生徒会長スペシャルウィークちゃん!   作:天宮雛葵

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スペシャルウィークは出発する

 

アグネスデジタルさん

 

今日

 

既読

21:58

デジタルさん

起きてますか?

 

お疲れ様ですっ!起きてますよ!21:59

 

既読

22:00

夜中にごめんなさい。

出発する前に一度話したかったの

と、謝っておきたくて

 

へ?22:00

 

謝るって何をですか?22:00

 

既読

22:02

安田記念の時に襲われてしまって

ダートダービーもすぐなのに屋内

での練習になったって聞きました

いろいろ迷惑掛けちゃったなって

 

いえいえいえいえ!22:02

 

大変だったのはスペ先輩もです!22:03

 

だって結局、あのとき狙われたの

はたまたまあたしを襲うのが都合

が良かったからですから。スペ先

輩が勝っても誰が勝っても襲われ

ていたそうです

22:03

 

だからスペ先輩のせいではないで

すよ!

22:03

 

既読

22:04

ありがとうございます。デジタル

さんは優しいですね

 

スペ先輩ってもうフランスへ行っ

ちゃうんですよね……?

22:05

 

既読

22:06

はい

明日の飛行機で新千歳から直接

 

新千歳から直行便ですか!?

たしか新千歳からはフランス直行

ってなかった気がしますけど……

22:06

 

既読

22:07

あ、違います違います!

ヘルシンキで乗り継いでいくこと

になったので、結構大変そうです

 

それにしてもチームまるごとだと

本当に大変そうですね……

22:08

 

既読

22:09

ベルノさんは今からパスポート申

請だったりで大変そうですが、実

のところ私はあんまり……

 

既読

22:09

初めての海外なので、結構楽しみ

だったりします。

 

既読

22:10

でも、大変なのはデジタルさんも

ですよね

 

既読

22:10

聞きました。スピカから独立する

ことになったって

 

あーはい。22:10

 

でもトレーナーは今回の事がなく

ても最初からそうするつもりだっ

たみたいです

22:11

 

だから気にしないでください。22:11

 

それに、また新しいウマ娘ちゃん

を迎えて手取り足取り腰取り頑張

れるのはいいかなって思ってるん

です

22:12

 

既読

22:12

えっ

腰……?

 

まぁまぁまぁ、でもやっと戻れる

目処が立ちましたから大丈夫です

よ!

22:13

 

既読

22:13

あ、それは本当に、本当によかっ

たです!

 

はい、どうも襲ってきた人、ヤの

つく自由業の人に脅されてたみた

いで、それをつかんだ警察が裏賭

博場をいくつか摘発したらしいん

です

22:14

 

どうやら私たちのレースでいろい

ろ賭けてたみたいで

22:14

 

既読

22:14

なるほど

そうだったんですね……

 

原因がわかったのと、警備体制の

立て直しが終わったから戻るぞっ

てトレーナーが

22:15

 

既読

22:15

あんまり詳しくないのに口を出す

のもおかしいんですけど、それっ

て戻っても大丈夫なんですか?

 

こちらのトレーナーさんが言うに

は、少なくとも学園サイドなら大

丈夫らしいです。URAはあまり信

用してなさそうなんですけど

22:16

 

たづなさんが掲示板のブラフを流

したとかあったらしいですけどあ

たしはあんまり教えてもらってな

いんですよね。

22:17

 

カノープスのトレーナーさんにも

連絡とってたり、いろいろしてた

みたいなんですけどね……

でもずっと隔離ってわけにもいか

ないのもあって、最低限の安全が

確保できたら戻るぞって

22:18

 

既読

22:18

これでデジタルさんの隔離生活も

終わりなんですね

 

やっとですよー

この一週間ずっとトレーナー寮の

一室でカンヅメでしたから……夏

の原稿が一気に進んだのはいいん

ですが、そもそもあたしが現場に

入れるかの交渉がスーパーハード

モードなんで、今からトレーナー

さんとミッション・インポッシブ

らないといけないようです

22:20

 

既読

22:20

原稿とはかあまりわかってないで

すけど、やっぱり迷惑かけてたみ

たいで、本当にごめんなさい

 

ですからスペ先輩のせいではない

ですって!

