(公式より引用)
「ふう……! 今日も存分に戦ったでござるな」
「ようやく休憩できるわね! ここの宿屋、衛兵の詰所を兼ねてるせいか、ちょっと男臭いのが玉に瑕だけど……」
時の暗闇から世界を守って、しばらくした頃。アルドたちは古代、パルシファル宮殿の近くにやってきた。
サイラスとエイミの声は、しかし考え事をしていたアルドには聞こえなかった。
「む……? どうしたでござるか、アルド?」
「ああ、いや……少しだけ、寄っていきたい場所があるんだ。先に宮殿で休んでてくれ。すぐに戻るからさ」
「ハッ……!? 怪しいデス、アルドさん!」
ハッとして返事をすると、リィカが訝しむ。
「禁断のシークレット・デート……逢引の匂いがプンプンしマス!」
「ゴシップの読みすぎよ、リィカ。アルドみたいな朴念仁にそんな器用な真似できっこないでしょ?」
「……確かにその通りデス。失礼しまシタ、アルドさん……」
「それも十分失礼だけど……まあいいか……」
よく言われることだから慣れてはきたが、こんなことを言われてやはり良い気分ではない。
「では、お言葉に甘えるでござるよ。アルドも無理せぬようにでござる」
サイラスが空気を読んでくれたことに感謝しつつ、やはりアルドは彼のことを考えてしまう。
アルドが姿を借りている人。時の暗闇で独り絶望を味わっていたご主人様、エデン。
彼のことを考えるなら、やはりあの場所しかない。
砕けた四大精霊の慣れ果てが降る地、コリンダの原しか。
「さてさて……それじゃ、ひとっ走りするか」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……やっぱり、何度きても綺麗なところだな。オレの時代だと月影の森の辺りか。雰囲気が近いから落ち着くのかな……?」
コリンダの原。精霊の慣れ果てが降る場所。プリズマ鉱石の産出される月影の森と、雰囲気が似ている。
「あれっ? 先客なんて珍しいなぁ。どうしたの、アルドくん。こんなところで?」
考え事をしにここに来るときはいつも一人なのだが、今日は違った。
旅の仲間である、魔法剣士のシェイネがいた。
「急に話しかけちゃってごめんね。邪魔しちゃったかな?」
「そんなことないって。でも、ここで誰かと会うなんて思ってもみなかったよ」
「そっか。それならよかった。ねえ、隣いいかな?」
「ああ、もちろん」
「じゃあ、お邪魔して……っと。
さて、アルドくん……なにか、思い詰めてる感じだね。溜め込んでることがあるならお姉さんに吐き出してごらん?」
と、いきなり直球で質問された。アルドとしてはあまり顔に出さないようにしていたつもりなのだが、共に戦う間柄だ。わかる人には、すぐ分かってしまう。
「まあ、確かにここに来るのは考えごとをしたいときだけど……」
「ふふっ……わかるな、その感じ。
私もね……ここにいると、四大精霊の懐に抱かれてるような感じがして、安心できるから」
「四大精霊か……そうだな。
……オレはここにいると、ある人のことを近くに感じられる気がするんだ」
「ある人か……。それって、アルドくんの大切な人?」
「ああ……今は会えないけど、すごく大切な人なんだ。
オレ、その人のこと救けたいんだ。そのためなら何だってしたいと思ってる。だけど、救けるための方法がわからなくて……」
この前だって、時の暗闇で出会ったエデンはもう手遅れで、世界を救うためには倒してしまうしかなかった。
彼の未来を殺してしまうしか、なかった。
「……ねえ、名前はなんて言うの?
