ようこそ悪霊と逝く楽しい学校生活   作:ふにふら

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(はじめ)くん、よかったらこの後一緒に遊びに行かない?」

 

 お堅い学校と言っても、入学式はどこも同じようなもの。偉い人のありがたいお言葉を頂戴し無事に終了した。

 そして昼前。俺たちは一通り敷地内の説明を受けた後、解散となった。

 7、8割の生徒はその足で寮へと入っていく。残りは早くもグループを作っていて、カフェに向かう者や、カラオケに向かう猛者もいる。喧騒はあっと言う間に過ぎ去っていく。

 

「誘ってくれてありがと。でも今日はいろいろ用意しなきゃいけないものが多いから、ごめんね」

(ううう……学生時代の思い出……寄り道、デート、お食事……私にはない青春時代をおくってください……)

”毒電波送るのやめろ。悲しくなってくる”

 

 櫛田さんと連絡先を交換した俺は、遊びの誘いを断って校内を散策していた。

 

"それに嘘はついてないから。明日茶柱先生に質問するのなら今日必要になるものは多いし"

(ああ、監視カメラ(・・・・・)の場所でも見て回ってるんですか?)

 

 教室だけで3台(・・)。それが初めて教室を見回した時に覚えた違和感の正体だった。

 

"確かにあれは異常だけど"

 

 しかも目立たないよう配置して学校の資料にすら全く記載がないのなら防犯カメラですらない。隠し撮りされているなら、それを利用するにせよ防犯のためにせよ、今後カメラの死角は把握しておいて損はないだろう。

 

"でも違う。そんなの後でいい。"

(ええ!?)

 

 何やら悪霊が驚いているが当たり前だろ。そもそも今は見られて困るようなことをするつもりはないので必要ない。

 

(じゃあなんで上級生のクラスまで見に行ったんですか。特に用はないですよね?)

 

 今日は新入生以外の学年は休みらしく先輩方は見当たらなかったが、代わりに2、3年生の教室を覗いていた。先輩に話を聞けないのは残念だったが、それでも収穫はあった。

 

"俺が今日帰る前に見たかったのは、上級生のクラスと食堂だけだよ。他も余裕があれば見て周りたかったけど……"

 

ぐるるーーとお腹が鳴る。

 

「もう限界。タイムリミット。お腹減った」

(あちゃー)

 

 今日は食堂も購買もやってなかったし、いい加減お腹が減ってきた。持参したチョコ菓子を食べ、水筒を呷ってごまかしていたが流石に厳しい。食堂の券売機に書いてあった0ポイントの山菜定食には興味があったのだが…

 

"収穫はあったよ。とりあえず昼はコンビニで、夜はスーパーで買い物かな。流石にずっと外食は厳しいし"

(ぽん太郎、いっぱい食べますもんね)

 

 

 そして荷物を持って校門を潜り、それにしてもお腹減ったと考えつつ学園の施設案内に沿って歩き、たどり着いた寮の近くにあるコンビニの前で真っ先に目に入ったのは……

 

「一年だからって舐めてんじゃねえ、あぁ!?」

 

 店の前で手に持った食べかけのカップ麺を地面に叩きつけ、汁と麺を散乱させながら3人組の男子生徒に食ってかかる須藤くんだった。

 

"……………………"

(うわぁ)

 

「二年の俺たちに対して随分な口のききようだなぁオイ。ここに荷物置いてんだろ?」

 

 ポン、と今荷物を置く2年の先輩。そしてげらげらと笑いだす。

 

「はい俺たちの荷物がここにはありました。だからどけ」

 

「いい度胸じゃねえか、くそが」

 

 須藤くんは人数差に怯まず食ってかかっている。今にも殴り合いが始まりそうな様相だ。

 

"………………………………"

(あの、ぽん太郎?大丈夫ですか?)

 

「おー怖い。お前クラスは何だよ。なんてな。当ててやろうか? Dクラスだろ?」

「だったらなんだってんだ!」

 

 須藤くんがそう答えた途端、上級生全員が一斉に顔を見合わせ、一瞬の間の後、ドッと笑う。

 

「聞いたか? Dクラスだってよ。やっぱりな! お里が知れるってもんだよなぁ」

「あ? そりゃどういう意味だよオイ」

 

 食ってかかる須藤くんだったが、逆に男たちはニヤニヤと一歩後退した。

 

「可哀想なお前ら『不良品』に今日だけはココを譲ってやるよ。行こうぜ」

「逃げんのかオラ!」

「吠えてろ吠えてろ。どうせすぐ、お前らは地獄を見るんだからよ」

 

"ーーーー"

(ぽん太郎、もうちょっとだけだから、頑張って。それか無視してさっと横を通り過ぎちゃいましょう?)

