スーパーロボット大戦K ~夜霧とミスト~ (旧題:俺をさんづけで呼ばないで ) 作:トカGE
ヴァンが負けた。その事実に、皆は少なからず衝撃を受けていた。今現在、ヴァンは医務室で寝ている。と言っても肉体的な傷は無いので、おそらく精神的なものだろうとのことだった。まあヴァンはオリジナルセブンだし、ダンが無事なら肉体的にはほぼ不死身みたいなもんだから当たり前なのだが。
ウーの襲撃から丸一日。彼の傍にはウェンディ、そしてミストさんがついて居た。やはり目の前で倒される所を見ていた分、ショックも他のメンバーより大きかったのだろう。
「ん……?」
「あ、ヴァンさん気が付いたんですね!」
「あれ、ここは……」
「アークエンジェルの医務室ですよ」
「そうか。ん?」
ヴァンが自分の腹の方に目を向ける。そこにはウェンディが突っ伏していた。まあ、気づくか。
「ウェンディちゃん、ずっとヴァンさんについてたんですよ?」
「そうか。お前にも世話かけたな」
「いえ、そんな」
「ん……ヴァン……?」
「お前、起きたのか」
「あ、よかった。体は大丈夫?」
「ああ、問題ない。とりあえず、飯食わせてもらっていいか?」
「ああ、後は調味料だな。俺、取って来ます」
そう言って医務室を出るミストさんは、しばらく歩いた所で俺に話しかけてきた。
「ヴァンさん、思ったよりも大丈夫そうだったな」
《そう見えるか?》
「違うのか?」
《なんか違和感がなあ》
「じゃあ、無理してるってことか? とてもそうは見えなかったけど」
《んーまあ、勘だから気にするな》
まあ実際は原作知識な訳だが。それを抜きにしても今のヴァンには、言葉にできない違和感があった。
「ふーん?」
もっともミストさんは全く気づかなかったようだが。その後料理を持ってくとヴァンはいつも通り、調味料をぶっかけまくって平らげた。これだけ見てると特に何もないように見えるんだがなあ。あ、ちなみにウェンディは看病後に倒れるってことは無かった。
ウーの襲撃から2日、ヴァンが起きてから1日が過ぎた。ウーの奴が来るまで、後一日。あれからヴァンは適当にふらついてはトレーニングルームで一人剣を振るったりしていた。若者組はウーにリベンジするためだろうと思っていたようだったが、年長者組は何かを感じ取っているように見えた。
「なあ、翔也。なんかヴァンさんの様子がおかしくないか?」
ミストさんもどうやら気づいたようだ。まあ、どう見てもありゃ八つ当たりしてるようにしか見えない剣の振るい方だものなあ。
「俺、ちょっとヴァンさんの所に「やめとけ」猿渡さん?」
ヴァンの所に行こうとしたミストさんに、猿渡さんが声をかけた。
「今はそっとしといてやれ」
「猿渡さんは、ヴァンさんの様子がおかしい理由解るんですか?」
「いや、解らん」
《なんだそりゃ》
何でそんな自信たっぷりに言うんですかあんた。
「そもそも俺はヴァンじゃないからな。あいつの心の中など知らん。……まあ、なんとなく想像はできるがな」
「想像、ですか?」
「まあ合ってるかどうかは解らねえけどな」
そう前置きしつつ、猿渡さんは話し始めた。
「死に怯えてるんだよ、アイツは」
「死って、そりゃ誰でも怖いじゃないですか。俺だってレヴリアスに乗り始めた頃は、何度死にかけて怯えるハメになったか」
《そんで俺やアンジェリカに怒られたり心配されたり説教されたり慰められたりな》
(うっさい)
うむ、いい思い出だ。まあ、猿渡さんが言いたいことはこの先だろう。
「俺だってそうさ。だがヴァンはたぶん、それが今回初めてだったんだろう。お前も知っている通り、ヴァンの奴は強い。俺達が出会ってからアイツが負けた事は見た事なかったし、今までもおそらくそうだったんだろう」
「でも、それにしたってなんかおかしい気が……」
「ここからはただの想像でしかないんだが……たぶんヴァンの奴、今まで自分の命を顧みてなかったんだろう」
「命、ですか?」
「そうだ。嫁さんが殺されて、悲しくて、何もかもどうでもよくなって、それでも殺した相手は生きてて、憎くて、殺したくて殺したくてたまらなくなって。喪失感と激情に突き動かされた亡霊、とでもいえばいいのか? この前事情を聞いた時。俺にはヴァンが、自分の命はどうでもいいって思ってるように見えた」
「そ、そんな! それじゃあヴァンさんは復讐が終わったら死ぬつもりだったって言うんですか!?」
「いや、そうとは限らんだろうが……死ぬまでエレナさんの墓の前に座ってるくらいはしてたかもなあ」
ああ、確かにやるかもしれない。原作でも死ぬ前の準備にカギ爪殺すって感じだったからなあ、ウー戦まで。
「だが今回、奴は死の恐怖を覚えるくらい徹底的に負けた。どうでもいい、って思っていたはずの命を失うかも知れないってところまできて初めて、死にたくない自分が居る事に気づいたんだろう。そして気づいたからこそ、その初めて感じた死の恐怖の前に心が折れそうになってるんじゃないか?」
「そんな……」
「まあ、これは俺の勝手な想像だから実際の所は解らないけどな。それでも似たような感じじゃないかとは思ってる」
「じゃあ、俺達はどうしたらいいんですか!」
「励ます、叱咤する、まあ言葉をかけるくらいならできるだろうが、結局は……」
「自分で解決するしかない、か。冷たくないか? 猿渡さん」
そう言ってアークエンジェルの甲板で愚痴るミストさん。あれから時間がたって、今はもう夜だ。あの後ヴァンはトレーニングルームを出た後、アークエンジェルでウェンディと共に借りてる部屋に戻って出てこなかった。
《そうは言うけどな。お前も死ぬの怖いってなったとき、周りから色々言われてたけど結局決めたのは自分自身だったろう?》
「そう……だな」
《それに、お前の知ってるヴァンって男はこんな所で立ち止まるような男なのか?》
「いや、違うな。うん、違う。あの人は強いよ。戦力的な意味だけじゃなくて、心も。だから、きっと立ち直れる。逃げたりなんてしない」
《じゃあ、信じてようぜ。あいつは死の恐怖になんて負けやしねえよ。変な心配はこのくらいにしとこうぜ》
「ああ、そうだな……ってあれ?」
部屋に戻ろうとしたミストさんの視線に人影が映った。
《タキシードと帽子、ヴァンだな》
「まさか……」
逃げ出そうとしているのか、と言いたかったのだろう。だが、ミストさんの口からその先の言葉は出なかった。
「いや、よそう。俺の勝手な憶測でヴァンさんを侮辱したくない」
《そうか。それでいいんだな?》
「ああ。俺はヴァンさんを信じる。そしてあの人がどんな答えを出したとしても、俺はそれを見届けるよ」
《解った。んじゃ帰ろうぜ。あんまり時間かけるとアンジェリカが心配するぞ?》
「そうだな」
そうしてヴァンを甲板に残し、俺達は部屋に戻った。
そして三日目。
「あああーーーーーーーー!!! ああーーー!! だーーっ!! わぁーーーーっ!! ああぁっ! くそぉっ!!! エレナーーっ!!! 愛してるッ!! おまえに夢中だ!! エレナァァァァアアアアアア!!!!」
空から、二つの刃が舞い降りた。
手出しは要らないんです。結局最後は愛が勝つんですから。