 

 

でも、ひとつだけ変わらないものは近くにあり、それを眺める。

 

 

 

「綺麗な夕陽だな…」

 

 

どの世界でもこれだけは変わらないらしい。

暖かな気持ちになれたんだ。

 

今日も生きて、心が震えて…

 

それを明日も繰り返そうとする。

それだけの話だ。

 

 

 

 

 

つづく

 

 





第一部 〜完〜

って感じかな??随分とふわふわしている良くありげな内容けどまだその程度しか書けなかった頃の自分だったのかな?それでも懐かしい感覚でした。


ではまた

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