ようこそ悪霊と逝く楽しい学校生活 作:ふにふら
今日、何度目かの服のチェックを行う。
今年流行のワンピ。髪は美容院に行ったばっかりだし、靴も新品。正直ポイントは痛かったけど、今日は大事な日。
出来るだけ客観的に見て、自分が最も可愛く見えるよう細心の注意を払った──これが自分に出来る精一杯。
「…………ふわ」
身嗜みを整え終わって少し心に余裕が出たのか、あくびが出てしまった。
普段から自分の容姿には気を配ってるけど、異性との"デート"は正真正銘生まれて初めて。昨日はあまりよく眠れなかった。
"ちょっと早すぎたかも"
待ち合わせは10時にケヤキモール。今は8時で大分余裕がある。
そう、今日は本くんと約束したデートの日だ。
名目としては中間テストの打ち上げ。でもそれが異性2人きりとくれば、誰が見てもデートだ。本くんはクラスメイトの反応を考えて人目につかない方が良いかと気を遣ってくれたけど、私から今日のプランを提案した。
優しくて──そして平等な、彼の天秤を傾ける為に。
「あ」
そういえば冷蔵庫に、本くんが勉強会のメンバーに「この間はごめんなさい。これお詫びです」と言って配っていたエナジードリンクが有るのを思い出した。
"あんまり、こういうのは飲んだことないんだけど……美味しいのかな?"
「キマる」というのはよく分からないけど、たぶん目が覚めるという事だと思う。だったらちょうど良いかも知れない。
あと、本くんが何度も合法である事を強調していてちょっと面白かったので、興味がある。
「どんな味なんだろ?」
プルタブを開け、何故か破城槌が書かれている缶にストローを刺した。
短い夜と長く続く雨に夏の香を感じるこの頃。今日という祝日を皆様いかがお過ごしでしょうか。
疲れた身体と心を休めるため、部屋のベッドと融合する勢いで脱力されているでしょうか。
はたまた梅雨に訪れた祝日の中でも、特に貴重な晴れの日を満喫するため外に出てリフレッシュする予定でしょうか。
暇な時間という贅沢品を最大限堪能する為に、如何にして肘に顎をつけるかという
因みに自分は──
「死にてぇ……」
(ぽん太郎!?)
外のベンチで黄昏ていた。
時は6月中旬、場所は高度育成高等学校の敷地にあるケヤキモール。その中にある噴水広場。
久々の晴れの祝日という事で、辺りには沢山の学生がいる。流石に入学式直後の浮ついた様な雰囲気は薄くなったが、それでも充分な活気だった。中には男女の組み合わせもちらほら。
……一応、俺もこれからそうなる予定ではあるが。
"前からの約束だけどさ……今の俺にそんな資格ある?控えめに言って最低じゃない?"
(いえ、あれは仕方ないと思いますけど……)
つい先日のことを思い出す。
疲れていたとはいえ──
(ほら、しゃんとするのですぽん太郎。これからデートする女の子に失礼ですよ!)
「……分かってる」
気合いを入れ直す為に頬を叩いた。
スパァァン!!と良い音がして広場にいた人達の注目が集まる……とても恥ずかしい。
(何やってるんですか……)
「あ、本くん!」
俯いていると、弾む様な声を掛けられた。
「櫛田さん、おはよ──」
声が聞こえた方を向くと、そこにはお洒落なワンピースを着た櫛田さんが少し息を切らせて立っていた。
初夏の爽やかさを感じる服はフィット感でボディラインを強調しており、呼吸の度たわわが揺れていた。
("すごく・・・大きいです・・・")
アホと感想が被った。
「おはよ!……なんか凄い音聞こえたけど大丈夫?ほっぺ赤いよ?」
「うん、大丈夫──ありがとうございます」
「?なんのお礼?」
立ち上がり両手を合わせて拝む俺を不思議そうに見ている櫛田さんだったが、すぐに眩しい程の笑顔に変わる。
「でも晴れてよかったね。私ずっと楽しみだったんだ!」
(とっても可愛いですっ!)
"それな"
言葉の通り普段よりハイテンションで、少しそわそわしている櫛田さんは可愛らしかった。
「俺も。最近は色々立て込んじゃったけど……まあ、今日は気楽に楽しもっか」
「うん!」
ていうか、思えば身内以外と休日に遊びに行くなんて初めてか。
(やっとぽん太郎にも春が……)
"残念ながら違う"
悪霊も分かっている筈だが、こいつは俺から喜びの感情が伝わるだけで嬉しいんだろう。
今日はデートと銘打ってはいるが、男女のあれこれは期待していない──これは彼女の心情と先日の醜態、かつより根本的な理由による結論だった。
"櫛田さんにそんなつもりないよ。そんなの一目瞭然……"
「というわけで本くん、はいっ!」
すっと差し出される片手。
「…………?」(困惑の眼差し)
「…………?」(一点の曇りもない眼差し)
え、この手をどうすれば?