その、アルドくんが助けなくちゃいけない人……」
「……エデン」
「そっか……。見つかるといいね。エデンくんを助ける方法。
でも、どうしてここに来るとその人のこと近くに感じられるの?」
尋ねられて、説明に困った。アルド自身、それがどういったものかよく分かっていないからだ。
「それは……ええと、エデンの身体の中にはここに降ってる四大精霊の欠片に近いものが入ってるっていうか……
……だからなのかな。ここではエデンが側にいる気がするんだ。そんなわけ……ないんだけどな。
……エデンを救けたい。だけど……他の人たちのことも手の届く限り救けたいって思う。エデンのことだけ考えることはやっぱりできなくて……
遠回りばかりで、いつエデンに辿り着けるのかもわからない。不安になることだってある。
だけど、ここに来ると自分の気持ちを見つめ直せるんだ。どんなに手探りでも……いつか、絶対にエデンを救け出す。その覚悟は変わらないって
だから好きなんだ。この場所のことが、きっと」
口に出しながら、改めて自分の気持ちを振り返る。
エデンを、みんなを助ける。どっちも諦められない。……だからこそ、前に進むしかないんだ。
「……そっか。もっと聞かせてくれる? アルドくんの大切な人のこと……」
「ああ。エデンは……」
そういえば、シェイネや、旅の仲間にこんな風に説明することはこれまでなかったな、とふと考えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
……楽園は失われた。
私は取り返しのつかない罪を背負ったのだろう。
……だが、後悔はない。
救うべきものを救い、殺すべきものを殺す……私は自らの意思で選択したのだから。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
西の地、ゲヴュルツ教会本部、救世主像前。
「……司教様は仰っていた。この像の前で私を拾ったと……」
言いかけて、訂正する。たとえそう変わりないことでも、あからさまな誇張表現でも、司教様が仰っていたという点では事実だから。
「……いえ、違うわね。まるでこの像に寄り添うかのごとく……幼い私が舞い降りてきたのだと」
誇張も脚色もあるだろう言葉。けれど、それでも真に私が翼持つ子……翼持つ者の器なのだとしたら。
「神よ……剣持つ救世主よ。どうか、お応えください。あなたの遺したもう恵みが今まさに潰えんとしているこの地に……僅かな恵みの残滓すらも失い、あなたが舞い降りる以前の荒れ野へ戻りゆかんとするこの極西の大地に、どうか再び救いの手を……」
……なんて、祈ったところで届くわけもない。分かっている。我らが神は、内なる大海におわすのだから。
定期報告も終わったことだし、また中央大陸で布教と奉仕活動に勤しまなくては。
いつものように定期報告を終え、救世主像に祈りを捧げて、中央大陸での任務に戻る。今回もそのはずだった。
けれど、救世主像から離れようとした時、不意に光が差し込んだ。
「この光は……何? まさか……いえ、そんな……」
直後、激しい衝撃がやってきて、救世主像は崩れていた。
「きゅっ! きゅきゅっ!!」
「うそ……人!?」
ノアの鳴き声で、救世主像の瓦礫の中に人が倒れていることに気づいた。
「あなた……しっかりして!」
「うッ……うう……
ここ……は……?」
「ダメよ、急に動いては。あちこちぼろぼろだわ……」
「ううん……この声……どこかで……」
動かないように注意すると、その人は私を見て非常に驚いた表情になった。
そして、私の名前を――メリナとつぶやいた。
「えっ……? どこかで会ったかしら……?」
「……。……いや、そうだね。なにせ遠い昔のこと……忘れてしまっていても無理からぬことだ」
「ちょっと待って……いきなり何を言ってるの? まるで昔の私のことを知ってるような……」
あり得ない……ことではないだろう。なぜなら、私自身、司教様に拾われる以前の記憶はないのだから。
「昔のメリナ……か。ふふっ、そうだね。私はクラルテ。君の……うッ!?」
「クラルテ……!? やっぱりどこか怪我を……!?」
「違うんだ……声が……」
声? と聞き直したタイミングで、部屋に人が入ってきた。
熱血神父のプライと、異端審問官のロゼッタだ。
「先程の轟音はなんであるか!?」
「プライ……それにロゼッタまで!」
「げっ! メリナ殿!? ああ、いや失礼
……ぬうっ!? なぜ剣持つ救世主の像が木っ端微塵に……!?」
「ふふ……♪ もしかしてそちらの方が壊されたのですか? 事と次第によっては審問室までお連れしなくてはなりませんねぇ」
「待ちなさい、二人とも。……クラルテ。声というのはこの二人の声のこと?」
「いいや、そうじゃない……これは……私を呼んでいる……?」
そう言ってクラルテは一人部屋を出ていく。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「待ちなさい、クラルテ……!」
