美神の副団長は苦労人   作:金鳥

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古本屋でダンまちの小説を久し振りに読んで妄想しました。


どうしてこうなった、と猫人は空を仰ぐ

 

 オラリオ最大派閥の一つ、フレイヤ・ファミリア。

 もう一つの最大派閥であるロキ・ファミリアと宿敵関係にあるそのファミリアの最たる特徴は、美神の信奉者で構成されているということだろう。ロキ・ファミリアが仲間を大切にし集団としての力を重視しているのに対しフレイヤ・ファミリアはその真逆。

 美神の寵愛を誰よりも授けられたいが為にファミリア内でも殺し合いのような訓練を日常とする、個人としての力を重視するファミリアだ。

 

 団員が美神に抱く愛と信仰は仮に美神が傷でも負えば自分の身体に剣を突き立て同じ箇所を抉る程。正しく異常者の集まりだ。それがファミリアの幹部ともなればその異常っぷりはそれこそ常人には理解できない悍ましさを覚えさせるだろう。

 

 その幹部に、一人の猫人がいる。

 アレン・フローメル。【女神の戦車】の二つ名を持ち、都市最速と称される第一級冒険者。ファミリアの副団長も務める彼は美神の寵愛の為に実の妹を捨てたとまで言われている。

 

 そんな彼は今、ハッキリ言ってピンチだった。

 第一級冒険者というオラリオでも上から数えた方が早い実力者のアレンを追い詰めるとなると同じ第一級冒険者か深層のモンスターぐらいだろう。

 

 だが、彼を今追い詰めていたのは

 

 

 

 

 

 

 

 

「出て来いクソ猫ぉおおお!!」

「リヴェリア様に手を上げる等、万死に値するわぁアアーーー!!」

「○○(ピー)に魔法をぶち込んでやるから大人しく○○を差し出して自分の罪を悔いやがれ!!」

「アポロン様か【男殺し】の寝室に縛って放り込んでやるからそこを動くなチビ猫ぉ!!」

 

 

 

 

 

 

 ───殺意に満ち溢れたエルフ達だった。

 清楚とか真面目とか兎に角まさしく麗人と称されるエルフ達が、アマゾネスのようにスラングを叫び血管を纏めて全て千切らんとばかりに怒り狂ってアレンを襲い掛かっていた。

 

 時に隠れ、疾走して距離を取り、それでも逃れられなければ止むなく抗戦しながらアレンは思う。

 

「・・・退団してぇ」

 

 あと、チビ猫って言った奴は覚悟しろ。

 

 

 ◆遡ること、1時間前。 

 

 フレイヤ・ファミリアにとって何より大事なものはフレイヤ様だ。故に団員はフレイヤ様を中心とした生活を送っている。

 

 朝起きたらまずフレイヤ様の寝室に向けて祈りを捧げ、フレイヤ様の前に立っても問題ないように身嗜みを整え(下手な女性よりも美容や化粧品に詳しいのはデフォルト)フレイヤ様に挨拶をしお言葉を授かってから1日が始まるのが団員達の朝のルーティーンである。

 

 何を言ってるんだと端から見れば異常だが、団員達にとっては至極当然のことを行っているに過ぎない。但し、中には例外もいる。

 

 フレイヤ様に忠誠は誓っているが、それ以外の人として大事な部分を捨てておらず団員達の朝のルーティーンにドン引きしている団員が。

 

「またやってんのか、あの狂信者ども」

 

 アレン・フローメルもその一人。

 女神の寵愛の為に妹を捨てた非情な猫人。

 彼自身もそう思っている為他人にそう指摘された所で痛くも痒くも無い。だが、実はファミリア内でも数少ない常識人であり本人が思っているよりも人でなしでは無かったりする。

 

 廃棄世界と呼ばれる土地で両親を亡くし妹を抱えながら生きていたアレン。地獄のような環境から掬い上げてくれた事に感謝し、女神フレイヤの為に尽くすことに異存は無い。異存は、無いのだが。

 

「こんな光景見せられたら、幻想なんて木っ端微塵に砕けるってんだ」

 

 衣食住を妹共々与えられ、強くなる機会も与えられた。頼れる誰かがいない人生を送ってきたアレンにとってそれは天国のように感じていたのだが、ファミリアのホームに入って真っ先に目にしたのは久し振りに帰ってきたフレイヤ様の姿を見、声を聞き、あわよくば匂いを嗅いで離れていた期間の損失を少しでも埋めようとする目が血走った団員達の姿。

 

 同じファミリアの団員は家族と称されると聞いていたアレンは、家族全員で暮らしていた時のような幸せな時間をまた過ごせると実は期待していたのだが───。

 

「(え、ちょっと待って。俺達もしかしなくてもこれからこのヤベェ連中と同類になるってこと?)」

 

 廃棄世界は地獄のような環境だったが、ここもそれと同様の魔境。否、ここが本当の地獄だったかとアレンは絶望した。

 あと、大好きな兄と一緒に安全な場所で暮らせると無邪気に喜んでいた妹は泡を吹いて気絶した。

 

 ───なお、後にその妹アーニャは兄に置いて行かれたく無いのと現実を直視したくない一心で訓練に励みレベル4にまで至り幹部入り寸前まで行ったが精神が崩壊する寸前な様子を見て魔境の中でも特に酷い環境に妹を入れるのは流石に兄として良心が咎めた為、罵ってまでファミリアを半追放状態にして前団長の下に送っている。

 

 俺があの時、フレイヤ様の寵愛を欲さなければと今でもたまに、いや割と頻繁に後悔している。だが今更後悔した所で遅い。

 

 既に自分達はフレイヤ様に様々な物を与えられたのだからその恩義には報いなければならないのだ。何より、気紛れだったとしてもあのゴミだらけの環境から拾い上げて下さったことは本当に感謝している。

