身長180cm、無名のFW。それが今の俺、榊原 誠也のステータスだ。全国大会に出場を決めたチームのフォワードではあるものの知名度はほとんどない。高2である俺はあと一年サッカーに打ち込んだら、サッカーを辞めなければならない。俺は自分がプロになれるだなんて欠片も思っていなかった。プロとして生きていける人間なんてほんの一握りだ。例えば──
吉良涼介のような。
しかし、一通の手紙が俺の人生を狂わせることになる。
『あなたは強化指定選手に選ばれました』
絵心 甚八が主催する【BLUELOCKプロジェクト】。俺と同じように集められたフォワード300人の中からたった一人、世界一のストライカーを誕生させることと引き換えに残りの299人の人生をぐちゃぐちゃにするというイカれた計画だ。
しかし、俺を含めて辞退する者はいなかった。皆、理解しているのだ。
【BLUELOCK】が自分の人生を変える最後のチャンスであることに。
俺が割り振られたのは最底辺伍号塔の中では最上位のチームV。入寮テストという名の負けたらサッカー終わりのおにごっこをクリアした俺は、脳に勝利を刻まれて残った11人とチームVで一次選考を受けることになった。
初戦 vsチームY
そこで俺は圧倒的な3つの才能を目の当たりにした。
万能ストライカー 御影 玲王
圧倒的初速からの鋭い左シュート 剣城 斬鉄
そして、華麗なるトラッパー 凪 誠士郎
俺を含め、残りのチームVのメンバーは思った。
『こいつらがいれば勝てる』と。
思えば、ここだったのかもしれない。俺の人生が大きく狂っていったのは。俺は無名とは言え、一応全国大会出場を決めたチームのFWだった。だから、伍号塔の中でも上位のチームVに割り振られたんだろう。これがチームZのような常に崖っぷちのチームだったら何かが変わっていたのかもしれない。
圧倒的な天才3人が所属するぬるま湯のようなチームVの中で本当のエゴが開花するはずもなかったんだ。
『武器を持てストライカーよ!!プロは必ず自分だけの武器を持っている』
チームYを8-0で下したチームVに投げられた絵心 甚八の言葉。
ここで俺は初めて自分自身と向き合った。
「俺はオールラウンダーな所だな」
チームYに圧勝したチームVは興奮冷めやらぬ中、布団の上で談笑していた。既に自分の武器を認識している御影 玲王は一番に言い放つ。幼少より大企業の御曹司という恵まれた環境で生きてきた天才は何をやらせても天才だった。そのプレーには欠点らしき欠点がない。
「俺は敵を置き去りにするスピードと左ミドルだな」
チームY相手に2点を決めたストライカー、剣城 斬鉄が玲王に続いて言う。
「お前の武器はなんだ?」
斬鉄はチームVの得点王であり、チームYに5点を決めた凪 誠士郎に話しかけた。
「バッカだなお前。今日の試合見てなかったのかよ?凪の武器は天才的なトラップだろ」
「バカって言うなよ、バカって」
寝転がりながらFPSをプレイする凪に代わって、玲王が答える。今日の得点ボーナスを速攻で携帯返還に使用した凪は我関せずだ。何人かが凪に羨望の視線を向ける中で、俺は自分の武器について考えていた。
俺の武器かぁ。なんだろう?