不思議な声のする方へ向かっていると、メリナが追ってきた。
「……ああ、メリナ。ありがとう、来てくれたんだね」
「別にあなたのために来たわけじゃ……」
「ふふ……それはいいんだ。そんなことより……
この中から私を呼ぶ声がする。救けを求めているようでね」
「救け……? この中から……?」
「これは結晶塔に通じる扉だが……」
「結晶塔……?」
プライの言った言葉について聞き返すと、どうやらかつてこの大陸に舞い降りた神がもたらした恵みを今なお与える場所らしい。
そして、この結晶塔に入るための扉は塔守という一族にしか開くことができないとのことだ。
けれど、この術式なら、私が知っている。問題なく解けるだろう。
「なんと……」
「扉が……開いた……!?」
「よかった……これで先に進めるね」
「あらあら……? これはちょっと驚きました。クラルテさん、塔守の一族のかただったのですか?」
「いや、塔守などという言葉は聞いたこともないよ」
「ええ、あり得ませんよね。当代塔守のご尊顔はもちろん私も存じていますし、……それ以外の一族はみな鬼籍に入ったと聞いています」
「では、クラルテ殿はいったい……?」
「さぁて、どうなんでしょう。でも、これはチャンスですねぇ♪
ふふっ、気が変わっちゃいました♪ クラルテさんの聞いた声を抜きにしても、恵みの供給が目減りしているのは覆しようのない事実なんです。……この機を逃したら、二度と結晶塔への踏み込み調査なんてできないかもしれませんからねぇ」
「……そうね。ロゼッタの言う通りよ。私の使命は、この不毛なる西の地を救済することよ。神の恵みの減少……その原因が確かめられる機会をふいにするわけにはいかないわ。
たとえそれが……私の教会での地位を危うくする行いであったとしても」
「……くうう! わかりました! このプライ、お供しましょう! 年長者として見て見ぬふりを決め込むわけにはまいりません!」
「……だそうよ。3人ほど一緒してもいいかしら?」
「ははっ……構わないよ。仲間は多いに越したことはない」
――この時は、知らなかった。
塔の上で待ち受ける未来を……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
結晶塔の頂。そこに、声の主がいた。
魔術により拘束され、力を搾り取られる形で。
「そうか……私の救けを求めていたのは君だったんだね」
「これは、なんなの?」
「神の恵みを受け取るはずの神聖な場所にはあまり似つかわしくありませんねぇ」
驚く三人の様子を見て、合点がいった。
「信じられないかもしれないけど……これが君たちの神だよ」
「そんなことおっしゃっては、いよいよあなたを異端として告発しなくてはいけませんねぇ」
「そうよ……! 私たちの神がこんな所にいるはずがないわ。彼の者は内なる大海に……だから私たちは血眼になってその場所を探してるのよ」
「そうですぞ! それにこのような有様……まるで拘束されて無理矢理に力を吸い取られているようではないか!」
「……信じるか信じないかは君たちに任せるよ」
三人を諭し、それに向かう。
「さぞ辛かったろうね……。いま解放してあげよう」
「そうは問屋が卸さない……ってね」
そして、私は思いっきり吹き飛ばされた。これは……。
そこには、涼し気な顔で立つ一人の男がいた。
「ふう……相変わらず汚れ仕事は心に堪えるね。特別手当でも出なくちゃ割に合わないよ……まったく」
「塔守……!? いえ、ヨハン……!!」
「貴様……自分がいったい何をしたのかわかっているのか!?」
「生憎とよくわかってるのさ。先代から耳にタコができるくらい聞かされたからねえ……」
「これではまるでクラルテ殿の言うことを認めたようではないか!」
「ああ、その通り。彼の言うことはほぼ事実だよ。『あれ』は神の恵みを産むものさ。僕は神と思ったことはないけどね」
「……どうやら、あなたに対する遠慮だけはいらないようね。覚悟なさ……」
そして、3人が戦闘隊形に入った瞬間。
「覚悟かぁ。そんなことに時間を割いたらもったいないよ」
魔法一撃。たった一撃で三人を倒してしまった。
中央大陸では奉仕部隊として時に強大な魔物と戦うこともある、三人を。
「ば、馬鹿な……一瞬で我ら全員を……」
「そりゃ一瞬だからできたに決まってるだろう? 見ての通り君たちのほうが圧倒的に頭数が多い。ひとりひとりの魔力、体力、気力……どれも僕より高いだろうからね。
ああ……ひとつだけ僕に軍配がことがあるか。
……人を手にかけた数さ。数は躊躇いを殺してくれる。それだけで僕が勝つには十分さ」
そう言って、ヨハンは笑う。さもありなんとでも言うかのように、至極真っ当なことだと言うように。
「頂の有り様を見られたんだ。生きて返すわけにはいかないよ。翼持つ子も、断罪の申し子も……これに関しちゃ例外はない」
エルの鎖とは、誤算だった。私の罪に対する罰がこれならば甘んじて受け入れよう。
だが、私のせいでメリナを……その仲間を巻き込んだ。無辜の彼女たちを巻き添えにするわけにはいかない!
