生徒会長スペシャルウィークちゃん!   作:天宮雛葵

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陽室琥珀は確証がほしい

陽室さん

 

既読

13:22

そういう経緯で、取材の申し込み

を受けたんですが……

どうしましょうか?

 

なるほど。状況は理解しました13:22

 

では貴女から見て、ミス・オベイ

ユアマスターは信頼できますか?

13:23

 

その点がクリアされていれば取材

の件も吝かではありませんよ

13:23

 

既読

13:24

信頼できる人だと思います。元々

競走ウマ娘として走っていた人で

すし、なんというか、真摯な方だ

なって印象を受けたので

 

大変結構、その判断を尊重します13:25

 

具体的な日程は後程詰めることと

しましょう。ミスとの連絡手段を

確保しておいてください

13:26

 

既読

13:28

いいんですか?

月刊トゥインクル以外からの取材

はずっと断ってましたよね

 

既読

13:28

あ、信頼できそう人なのは間違い

ないですけど!

 

どのみち海外メディアからの取材

は避けて通れません。であればこ

ちらが選べるうちに選ぶべきです

13:29

 

記者が貴女の知己かつ仏メディア

ではなく英メディア所属であるの

も好ましいと言えます。レース開

催国では色眼鏡で見られることに

なりがちなので

13:31

 

既読

13:32

わかりました!

しっかり伝えておきますね

 

ロンシャン賞当日の入場証につい

ても、どのみち余らせているので

問題ありません

13:33

 

その旨も併せて今伝えてもらって

結構です

13:33

 

 

 


 

 

「というわけで、トレーナーさんから諸々の承諾が取れました!」

「Thank you, ベルノライト! 話が早くて助かるよ」

 

 サンドイッチ店を出たふたりは、レース場から離れてドーヴィルの街並みを巡っていた。

 

 フランスの高級避暑地であるドーヴィルは、夏に近づくほど賑やかになり、華やかになっていく。それはレースの世界でも同じことで、フランスクーリエの開催する夏のレースといえばすなわちドーヴィルレース場で開催されるものだ。それはつまり、この時期のドーヴィルレース場には様々な意味で『人目が多い』ことも意味している。

 

 だから内緒話にはむしろ街中の方がいい、というのがオベイユアマスターの言葉だった。

 

「じゃあ……教えてもらえますか?」

「いいよ、どっちからにしようか」

「スペちゃんが軽んじられてる理由からでお願いします」

 

 オベイユアマスターが言うところの特ダネについて気にならないと言えば嘘になるが、まずは目先の疑問を解決することからだ。

 

 ベルノライトの言葉にオベイユアマスターは頷いて、口元に指を当てる。

 

「なんというか、いくつか理由はあると思うんだけど……たぶん一番大きいのは、ジャパンのウマ娘がヨーロッパで全然勝ててないってこと。ジャパンから来た、もっと言うとヨーロッパの外から来た時点でナメられてるんだと思う。ステイツから来たウマ娘も同じような扱いだし、それがアラブでもオセアニアでもたぶん変わらないかな」

「それは……そうなのかな、とは思ってました。でも、去年にはシーキングザパールさんやタイキシャトルさんがフランスでGIを勝ってますし、ゴールドシップさんが本場のエプソムダービーを勝ったときなんてすごく話題になったじゃないですか。それからエルちゃん……エルコンドルパサーさんだってイスパーン賞で2着、サンクルー大賞は優勝したのに……」

「でもそれって、これまでの長い歴史の積み重ねがある中で、片手の指で数えられるくらいしかヨーロッパの国際GIを勝ってない、とも言えるでしょ? 確かにその子たちの実力はヨーロッパのウマ娘も認めてると思うけど、逆に言えばまだ彼女たちのことしか認めてない。彼女たちが例外だったんだ、ってヨーロッパのウマ娘は()()考えてるよ」

 

 例外。そう言われて、ベルノライトはどこか納得の感情を抱いた。

 

