ようこそ悪霊と逝く楽しい学校生活   作:ふにふら

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原作1巻
霊魂不滅


 

 

 

突然ですが少しだけ、私の話を聞いて真剣に考えてみてください。

 

問い・あなたの優れた点はどこでしょう?

 

そう訊かれたら、あなたはなんと答えることが出来ますか?

 頭が良い?運動が出来る?顔面偏差値が高い?性格が良い?

 なるほどそれは立派な個性です。

 他にも言い訳が得意だったり人を殴るのが上手なフレンズだって中にはいることでしょう。

 しかし現代社会において重視されるのは上に挙げた顔面偏差値と学歴であり、そこに社交性と身体能力で花を添えていくのが主流です。

 そして子供は社会の縮図である学校でその真理を学び、果てなき闘争により戦士の魂を身につけ修羅道に堕ちていく……

 つまり我々は産まれた時点で生存競争がスタートしており、生き残る為には自分の''特別’'を増やさなければならないのです。

 

負けたくなければ

曲げられたくなければ

見下されたくなければ

 

勝ち続けるため、励み続けるしかないのです。

 

なので

 

勝つ…勝ちます…勝って…勝とう…勝てば…勝ったら…勝つべき…)

 

「うるっっせええええええええェェッーー!!」

 

 絶叫した。

 

(聞こえますか人の子よ……今あなたの心に直接話しかけてます……)

 

「悪霊退散!悪霊退散!!」

 

心の中と身体の前で必死に十字を切る

 

(そんなの効きませんよ……)

 

「ーーーーーーうおおおおおおおおおおおおおおおお怖ええええええええええええええええええェッ!?」

 

以上の点を踏まえた上で、俺は断言しよう。

 

"特別が幸せとは限らない"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「席を譲ってあげようって思わないの?」

 

ゆっくりと目を開け、忌々しい夢に別れを告げた。

 

(起きましたかぽん太郎)

 

訂正、悪夢は続いていた。舌打ちを堪えながら目の前の景色を眺める。

 窓から見えるのは満開に咲いた桜並木。

 この地域の桜は今日が満開の日らしい。

 新たな門出の日である今日に丁度満開の桜を見るとは縁起が良いが、悪霊にゼロ距離で囁かれている時点で運勢は最悪だった。

 

(ぽん太郎、ぽん太郎、見てくださいあれ)

 

 少しずり下がった身体を起こし、改めて車内を見渡す。バスの中は混雑しており、吊革に掴まっているサラリーマンやOLがバスの揺れに少し足元をふらつかせている。

 座席は当然全て埋まっており、さらには吊革も全て使われている状態だ。

 吊革にすら掴まれない乗客も当然いるわけで、特に視線の先にいた老婆は今にも転んでしまいそうなほどに足元がフラフラしていて危なっかしい。

 

「そこの君、お婆さんが困っているの見えないの?」

 

 静かな車内で女性の声は良く通り、周囲の注目を集め始める。

 優先席にドッカリと腰を下ろしたガタイの良い若い金髪の男。というか高校生。彼の真横にはフラフラしてるお婆さん。その隣にはOL風の女性が立っている。

 OL風の女性は金髪の男に優先席を譲るよう言っているらしい。

 

「実にクレイジーな質問だね、レディー」

 

 少年は怒りや無視、あるいは女性の言うことに素直に従うでもなく、ニヤリと笑って足を組みなおした。

 

「何故この私が、老婆に席を譲らなければならないんだい? どこにも理由はないが」

「君が座ってる席は優先席よ。お年寄りに席を譲るのは当然でしょう?」

「理解できないねぇ。優先席は優先席であって法的な義務はどこにも存在しない。この席を譲るか否か。それは今現在この席に座っている私が判断することなのだよ。若者だから席を譲る? 実にナンセンスな考えだ」

 

 それはどこまでも堂々とした態度だった。

 自分の行動に非など一片もなく、ただ相手の不見識を指摘してあげているかのような口ぶりで少年は語る

 

「私は健全な若者だ。確かに立つことに不自由は感じない。しかし、座っているときよりも体力を消耗することは確かだ。意味も無く無益なことをするつもりにはなれないねぇ。それとも、チップをくれるとでも言うのかな?」

「そ、それが目上の人に対する態度!?」

「目上? 君や老婆が私よりも長い人生を送っていることは一目瞭然だ。そこに疑問を挟む余地も無い。だが、目上とは立場が上の人間を指して用いる言葉だ。それに君にも問題がある。歳の差があるとしても生意気極まりない実にふてぶてしい態度ではないかな?」

 

(……強いッ!)

"それな"

 

「なっ……! あなたは高校生でしょう!? 大人の言うことは素直に聞きなさい!」

「も、もういいですから……」

 

 OLはムキになっているが、老婆はこれ以上騒ぎを大きくしたくないのか手振りでOLを宥めている。

 しかし彼女は高校生に侮辱されムカ着火ファイヤーと化しており、収まりがつかないらしい。

 

(さあぽん太郎。今こそ立ち上がる時です!!)

"え、このタイミングで?"