 

「…………ああ、そうだな。そうだ」

 

 2年生達が動き始める。それに合わせて扉に近づく。

 

 はやくいこう

 

「あーーーー!クソがぁッッ!!!」

 

 けたたましい音がして、目の前にコンビニのゴミ箱が蹴り転がされた。

 

「女といい2年といい、うぜぇ連中ばっかりだぜッ」

 

 そして中から散乱したゴミが靴にあたる。

 

「あ?なんだお前。なんか文句あんのかオラ!」

 

 掴つかみかかる勢いで吠え

 

「こっち向けよ!ぶっ飛ばすぞ!」

 

更に近づき、強い眼差しで覗き込むモノを見て

 

──何かが軋む音がした。

 

 

 

 

綾小路視点

 

 須藤のカップラーメンの代金を立て替え、先程からのやりとりを眺めていたオレは目の前の光景に呆れていた。

 

"おいおい、本当に須藤は沸点が低いな"

 

 さっきのレジのやり取りといい、堀北との会話といい、幾らなんでも須藤にはキレるまでの前触れが無さすぎる。

 複数の上級生に「邪魔だから失せろ」も喧嘩になるに決まってるし、そして今は通りがかった男子生徒に自分から因縁をつけている。

 

"可哀想に……本太郎(はじめたろう)だったよな"

 

 今日見たクラスメイトの中で一際目立っていた生徒だ。平田も爽やかなイケメンで見るからにモテそうな雰囲気だったが、彼の場合はそれに比べても容姿がずば抜けている。

 黒髪、黒い瞳、浅黒い肌、すらりとした長身。そして妙に色気のある非常に整った顔立ちにクラスの女子達はざわめいていた。

 そんな彼だったが、きっと他の生徒のように昼食をコンビニで済まそうとしたのだろう。そして入り口近くで機嫌の悪い須藤に絡まれてしまったわけだ。

 

「…………」

 

 今は視線を下げ無言で立ち尽くしている。体格は優れているがオレのような事なかれ主義か、はたまた気は強くないのか。

 なんにせよ新しいクラスメイトだし、自己紹介を見た限り彼は話しやすい部類に見えた。須藤がクラスメイトだと気がついているか自信はないが、機嫌が悪くて引っ込みがつかなくなっているかもしれない。

 友人になれるかもしれないし、ここは俺が仲裁しよう。

 

「おい、落ち着けってーー」

 

 その時、ギギギと軋るような音が聴こえた。

 

"……今のは?"

 

 あまり聴いたことのない種類の音だった。

 強いて言えば錆びついた蝶番をこじ開けるような、もしくは鎖が千切れるような音。

 

「……あ?」

 

 須藤も不思議に思ったのか、辺りを見回していたが何もない。

 

「確か、須藤くんだったよね」

 

 ぽんっと音がして須藤の肩に手が置かれた。

 

「お互い落ち着こう、須藤くん。俺は君のクラスメイトの本太郎(はじめたろう)。自己紹介したんだけど、覚えてないかな?」

 

 顔を上げて、穏やかな口調で話しかけてきた彼は薄らと微笑んでいた。

 そこには怒りや恐怖といった負の感情は見受けられない。

 

「……ああ、見覚えあるな、お前」

 

 須藤の声が少しだけ落ち着いたものに変わるが──

 

「チッ、おい気安く触んな。手ぇはなせ」

 

 彼の事が気に入らないのか、振り払おうとする。

 

「ーーーーあん?」

 

 動かなかった。

 

「須藤くん。何があったか知らないけど、お店の物を蹴り飛ばすなんてしちゃダメだよ。入り口にラーメンぶち撒けちゃってるし、これじゃあ他の生徒も通れない。すぐそこに監視カメラもある。この学校の厳しさはまだ分からないから、お店に連絡されたら、場合によっては停学とかになるかもしれない」

 

 彼は見る限り肩に手を置いているだけだし、力んでいる様子もない。ただ須藤の目を見て真摯に語りかけているだけに見える。

 

 それなのに

 

「俺も手伝うから、片付けよう」

 

 ぞわり──と背中に粟立つような感覚が走った。

 

「ーー!いいから離せよっ!オラァ!!!」

 

 バチン、と音がして体を捻るようにしながら須藤が彼から離れた。

 

「いたた……」

 

彼は弾かれた手をぷらぷら振っていたが、それを無視して須藤は去っていった。

 

"気のせい……か?"

 

 どこにも不穏な様子は見受けられないその様子を見て、先程の悪寒に疑問を抱く。

 

「あれ、君は……」

 

 そこで彼はこちらに気がついた様子で話しかけてきた。まあ、俺は今まで部外者のような立ち位置にいたし、彼も須藤に絡まれていてそれどころじゃなかっただろう。

 

「ああ、声かけるのが遅くなって悪かったな。オレはーー」

 

 誰からも注目はされない上に、記憶にも残らない、そんな最低の自己紹介を決めてしまったオレはたぶん彼に覚えられていないだろう。2度目となる憂鬱な挨拶をしようとして──

 

綾小路清隆(あやのこうじきよたか)くんだよね、同じクラスの。俺は本太郎(はじめたろう)、改めてよろしくね」

 

 そこからは最高だった。

 

 苦笑いしたハジメ(こう呼んでくれといわれた。ぽん太郎と呼ぶのだけは勘弁してくれと言われ、思わずオレも呼び捨てにしてくれと言えた自分を褒めてあげたい。下の名前で呼ばれた時は嬉しいような、気恥ずかしいような不思議な気分になった)と一緒にコンビニ前で倒れたゴミ箱を戻して散らかってしまった周りを片付けて、そのまま流れでコンビニで買った昼ご飯を一緒した。

 

"もうこれ、友達と言っていいんじゃないか……?"