答えが見つからない俺は談笑するチームVの寝室から抜け出して、一人チームV練習場へ向かった。
シュート、トラップ、ドリブル。これらに関して俺は一通り出来るが、シュートは斬鉄に及ばず、トラップは凪に及ばず、ドリブルは玲王に及ばない。
「よぉ。勝ったばかりなのに、随分熱心だな」
気が付けば、練習場には俺の他にもう一人来ていたようだ。
「確か、西岡 初だっけ?」
人呼んで、盛岡のメッシ西岡。
「あぁ。お前は榊原だな?」
西岡はボールを拾うと俺の前までやって来た。
「熱心に自分の武器なんて考えてるのはあの三人以外でお前くらいだ。他のやつらは武器なんてなくてもあの三人に任せておけばいいみたいに考えてる節がある」
「まぁ、あんなゴール見せられたんだし、気持ちは分かるけどな」
「そうだな。だが、それでは一次選考を通過出来てもその先に未来はないだろう。俺たちの目的は一次選考突破じゃない。世界一のストライカーになることだ」
言われて思わずハッとする。俺は何故、自分の武器を見つけるのか、少し見失っていた。俺が世界一になるにはあの三人を越えなければならない。
「お前の武器は見つかったのかよ?」
俺は武器認識のヒントを得るべく、西岡に聞いた。
「あぁ。見つけた」
「どんな武器だよ?」
「お前はまだ自分の武器が見つかってないんだな?」
「あ、あぁ」
「なら、この1on1で見つけろ!!俺の武器も見抜いてみろよ!!」
榊原 誠也 vs 西岡 初
1on1 MATCH UP!!
西岡がドリブルで俺に向かってくる。繊細なボールタッチによって、俺の足を躱す。突っ込めばすぐに抜かれるだろう。そのドリブルは玲王に劣らない。
「ドリブルがお前の武器かよ!?」
「早く武器見つけないと置いてくぜ!!」
「くっそ!!」
こうしてる間にも少しずつ、西岡に離されている。だが、俺はそんな中で気づいたことがあった。
西岡は左利きだ。左足のタッチが生み出す繊細さが、右足にはあまりない。
俺は西岡がボールを右足でタッチした瞬間に仕掛ける。西岡が保持していたボールは俺の左足に当たってラインを割った。
「お前、俺の利き足じゃない方狙ったろ?」
「あぁ」
西岡からボールを奪うにはそれしかなかったからな。
「でもお前の左足の動きは右足と遜色なかった」
そうか、今まで何も考えずにサッカーやってたけど、俺のこれは他の奴らには出来ないことか。
「両利き。それが俺の武器か!!」
「分かったみたいだな?俺はお前の練習見てて、なんで分かってないのか不思議だったよ」
西岡は1on1の前から分かっていたようだ。
「でも、榊原が気付かなかった理由も何となく分かる。自分のプレーを客観的に見るなんて意識しないと無理だ」
「……色々とお前に聞きたいことあるんだけど」
「なんだ?」
「お前のドリブルもヤバかった。普通のやつなら抜かれてる。今日の試合なんであんまり目立ってなかったんだ?」
「それは……御影 玲王だ。俺は玲王にドリブルなら勝てる自信がある。だが、それ以外の技術は玲王の方が上だ。だから今、チームVの心臓はあいつなんだ。そして、玲王はここに来る以前から見知った仲の凪がいる。あのコンビネーションはほとんど完成してると言ってもいい。チームVの奴らは玲王にパスを出す。そうすればボールは凪に渡ってゴールが決まる。俺の入る余地はない」
「なるほどな」
確かに今日の試合ではチームV→玲王→凪のルートが早い段階で確立したからこそ、この圧勝なんだろう。
「そういや絵心が言ってたな。0→1に出来るやつがストライカーで、そいつからサッカーが始まるって」
「そうだ。あいつらは1を生み出した」
「なら、次の質問。なんで西岡は俺の武器認識に協力してくれたんだ?」
俺が聞くと西岡はフッと笑った。
「やっと本題に入れるな。俺はお前と取引したい」
「取引?」
よくわからない顔をする俺に西岡は続ける。
「さっきも言ったがチームVは玲王→凪の1が確立してるチームだ。そんなチームじゃ、俺たちのゴールなんて生まれない。だから玲王→凪の1を潰す」
「せっかくの1を潰すのか?!」
「あぁ。玲王→凪の1が100や200になって手が付けられなくなる前に潰すしかない。それには次のチームX戦が最適だ」
「その1を潰したら負けるかもしれないんだぞ?」
「そうだな。だが、ここで潰さなければ世界一になるのは玲王と凪だ」
「………」
確かにそうだ。ここで一点も決めれないような奴が世界一のストライカーになんてなれるはずない。
「俺は世界一になるために榊原を利用する。お前もそうしろ。一次選考突破がほぼ確定してるこのチームVを壊滅させてでも俺は俺の世界一を取りに行く」
凄いな。西岡には俺にはない覚悟がある。一次選考を確実に突破するよりも、不確かでも自分が主役になれる方法を選択できる。
「……わかった。一緒にぶっ壊そうぜ!!」
俺は西岡の手を取った。
「最後にいいか?」
「なんだ?」
「どうして西岡は俺にこの話を持ち掛けたんだ?」
俺が尋ねると西岡は少し恥ずかしそうに言った。
「お前が俺の憧れの選手に少し似てたからだよ」
1日後
次選 vsチームX
KICK OFF!!