 唐突な話だが、海外のウマ娘が日本の国際GIを勝つことは稀だ。そもそも挑戦するウマ娘自体が少ないし、国際招待競走と銘打たれているようなレースでもここ2年か3年で一気に海外ウマ娘の参戦が減っているのだ。その主たる理由は当然言うまでもなく、長らくスターウマ娘の不在に頭を抱えていたトゥインクル・シリーズがその揺り戻しをもろに受けた結果として生まれた、数多の綺羅星たちである。

 

 ミスターシービーの三冠達成に始まり、シンボリルドルフの長き専制時代、それを打ち砕くオグリキャップ世代やナリタブライアン世代。さらにサイレンススズカを筆頭とする新時代組、その翌年にはスペシャルウィークを始めとする黄金世代。それに続く年次となると今年のクラシック期になるが、それこそアグネスデジタルを筆頭に未来の名ウマ娘たちが好き放題している。なんならメイクデビューすら終わっていないような世代にも、メジロマックイーンのような優駿の雛がちらほらと見え始めている。

 

 日本のレースは賞金が高い。より正確に言えば、レース産業の発展促進や海外ウマ娘に対する遠征誘致を目的として賞金額が高まっていったという歴史がある。しかしその高額賞金を以てしてもなお、国内ウマ娘による魔境と化した日本の国際GIに遠征で挑戦しに来るような者は数えられる程度に減りつつあった。

 

 そして、ベルノライトの隣にはその例外が歩いている。それも挑戦するだけではない、勝ってしまった例外中の例外。そう取り立てて語る必要もないような話だ。つまり、海外ウマ娘が日本で勝てば例外と認識されるならば、その逆が起こっていても何ら不思議ではない。

 

 思えば、ベルノライトやオベイユアマスターの世代こそが──すなわちそれはオグリキャップの世代を意味するが──日本の国際GIに海外から遠征してまで挑む旨味がギリギリのところで保たれていた、最後の世代だったのだろう。

 

 そこまで思考を巡らせてから、ベルノライトは自身の脳裏に浮かんだ疑問をぶつける。

 

「でも、スペちゃんには揺るがない戦績があります。これまでヨーロッパで一度も走ってこなかったとしても、国際GIをどれだけ勝ったのか知るだけで侮れないウマ娘なのはすぐにわかるんじゃないですか?」

「そうだね。だから、ここからは今のヨーロッパウマ娘が抱えがちな悪い癖の話になるかな」

 

 オベイユアマスターは呆れ顔を見せながら続ける。

 

「距離の長いレースを重要視しなくなったのがひとつめ。その副産物で、クラシックレースの名誉が前よりずっと軽くなったのがふたつめ。ヨーロッパでのそういう評価基準に合ってる戦績で、誰からも文句が出ないくらい強いモンジューが現役なこと自体がみっつめ、って感じ」

「……モンジューさんの影響が大きいのはわかります。日本にとってのスペちゃんがヨーロッパにとってのモンジューさん、そういうことですよね」

「まあそんな感じだね。ただ、ヨーロッパのレースを最終目標にしてることが多いジャパンのウマ娘に対して、ヨーロッパのウマ娘はジャパンのレースへ進んで遠征しようとはしない。芝が違いすぎて結局勝てないのはどっちも同じだけど、ヨーロッパはジャパンのレースにそこまで飢えてない。あくまで傾向だけどね」

 

 結局のところ、欧州のレースは他のレースよりも格上という意識が欧州の方にも日本の方にもあるのだろう。その固定観念を覆すのは並大抵のことではないし、事実レーティングによってもある程度証明されている。これに関してはベルノライトも予想はしていたし、こうして裏が取れたことは収穫だ。

 

 故に彼女の注目は、むしろオベイユアマスターが挙げた理由の前者に対して向けられた。

 

「ですよね。……私としては、ヨーロッパでクラシックレースや長距離レースが重要視されてないっていうのが結構びっくりなんですけど、本当なんですか?」

「ホントもホントだよ。というか、クラシックレースが一番大事だって思ってる国はもうジャパンとステイツくらいしかないんじゃない? でもステイツはそもそもクラシックレースがダートだし、日程が厳しい代わりにレースの距離自体は一番長くて12ハロン(2400m)だし。だからきっと、今も芝のクラシックレースが一番大事で、一番名誉だって思ってるのはジャパンのウマ娘ぐらいだよ」

