リードマイヤーは、徐々にきつくなっていく勾配に抵抗していた。
鎖鎧が重い。剣帯も重い。総重量が二十キロはあるだろうし、それを身につけてこの坂を上るのは酷だった。片手に松明を持っていれば、なおさらだ。
隧道の中は、上っていくごとに乾いてきていた。染み出していた水はもはやどこにもない。黄色い、粘土の固まりのような岩が、踏みしめるごとに足の下で砕ける。
この隧道を進み初めて、一刻ほどにもなろうか。リードマイヤーの感覚でいえば、あの地底湖から相当に上がってきているはずだ。もう、地上の近くまできているのではないか。
「その道は、地上に続いている。わしらの知っている、唯一の道だ」
と、長老は言っていた。
「この山の下には、とても把握しきれないほど、多くの複雑な隧道がある。元はドウォーフの住処だったからな。だから長くここに住んでいる我らでさえ、すべての道が分かるわけではない。
唯一、地上へと続いていると分かっている道が、それだ」
「で、俺がそこから出ていけないというのは、どういう理由があってのことなのだ?」
リードマイヤーが問うと、長老はこう答えた。
「地虫の巣がある。地上のすぐ近くにな。わしらは決して、あそこへは近寄らぬ」
「まあそうだろうな。あっちは地で、お前等は水だ」
「多くの仲間たちが、あやつの被害にあった」
長老の声は苦々しく、怒りと哀しみがにじんでいた。
「知っての通り、地虫は目が見えぬ。音と、血の臭いをかぎつけて、獲物を探して動く。我らはなるべくあやつと離れた場所を、住処に定めた。それでもまれに、あやつの牙にかかるものがおる。月初めになると、あやつは獲物を探して動く……」
「ちょうど今の時期か?」
リードマイヤーの問いに、長老は薄笑いで答えた。
「この時期のあやつは、たいそう気が立っておる。断じて、お前が見逃してもらえることはなかろうよ」
「どうかな」
リードマイヤーは答えた。
「どうかな」
そして、マーマン一同に見守られるような形で、リードマイヤーはひとり、その隧道に踏み込んだのだ。
最初の方は、ぬるぬると湿った足下のせいで、ひどく歩きづらかった。隧道は広くなるときもあったが、たいていは直立すると頭をこすりかねないほど低かった。進むにすれ、足下は乾いてきたが、徐々に登りとなっていき、リードマイヤーは両足に苦労をかけることになった。
いつまで経っても、地上は見えてこなかった。
リードマイヤーの全身に、疲労が積み重なってきた。思えば、川に落ちる前から、ほぼ一日近く、何も腹に入れていない。空腹には強い方だが、さすがに体力が失われてきていた。
「あの駄馬め」
リードマイヤーは毒づいた。
「あいつが、棹立ちになりさえしなければ……」
しかし自分に、どうすることができたろう。
リードマイヤーは首を振った。そして岩の壁に視線をめぐらせた。ちょうどいいへこみがあった。人間の拳が、すっぽり収まる程度の大きさだ。
そこに、松明の先をつっこんだ。あたりは急激に暗くなった。しばらくすれば、火は消えてしまうかもしれない。リードマイヤーは、近くの岩陰に身を隠した。
果たして、ほんの十呼吸ほどの間に、冷たく湿った足音が、ゆっくりと隧道の奥からやってきた。それがひとりのものであることに疑いはない。剣帯から短剣を抜いた。そして、その足音の主が角を曲がって現れた瞬間に、リードマイヤーは飛び出し、短剣をつきつけた。
「何用だ?」
リードマイヤーは問いかけた。