チームXボールで開始した試合は強引な突破でチームVのゴールに迫った。俺はボールの持ち主の前に立ちはだかる。
「道を開けろよ、平民が!!」
榊原 誠也 vs 馬狼 照英
MATCH UP!!
馬狼の強烈なタックルが俺の肩にぶつかった。
馬狼、フィジカル強!!俺もフィジカルはまあまあある方だと思ってたけど、こいつはそれ以外だ。
「三等兵くらいにはしてやるよ」
馬狼はフィジカルで俺を弾くと、そのままゴールへ直進する。馬狼の突進を1on1で止められる存在はおらず、馬狼のシュートはゴール右上へ突き刺さった。
チームV 0-1 チームX
チームXも0から1を確立させたチーム。その1はあいつだ。強力な突進ドリブルでゴールへの絶対領域へと突き進む圧倒的な個性、馬狼 照英だ。
「お前ら、あの剃り込みに取られる前にボールは俺に回せ」
玲王がボールを凪から受けとると、後ろを全く見ずに言い放った。
チームVボール
RESTART!!
玲王がまずボールを渡すのは斬鉄だ。その圧倒的な初速は相手を置き去りにする。自分のドリブルコースが塞がれていることを悟った斬鉄はボールを再び玲王へ。
「ここだ!!」
俺はそのボールをカットした。
「な、何やってんだ?榊原!!」
玲王が怒鳴るが俺は振り返らずにドリブルする。これが玲王→凪の1を潰す俺と西岡の策。俺が基本チームV→玲王のパスをカットする。それに合わせるのは西岡。西岡のドリブルと俺とのワンツーで敵陣を崩していく。俺は縦横無尽に動き回るのに対して、西岡の基本はドリブルによる直進。これが両利きという俺の武器を最大に活かす陣形だ。360°利き足で対応できるというメリットを存分に発揮する。
ゴール前。シュートを打つのは、その状況で行けると思った方。今回は西岡だ。西岡のシュートがゴールネットを揺らした。
チームV 1-1 チームX
「なんのつもりだお前ら」
玲王が苛立ちを顕にして、ゴールを決めたハイタッチを交わす西岡と俺に言う。そんな玲王に西岡は勝ち誇った顔をした。
「チームVは玲王と凪のチームじゃない。俺と榊原のチームに変えてやるよ」
「やってみろよ雑魚が」
火花を散らす玲王と西岡を横目に俺の胸にはある思いがつかえていた。
今回は俺と協力した西岡がゴールを決めた。西岡と組めば俺もゴールを奪えるだろう。だが、これでいいのか?俺は、自分一人の力でゴールを奪いたい。あの馬狼の様に。
そんな思いを余所に試合が進んでいく。
チームXからボールを奪ったチームVの反撃。ボールは玲王に集められるが、それを再び俺はカットしてマイボールへ。
「てめぇ、またかよ!!」
先程の一点で見せてしまった西岡との連携。それを警戒したチームXは西岡へのマークが厚い。俺は単体では脅威にならないと思われたのか、チームVへのパスコースを塞がれつつプレスをかけられる。
しかし、俺の視界の端に見えたのは圧倒的な初速。敵を置き去りにした斬鉄のオフ・ザ・ボールに俺は応えた。パスコースが塞がれているため俺のパスは明後日の方向へ飛んでいく。
「どこに蹴ってやがる?」
チームXが俺を嘲笑うが数秒後、その嘲笑は驚愕へと変わった。俺の左足から放たれたボールは凄まじい回転をしながら一気に斬鉄が走り込む右サイドへ。この予測不可能な弾道にチームXは対応できない。西岡へのパスだと思っていたチームXにとっては尚更。
俺からのパスをフリーで受けた斬鉄は強烈な左シュートをチームXのゴールへ叩き込んだ。
チームV 2-1 チームX
「今のパスはベリーエレガントだった。使い方あってる?」
「ああ。合ってるぜ」