それに、トレーナーさんもトレー

ナーさんです!

金沢まで来たのにウマ娘ちゃんた

ちとの交流も許されないって酷だ

と思いませんか!?

22:21

 

既読

22:22

えっと……?

そうですね……?

 

でも明日はご褒美で金沢のウマ娘

ちゃんたちと走っていいって言わ

れましたし、この不肖デジタル、

張り切りますぞー!

22:23

 

既読

22:23

デジタルさんは夜でも本当に元気

ですね

 

オタクのゴールデンタイムは夜で

すから!

22:24

 

……あと、スペ先輩。わたくしめ

の事はさん付けじゃなくて、デジ

タルと呼び捨ていただいてかまい

ませんよ?

22:25

 

というより、スペ先輩に敬語かつ

さん付けされるのは恐れ多いとい

うかなんというか……

22:25

 

既読

22:26

えっと、じゃあデジタルちゃんで

いい?

 

はい! ありがとうございます!22:26

 

既読

22:27

なら、私のこともスペちゃんって

呼んでくれていいよ?

 

いえいえいえいえいえ!22:27

 

そんな恐れ多い!22:27

 

私が私に解釈違いをしそうです!22:28

 

 

 


 

 

「デジタルちゃん、面白いなぁ……」

 

 ベッドに横になってスマートフォンを眺めていたスペシャルウィークの耳にノックの音が響く。

 

「スペ、起きていますか?」

「はい! 今開けます!」

 

 そう言いつつ、ガチャリとすぐドアを開ければ、どこか不機嫌そうなトレーナー……陽室琥珀が立っていた。

 

「スペ、海外ではそのように慌ててドアを開けないようにしなさい。しっかりドアスコープを確認してからでなければ危ないですよ。防犯意識を上げていくように」

「は、はい……! 気をつけます」

「よろしい。では少しお邪魔しますよ」

 

 後ろ手で雑にドアを閉めつつ、ずかずかと部屋に入り込む陽室。帯広から新千歳空港はかなり距離があるため、今日は札幌で宿を取っている。個室なのは海外に渡ればまたすぐに相部屋になるため、気を遣ってのことらしい。

 

「海外向けの荷造りはちゃんと終わっていますね。大変結構」

「えへへ、なんだか気が急いてしまって……」

「初めての海外ともなれば誰しもそうなるものです。私も昔はそうでした」

「えっ……?」

 

 思わず漏れた声に慌てて口を手で隠したスペシャルウィーク。

 

「なんですか、スペ。私にも幼少期というものがあったのですよ」

「なんというか、想像がつかないというか……」

「私とて最初からプロフェッショナルというわけではありません。そも、貴女と私では精々5歳か6歳しか年齢は違わないということを忘れられている気がしてなりませんね」

 

 そう言いつつ、ベッドに腰掛けた陽室がすっと薄く笑みを浮かべた。スペシャルウィークも、狭い机とセットになった椅子に腰掛ける。

 

「ところで、改めて聞かねばならないと考えていたのですが」

「はい」

「……ミス・アグネスデジタルに勝つために、貴女はどこまでできますか?」

 

 そう問われ、スぺシャルウィークは一瞬視線が落ちた。

 

「どこまでも……なんて言ったら、トレーナーさんは笑いますか?」

「いいえ」

 

 陽室は即答する。その声はいつもと同じトーンで、フラットだ。

 

「私はスペのそういった傲慢なところが気に入ったからこそ、貴女と組むと決めたのですよ。それを笑ってどうするのですか」

 

 おどけたように陽室はそう言うが、スペシャルウィークの視線は上がらない。それを見て、陽室は小さく溜息を吐いた。

 