「で、でも……イギリスはクラシックレース発祥の地なのに……」

()()()だよ。アイランズのクラシックレースが最も名誉なレースだったから、ヨーロッパのクラシックレースはダメになったの」

 

 その言葉に疑問符を浮かべるベルノライト。そんな彼女の様子を見てか、オベイユアマスターは解説を始める。

 

「これはジャパンとかステイツとか、あとオーストラリアのウマ娘には理解しにくいんだよね。今言った国の共通点、わかる?」

「えーっと……どこもレースが強い国ですよね、イギリスとかフランスとかと並んで……」

「うーん、惜しい! 正解は『レースが飛び抜けて強い地域大国』だってこと。ヨーロッパの国と違って、気軽に行き来できる範囲にレースが強くてウマ娘がいっぱいいる国がないのが共通点」

「あ、確かに……言われてみればそうですね」

「ステイツから見れば、カナダみたいな周辺国のウマ娘はそもそも競技人数が少なすぎる。オーストラリアから見るニュージーランドもそうだし、ジャパンから見るホンコンもそう。こういう国って、良くも悪くもレース文化が独自進化するんだよね。ガラパゴス化って言うんだっけ、こういうの」

 

 世界最高峰のダート競走とそこに通ずる道程を栄誉とする一方で、芝のレースは軽視されがちという他国には見られない傾向を持つアメリカ。ジュニア期のレースが最も盛り上がり、その勝利こそ最大の栄誉であると認識されているオーストラリア。かつて欧州から輸入したクラシックという競走体系を未だ栄誉と共に堅持し、中長距離のレースを重要視し続けつつも、マイル・スプリント路線へのテコ入れを試み始めた日本。確かにそれぞれ三者三様の進化を遂げている。

 

「でもヨーロッパは、レース強豪国のウマ娘同士が気軽に行ったり来たりできる。芝やダートの質も似通ってるから遠征しやすいし、遠征しやすいってことはレース自体の流行り廃りとかもある程度共通する。ここまではいい?」

「はい、大丈夫です」

「じゃあここで問題! ヨーロッパで活躍していて、どんな距離もそつなく走れる万能ウマ娘がいます。彼女の目指す最大目標になるレースはなんでしょう?」

「……自然に考えると、凱旋門賞ですか?」

 

 ベルノライトの解答に指をパチンと鳴らすオベイユアマスター。

 

「正解! じゃあ続いて、同じくどんな距離も走れる万能ウマ娘がいます。彼女は2000ギニーで上位入着、エプソムダービーでは見事優勝しました。そんな彼女が次の目標としたいレースはなんでしょう?」

 

 皐月賞のモデルとなった2000ギニーステークス、東京優駿のモデルとなったダービーステークス。そのふたつが並べば、自然と候補たるレースはひとつだけだ。

 

「セントレジャー、っていうのが自然ですよね」

 

 菊花賞のモデルとなったセントレジャーステークスこそ、この質問に対する返答としては相応しく思える。だがベルノライトは自らの返答がきっと正しくはないのだろうと考えていたし、事実そうであることはオベイユアマスターの表情が如実に示していた。

 

「残念、不正解。その顔だとわかってると思うけど、正解はやっぱり凱旋門賞だよ」

「……エプソムダービーだけじゃなくて、2000ギニーでも優勝していたとしたらどうですか?」

「んー、それでもやっぱり変わらないかな。ここ数十年で二冠になったウマ娘自体が10人もいないけど、その中でセントレジャーに挑んだ子って確か3人くらいだったし。それに皐月賞と違って2000ギニーってマイルレースだから、現実にはそもそもセントレジャーに挑める距離適性がない子ばかりなの。この距離設定自体がクラシック路線の価値を落としてるところはあるし、そういう意味だと皐月賞の距離が10ハロンなのは賢いよね」

 