俺はゴールを決めた斬鉄とハイタッチを決めた。
「なんだよ、榊原。お前あんなパス出せたのか!!」
「まぁな」
驚愕する西岡に俺は笑って返す。
俺は昔からボールに無理やり回転をかけるのが好きだった。弾速は決して高くはないが、その予測不可能な弾道でいくつものチームを驚愕させてきたのだ。俺のキックで相手を驚かせるのが何より楽しい。だが、ゴール前でパスを受ける斬鉄のようなオフ・ザ・ボールスキルがなかったため、俺はFWだったにも関わらず、アシストに徹することが多かった。
「次はちゃんと俺に出せよな」
「チームVを壊すって発想なかったらこんなことしなかっただろうからな。ちゃんと見とくから心配すんな」
「あの回転と俺のスピードを合わせれば意気揚々に……って使い方あってる?」
談笑する西岡、俺、斬鉄を横目に不機嫌な顔をするのは玲王だ。玲王と凪はこのゲームでまだ一点も決めれていない。
「……玲王」
「凪。お前は前で張ってろ、必ずパスする」
「うん」
今まで玲王の人生は順風満帆そのものだった。特に挫折することもなく、持ち前の器用さで充実した日々を送っていた。そんな毎日を退屈と感じるようになってから、心の底から欲しいと思ったW杯優勝。そして凪という宝物。その両方が榊原 誠也という存在に奪われるかもしれないという危惧を抱いた。
凪にパスを出すのは玲王でなければならない。このままではその役割が榊原に取って代わられる。それほどまでにあの変速パスは凄まじかったのだ。玲王は産まれて初めてケツに火が付いた。
RESTURT!!
ボールを持ったチームXはそのボールをチームの主柱である馬狼に集める。一人では止められない馬狼の脅威を知っているチームVは必然的に複数人で当たることになるが、それにより空いた空間へ馬狼はヒールパスを出した。
「そこだぁ!!」
そのパスを玲王がインターセプト。この試合で久しぶりにボールを持った玲王は持ち前の器用さを活かしたドリブルで凪にダイレクトパスを渡せる位置にまで走り込む。
「行けぇ!!凪!!」
敵地のど真ん中で玲王からのパスを受けた凪は天才的なトラップでボールをコントロールし、ゴールを決めた。
チームV 3-1 チームX
「よっしゃぁぁ!!」
ゴールを決めた凪よりも玲王が大きな雄叫びを上げる。凪は『なんで玲王こんなに嬉しいんだろ?』と他人事の様に見ていたが、玲王は榊原と西岡にチームVを乗っ取られそうになっているこの状況で、自分のパスが凪のゴールのアシストをしたという事実が堪らなく嬉しいのだ。やはり、凪の隣は自分しかいないのだと。
前半終了 チームV 3-1 チームX
15分のハーフタイム。チームVは既に勝利を確信した雰囲気になっていた。今チームVには二つの【1】が存在している。
一つ目は玲王→凪による【1】
二つ目は榊原と西岡による【1】だ。
それに加えて、そのどちらの【1】にも合わせられる斬鉄がいる。
「やべーよチームV」
「最強なんじゃねーの!!」
「てか、榊原と西岡。よく玲王と凪の間に割り込めたな!!」
「斬鉄のシュートも半端ねぇ!!」
チームVのメンバーはこの快進撃に盛り上がっていた。何せ、先の試合でチームZを5ー1で下したチームXに2点も勝ち越しているのだ。伍号塔の最強はチームVと言っても過言ではない。
しかし、凪・玲王・西岡・斬鉄・俺の面々で浮かれている者はいなかった。皆がそれぞれ如何に自分がチームVの主役になるかしか考えていない。凪に関してはただFPSに集中しているだけだが。
後半開始 チームV 3-1 チームX
チームVボールでKICK OFF!!