 

 俺がこの学校に来て話をしたのは堀北、須藤の2名だ。

 しかし、堀北は会話していて不思議と居心地は悪くないが、辛辣で全く会話が弾まないし友人を名乗れるのは相当先の話だろう。

 須藤も嫌いではないが、彼は直情的過ぎてクラスでも問題を起こしやすいだろう。事なかれ主義のオレとしてはトラブルに関わるのは遠慮したいところだ。

 

 その点、ハジメは完璧だった。

 性格は明るく、会話にもユーモアがあり聞いているだけで楽しかったし、こちらを尊重してくれてるのが伝わってくるがよそよそしさは全く感じなかった。

 学校の帰りに友人とおしゃべりしながら一緒にご飯を食べる。自己紹介でのやらかしはあったが、これはオレがイメージしていた高校生活の青春像に近い。

 

「明日が楽しみだな……」

 

 ハジメは食事の後、どうしても1人で周りたい場所があると言って去っていったが連絡先は交換したし、明日の昼も一緒に食べないかと誘ってくれた。

 

「しかし、目立ちそうだな」

 

 ハジメは見るからにクラスの女子に人気が出そうだし、今日も帰りに遊びに誘われていた。ひょっとしたら明日はハジメが他の生徒に昼ご飯を誘われて女子に囲まれるかもしれないが、オレは突然降ってきたこの蜘蛛の糸を手放す気はなかった。

 彼目当ての女子には悪いが、拒まれない限り参加させて貰うつもりだ。

……食事中のあの光景は一見の価値があるため、食堂でそれがどのように発揮されるのか正直興味があるのも否定できない。

 

「それに──異性も青春には付きものだからな」

 

 隣の席の堀北をはじめ、このクラスは美人や可愛い女子が多いように感じた。今まで異性の目など気にしたことはなかったが、興味自体はある。

今後の学校生活に想いを馳せつつ、オレは学生寮に向かっていた。

 

 午後2時を回る頃、オレは今日から自分の家となる寮へと帰り着いた。

 1階フロントの管理人から401と書かれたカードキーと、寮でのルールが書かれたマニュアルを受け取り、エレベーターに乗り込む。渡されたマニュアルに目を通すと、ゴミ出しの日や時間、騒音には気を付けること。水の使い過ぎや無駄な電気の使用を控えることなど、生活の基本の事柄ばかりが記載されていた。

 

「電気代やガス代も、基本的に制限はないのか……」

 

 てっきり、ポイントの中から支出するものだとばかり思っていた。

 本当にこの学校は生徒のために、あらゆる手を尽くし万全の体制を築いている。

 男女共用の寮になっていることにも少し驚いた。さすがに高校生にそぐわない恋愛をしてはいけないと書かれてあるが。要は表向きエッチはご法度ってことだ。……当たり前か。聖職者が不純異性交遊やりまくってオッケーなんて言うはずがない。

 しかしこんな楽な暮らしで、本当に立派な大人に育成出来るのかは甚だ疑問だが、生徒側としては、喜んで今の状況を利用させてもらった方がいい。

 僅か八畳ほどの1ルーム。けど、今日からここはオレだけの家だ。学校の寮とはいえ、初めての一人暮らし。卒業するまでの間、外部との連絡を一切断って生活することになる。

 その状況にオレは思わず笑みがこぼれてしまった。

 この学校は高い就職率を誇り、その施設や待遇も他校の追随を許さない日本屈指の高校。

 でも、オレにとってそんなものは些細なことだ。この学校を選んだ唯一にして最大の理由。中学時代の友人であれ、肉親であれ、許可なく在校生と接触することは出来ない。

 

 それが──どれだけありがたいことか。

 

 この学校に受かる前は、正直どっちでもいいと思っていた。

 合格でも不合格でも、些細な違いでしかないと思っていた。

 だけど、やっと実感が湧いてくる。オレはこの学校に受かって良かったんだ、と。

 もう誰の目も、言葉も、オレに届くことは無い。

 やり直せる……いや、新しく始めることが出来るのだ。人生を。

 とりあえず、目立たずそこそこに楽しく学生ライフを満喫していくと誓おう。

 制服のまま、整えられたベッドにダイブする。だが、眠気が襲ってくるどころか、わくわくする状況に気持ちが落ち着かず目が冴えていくのだった。

 

 

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