 2000mから3000mの距離で施行される日本のクラシック三冠ですら、距離適性に泣かされるウマ娘は数多い。その下限距離が400m短くなった日には三冠路線を走り切ろうとするウマ娘自体が激減するだろうし、三冠路線にこだわる必要がなくなればローテーションの選択肢は大きく広がるだろう。

 

 ギリギリ中距離を走れるウマ娘でもダービーを蹴ってNHKマイルや安田記念に専念する、あるいはティアラへ。長距離に不安を抱えるウマ娘は菊花賞を蹴って天皇賞(秋)やジャパンカップへ。そういった選択肢がトゥインクルに挑む最初の時点でメインプランとして浮上することになる。

 

 一方で長距離のみが得意なウマ娘は、現状でも施行レースの少なさに難儀する中で貴重なGIレースの価値が下落するという事態に晒される。極端に表現すれば、今の欧州とは菊花賞を勝利で飾ったとしても『でも秋天やジャパンカップは回避したよね』と評価されてしまうような環境なのだ。

 

「なんというか……厳しい状況なんですね、ヨーロッパのステイヤーウマ娘にとっては」

「だね。でもこの傾向ってここ半世紀くらいずっとあるし、しかもこんな状況でもセントレジャーに出れるレベルの子にとってはまだマシだよ」

「こ、これより下があるんですか……?」

「それはもう。だって考えてみてよ、クラシックレース発祥国のアイランズですらそんな状況なのに、他の国のクラシックレースがまともだと思う?」

「……あっ」

「そもそも、本当に実力のあるヨーロッパのウマ娘は行こうと思えばみんなアイランズのクラシックレースに行けるんだよ? じゃあそれ以外の国のクラシックレースに参加してるウマ娘って、『アイランズに遠征するほどの実力はないウマ娘』だよね? そんなクラシックレースにどこまでの価値があるのか、ってね」

 

 事実、フランスのダービーにあたるジョッケクルブ賞は例年エプソムダービーに有力ウマ娘を軒並み奪われており、つい最近に距離短縮を行ったことでやっと出走ウマ娘が集うようになった。一方でセントレジャーにあたるロワイヤルオーク賞は数十年前の段階で既にシニア級ウマ娘にも解放されており、クラシック三冠という体系は完全に崩れ去っている。他の欧州各国も似たようなものか、あるいはこれよりも酷い状況だ。

 

「だから結局、ヨーロッパのウマ娘にとって『アイランズ以外のクラシック三冠』って、物珍しいウマ娘くらいの評価になっちゃうんだよ。ヨーロッパの中ですらそんな有様だから、ジャパンからやってきたウマ娘が三冠だって言われても、別にそれだけじゃ大したことないじゃん、なんて扱われ方になる」

「なるほど……そういうことだったんですね」

「ちょっと話は戻るけど、結局スペシャルウィークがジャパンでどれだけ強い勝ち方をしていても、どれだけGIで勝ち続けていても、ジャパンでしか勝ってないならヨーロッパのウマ娘はスペシャルウィークのことをナメてかかるし、ジャック・ル・マロワではマークもされずに余裕で勝てると思うよ。クラシックレースの戦績が綺麗に並んでもそれは同じってだけ」

 

 だからジャック・ル・マロワの取材には必死になって行かなくてもいいんだよ、とオベイユアマスターは付け加えた。

 

「……もしちゃんと調べたら、ヨーロッパで勝ってる日本のウマ娘がスペシャルウィークと戦って負けてることに気づくはずなんだけどね。でもちゃんと調べたら、スペシャルウィークが前走で1期下のウマ娘にマイルレースで負けてるのがわかるから、やっぱりナメられるかも。やっぱりジャパンのマイルレースはまだまだレベルが低いんだ……ってね。傲慢どころか油断だよ、完全に」

「……あの、もしかしてですけど、オベイユアマスターさんってヨーロッパのウマ娘さんたちをあんまり良く思っていなかったりします?」

「私も一応フランスの血が半分流れてるけど、ヨーロッパとステイツとジャパンで走ってきたからね。ヨーロッパのレースだけが全てだと思ってる子たちは見えてる景色が狭いなぁ、とは思ってるよ。嫌いっていうよりはかわいそうだなって思う。でも……」

