エレメンタルジェレイド──蒼銀の同契者── 作:isizu8
2-1
「ブリタニアの国是を築いたのは僕だ。だからこそ、僕がこれを成す」
「やめろ、ライ! お前が犠牲になる必要は――」
「”ライが命じる!”」
それは、大切な友を守る決意……。
「私の勝ちだ。ナナリー・ヴィ・ブリタニア」
「貴方は卑劣です! 自分の欲望のために、お兄様を、スザクさんを……すべての人を利用してっ!」
それは、純真な者を欺く非情……。
「ライ! どうして? どうしてこんなことになっちゃうのよ!!」
「カレン……僕はもう決めたんだ。邪魔をするというのなら……僕は、君を撃つ!」
それは、想い人すら敵にする覚悟……。
ライは、その身を悪に染めながら戦っていた。例え誰に恨まれることになろうとも、決して歩みを止めなかった。
全ては、大切なものを守るため……。
◆
「夢、か……」
悪夢から目覚め周囲を見渡すライ。どうやら民家の一室のようだ。
「そうか、僕は……」
見知らぬ世界で目覚めたこと、イヴと共に戦ったこと。それを思い出したライはひっそりとつぶやく。
「それにしても、随分と未練がましいな……」
あれだけ覚悟して、決意したことなのに……それでもこうして夢に見るということは、どこかでそれを後悔している証。同じ世界にいれば、まだ恨み言の一つでも聞けたかもしれない。しかし異なる世界にいる以上、もうそれすら叶わないだろう。
「これで良かったんだ。きっと……」
しかし、ライが元の世界にいるだけで、新たな争いの火種になる。それだけは絶対に避けねばならないし、だからこそルルーシュたちはライを異世界へ送ったのだ。
「(この世界で、僕はどう生きればいい?)」
家族や友達、想い人……その全てがいないこの世界で、ライはこの先どう進むか決めかねていた。彼が本来願ったのは、大切な者たちを守ること、そして自身の死なのだから。
「僕は……」
全てを失ったライはこの瞬間、生きる意味を失っていた。
◆
そうして暫し時が流れた後、トントンと扉を叩く音が聞こえ、ライはそこの扉に目を向ける。やがて一人の女性が部屋に入ってくる。彼が気を失う前にイヴを預けた人物だ。
「目が覚めたようですね? 体はもう平気ですか?」
「はい、僕は平気です。その、イヴは……?」
「お連れの方でしたら別のお部屋でお休みになっていますよ。まだ眠られているようです」
「そうですか……助けていただいてありがとうございます」
イヴが無事なことに一安心し女性に感謝の言葉を述べる。
「いえいえ、お気になさらず。念のためもう少しお休みになられた方が良いですよ?」
女性は優しく微笑みながらライに休むよう促す。
「もう大丈夫です。十分休みましたので」
実際のところまだ疲労は残っていた。しかし、あの悪夢を見てしまうことが怖いのか、再び眠りにつくことは憚られた。
「そうですか。ですが、あまり無理なさらないでくださいね……。ところであの女性、エディルレイドですよね? 危ないですよ、核石はちゃんと隠さないと」
「エディル……レイド?」
聞いたことのない単語を聞き、ライは思わず聞き返す。
「えっ、知らずに旅をされてたのですか?」
「えっと、それは……」
ライは自己紹介も兼ねて、この村に来るまでの経緯を話し始めた。
◆
「なるほど……お二人は旅を始めたばかりなのですね」
「ええ、まあ……」
流石に元いた世界の話をするわけにもいかないし、そもそも信じてもらえないだろう。なのでライは、自分は辺境の地で暮らしていたため、世間に疎い旅人であると答える。イヴについては、遺跡で倒れていたことと、彼女が武器に変身し、共に謎の獣を撃退したことのみ答えた。
そしてライもまた、彼女からエディルレイドについて情報を得ていた。
「人間と契約……
「はい。かつてこの地を収めていた元領主もエディルレイドを物のように扱っていましたから」
「元領主?」
「ライさんが戦ったとされる、獣……ラグウルスの元々の飼い主です」
ラグウルス……。元々はこの村落を支配していた領主が自分の城で飼っていたモンスターだった。その領主はかなり横暴な人物であり、この村落を暴力で支配し、必要以上の金品、そしてエディルレイド達を集めていた。しかし、領主のその野望は一人の少年とエディルレイドの少女によって阻止された。
ラグウルスはその少年たちを抹殺するため、城から放たれたのである。そして彼らによって倒された領主は村落から逃げ出したため、放たれたラグウルスが野生化し、現在この村落周辺に生息しているとのことだった。
「それは、かなり危ないのではないですか?」
「ええ。この村には戦える者が少ないので、ラグウルスを退治するため傭兵を雇いたいところではあるのですが……」
彼女の表情から察するに、成果は芳しくないようだ。
「なら、僕も手伝います」
「よろしいのですか?」
「はい。助けていただいたお礼もしたいですし、早速……」
起き上がったライはふと自分の姿を見る。傷が付いた部位に包帯こそ巻いてはいるが、下着1枚しか着けてなく、その姿は裸同然だった。
「あ、あの……お洋服を準備しますので、少し待っていてください……」
彼女は顔を赤らめ、慌てて部屋から立ち去った。
「…………」
ライは、複雑な心境でその場に立ち尽くしていた。
その後、ライは女性が持ってきてくれた服に着替えた。それは白を基調としたかつての愛機「ランスロット・クラブ」を思わせる色合いの服だった。
「動きやすい良い服ですね」
「気に入っていただけたようで何よりです。この服は、私の方で直しておきますね」
先の獣との戦闘でボロボロになったアッシュフォード学園の制服を手に取ってそう言った。
「良いのですか? そこまでして頂いて」
「はい。ラグウルス討伐を手伝ってくれるのですから、このくらいは」
「ありがとうございます。大事な人に貰った服なんです」
「ふふっ、そうなんですか。では、責任をもって直さないと」
「あの、ここまでして頂いたうえで申し訳ないのですが、イヴをもう少し休ませてあげてくれませんか?」
「同契せずに戦うのですか?」
「はい。イヴはまだ疲れていますし、それに……」
「それに?」
「いえ、何でも……。それより、この村にある武器を貸していただけませんか?」
「はい、それは構いませんよ。では案内しますね」
そして、ライはラグウルス討伐に協力することにした。自分たちを助けてくれたことの恩返しをするといった理由はあるが、朝からあの悪夢を見てしまったこともあり、今はとにかく身体を動かしたいというのが本音であった。
◆
「ライ」
女性と共にライが家を出ようとした時、イヴに呼び止められる。
「イヴ、体は平気なのか?」
「ええ。大丈夫よ」
「そうか。だが、念のためもう少し休んだ方がいい。僕は今から出かけてくるから、その間はこの家で待っていてくれ」
「また、戦うの?」
「……ああ」
「それなら、私も行く」
「だが……」
「貴方を死なせない。それが、私の契約だから」
記憶を失っているにもかかわらず、同契のことや遺跡を出る前に言われたイヴのその言葉、ライとしてはその真偽を確かめたいところではあったが、他の人間がいる今この場でそれを聞くことは憚られた。
「あなた方の事情は分かりませんが、通常の武器でラグウルスを倒すのは厳しいですよ。イヴさんもその気のようですし、ここはお言葉に甘えたほうが良いのではないでしょうか?」
「……」
女性にそう言われ、ライは改めてイヴと向き合う。イヴのその様子に諦めたのか、あるいは覚悟を決めたのか、ライは静かに首を縦に振った。
そして二人はラグウルスが潜むという森へと向かっていった。