私に残されている力には限りがある……それでも……!
「さてと、これで邪魔はいなくなった。ゆっくり聞かせてもらおうか。エルの鎖が効いたってことは、その腕にある鎖も同じものだろう?」
ヨハンの言葉が耳に入ってくる。しかし私は力を使う。この惨劇を回避するために。
「ってことは……必然、塔の扉を開いたのもおたくか。
なぜそんなものに繋がれていたのか。はたまたどうやって千切ったのか。僕に知ったことじゃないが……
……待て、何をしている!?」
躊躇いなく魔法を使うヨハン。
私はここで死ぬだろう。だが……。
……どうか、届いておくれ。みなを救けるため……に……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ちょっと、クラルテ!
いきなり黙りこくってどうしたのよ。結晶塔に入るんでしょう?」
メリナの声で、意識を取り戻した。
今は、結晶塔に入る前……時間が戻っている。
どうにか力が届いたようだ。
いたずらに彼女たちを巻き込むわけにはいかない。
あの塔守……ヨハンという男は誰かを守りながら戦えるほど隙のある相手ではなかった。
私ひとりで救けにいかなくては。彼女たちの神を……結晶塔の頂へ。
「……慎重にいきたいんだ。誰かに見られでもしたら事だろう?」
なんて言うと、メリナの傍らにいた青い兎、ノアが何かを察知した。
「ノアの示す方へ行ってみよう。誰かいるのかもしれない。……兎は耳がいいからね」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
何度、繰り返しただろうか。
幸いにも彼らを必要とする事情があり、みんなを引き離すことが可能だった。
しかし、闇雲に引き離そうとすれば勘づかれ、悲劇が繰り返されてしまう。
その度に力を使い、同じ時を繰り返した。
そして今、私は一人結晶塔の頂にいる。
いや、もう一人いたか。誰あろう、塔守ヨハンその人なのだが。
「……なぜ、結晶塔の扉が君に反応して開いたか……。可能性は二つしかない。
ひとつはおたくが僕ら一族の生まれであること……。この可能性はゼロだ。一族は僕しかいないんだから。どこかの代で隠し子でもこさえてたら別だけどねぇ」
さすがにないか、と笑うヨハン。
彼は、気付いている。私が何者であるかを。
「さてさて、だとすれば2つ目の可能性が有力だけど……
いやぁ、それは考えたくないね。でも考えたくないってことは、そっちが正解なんだろうなぁ。
僕の代になってからこっち、厄介ごとには事欠かないんだ。これも神様の思し召しってやつかねぇ」
「……彼を、解放するつもりは?」
「ないよ、もちろん。君もここでジ・エンドだ」
当然の答え。で、あるならば。
「ならば、ここは君の死に場所になる」
そして繰り広げられる戦い。
私には一撃で致命傷のエルの鎖は、力を使い回避する。
そして焦るヨハンを倒し……。
「いま、救ける。苦しかったね……。もう大丈夫」
救けを求める者に向き合った、直後。
エルの鎖が飛んできた。
そのまま、私は結晶塔から墜落し……。
まもなく、この肉体は生命活動を停止する。
最初に救おうと思った相手は、ついぞ救えなかったけれど……自分で巻き込んだ者たちは、どうにか因果から解放できたようだ。
ふふ、とんだ災難だった。やはり、これは復讐なのだろうか?
この手で失くした楽園の……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さて……と。銀髪くんと接触した可能性のある人物を全員集めてもらうとするか。
記憶の抹消も大事なお務めさ。
あ〜あ、汚れ仕事だねぇ。やっぱり特別手当でも出なきゃやってられないよなぁ」
塔守ヨハンは若干心を痛めながら、それでも軽い口調で呟くのだった。
特別手当でも出なきゃやってられないような、汚れ仕事でも。教会のためにはなくてはならない仕事だと。