「ほら、今日はデートなわけです」
まあ、一応たしかに。
「だから……手、繋ご?」
(◎△$♪×¥●&%#?!)
「 」
恥じらいながら片手を差し出す美少女が視界に映った瞬間、過去最大規模の万雷の喝采が脳内に反響しながら響き渡った。
「し、白目!?」
一瞬で半分くらい失神した俺に動揺する櫛田さん
"悪霊さん!?落ち着いーー"
(ひゃっほーーーーーっ!!! )
"駄目みたいですね"
自粛の呼び掛けに失敗。なお色んな意味でウイルスに感染したため頭がシャットダウンしますお疲れ様でした。
「……ちょっとごめん」
櫛田さんには悪いけど、少しだけベンチに座って呼吸を整えようとして
「やっぱり、嫌だったかな」
踏みとどまる。
「──なんてねっ!冗談だから気にしないで?」
笑顔であくまで軽い冗談だったと口にする櫛田さん。
「いや」
気合い入れろ自分。
今日という日を、俺は彼女に楽しんでほしくて企画した。それなのに悲しませてしまうのは本末転倒。今日は出来るだけ彼女のリクエストに応えるつもりだ。
「櫛田さん」
「?」
というかそれ以前に
「手を繋ぎましょう」
「──────」
「……ん、間違ったかな。手を繋ぎます……違うな、こうじゃない。手を、手を繋いでいただけませんか?手を繋いだら、どうなんです……?」
「──っ!」
「今日はよろしく、櫛田さん」
ここで応えないのは、男としてかっこ悪いだろう。
・服屋
「これ可愛いかも」
「あ、いいねそれ。試着してみたら?」
「あはは……でも値段が……」
「どれどれ……あっ」
「………………」
「………………」
「いずれAクラスに上がってやる……!」
「あ、本くんってそういう欲あったんだ」
・カフェ
「食べ放題とかないかな……」
「それが目当てなら、絶対入るお店間違えてるよ」
「いや、だって人生初デートでそんな店嫌だし」
「……私も」
「すみませーん。このふわふわパンケーキ5つ〜」
「あ、そこは普段通りなんだね」
・映画
「Zzz…」
「…………」つんつん
「…………」ビクッ
「…………」
「……むにゃ」
「……ふふ」
・ゲームセンター
「本くん、何かお勧めある?」
「パンチングマシーン」
「…………」びしびし
「いた、ちょっ、やめ」
「怒るよ本くん?」
「いや違うから!他意はないから!?」
「……ふーん」
・カラオケ
(密室、若い男女、何事も起きない筈もなく……!)
"起きません"
今日は色々周ったけど、櫛田さんも本当に楽しそうに笑ってくれてた……まあ悪くない感触だったのではないだろうか。俺も異性とのデートは初めてだから新鮮だったし、ゲームセンターでへっぴり腰の猫パンチする櫛田さん可愛かったし。
「大部屋に案内してくれたの、ラッキーだったね」
そして今日一日のデートの締めとして、櫛田さんが希望したのがここだった。空き部屋の都合だとかで、2人で使うにしては明らかに広い部屋に通されたのだが……
(でもぽん太郎。彼女明らかに好意ありませんか?)