「しかし、スペにも距離適性があるように、ミス・アグネスデジタルにも距離適性があります。マイルでミスに勝つことは、この先、常に分の悪い勝負になるでしょう」

「でもトレーナーさんは、私がマイルで走ることを許してくれました」

 

 スペシャルウィークの視線が上がる。

 

「ええ、貴女がそれを望みましたから。だからこそ、私は問わねばならないのです。どこまで、どのように戦うおつもりですか。マイルでもこれまで同様に強さを追い求めるのもよし、ミスを中距離や長距離に引きずり出すもよしです」

「私は……日本一のウマ娘になると誓いました」

 

 スペシャルウィークはそう言ってまっすぐと陽室を見つめる。

 

「だから、私はデジタルちゃんに勝ちたいと思います。彼女の距離である、マイルで」

「それまで退くつもりはない、と?」

「はい」

 

 その答えに、今度は長い溜息を吐く陽室。

 

「貴女は本当に不器用ですね、スペ。勝つだけならば色々とあるでしょうに、真正面からミス・アグネスデジタルの交戦距離(レンジ)に飛び込むのは、少々骨が折れますよ。……少なくとも、ミスにとって貴女の渇望とは追い抜かせる程度のものでしかなかった」

「え?」

「自己暗示に頼らせすぎた私にも当然責任はあります。しかし今の貴女は、どうやら本気の出し方それ自体を忘れてしまったように見えてなりません」

 

 腕を組んだ陽室。その言葉の先をスペシャルウィークは待った。

 

「レースは勝つか負けるかの真剣勝負です。誰しもが本気になります。これまでは、スペが後方から追い抜こうとする気迫だけで大半のウマ娘が道を空けてくれていましたが、ミス・アグネスデジタルはそうもいきません。貴女が本気の渇望を抱いてはおらず、また貴女の気迫が決して殺意に通ずるものではないという事実を、ミスは本心から信じ切っていました。貴女の威圧を真っ向から受けてなおです。であれば、一度追い抜いただけで易々と諦めてくれないのもまた道理でしょう」

「……私の頑張りが、足りてなかったんでしょうか?」

「いいえ、スペ。いいえ。努力の問題でも、準備不足でも、ましてや天運でもありません。ただ、あの場で勝ちたいという執念を、渇望を、ミスの方が強く持っていたのです。貴女のプレッシャーが演じられたイミテーションでしかないと見抜けるほどに、その感情は強かった」

 

 スペシャルウィークは言葉を発しようとしては飲み込むのを何度か繰り返した。彼女が結局口を閉ざしたのを見て、陽室は続ける。

 

「ミスター・佐久間とミス・アグネスデジタルの勝利を、あの会見の場では私も『作戦勝ち』と評しましたし、実際に世間もそう捉えているでしょう。あるいは当人たちですら、半分そう考えているかもしれません。ですが、終わってみればあっけないものです。これは貴女を()()して言いますが、振り返ってみれば、我々は負けるべくして負け、屈辱的な完敗を喫しました」

「それ、は……」

「貴女が強すぎた弊害でしょうね。本気の出し方を忘れてしまっても、確かに無理のないことです。ですがこうして敗北した以上、ここから先はそのまま進むわけにいかないのですよ。……ミス・アグネスデジタルをマイルで地に墜とすという渇望を貴女が自覚する以上、貴女はミスを汚す覚悟をもしなければならない。これまでの貴女が数多のウマ娘を覚悟なく地に墜とし、また覚悟なく墜とされた、先送りにしていたその事実を今ここで見つめなければならない」

 

 陽室は静かな瞳でスペシャルウィークを見つめ、立ち上がる。椅子に腰掛けたままのスペシャルウィークの前までゆっくりと歩いた。

 