開始早々、馬狼の迫力あるプレスが玲王に襲いかかる。
御影 玲王 vs 馬狼 照英
MATCH UP!!
器用なドリブルで馬狼を躱そうとする玲王だが、馬狼の鬼フィジカルの前に中々突破ができない。
「ボールを寄越せや、三下がぁ!!」
馬狼は手を上手く使って玲王とボールの間に割り込んでいく。このままではボールを取られると判断した玲王は一度突破を諦めてバックパスを選択した。
「一度、戻すぞ!!」
そのバックパスを横からマイボールにしたのは西岡だ。持ち前のドリブルでチームXに切り込んでいくが、次第にそのドリブル突破にも限界が訪れる。今、左サイドを掛け上がる西岡に合わせてPAに侵入しているチームVは三人だ。
凪 誠士郎
榊原 誠也
剣城 斬鉄
西岡が選択したのはセンタリング。今、最もゴールに熱い人間にそのボールが託される。
前半でゴールを決めた凪と斬鉄には少なくないマークが付いていることもあり、ボールを受けたのは榊原 。俺だ!!
トラップする時間によって、即座にシュートコースが塞がれる。ここまで完璧に塞がれると回転シュートも使えない。俺はボールロストする前に取り敢えず打つが、敵DFに阻まれてボールは上空へと飛んだ。
そのボールの落下地点にいるのは凪。絶妙な瞬間吸収トラップで敵DFを掻い潜ると、ジャンピングターンでゴールを決めた。
チームV 4-1 チームX
ゴールを決めたのは俺ではなく凪だ。先程の凪のプレーを見て、俺の欠点が如実に明らかになる。ここに来る前からの弱点。
「クソっ!!」
俺に馬狼並みのフィジカルや凪のような天才トラップがあれば、あの状況でもゴールを決められた。この弱点をどうにかしない限り、俺は世界一のストライカーにはなれない。
直ぐに思い付くのはダイレクトシュートだ。敵DFにブロックされる前にシュートを打つ方法。だが、俺にダイレクトシュートは向いていない。何故なら俺が得意なシュートは回転をかけた変速シュート。ダイレクトシュートとはまた性質が違う。
結局、その答えが出ないまま時間が流れていった。
玲王の万能アシストと俺の変速アシストによって、それぞれゴールを決めたのは凪・西岡・斬鉄。チームXではその後馬狼が一点を決めた。
後半AT1分 ラストプレー
チームV 7-2 チームX
「どけよ三等兵!!」
ボールを持った馬狼が俺に向かって突進してくる。ここで俺が抜かれればゴールを奪われるラストプレーだ。
榊原 誠也 vs 馬狼 照英
FINAL MATCH UP!!