 

 そこで一息置いてから、オベイユアマスターは今日一番冷えきった声で言った。

 

「こういうことって、例えばモンジューみたいなトップクラスのウマ娘はだいたいちゃんと知ってて、私みたいな中途半端にしか勝てないウマ娘は知らないと消えていくだけだから、『そこそこ勝てる』子たちが一番わかってないし、知ろうともしないんだよね」

 

 やっぱり良く思ってないんじゃないですか、などと口に出す勇気はベルノライトになかった。むしろ、そんな言葉をかけるのは最早蛮勇の域に片足を突っ込んでいるのではないかとすら彼女には感じられた。

 

「と、ところで! スペちゃんのレースに役立つ特ダネがあるって話でしたけど」

「あ、ごめんごめん。実はその特ダネがどういう意味で特ダネかって、今までの話がないと理解しにくいんだよね。ばっちり頭に叩き込んだ? 大丈夫?」

 

 その問いに頷くベルノライトを見て、オベイユアマスターは満足げに笑った。

 

「OK, それじゃあ教えるね。……ムーンライトルナシーがムーラン・ド・ロンシャン賞への出走に向けて準備してるらしいよ」

「……ムーンライトルナシーさん、ですか?」

 

 その名前にベルノライトは聞き覚えがあった。他ならぬオグリキャップとオベイユアマスターが激突したジャパンカップにも出走していた『英国の貴婦人』。セントレジャーステークスやサンクルー大賞を勝利し、中長距離路線で活躍()()()()ウマ娘である。

 

 かつてベルノライトも直接対面し言葉を交わした経験があるが、つたない英語にも礼儀正しく誠実に対応してくれたことは記憶によく残っている。だが、だからこそベルノライトの頭には大きな疑問が浮かんだ。

 

「ムーンライトルナシーさんって、結構前に()()()退()()()()んじゃ……確か、オグリちゃんよりも1年キャリアが長かったから……」

「一応正式に引退したわけじゃないんだけど、本当に走るならシニア5期目の夏ってことになるね。ジャパンのシンボリルドルフと同期かな。でも、ムーンはシンボリルドルフみたいな『絶対』じゃない。普通に勝って普通に負けるウマ娘だし、シンボリルドルフみたいに現役最強とつい最近競り合うようなレースもしてない。ついでに言うと、ムーンはそもそもこれまで10ハロンより短いレースを走ったことがないよ」

 

 情報が並べば並ぶほど、余計に意味がわからなくなってくる。ムーンライトルナシーがムーラン・ド・ロンシャン賞に出てくる意味自体が全く理解できない。

 

「失礼は承知で、一応聞きますけど……本当なんですか?」

「気持ちはわかるよ。わかるけど、なんと情報源がムーン本人なんだよね」

「……もしかしたら、ムーンライトルナシーさんの冗談だったりはしませんか?」

「この情報、記者としてどう扱ってもいいって言われちゃったんだよね。私が記事を出した後、特に理由もなく『やっぱり出ません』なんて言い出すような不義理はしないタイプだと思わない?」

 

 それに関してはベルノライトも同意だった。だが、その同意もやはり彼女の疑問を拭うことには繋がらない。

 

「どうしてピンポイントでスペちゃんの出てくるロンシャン賞に……ムーンライトルナシーさんなら、もし出るとしても距離的に凱旋門賞の方が自然で……」

「じゃあ、私しか知らない情報をもうひとつあげる。……ムーンからロンシャン賞出走の話を聞いた日って、安田記念があった次の日だったんだよね」

 

 オベイユアマスターの言葉に硬直するベルノライト。

 

「……それって」

「まあ、そういうことだよね。ムーンにとってピンポイントだったのは『マイルレース』でも『ロンシャン』でもなくて、『スペシャルウィーク』なんじゃないかな」

 

 ベルノライトの額を、冷や汗が一筋伝った。

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