「ミス・スペシャルウィーク。貴女の傲慢さは紛れもない強みですが、その個性は同時に自分以外の全てを低く見くびる悪癖にも繋がるものです。クラシック三冠。GI七冠。皇帝を超え、怪物を超えるもの。……名声を積み重ねた貴女の首は重いですよ。誰しもがその首を取りに、死に物狂いで挑んできます。ですから、これからも勝つと決めた以上は覚悟を決めなさい。これまでの温い渇望に浸っていては、こちらが喰われることになる。なにも、ミス・アグネスデジタルに限った話ではありません」

 

 そう言ってスペを見下ろす陽室。スペシャルウィークはその瞳をまっすぐ見つめ返した。

 

「……私は、いつでも本気でしたよ」

「そうですね、貴女がそう信じていたことを私も願っています。だとしても、これからは今まで以上に本気で向き合わねばならないのですよ。レースにも、ウマ娘にも、夢にも、あらゆる全てに対して」

 

 陽室は部屋を出る方向に歩いていく。ドアを開ける前に立ち止まり────

 

「ふむ。今の貴女に、何かアドバイスをするならば」

 

 ────小さな声で呟いた。

 

「女神を殺すように、彼女を殺しなさい」

 

 陽室はそう言い残して部屋を出て、()()()間違いなくドアを閉め切る。彼女は少し歩いてから、廊下に立つ人影の前で足を止めた。

 

「盗み聞きも淑女の嗜みとは知りませんでしたよ、マックイーン」

「こんばんは、トレーナーさん」

 

 部屋からギリギリ死角になる場所に立っていたメジロマックイーンがにこやかに笑う。横にはぼったくり価格の小さな自販機が鎮座し、その蛍光灯が彼女の笑みを照らしていた。

 

「少々お行儀が悪かったのは自覚しておりますわ。それでも、気になってしまったもので」

「私が個室のドアを閉め切らないだろうと考えて、わざわざここで待っていたと?」

「トレーナーさんは私の視線に気づいておられました。それでもなおスペシャルウィークさんの部屋に向かわれたので、そういうことだろうと受け取ったのですが……」

「眼が良すぎるのも考えものですね。それで、貴女が気になっていたことは解決しましたか?」

「いいえ。……あそこまで、スペシャルウィークさんを追い詰める必要があったのでしょうか」

 

 そう問われた陽室は、どこかつまらなさそうに笑いながら自販機に紙幣を差し込む。水を買ってメジロマックイーンに投げ渡すと、もう1本自分用に買い、封を切った。

 

「……遅すぎたほどですよ。スペには温いだのなんだのと散々言いましたが、私こそ温すぎました。勝って当然だと思っていた。こんなところで負けるはずがないと思っていた。まさか、ミス・アグネスデジタルに差し切られるなどとは考えもしなかった」

 

 そう言って水を一口飲み、すっと目を細める。

 

「スペの『絶対』を妄信した末路がこれです。だから言ったのに、とベルノには叱られそうですね。貴女も叱るか笑うかしてくれて構わないのですよ、マックイーン。その方がいくらか楽です」

「……トレーナーさん」

「以前、とあるウマ娘に『あなたは間違えている』と真正面から言われたことがありました。半年の時が経ち、その言葉がある意味で証明されたわけです。……どのような物事であっても、本気すぎるとメリットよりもデメリットの方が優りがち。だからこそ気高すぎる本気は必要ない、命懸けで取り組むということ自体がナンセンスなのだと、そう考えていたのですがね」

「そうだったのですか?」

 

 メジロマックイーンが虚を突かれたような声でそう言った。

 

「てっきり私は、トレーナーさんこそ命懸けで物事に取り組むような方だと思っていたのですが」

「冗談が上手いですね、マックイーン。この道楽トレーナーを見てそのようなことが言えるとは」

「……不躾は承知でお伺いしますが、トレーナーさん。貴女は、かつて命懸けで夢に挑んだのではありませんか。だからこそ、今なおウマ娘(私たち)にその夢を懸けているのではありませんか」

「マックイーン、明日の朝は早いです。もう睡眠を摂るには良い時間ですよ」

「トレーナーさん。先送りにしていた事実を見つめ直すのは、今ではないのですか?」

 