"……違う、と思っていたのだけど"
櫛田さんの距離が近い。
大部屋なので座る席は幾らでもある。なのに俺の横に寄り添うように座る彼女の意図は──そういうことなのだろうか。
「櫛田さん?」
「……ちょっと休憩したいかな」
「そっか……そうだね。ちょっと休もうか」
「……うん」
少し沈黙。
お互いあまり寡黙な方ではないし、話す話題が尽きた訳でもない。
ただ、何となくそういう雰囲気だった。
"落ち着かないけど"
初夏に差し掛かり、また梅雨ということで外はジメジメしていた。だから汗をかいてしまうのは仕方ないんだが……
"良い匂い……"
微かな香水と、そこに混じる異性の匂い。
至近にある少し上気した可愛らしい顔立ちと、呼吸する度揺れる蠱惑的な膨らみ。そして脳裏に浮かぶ以前見た水着姿の艶めかしい肢体。
"──駄目だ"
「今日はありがとね。本くん」
不埒な想像を打ち消していると、突然お礼を言われた。
「俺も楽しかったから、お礼なんていいよ」
そもそも誘ったのはこっちだし、正直余計なお世話だったんじゃないかと思ってる。
「私がストレス溜めてるように見えたから、誘ってくれたんだよね?」
「まあ、はい」
見るからに。
「そっか」
そう言うと、櫛田さんは首を傾けて頭を此方の肩に預けてきた。
「……櫛田さん?」
「私、ストレスなんて溜めてないよ」
そしてポツリと呟く。
「勘違いだよ」
「……そっか」
硬いと呟きながら、ぐりぐりと頭を肩に押し付けている櫛田さん。
「でももしこれから、疲れて誰かに頼りたくなる時が来たらさ──力になるよ」
そう言うと櫛田さんのぐりぐりが止まり、こちらを見上げる目と目が合った。
「本当?」
強い視線だった。
「約束する」
「……じゃあ、堀北さんと私が仲良くなるの手伝って?」
なるほど、そう来たか。
「ごめん無理」
「…………………………」
「…………………………」
再び広がる沈黙。
「……なんで?」
「いや、だからやめといた方が良いって」
ぐりぐりされた。
櫛田視点
"……ハジメくんのバカ。唐変木。甲斐性なし"
お互いの体温が伝わりそうな至近距離で、最近流行りの歌を熱唱する男。力になると言った直後にお願いを断るなんて、一体どんな神経をしているのだろうか。
「どう!?」
「無駄に上手い」
「やったっ……無駄?」
というか初カラオケだと言っていた癖に、プロの女性アーティストの声と歌い方を完璧に模倣するのはどう考えても可笑しい。ハジメくんの後に続いて歌いたくない……そんなところも腹立たしい。
「次も歌っていいよ」
「……あの、さっきから2人いるのに1人カラオケなんだけど。寂しくなってきたんだけど」
「つーん」
「櫛田さん!?」
ハジメくんは変わらない。
優しくて、親切で、穏やかで、控えめで。
──今日はそんな彼の、それ以外が見たい。
「えい」
「!?」
ハジメくんの膝に頭を乗せてみた。
我ながらすっごく大胆だけど……驚愕しているハジメくんを見るのは、とっても気分が良かった。
「やっぱり、硬いね」
ズボン越しに感じるのは、ワイヤーを編み上げたようなしなやかで強靭な筋肉。女の私とは全然違う、圧倒的な膂力を秘めた肉体。
「……あの」
横倒しにしてテレビの方に向けていた視線を、身体ごと上に向ける。膝枕から見上げたハジメくんは、顔を赤くして目を瞑っていた。
「…………」
黙ってその顔を見上げる。
『本太郎』
1年生の女子で、たぶん彼を知らない人はいない。
曰くーー完璧超人
そのずば抜けて端正な顔と、学年一位と噂される優秀な頭脳、そして常識の埒外に存在する規格外の身体能力。1年生の女子が作っている男子の色々なランキング。そこで多くの一位を取っている、誰もが認める男子の頂点。
「……あの、櫛田さん」
そして誰にでも優しく、その才能を鼻にも掛けない姿勢の彼はそれはもうモテる。あまり交流がない他クラスにもファンがいるし、私も何度かハジメくんを紹介してほしいと頼まれた。
"でも、私は嫌い"
私が欲しくて仕方がなくて、でも諦めて、諦めきれなくて、今も必死に縋りついている物を──この男はきっと数え切れないほど持っている。
妬ましい筈で。気に食わない筈で。存在自体が気に入らない筈で。
「…………」