俺と馬狼の慎重に大きな差はない。しかし、そのフィジカルには少なくない差が存在している。馬狼のフィジカルレベルを10としたら俺のフィジカルレベルは見積もっても8か7。馬狼の突進全てを防ぐことは出来ない。
だが、これまでの馬狼の二得点は決まって、ある一つのパターンがあった。それはシュートを打つとき、決まってペナルティアークと呼ばれる半円の辺りであるということ。そのエリアに馬狼を近づけなければいい。俺の両利き360°対応という武器を使えば、危険なペナルティアークに向けた突進だけはカバーできる。
「チッ、めんどくせぇな、三等兵が」
一つの突進を防ぐという作戦は思った以上にはまり、馬狼の足止めが出来ている。
「その程度で俺を止められると思うな」
「何?!」
馬狼はペナルティアークではなく、大きく左に振った突進をしたと思ったらそこからシュートを放つ。そのシュートは二点目までと同様にゴール右上隅に突き刺さった。
試合終了
RESTURT
チームV 7-3 チームX
チームVはチームXに勝利したが、一点も奪えず馬狼も止められなかった俺は素直に喜べなかった。
『たまたま勝つな、勝つべくして勝ち取れ。プロは自分だけの方程式を持っている。己の武器に何を掛ければゴールに結び付くのかを見つけ出せ!!』
絵心の言葉を受けて、俺は再び自己分析を行う。
俺の武器は両利き故の360°対応が可能ということ。それがあったからこそチームX戦の終盤で、ほんの少しとはいえ馬狼を足止め出来たのだ。
そしてチームX戦で、はっきりと分かったのは俺は得意な回転変速パスを360°で繰り出せるということだ。本来なら利き足でしか出せない回転変速パスも俺なら両足で行える。
「だが、直接ゴールを奪えるCにはなってないな」
A(両利きから繰り出す変速シュート)×B(?)=C(ゴール)
実際今日の試合、ゴール前で西岡からパスを受けても変速シュートを打ち込む隙間すらなくゴールは奪えなかった。
「でもトラップしないと、あの回転はかけられないからなぁ」
回転を捨ててダイレクトシュートを取るか、回転を取ってダイレクトシュートを捨てるか。
でも、俺の答えは既に決まってる。
「やっぱり俺は回転を取る」
俺はどうしようもなく回転をかけるのが好きなんだ。
そして答えはフィールドに眠っていると絵心は言う。
俺は三戦 vsチームWに向けて訓練場へ向かった。
1日後
三戦 vsチームW
KICK OFF!!
チームWボールで始まった瞬間、鰐間兄弟が連携プレーを見せてきた。かなりの連携だがチームVには通じない。俺のプレスに合わせて鰐間兄弟はワンツーで躱して来るが、玲王がインターセプト。
「マジか!!」
「(くわっ!!)」
俺と玲王はvsチームWに向けてある取り決めをした。鰐間兄には俺が、鰐間弟には玲王がワンマークで付くこと。これによって鰐間兄弟を分断する。今やチームVの中核を担っている俺と玲王を相手に、如何な鰐間兄妹と言えど簡単には突破出来ない。
そして、ボールを奪えば後は今まで通り。西岡と俺・玲王の間で前線へのパスを担う役割の奪い合いが始まる。
今回は玲王→凪の【1】によってチームVが先制した。
その後も玲王の万能パスと俺の360°回転変速パスによって得点を上げていく凪・斬鉄・西岡の三人。対してチームWは鰐間兄弟が俺と玲王のダブルマークを突破出来ずに攻め手を欠いていた。
このままいけば間違いなくチームVは勝つ。だが、俺は自分でゴールを奪いたい。
結局、俺は試合までの練習では自分の武器に何を掛けたら強力に進化するのか見出だせなかった。だから、この試合が終わる前に何が必要なのかを見つけたい。次のチームZ戦でやればいいなんてのは甘えだ。この試合が俺に残された全てだと思え!!
時間的にもこれがラストプレー。ドリブルで掛け上がる西岡に合わせて最後のセンタリングを受けるためPA内に突入する。
来た!!センタリング!!一か八かダイレクトシュートと回転変速シュートを組み合わせるしかない!!