 メジロマックイーンの言葉に陽室は苦笑を浮かべた。彼女が表に出す普段の表情とは違い、それは全く取り繕うことなく出てきた表情であるように感じられた。

 

「叱っても構わないとは言いましたが、ここまで的確に叱られては立つ背がありませんね。……私の経験からスペの指導方針を定めたのは大きなミスでした。ウマ娘は想いを背負って走るのだと認識していたにもかかわらず、スペが特にそういった傾向を強く見せていたにもかかわらず、私は過去の挫折から無意識の保身に走り、スペにもその道を歩ませてしまった」

「……その挫折について、お聞きすることは許されますか」

「話すこと自体は構いませんが、実にありふれた話でしかないですよ。銀幕の頂点に上り詰めるのだと豪語していた少女が、埋めようのない身体能力の違いを前にその意志を折ってしまったというだけですから」

 

 ウマ娘は、たとえ本格化が過ぎ去った後でもヒトとは比べ物にならない身体能力をその身に秘めたままであり続ける。映画俳優という職業にあって、身体能力がずば抜けて優れているという事実がもたらす恩恵はどれほどのものか。

 

「『あらゆる』俳優の頂点に立つのだという夢は、私がヒトに生まれた時点で叶うことのないものでした。今思えば、演技派俳優というジャンルで見れば私も良い線を行っていたとは思いますし、一言に映画俳優と言ってもそう簡単に括れるものではないのですが……当時の私にとって、自分がどうしても追い越せないライバルがいるということを突きつけられた事実はあまりにも重かった。無垢な夢を砕かれた少女は急に仕事の全てがつまらなくなって、逃げるようにその世界から去っていった」

 

 ありふれた話でしょう、と陽室は最後に付け加えて、水をもう一度口に含んだ。

 

「感傷的になると自分語りをしたくなってしまっていけませんね。重要なのは、過去の経験から私が夢に対する退避路を準備してしまっていたということです。もしも上手くいかなかったらどうするのか。その段に至ったとき、よく回る口で言い訳を作るための逃げ道。それを作れないことこそが、本気すぎることのデメリットであると」

「本気で夢に向かって走り、それが叶わなかったという事実を正面から受け止めることは困難だと仰りたいのですか?」

 

 メジロマックイーンの言葉に陽室は頷きだけを返した。

 

「結局のところ、私はスペのことを信じきれていなかった。彼女が勝利するのは当然だと考えておきながら、同時に彼女が敗北したときの言い訳も用意していたのですからね。その矛盾に気づけなかったのは愚かというほかありません」

「……完璧主義が過ぎますわね、トレーナーさんは。目標の99%を達成しても、1%が上手くいかなければ失敗でしかないと感じてしまうタイプなのではありませんか」

「自覚はあります。それが悪癖であるということまで併せて」

「では、陽室琥珀が育てたスペシャルウィークは失敗作なのですか?」

 

 教え子にそう問われ、陽室はくすりと笑う。

 

「まさか、口が裂けてもそのようなことは言えませんよ。スペの走りは私の思想を変えてくれました。次は私がスペの進む道を整える番です。このようなところで止まってはいられません」

「その通りですわね、止まっていては差し切られますから。……トレーナーさんにもうひとつだけ。私たちの夢だけではなく、覚悟をどうか信じてくださいまし。スペシャルウィークさんも、ベルノライトさんも、そして私も、一度の挫折で諦める程度の渇望を宿してはいません。それはトレーナーさんが一番よくご存知のはずです」

「まったく、本当に手厳しいですね。ですが貴女の言う通りです。……だからこそ、我々は経験を積まねばならない。この夏は海外の猛者たちの胸を借りることとします。スペなりの死に物狂いが吉と出るか凶と出るか、賭けましょう」

 

 ヘルシンキ行きの飛行機が出発するまで、既に12時間を切っていた。





『スペシャルウィークは望まない』。
『アグネスデジタルは優勝したい』。

 違いはそれまで。

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