意外とシャイで、身を寄せるとすぐ赤面してしまう彼。
膝枕になった私の身体に触れないように、戸惑ったように遊ばせている左手……繊細な宝物に触れるように、大切な花に触れるように優しく、おずおずと此方の手を握ってくれた彼。
──嘘のない真っ直ぐな目で、力になると言ってくれた彼。
"今日の目標は、私に好意を持ってもらうこと"
ハジメくんは綾小路くんや、最近は平田くんともよく話しているし、須藤くんに対しては過保護なほど世話を焼いていた。他のクラスメイトに対してもフレンドリーで、最初は少し遠巻きだった周りとも関わり始めている。
──なにより、堀北さんとも。
「…………」もぞもぞ
堀北さんの変化は誤算だった。彼女は入学当初から孤立していたし、私が見たところそれは筋金入りで、早々直るものではないと思っていた。だけど最近の堀北さんは少しずつ、少しずつではあるがクラスに認められ始めている。
私は、それが怖い。
「……はあ」
怖い。
怖くてたまらない。
「…………」
新天地で私はワタシになり、新しいスタートを切るつもりだった。
──だから、バスの中で堀北さんを見た時は目の前が真っ暗になったような気分だったけど。私は諦めたくなくて、私の理想のワタシとして振る舞った。
それは上手くいって、堀北さんは相変わらず孤立していて……全ては上手くいっていたのに。
「…………」もぞもぞ
先程から微かに身じろぎをしているこの男のせいで、少しずつ何かが変わり始めている。
……少し痛い。
「あのハジメくん。ちょっと痛い」
そう言うとハジメくんの動きがぴたっと止まった。
「ーー!」
だから、彼が堀北さんと関わる度に気が気じゃなかった。もし彼女がハジメくんと親しくなって、私の秘密を話してしまったら。
『櫛田さんは凄いよ。俺は、君を尊敬する』
──だが、そんな彼が
彼は誰に対しても公平には見えるけど……そこに男女の情が混じればどうだろうか。
見上げる先で、なんだかあわあわし始めている整った顔立ちを見ながら想像してみる。
「……ん」
それは……どうだろう。
私は今のところ、男の子とのお付き合いは考えていなかった。しがらみが増えるし、それが人気がある相手なら同性からのやっかみもある。だから今日はデートをしている姿を周りに見せて、その反応を確認するという目的もあった。
──手を繋いだのは、今思うとやりすぎだったかもしれない。
「あの櫛田さん」
「どうしたの、ハジメくん」
何故か慌てた様子で早口なハジメくん。
「このままだと大変なことになるので速やかに退いてください」
……大変なこと?
「なにそれ?」
「いやもう一刻の猶予もないというかなんでこんな柔らかくていい匂いでいきなり膝枕とか、あ、ああああ」
ものすごく動揺している。
普段はいつでも落ち着いていて、頼りになって、ちょっとした反応が可愛い彼。そんな彼がこちらの行動でこんなに慌てている。
──なんだかすっごく楽しい。
「ハジメくんなら簡単に退かせるでしょ?」
須藤くんみたいなスポーツマンもあっさりお姫様抱っこしてダッシュしていたのだから、私なんて簡単に動かせるだろうに。
「こっちから触れるのはなんか怖くなったし!それ以前にそんな気軽に女の子の身体に触れられないよ!?」
……須藤くんの一件がトラウマになったのだろうか。
あと、こう言ってはなんだけど。
「ハジメくんって、結構ヘタレだよね」
「…………」
ぽろっと溢れた本音にハジメくんの動きがフリーズした。
"あ、言っちゃった"
どうも、今日は自制が利かない気がする。
「……あのさ。何考えてるの?」
そんな事を思っていると、ハジメくんがこれまで見たことのない……据わったような目でこちらを見下ろしてくる。
「こんな監視カメラもない個室で。2人きりで。いきなり膝枕なんかしてきて……外では手繋ごうなんて言ってくるし……分かったよ。その挑発、乗ってあげる」
所在なさげに彷徨っていた手が動いて、そっとこちらの顎に添えられた。
「────ッ」
背筋の痺れのような感覚がむず痒くて、顔を逸らそうとした。
「逃げるな」
手つきはあくまで優しく。
ただその厳しい声で動きを止められた。
「ん。良い子」
そう言うと、ハジメくんの顔がこちらにグッと近づく。
"え、うそ、えっ、ええええ!?"