「いけぇぇ!!」
俺の左足から放たれたダイレクト回転変速シュートは………
ゴールバーに直撃した。
「あ………」
跳ね返ったボールは鰐間兄弟に渡り、チームWのカウンター。玲王一人では鰐間兄弟の連携を止めることは出来ず、チームWに得点を許した。
試合終了
RESTURT
チームV 5-1 チームW
チームVの面々は決定機を逃した俺にそこまで怒ることはなかった。1点奪われたものの、チームVは3勝を挙げ一次選考通過が確定したからだ。
他のメンバーが勝利の祝杯を挙げている中で、俺は一人練習場で悩んでいた。
ダイレクトシュートは俺には合わない。やはり、このやり方ではダメなのだ。
「あいつなら何か知ってるかも」
俺は伍号塔で最も単独ゴールを上げているストライカーのいるチームX練習場へと向かった。
馬狼 照英
奴に会えば何か分かるかもしれない。
しかし、チームX練習場に馬狼はいなかった。ボールが散乱したサッカーフィールドにいたのは別の人物だ。その人物は入り口に現れた俺に気付いて視線を向けた。
「馬狼はいないのか?」
「あぁ。うん、さっきまでいたけど帰っちゃったよ」
そいつは俺の独り言に律儀に答えてくれた。
「そうなのか、君も馬狼と同じチームX?」
「いや、俺は違うよ。俺は絵心が言ってたゴールの方程式が見つけられてないから馬狼に聞きに来たんだ」
「ははは、俺もだ」
俺と同じ様に悩み、馬狼を訪ねたやつが他にもいたみたいで少しだけ気が楽になる。
「俺はチームZの潔 世一だ」
「俺は榊原 誠也。チームZっていや次の対戦相手だな」
「やっぱり、チームVか」
「なぁ、潔。少し話さないか?」
俺はいなくなった馬狼のことを目の前の潔 世一から聞き出すことにした。
「馬狼の方程式は何だった?」
「Aが強力な右シュートと突進力、Bが28m射程だ。馬狼はあのフィジカルによる突進で右シュート圏内の28mにまで無理やり持っていくんだ」
「なるほど、突進力と28mか」
チームXとの試合で馬狼はペナルティアークを目指しているのかと思ったが具体的な数字があった。
「俺が馬狼と同じ事をやろうとしたら突進力が足りないな」
「あいつと同じことが出来る奴なんてそうそういないよ」
「てか、なんで素直に教えてくれたんだ?俺は明日の対戦相手だぜ?」
俺が尋ねると潔は照れ臭そうに笑う。
「同じチームに國神ってスゲーやつがいてさ、そいつなら多分こうしたからだな。正々堂々ってやつ」
「なるほどな」
國神 錬介はチームZのVTRで知ってる。またの名を國神きんにくん(玲王命名)。
「んじゃ、早速やろうぜ潔」
「え?」
「お互いのBを見つけるための1on1だ」
「……ああ。いいぜ」
榊原 誠也 vs 潔 世一
1on1 MATCH UP!!
ボールを持った俺はドリブルで潔との距離を詰める。潔のブロックを躱しつつ、俺は潔の武器を考えていた。
潔のディフェンスはかなり拙い。俺のドリブルでも隙が見出だせる。潔の武器はボールを持った時に発揮されるのか?
潔からシュートコースを見出だした俺は回転変速シュートを叩き込んだ。
「え?!」
潔はシュートコースをカバーしてたつもりだろうが、俺にとっては普通なら直接狙えないようなコースでも回転変速シュートを使えばシュートコースに成りうる。
俺の右足から放たれたシュートは大きな円軌道を描いて、ゴールの左ネットに突き刺さった。
「映像で見たよりも、随分曲がるんだな」
「そうか?」
「その回転シュートが榊原の武器かよ!!」
「それだけじゃないけど、そうなるな」
「その能力があれば好きなだけゴール奪えそうな気がするけど?」
「今回は1on1だったからな。実際の試合だと複数のDFに囲まれるから隙がなくなる」
「……なるほどな」
「次は潔の番だぞ。お前の武器を見せてみろよ」
潔 世一ボールで1on1
RESTURT!!
