何かを信じれば、期待をすれば、きっといつかは裏切りがやってくる。
何かを押し付け、空回りして。それでも人はいつだってやめられないのだ。
願った本物も。遠ざけた偽物も。
そのどちらも真実で、どちらも虚栄で。
それこそが人で。
それを分かってるからこそ。
その中にある可能性に、賭けてしまう。
だからこそ、彼は、彼女は───俺は。
───きっと最後まで信じたかったのだ。
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「なっ……ん、どうして、いつ……」
つい数秒前まで、遊び手を失った人形のようにグッタリと意気消沈していた男。
───葉山隼人は、勢いよく立ち上がり、口を大きく開け、その表情は驚愕に彩られている。
目の前の全く予想だにしない展開を前に、ただ呆然とその驚愕を露わにするのが精一杯なのだろう。
そりゃそうだ。だって俺たちは目覚めてから、およそ十数時間(体感)。来てからとなるともうどれだけ経っているかすら分からない。
この気が狂ってしまいそうな虚無な空間では、有り余るほどのその時間を過ごし、できる限りの試行錯誤もやってみて。
それでも尚びくともしなかった。開けることなど到底無理だと諦めた扉が、今こうして目の前で呆気なく開いてしまったのだ。
誰だって言葉を失う。
そしてそれは、開けた張本人。比企谷八幡こと俺も例に漏れることなくそうだった。
「……嘘だろ」
どうして?いつからだ?
あれだけ押しては引いて。叩いて蹴って。出したこともないような大声を張り上げて。
されどびくともしなかった扉が、なぜだ。
もしかして、あの音がした時。
あの時に開いていたのだとしたら……俺たちはとてつもない道化を演じていたのではなかろうか。
先程まで意識他界系となっていた俺の意識は今やハッキリと、だが朦朧とした気持ちの悪いもので、その場で倒れてしまいそうな感覚に囚われてしまう。
「なんで、開いたのか……今となっては分からないが。それでもやっとここを出られる、のか……?比企谷、扉の先はどうなってる?人はいないか?」
呆然とし、しかしすぐに多少の冷静さを取り戻した葉山は俺に問う。
その声で、ぐるぐると底に沈んで行ってしまいそうな意識をどうにか取り戻す。
そうだ、突っ立ってる場合じゃない。絶望を強いてきた扉がやっと開いたのだ。
いつ開いてたにしろ、それを今気にしても仕方のないことだ。
ここから出られるという事実だけが、今目の前にある現実だろうが。
「お、おぉ。人は……こっからだと見えないな。いなさそうではある」
開いた扉の先、見飽きたとすら言えないほどに何もないこの空間から見える、新しい景色を眺める。
コンクリートで覆われているのは変わらないが、この部屋と比べるとかなり広くなっていて、それを見るだけでこの部屋で味わっていた息苦しさは多少なりとも緩和された気になる。
「そうか……なら出ても大丈夫そうか」
葉山はそそくさとこの狭い空間を後に、新しく繋がれた空間へと歩を進めようとする。
「おい、大丈夫なのか?」
「きっと問題ないさ。もしあの音がした時に開いてたとしたらきっとそれは意図的だろうし。どういう意図なのかは未だに分からないが……」
そう言って止まることなく葉山は行ってしまった。
「なんなんだ、一体……」
もう俺しか居ない、狭い部屋で呟く。
もう一度、開いてしまった扉と今までいた部屋を交互に見る。
何度見ても代わり映えもなく、無機質で。
人を閉じ込める為に作られたとしか思えないような殺風景な、訳の分からない場所だ。
俺たちがなぜここにいるのか。出ることはできるのか。
この先に、俺たち以外の人間はいるのか。
拘束されることなく、扉はいつの間にか開き、誘導されるようにまた別の空間が。
一つの物語を創り上げるかのような、何か薄ら寒い意図すら感じる展開。
俺たちはそれを確かめなければ、永遠にここから出ることが出来ないのかもしれない。
どう足掻いても出ることなど叶わないとすら思っていた、一円の家賃すら払いたくないほどに最低な地雷物件を背に、次なる空間へと足を跨ぎ入れた。
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「結局……むぐむぐ……出られないのは……ごくんっ……変わんねえのな」
扉の先、俺たちがいた部屋の10倍以上はあろうかという広さの部屋を、胡座を描きながら首だけ動かして見渡す。
あれから色々と歩き回ったが、広くなった以外は部屋の中心に、数日は凌げるであろう量の二人分の簡易な食料(缶詰や携行食)とペットボトルに入った水が置いてあるだけだった。
そしてシングルベッドが二つ、部屋の端、対称的な位置に設置されていた。
あとは無地の白い上下セットの服が二人分。
完全にここで生活しろと言わんばかりの状況に嫌な予感をしつつも、またもや行き場を防ぐ扉を調べる。が、当然うんともすんとも言わず。
さすがにまたかよ……ってなったよね。
だから俺と葉山は二の轍を踏むこともなく、とりあえずは目の前の現実に向き合って、汗を吸い切っている臭い制服から、置いてあった服に着替えて、そのまま部屋の中心で胡座を描いて仲良く飯を貪っていた。
そんな簡単に口にして大丈夫かって?もちろん俺たちも最初は疑った。
だけど脳は疑っても、空腹と脱水症状間近な身体は逆らうことができなかったよね……
くっ、殺せ……!
まあ、そもそも毒で死ぬか空腹と脱水症状で死ぬかの違いでしかない所まで来てたから、食うしかなかったんだが。
「そうだな……もぐもぐ……この鯖の味噌煮、これまでの人生で一番美味しいかもしれない」
「は?この鶏肉の炭火焼きが最強なんだが?身体は最上のタンパク質を求めてんだよ……」
もはや俺たちは飼い慣らされた家畜へと堕している。悲しいけど、これが現実なのよねん……
「ふっ……比企谷、知らないのか?魚こそが最強の栄養食だということを。鶏に甘んじてる内はまだまだだな」
「ぷっちーん……久々にキレちまったよ……いいだろう、ならばこのデザート……桃缶を賭けて俺と勝負しろ」
「ほう、面白い。いいだろう、お前から楽園の果実を奪って我が物にしてやる。こいよ、口先(笑)だけの魔術師」
「遺言はそれでいいか?……お前の屍、総武高校のグラウンドに埋めてやるよ」
俺らは一斉に両腕を掲げ、神に祈るかのようなポーズを取る。
そう、いつだって男には負けてはいけない、譲ってはならないものがあるのだ。
戦わなければ生き残れない。
「「最初はグー……ジャンケン」」
男二人だけの虚しい空間に、戦いの火蓋は切って落とされた。憎き敵を眼前に。
俺たちの監禁ライフはまだ始まったばかりだ!(白目)
土日前に一話更新すいません