──私の頭の中は滅茶滅茶だった。
先程まであった、何故か何でも出来そうな万能感が消し飛んだ。
"確かに好意をとは思ったけど!わた、わたしここまでするつもりじゃなくて、だって、堀北さんは優先されて、わたしはやっぱり勝てなくって、ハジメくんなら、って思って"
信じたくて、でも信じられなくて。
確かめたくて、自信がなくて。
ハジメくんが尊敬していると言ったワタシなんて、どこにもいない。それが惨めで……だから彼にも嘘があると思いたかったのだ。
初めて会った時から……優しくなくて、自分勝手で、相手を見下す一面がある彼を探していた。
人の嘘が分かる私には、簡単なことで。
「──ほら。こんな風に襲われたらどうするの?」
でも見つからなかった。
「受け売りだけどさ。そういうのは本当に大事な相手にするものなんだって」
冗談だよ、と言いながら近づいた顔を離すハジメくん。
「櫛田さん本当可愛いから。そういう勘違いさせるようなことは、しない方がいいと思う……いつか出来る大切な人のために取っておこうよ」
「────」
あー緊張したと呟いている彼。
……そしてそんな彼を呆然と見上げる私。
「ほら、そろそろ本当に不味いから退きたまえ。あと吾輩お腹空いてきたから何か注文したいのだ」
「…………」
何頼もうかな〜などと言いながら、私の頭上でフードメニューを広げる男。
「櫛田さんも何か食べる?」
なるほど、よく分かった。
つまり私なんて眼中にないと。そういうことか。
──それなら私にも考えがある。
「ねえハジメくん」
「……どうしたの?」
一見平然としている彼だが
「気が付かないとでも思ってる?」
「……………………何のことでしょう」
よく見ると手が小刻みに揺れている。
額に汗をかいているし、目は高速で泳いでいる。
「…………」ぐりぐり
「ッ」
最初は気のせいだと思っていた。
だが、私の頭頂部に当たる
ハジメくんが必死にズラそうとしていた
「…………」ずりずり
「ちょっやめ!?」
隠せないように仰向けからうつ伏せに体勢を入れ替える。当然ハジメくんは抵抗したがるが、力ずくには及ばないことを確認済み。
「これ……」
そしてついに目にしたそれは──
「すごく・・・大きいです・・・」
ズボンのファスナーを突き破らんばかりの威容。
そのあまりの迫力に、何処かで見たようなフレーズが飛び出してしまう。
私も服越しとはいえ……その、男の子の、これを見るのは初めてなわけで。当然とても恥ずかしいのだけれど──
「見ないで……」
「…………」
自分より遥かに恥ずかしがっている人がいると落ち着く……それにしても
「……櫛田さん?」
ハジメくんが私を異性として意識しているのは、目の前の光景を見れば一目瞭然だ。そういう意味では最低限の目標は達成出来たといえる。
──だが最低限でいいのだろうか。ここまで来たら、寧ろ最高点を目指すべきではなかろうか。
「なんか不穏な気配を感じるんだけど!?」
一度は消えかけた根拠のない万能感が再び蘇る私
VS
身の危険を察知して慌てるハジメくん
「カーン」
「何その鐘の音!何が始まったの!?」
顔を埋めようとする私と必死かつ慎重にそれを押し留める彼の攻防がスタートした。
「いやおかしいおかしいおかしい!!!朝から少しおかしいとは思ってたけどこれは絶対変だから!正気に戻って櫛田さん!?」
失礼な男だ。
……私は単に、身体から始まる関係もあると以前読んだ漫画を思い出しただけだ。
「目が、目が逝ってる!?いったい何が……」
その時ハジメくんの鼻が、スンと動いた気がした。
「……ちょっと失礼」
そのまま顔が近づいて、ふんふんと此方の匂いを嗅いでいる。
「変態」
まさかハジメくんにそんな性的嗜好があったなんて……でも、うん。人間誰しも人に言えないことあるもんね。
「いや違うから。その全てを受け入れるような目はやめて」
「……分かった!じゃあ2人だけの秘密ね!」
「真実にされた!?……まあいいや。それより櫛田さん、前あげたエナジードリンク覚えてる?」
私にとって1番の武器は、人との繋がりだ。
そこで得た情報は私にとっての宝物で、しかもそれがハジメくんの秘密となれば計り知れないほどの価値がある。
「覚えてるよ〜。というか今日飲んだよ」
思わぬ収穫に上機嫌で返事すると、ハジメくんが恐る恐る質問してきた。
「……ちなみに何本?」
「2本!」
ピースサインを向ける。
……1本飲んでみたら何だか気分が良くなって、2本目を空けてしまったのだ。ハジメくんがくれたのは2本だったけど、3本あったらそちらにも手を出してしまったかもしれない。
「……ご」
「?」
「合法堕ちだこれーー!?」
……合法堕ち?
another episode
ー⑤ー
『ライオットブラッド』
ぽん太郎が路地裏の自販機で見つけた最近お気に入りのエナジードリンク。イラストの破城槌が目印。通常のエナジードリンクがキマる位だとしたら、これはガンギマる。24時間以内に五本以上の摂取を何故か固く禁じてあるが、法的には何本飲んだ所で規制されるわけではない。 しかしながら一日に三本以上の摂取を敢行した場合、高確率でライオットブラッドの熱心な重篤ヘビーユーザーになる。初回服用時に人体改造後の万能感じみた何かを感じさせるその余りの効力から度々国から査察が入るし、民間でも盛んに「これ絶対法に触れる何かが混ぜられているだろ」と調査がされているが驚くべきことに違法薬品や法に触れるような量のカフェインは含まれていない。つまり合法。因みに本くんは薬ぶ──ではなくエナドリ耐性が桁外れに高い為注意書きは冗談だと思っていた。けど思い出した。
出典:シャングリラ・フロンティア~クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす~
以下詳細
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