 

「どうやら君よりも老婆の方が物分かりが良いようだ。いやはや、まだまだ日本社会も捨てたものではないね。残りの余生を存分に謳歌したまえ」

 

 少年は無駄に爽やかなスマイルを決めると、イヤホンを耳につけ爆音で音楽を聴き始める。勇気を出し進言したOLは、悔しそうに歯を噛みしめていた。

 年下に半ば強引に言いくるめられた上、偉そうな態度は癪に触るだろう。それでも言い返さないのは、少年の言い分にも納得せざるを得なかったからだ。道徳的な問題を除いてしまえば、席を譲る義務は確かに存在しない。

 

「すみません……」

 

 OLは必死に涙を堪えながら、老婆へと小さな謝罪の言葉を口にしていた。

 

(さあぽん太郎!!今こそ大和男児(やまとおのこ)の矜持を示し、この場を収めて見せるのです!そして涙を湛える彼女にハンカチーフを差し出すのです!)

"ハンカチ切らしてるな……さっき顔拭いたタオルでいいか?"

(いいわけないでしょう)

 

 やれやれだぜ。

……悪霊に人道を説かれてから動いたみたいで癪だが、フラフラしてるお婆さんはこの席からさほど離れていない。さっさと席を譲るとしよう。

 

「あの……私も、お姉さんの言う通りだと思うな」

 

 すん……

 

(あ、こらぽん太郎!落ち着くんじゃありません!)

 

 思いがけない声があがり、出鼻を挫かれた俺は劇の第二幕が上るのを眺めていた。

 

 

 

 

 

 それから程なくしてバスが目的地に着くと、そこには天然石を連結加工した作りの門が待ち構えていた。

 

 東京都高度育成高等学校。

 

 日本政府が作り上げた、未来を支えていく若者を育成する、それを目的とした学校。今日から俺が通うことになる場所だ。

 この門を潜った瞬間、俺の高校生活が始まる。地元は遠く、誰も俺を知らない環境で新たなスタートを切ることができる。

 それは、ワクワクすることだった。

 

「……うし。行くか」

 

 制服を着た学生が一人、また一人と通り過ぎていくのに続いて……

 

「あ、ねぇ君!」

 

 学校へ向かう道を歩き出そうとしたそのとき、誰かに声をかけられた。

 振り向くとそこにいたのは、先ほど老婆に席を譲ってくれないかと乗客に呼びかけていた同じ高校の制服を着た少女。

 少女は俺が気づいたのをみると嬉しそうに笑い、トテトテと歩み寄ってきた。

 

「はい?」

「さっきはありがとうね!お婆さん嬉しかったと思う!」

 

……結局、俺はお婆さんに席を譲った。あの後この少女が金髪少年を説得しようとしたが馬耳東風。梨の礫だったので俺が席を立ちお婆さんを誘導した。お婆さんは感謝してくれたから充分元は取れたと思う。

 

「ううん、貴方に比べたら大したことしてないよ。他人の為にあんなに親身になれる人は中々いないと思うから……正直びっくりした」

 

 俺がそう言うと女の子は目をぱちくりさせた後、サッと顔が赤くなった。

 

「あはは、そんな褒めないでよ、もう」

 

 やたらモジモジしている。この子凄い可愛いから、これまでさぞかしチヤホヤされて褒められ慣れてると思ったのだが。おっぱい大きいし。

 

「バスに乗ってたってことは同じ一年生だよね。俺は本太郎(はじめたろう)。よろしくね」

「私は櫛田桔梗(くしだききょう)、これからよろしくね本君!」

 

 ペカーと光り輝く笑顔をみると、ええ子やなぁ……とほんわかする。

 

(ぽん太郎……ぽん太郎……)

"なんや"

(この子可愛いですね……)

"せやね"

(なのに……なんで……)

"うん?"

(ちっともドキドキしていないのですかァァーーーッ!?)

 

「!?」

 

 頭に鳴り響いた大声に思わずビクッてなった。

 

「え!?ど、どうしたの本君?なんか驚かせちゃった?」

「……いやすまない、櫛田さん。なんでもないんだ」

 

 心配そうに目を合わせてくる櫛田さんから顔を背けつつ、脳内の悪霊に心の中で返事をする。

 

"落ち着け悪霊。お前の声はデカ過ぎて頭に響く。俺の高校デビューを台無しにする気か"

(ーーハッ!?すみませんぽん太郎。つい……)

"……不本意だけど大分慣れたよ。昔に比べれば遥かにマシだ"

 

 それはそれとして……

 

「あの、やめ、櫛田さん、顔、近すぎ……」

 

 さっきから一生懸命顔を覗き込もうとする櫛田さんに声をかける。

 

「……あっ、ご、ごめんなさい。嫌だったよね」

「いや、恥ずかしくて……さっきのも、あの、眩しいというか、我に返ったというか、その……あんまり気にしないで……」

「…………」

 

 その後、モジモジする櫛田さんと一緒に登校した。

 悪霊はその仕様上、喋りが止まることがないので偶に心の中で相槌を打ちつつ櫛田さんとおしゃべりしながら一緒に歩いている。

 

