掛け違えカラーボタン   作:砂糖露草

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柊秋穂の人間性(起)

 柊秋穂は核家族の一人娘として生まれた。

 両親にはとても愛され、また彼女も両親のことを愛し尊敬している。理想の親子関係だ。

 

 強いて挙げるなら核家族としてさほど珍しくもない話ではあるが、両親共働きのため家族間の時間をあまり作れていないのが彼女たちの目下の不満であった。

 

 幼少の頃から親が家を空けることが多いためか、今では炊事洗濯その他もろもろの家事を過不足なくこなせるようになっていた。

 

 勿論、最初から完璧だったわけではない。

 そも子供に任せられないような仕事もあるわけで、その場合は普段家にいられない親の替わりに外部の大人の手を借りることも。

 

 そんなときに白羽の矢が刺さるのは、言わずもがな幼稚園の頃からの付き合いがある相川家。

 更に具体的に言うと、その今は亡き祖父母だった。

 実を言うと相川家も両親共働きなこともあり、相川兄弟と秋穂は一緒くたになって面倒を見てもらっていたのである。

 

 それが解かれたのは中学生に入って少しした頃、家事全般に憂いがなくなったのと思春期に入った子供たちへの配慮のためだ。

 とはいえその後も夕飯の持ち込みがあったり、互いの家に遊びにいったりと相互扶助や付き合いがあったのは言うまでもない。

 

 そんな彼女は育った環境もあり、生真面目な性格をしている。

 今まで体調不良であっても必ず時間は守っていたし(本当に悪いときは連絡して休んでいた)

 出された課題は早めに済ませ、期日前に提出なんて当たり前。

 

 東に困っている人要らば行って手助けしてやり、西にサボる幼馴染みあらば向かって叱咤激励する。

 

 かといって遊びに無頓着ではなく、幼馴染みに勧められたゲーム類はライトユーザ-並みに嗜んでいる。

 

 欠点を挙げるなら、生来の凝り性と負けん気が絶妙にミスマッチし時折手がつけられなくなることと、若干人付き合いが苦手なことだとかの幼馴染みは言うだろう。

 -なお、逆に彼女から彼への心証はほぼ逆のものとなっているのはご愛敬である。

 

 

 そんな彼女だが、肩までのばし一部を後ろで束ねた、若干茶色掛かった黒髪に

 やや勝ち気にも見える大きな瞳と長いまつげ

 そして平均以上のプロポーションを持つ。

 また普段から身だしなみに気を付けてることもあって清潔かつ整った容姿をしていた。

 

 端的に言えば、町中を歩けば十人中七、八人は振り向くだろう美少女なのだ。

 

 今まで浮いた話が一つもなかったのは目の上のたんこぶ、もとい幼馴染みの相川優希との関係性を誤解されていたからであり-

 その誤解が溶ければ、ー答えは言わずもがな、である。

 

 靴箱を開けると、そこは異界の入り口だった。

 というのは冗談で、いや一部の(モテない)少年少女にとってはそれ以上の衝撃を受けるかもしれない。

 自分のソレにラブレターが入っていたら。

 

 今回、そんな衝撃の事件(?)に見舞われたのは今話題の中心である柊秋穂女子、その人だ。

 

 彼女も今まで色恋沙汰に縁がなかったものだから、突然のことに動きが止まる。

 

 そして一瞬だけ視線を動かした、挙動不審な幼馴染みを不思議に思った優希が横から覗き見て-また止まった。

 

 

「あれー、二人とも何してるんスか?」

 

 二人の時が動いたのは、樋ノ上が異変に気づいて声をかけたあとだ。

 

 ハッと我に帰り、あたふたと別の意味で挙動不審になってから慌てて手紙を隠す、二人で。

 

「ああいや、何でもない。一寸今になって忘れ物ないか不安になってさ」

「そ、そう!全く優希はいつもだらしないんだから」

「いやまて、そこで俺だけに擦り付けんじゃない。お前だって一瞬ハッとなってたじゃん。」

「そ、それは隣で「あれ、もってきてたっけ?」何て言われたから不安になるじゃないの」

 

 優希は自然に、反対に柊は少しだけたどたどしく誤魔化そうとする。

 

 その様子を見て少々いぶかしんだ樋ノ上だが、自分には余り関係のないことだと判断したのかそれとも-

 

「そっスか、でもそろそろ朝礼始まるから急いだほうがいいっスよ」

 とだけ残し先に教室へと向かった。

 

 

 

 そして、完全に姿が見えなくなった頃どちらからもなく大きく息を吐き出す。

 

「あー、なんとか誤魔化せたかね?ほら返すよ」

「あ、ありがと。-あーもう朝から疲れた!ていうか忘れ物ってなに、ホントの話?」

「ただの方便だよ失礼な!」

「そうだといいわね」

 

 先程の慌てぶりから一転して気の緩んだトーンで駄弁り始めた二人。

 問題はまだ山積みなのだが、ひとまず嵐が去ったようだった。

 

 そんな折-

「ところで、何で誤魔化すの手伝ってくれたの?てっきり囃し立てるものだとばかり」

 

 いつもの調子で柊は尋ねた。

 優希は「そりゃおまえ-」と、そこまで言葉にして口を開閉する。

 やがて出たのは

 

「-余りおおごとにするのはどうかと思ったからさ。」

 

 なんて当たり障りのない返しだった。

 もちろん秋穂がソレで納得するわけもなく、何度も追求してくるが、そうこうしているうちに本当に始業のチャイムが鳴り響き

 結局うやむやのまま二人急いで教室へと駆け出す。

 

 

 比較的足の早い柊のあとをついていく優希。

 

「助けを求めるような顔を久しぶりに見たから、何て言ったらいい顔しないよなぁ…」

 

 という彼のぼやきは誰にも聞かれず宙へと溶けていったのだった。 

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