潔がドリブルで向かってくるが、これもやはり拙い。西岡といつも練習してる俺にとっては、西岡に数段劣る潔のドリブルなんて簡単に止められる。
「そこだろ?」
「くそっ!!」
潔からボールを奪った俺はそのままシュート態勢へ。しかし、潔はすぐさまそれに反応しシュートコースを切る。
それを見た俺は左に大きく振って潔を躱そうとするが、潔の寄せが甘い。右足のシュートを警戒してるんだろうが、それでは俺を止められない。
俺は左足を大きく振りかぶる。それを見た潔は急いでブロックに入るが間に合わない。俺の左足から放たれた回転変速シュートはゴールの右ネットに突き刺さった。
「やっぱり、榊原は両利きなのか?」
「そうだ。VTR見たなら知ってるだろうけど、俺は左右から同じクオリティの変速回転シュートが打てる」
「すげぇな。まるでノエル ノアじゃねぇか」
ノエル ノア
バロンドールに輝いた世界一のストライカーにして、俺と同じ両利きという武器を持つ選手だ。
「ノアと比べて大したことないけどな。ノアは自分一人でゴールを切り開けるし」
「いや……まぁ、それでも十分すげぇよ」
「本当は潔の武器とか聞いてみたいけど、それは明日の楽しみにとっておくよ」
俺は訓練場を後にしようとして、潔から声がかかる。
「明日は絶対勝つ!!」
「ああ、やってみろ!!」
俺がシャワーを浴びてチームVの寝室に戻ってくると玲王が少しだけ殺気立っていた。理由を尋ねると、先ほど食堂で久遠という男がチームZの情報を渡すから~とか言った後、同じくチームZの潔 世一に勝利宣言されたんだそう。
「あー、俺も言われたな。それ」
「知り合いかよ?」
「さっき1on1やってきた」
「ふーん」
翌日
チームZの面々は試合場所に集まったチームVを見て、疑問を抱いていた。
「ん?あいつら1人足りなくねぇか?」
「本当だな、寝坊か?」
「こっちは実質10人だからな。有難いと思うべきか」
「どうやら、いないのは西岡ってやつみたいだ」
「ギャハハハ、ラッキー」
俺を見つけた潔はこの場にいない西岡について尋ねるべく、チームVに近づこうとするが、次のアナウンスでその動きを止めた。
『チームV所属 西岡 初は練習中の負傷により不参加とする』
そう、西岡は昨日の練習で怪我をしてしまったため医務室にいるのだ。だからチームVは10人で戦わなければならない。
最終戦 vsチームZ
KICK OFF!!
チームZボールで試合が始まると同時にチームZの3FWがチームV陣地に雪崩れ込んだ。
國神 錬介
千切 豹馬
我牙丸 吟
この3人が前線でボールを待つ。ボールを持って掛け上がるのは蜂楽 廻だ。俺は蜂楽の前に立ち塞がってプレスを掛ける。
「こっから先は通行止めだぜ」
「無理矢理押し通るの巻き」
榊原 誠也 vs 蜂楽 廻
MATCH UP!!
小手調べに繰り出される蜂楽のダブルシザーズ。加えてマジックターンで抜かれかけるがギリギリ食らい付く。
張り合う俺と蜂楽の隙を縫って玲王がボールを奪取。
「玲王!!」
「あらら、いつの間に?」
ドリブルで掛け上がる玲王を追いかけて蜂楽も急いで自陣に戻る。
そんな中、俺が目にしたのはボールを奪われたにも関わらず、前線で待機するチームZの3FWだった。
ボールを持った玲王は器用さMAXのドリブルでチームZを切り裂いていく。そして、玲王→凪への直通パス。だが、凪のシュートは五十嵐 栗夢の顔面ブロックによって阻まれた。
チームZのカウンター。潔が拾ったボールは即効前線へと渡される。そのやや強めのパスに合わせるのは我牙丸だ。
「やっぱカウンターか」
それを俺は読んでいた。前線に3人が残ったときからなんとなく感じてたのだ。きっとこうなると。
我牙丸のヘディングは俺にブロックされる。だが、こぼれ球に合わせたのは馬狼にも劣らぬフィジカルを持ち、強力な左ミドルシュートを持つ男。
國神のシュートがチームVのゴールネットを揺らした。