(ぽん太郎ってモテますよね)

"急にどうした"

(まあ、ぽん太郎ってめちゃくちゃ顔良いですし、頭良いですし、運動できますし、優しいですからね)

"究極生命体じゃん俺"

(あ、ちょっとアホかもしれません)

"心配するな。男の子はバカな位がちょうどいいと、高田ちゃんが言っていた"

(誰ですか高田ちゃん)

 

「それにしても凄い偶然だよね。一緒のクラスなんて!」

 

 先程クラス表が張り出されている掲示板の前まで向かい、そこで同じクラスという偶然に喜びを分かち合い、一緒に教室に向かっていた。

 

「うん、俺この高校に知り合いいなくて1人ぼっちだから、友達になってくれたら嬉しい」

「もちろんだよ!後で連絡先交換して、よかったら放課後一緒に遊ぼう?」

「ありがとう櫛田さん。楽しみ」

 

(……だから疑問なんですけど、なんでぽん太郎ってこんなに可愛い女の子が一緒にいても全然ドキドキしないんですか?感情が筒抜けの私でも異性に対する下心を全く感じ取れないんですが。今も放課後一緒に遊ぶ約束したのに)

 

……あー、それは。

 

(容姿に感心してるのは本当ですし、性欲があるのは知ってますし…)

 

 何なら一緒に動画漁って感想言い合ってたもんな。

 

"まあ、大した理由じゃないよ"

 

「本君、これからよろしくね!」

 

"俺は誰にもなんにも期待してない。ただそれだけ"

 

 

 

 

 

 

「なぁあの子超可愛くね?」

「だよな。おっぱいでけー」

「一緒にいる男……まさか彼氏か!?」

「ねぇ、あの男子超かっこよくない!?」

「でも女の子といるよ……彼女かな?」

 

 入学初日から男女が楽しそうに話しながら一緒に登校してきて、しかもお互い美男美女。

 思春期の少年少女にとってこれほど話のネタになるものはない。

 2人でヒソヒソと騒めき立つ周りに首を傾げながら、廊下を通り過ぎ教室の扉を潜り中に入っていった。

 

「さて、と」

 

 本太郎は教室に入ると中をぐるりと見回し、自分の名前が書かれたプレートが置かれている席を探していた。

 教室の中を見る限り、登校している生徒は現在半分とちょっとくらいか。席の特定に手間はかかりそうになかった。

 大体は席について、一人で学校の資料を見たりボーっとしたりしているが、一部は前からの知り合いなのか、それとも既に仲良くなったのか世間話をしている様子。

 

「……?」

 

 そんな何気ない平和な光景に、浮かび上がる異物感。

 

「ああ、そこか」

 

 同時に自分の席を見つけたため、櫛田さんに挨拶をしてから席に移動した。そして荷物を置き、身体を伸ばしてから大きく欠伸をし、机に突っ伏した。

……本来なら教師が来るまで新しいクラスメイトとコミュニケーションでも取ろうと思っていた。

 体質上孤独は感じにくいが、孤高を気取る趣味もない。

 

"おい、悪霊"

(何ですかぽん太郎)

 

 でも気がついてしまった違和感は、スルーしてしまうには強すぎた。

 

"教室からこれまでの道、全部浚うぞ。手伝え"

(了解です!)

 

 

 

 

 




高度育成高等学校学生データベース

氏名 (はじめ)太郎(たろう)
クラス 1年D組
部活動 無所属
誕生日 7月7日

 ──評価──

学力 A+
知性 A
判断力 D
身体能力 A+
協調性 C

──面接官からのコメント──

入学試験において全科目満点と歴代最高得点を記録し、また非常に高い身体能力も併せ持つ、本校の歴史に於いても飛び抜けたポテンシャルを持つ優秀な生徒。そのため本来であればAクラスが妥当だが、中学時代に幻聴を訴え長期の入院をしていたこと。また現在も症状は落ち着いたが面接時集中力の欠ける場面が散見されたことから社会への適応力に不安が残るため、過酷な環境においてそのポテンシャルを腐らせず発揮していけるかどうか、様子見としてDクラスに配属とする。



《悪霊》

 ある時から《彼》の中で聞こえるようになった謎の声。悪霊呼ばわりされても否定しないことから定着した。《彼》が見たもの、聞いたことを完全に共有している。また感情に関しては余すことなく伝わるが、思ったことは意識しないと伝わらない。
 ……逆に《彼女》が思ったことは全て声として伝わってしまうため、《彼》はイメージに近い電波を垂れ流され一時期発狂しそうになっていた。
 それから《彼女》は深く考えず思ったことを口に出すことで思考を制御することに成功し、それにより《彼》の精神の負担は軽くなり社会復帰を果たした。

 (ちなみにぽん太郎は親しみを込めた渾名です!)
 "ええ……"
 
・瞬間記憶能力
カメラアイとも言われ、目で見た情報をそのまま記憶することができる能力。目から入った情報をそのままの状態で覚える。また記憶の干渉というものが起こらず、そのまま思い出せる。
 そのままの状態で記憶するので、忘れることができない。




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