「あ──彼女欲しい」
国内最大手のファーストフード店の一席で、真向かいに座る男は俺にそう漏らした。
「ほんと欲しい。マジでほしい。ていうかほしくない? ほしいよね」
「知らんがな」
ハンバーガーを頬張りつつ、しきりに同意を求めてくる相手にぞんざいな返答を返して、俺はフライドポテトをつまむ。
曲がりなりにも友人である人間に対して、冷たい対応なのは自覚しているものの、この発言が今に始まったモノでは無いのだから、淡白な態度になってしまうのも仕方ない話。
と言うのもこの男──塚本亘利はここ最近、急に彼女を欲しがる発言をしきりに繰り返す様になった。確かに高校2年生、アオハル真っ只中と言えるこの状況で、こうして学校帰りに野郎2人でジャンクフードを食べてるだけじゃあまりにも華が無いし、将来後悔しそうな気もしないでもない。
「でもお前、出会いが無きゃどうにもならないだろ、そうやって欲しい欲しい言ったってさ」
「出会いなんて幾らでもあるじゃないか。僕らの日常生活でいったい何人の女子が周りに居ると思う?」
「その女子から避けられてるから出会いが無いんだろうが」
「き゜」
「何それどう発音してるの。ウケる」
決して不細工と言うわけじゃなく、むしろ目鼻立ちとかは良い方の人間なのだけど、いかんせんコイツ、普段からエキセントリック過ぎる。
他人に迷惑をかける行動は取った事ないけども、急に社会主義思想に傾倒したり、教師相手にソクラテスの如く弁論大会を起こしたり、1年の時演劇部に入部していきなり高校生演劇大会の最優秀賞を取ったと思いきや直後に退部し、今度は動画配信系のSNSでバズったり、一人称がその日の気分や影響を受けた作品によってコロコロ変わったり、本当に掴みどころのない人間なわけだ。
俺自身、どうしてコイツと友人やっていけてるのか分からないし、むしろコイツの友人やってるせいで周りから似たような奴と思われてる節があり、最近は俺も女子からは避けられてるのでは? なんて思う事もある。
「基本的に女子はお前みたいに突拍子もない奴は面白い人間だと思っても、好きになる対象ではないんだろ」
「センス無いね」
「自己肯定感の塊かよ」
「本音さ。僕は基本周りの女子相手に自分を見てほしい何て思っちゃいない」
「それなのに彼女欲しがってるのか」
「学校外の女子と付き合いたいんだよ! 僕を色眼鏡で見ない人間と!」
色眼鏡で見られてるんじゃなく、自分から色眼鏡を配ったんだろう。と言いたくなる気持ちをグッと抑え込み、俺は話を促した。
「僕が思うに、男女の付き合いは互いの間に漂う神秘性から生まれると思うんだ」
「え、何、スピリチュアルな話?」
「そういうのじゃなくてもさ。この人はどういう人なんだろう、何を考えてるんだろう、そんな興味関心の引き金になる神秘性──古い神社仏閣に惹かれるように、人間のそういう一面から恋は埋まれるじゃないか、とね」
なんとも話のスケールが大きくなってきたなぁ。と思いつつ、まぁ分からない話でもないと多少は頷く自分もいる。
いわゆる憧れとか、高嶺の花、みたいなものを亘利は言ってるのだと思う。
「その神秘性が薄れて、現実を知った時、そのギャップに耐えられる人だけが結婚とかにつながるんだと思うワケだよ、僕は。そのために、神秘が現実に堕ちるまでの間どれだけの人生経験をして、どんな男女のやり取りをするかが鍵なんだってハナシ」
「うん、言いたい事は良く分かる。付き合いだしてから発覚する価値観の違いとかあるもんな」
「君彼女できた事ないだろ」
「ぶっ殺すぞ」
少し真剣に耳を傾けた自分が馬鹿馬鹿しく思った。
「そこでだよ、もう僕の人となりをある程度知ってしまっている環境の中で女子と付き合うなんて事は可能性0と思った僕は、アクションを起こした」
「……アクション?」
嫌な予感しかしない。
「合コンSA」
「帰るわ」
「まぁ待ちなよ」
席を立とうとした俺の腕を素早くつかみ、亘利は機先を制するように言った。
「自然な話さ。僕をよく知らない女子が集まる環境を作れば、その分彼女ができる可能性は飛躍的に向上する、ならばこその合コンだ、分かるだろ」
「理屈だけはな」
頭に『屁』の付く理屈だが。
「そこでだ。その場に是非友人である君も招待しようと思っているんだけど、どうかな」
「断る」
「にべもなく拒絶するか。理由を聞いても?」
「行きたくないから」
「彼女ができるかもしれないのに?」
「出来る気がしない。俺はお前のいう事分からなくも無いけど、初めて会う人間よりも一緒に居てある程度人となりが分かる相手と付き合いたい」
「うーん、ここにきて価値観の相違か……」
困ったようにこめかみを指でトントンする亘利だったが、その時間は僅かで、あっさりと納得するように言った。
「じゃあ仕方ない、貴重な友人である君の意思を尊重するよ」
「ああ、ありがと」
「それに誘っといてなんだけど、もし本当に君が合コンに行くとなったら、妹ちゃんに恨まれそうだからね」
「……渚は関係ないだろ、別に」
「そうかい? 彼女の君に対する思いは兄に向けるそれを越えてる気がするけどなあ」
「──そんな事より、本気で彼女欲しいならその口調も変えた方が良いぞ、神秘性より先にキモがられる」
「うーん辛辣」
妹の渚についてめんどうな方向に話が進むのが嫌なので、続けて俺は言った。
「それと、別に反論するつもりじゃないけど」
「うん?」
「神秘性が薄まって現実に堕ちるまでの過程が一番大事だって言うなら、尚更初見詐欺みたいな合コンは上手くいかないんじゃないか?」
「…………一考の余地があるかもね」
その発想は無かった、とでも言わんばかりに露骨に沈黙と焦りを見せる亘利。
「あ──、いっそのこと、幼なじみでもいれば話が楽だったのになあ」
「神秘性はどこに行った神秘性は」
「幼なじみは話は別さぁ。僕にも欲しかったよ幼なじみ」
「あれだけご高説垂れといてそれだもんなあ」
結局、こういうよく言えば型にとらわれない、悪く言えば一貫性のない所が一番彼女いない原因じゃね。と思いつつ、俺はふと頭の片隅で思った。
そう言えば、幼なじみと言える人間が、俺には居たんだっけ。そんな事をだ。
と言っても、亘利が思ってるだろう、ラブコメによくある距離感皆無な幼なじみではなく、その子と俺はもう何年も会話1つしていないが。
学校も同じなのに、今の今まであの子がどうしてるかなんて気にしてなかったな。
延々と幼なじみという幻想を語る亘利の言葉を聞き流しつつ。
今度、学校で見かけたら声でも掛けてみようか。そんな事を気まぐれで思ったりしたのだった。
⇒続く?