「よし、それじゃあ続きと行こうか」
「続けるのかよ」
渚が退室したとたん、うきうきとコントローラーに手を掛ける亘利。
「え、そりゃあ続けるよ。君の妹さんが許してくれたんだからね」
「……はぁ、まぁいいよ。うん、さっさと始めてくれ」
正直、このまま曖昧にゲーム終わる流れにならねえかなと思ったりもしたけど、こいつはお構いなしの様子。
ゲームが始まり、まずは主人公の名前を決めるところからだ。
「へぇ。主人公って名前決まってないんだ」
「そう言うのも多くなってるけどね、これはプレイヤーが決めるパターンだね」
「ふーん、それってキャラはちゃんとこっちが選んだ名前を呼んでくれるの?」
「いやぁ、基本的には読まないかな。テキスト上では書かれても名前の部分だけ読まれなかったり、君とかあなたってセリフになってるね」
「えー……それ萎えたりしないのか? 恋愛シミュレーションなのに自分の名前読んでくれないんだろ?」
「あっはは……それは言っちゃダメな奴だよ」
「そういうもんか」
「そういうもんだね」
ふぅん、ある程度の我慢は必須条件なのか。
まぁ、恋愛は我慢のしあいってどこぞのインフルエンサーも言ってたからなぁ。シミュレーションでもそれが求められるって事か。俺だったら虚しくて無理だけど。
「ちなみに、主人公の名前ちゃんと呼んでくれるゲームはあるの?」
「あるよ、その場合は主人公の名前変えられないけどね」
「そっか」
やる気はないが、俺がやるならそっちを選ぶかな。
やっぱその方が感情移入しやすいし。
「ちなみに、お前が最初に攻略したいキャラっているの?」
「特に決めていないよ。心の動きに身を任せたいんだ」
「はぁ……」
よく分からないこだわりだけど、その辺を指摘するのは野暮なもんだと思う事にする。楽しみ方は人それぞれ。
──と、まぁゲームが始まって、主に進めるのは亘利だから俺は傍らでモニターを見続けるしかなかい。
色とりどりのヒロインと出会い、何かしらの『縁』を結んでいく主人公。性格は悪い奴じゃないにしても、どこか消極的な印象を抱かせる男だ。
そんな中、ふと俺は気になった事を亘利に聞いてみた。
「あのさ、なんかこの主人公、この子にだけちょっと距離感違くない?」
主人公が出会う女性キャラクターの多くが初めて出会う女の子って感じなのに、とあるキャラクターにだけは主人公が何か思わせぶりな言動をしているのに気づいた。
「ん、着眼点良いね、さては国語の成績良いでしょ君」
「この前のテストではお前よりダブルスコアだったな」
「あははー、数学はクソ雑魚のくせに」
「さて……電源コードを抜こうか」
「待ってゴメンって!!!!」
ちょっとイラっと来たので脅したらすぐ手の平を返すのが面白すぎる。
「この家で遊んでる限り主導権が誰にあるか忘れるなよ」
「君独裁者の素質あるよ」
「お前のダチ」
「おーっと、この言い回し覚えあるなあ」
「だからそう言うの良いから。で、いまいったのについてはどうなんよ」
「端的に言えば、元幼なじみかな」
「元?」
「そう。実はこの主人公、舞台になってる街で生まれて、幼少期は君が言ってた子と幼なじみだったんだ」
「へぇ……それで?」
「主人公が親の転勤で引っ越しする事になって、小学校1年生の頃に離れ離れになったけど、今作の時系列で久しぶりの再会となるわけだね」
「……そっか、久しぶりに会話する事になるんだな」
「うん。主人公は久しぶりに会話するのを自覚してるけど、相手は自分を覚えてるか不安がってるみたいだね」
「……」
何となく、だけど。
ちょっとだけ、自分と似通ってるかな。なんて思ってしまった。
まぁ、俺の場合はあの子の事が頭に思いついたのも最近で、いまだに話しかけてすらいないんだけど。
向こうも俺に声をかけてくること無いし、まぁ、忘れてるよな……。
「そんなに気になるなら、まずはこの子から攻略してみるかい?」
「いや良いよ、お前の好きなようにしろって」
「うーん。じゃあ別に好きでもないからこの子からにするか」
俺の発言が後押しになってか、結局亘利はくだんの元幼なじみキャラルートを選ぶことにした。
疎遠だった2人が徐々につながりを取り戻し、やがて深い仲になっていき……それゆえに生じる互いの価値観の相違やすれ違いが波乱を招き、しかしそれでも最後には互いのわだかまりは消えて本当の意味で思いが通じあった。
最初は俺も流し見でいたけれど、思いのほか主人公が良い奴だったり、幼なじみだった子とのすれ違いにやきもきしたりで、気が付いたら思い切り感情移入して、エンディングを迎える頃には──。
「……めっちゃいい話じゃん」
「シナリオが神と言った意味、分かってもらえた?」
「……まぁ、ちょっとだけ」
こんな恋愛してぇなあって言うより、こんな人間関係に包まれたいなって思う作品だった。
「大人がちゃんと大人してるって良いよな。親がしっかりしてたりとか」
「……あー、そうだね。君の場合は尚更そう感じるか」
いっけね、ちょっとネタにもできない事を口走ってしまったか。
「それにしても、さ。ちょっと気になったんだけど」
「なに?」
「主人公の妹、すっげぇ有能だな」
「あぁ。まあね。よくある好感度お伝え係ですわ。この手のゲームにはよくある」
「そっかぁ。……この子のルートは無いの?」
「あっはは、何言ってんのさ」
俺の些細な疑問に対して、亘利はカラカラと笑いつつ答えた。
「実の妹とのルートなんてあるワケないじゃん。近親相姦になるじゃないか、キモいって」
「…………そうだよな」
──後日、追加パッチで妹のルートができた時には、『やっぱ禁じられた愛もたまんないよね』とかいいだすのであった。
⇒続く?