 フレイヤ様がいなければ今の自分はおらず、あのゴミ溜めの中で野垂れ死んでいたかもしれない。故にフレイヤ様への忠誠は決して揺らぐ事は無い。

 

 無い、のだが。

 

 

「あの、フレイヤ様がこんな置き手紙を残して外出されたのですが・・・」

 

『夕飯までには帰ります』

 

 フレイヤ様を求めて亡者のようにホーム内を徘徊する団員達に怯えながらお付きの侍女が差し出した書き置き。

 

 差し出されたそれを見て何故かフル装備でオラリオに繰り出す幹部達とその手紙に残った温もりや匂いを味わい尽くさんとする一般団員達を見て

 

「(こっそり抜けだして遊びに行く子供ですかあなたはぁあああああああーーー??!!)」

 

 内心で絶叫するアレン。

 痛みを訴える胃は無視。先ずは目の前にいる見るに耐えない団員達を都市最速と謳われる敏捷を無駄にフル活用して迅速に鎮圧。

 侍女達にギルドへの連絡を言い付けると、自分の装備を急いで取りに行き暴走した幹部達の後を追う。

 

 ファミリアの副団長として、オラリオにファミリアの醜態を晒すわけには行かない。その為に動くことに異存はなく、フレイヤ様への忠誠も揺るぎないのだが。

 

「(ちょっとマジで勘弁というか自重して下さりませんかね!?)」

 

 心はポッキリと折れそうだった。

 

 

 ◆それから30分後

 

 オラリオは、混乱に陥っていた。

 フレイヤ・ファミリアとロキ・ファミリア。都市最大の二大派閥が街中で激突していたからだ。

 石畳が捲れ、街路樹はへし折れ、建物は残骸となる。

 

 そんな暗黒期を彷彿とさせる惨状が引き起こされた原因が、とある美神が脱走したからということをフレイヤ・ファミリア以外の人間は知る由も無い。

 ロキ・ファミリアは血相を変えたフレイヤ・ファミリアの幹部達がオラリオ中をフル装備で走り回っていたのを見て何かの作戦かと戦力を緊急招集し、対峙した。

 

 オッタルやへディン等、幹部の中でも比較的に常識人な二人がおり普段であればそこで話し合いが行われていただろう。何なら理由を知ったロキ・ファミリアは同情と呆れを抱きつつもフレイヤ捜索に協力していたかもしれない。

 

 だが、不幸なことにその場にいたのは冷静さをかなぐり捨てた狂信者達。彼等にとって対峙する者全てが敵であり邪魔者。故に、言葉を交わす暇すら惜しいと問答無用で襲い掛かるフレイヤ・ファミリアと迎撃するロキ・ファミリア。

 

 ここに、かつて無い程くだらない理由で都市を壊滅させかねない大抗争が始まった。

 

 なお、それを聞いたギルド長の強欲エルフは血を吐いて倒れ指揮系統が麻痺した。フレイヤ付きの侍女から緊急ということで彼が直接対応した為、他に抗争の原因を把握している人間がおらず女神フレイヤを探し出すといつ唯一の解決手段をギルドは失ったのである。

 

 最悪抗争が起きるかもしれないと察して仮にそうなったとしてもすぐに解決出来るように手を打っていたアレンだったが、ロイマンが倒れた為無意味になってしまう。更にアレン自身も叩きのめしていた筈が驚異的な早さで復活してフレイヤを探しに飛び出した一般団員達と先に接触してしまった為、抗争を止めることが出来なかった。

 

 兎に角団長で都市最強でもあるオッタルだけでも正気に戻してロキ・ファミリア団長のフィンを説得し協力して暴走した団員を止めれば解決すると判断したアレンは必死で走る。

 

 途中で『凶狼』ことベート・ローガが立ち塞がったが悲しいことにレベルはアレンの方が上のレベル6。そんなアレンの文字通り瀕死の突撃をベートは避けることが出来ず問答無用で轢かれ、ボロ雑巾のように中を舞った(なお、どこからか眼鏡をかけたヒーラー少女の悲鳴が聞こえたがアレンは無視した)。

 

 必死で駆け抜け、戦場となった広場にやっとの思いで辿り着く。そこには両派閥の幹部達が死闘を繰り広げていた。白黒エルフコンビはアマゾネスの双子と、猪団長は小人にドワーフだけでなく【剣姫】まで纏めて、そして小人の四つ子はエルフの王女とそれぞれ戦っていた。

 

 戦況は拮抗しており、誰かが今にも死にそうということは無いと判断したアレンは近くに転がっていた酒瓶を拾い上げ振りかぶり───

 

「いい加減正気に返りやがれクソ猪ぃ!!」

 

 全力で、投擲した。

 

 ───そして、悲劇は起こる。

 

 まず、オッタルが背後から迫る酒瓶を気配だけで察知し躱す。更に大剣を振るい、酒瓶を割らないようにしながらアイズへ向けて弾き飛ばした。レベル7の力を持って超加速したそれを咄嗟にフィンが槍で砕く。結果、酒瓶がアイズの顔面に叩き込まれる事は防げたが中身まで防ぐことは出来なかった。

 酒瓶の中身、すなわち血のように紅いワインがアイズの顔面に直撃する。予想だにしていなかったアイズは反射的に顔にワインを少し飲んでしまう。

 さて、実はかつてアルコールの類を誤って摂取してしまったことがあるアイズ。その際にうっかり自分の主神を半殺しにしてしまったことがある程酒に弱く、暴れ上戸な彼女。

 

 そんな彼女は微量とはいえアルコールを摂取した瞬間、何故か魔法を最大出力で発動させた。吹き荒れる暴風により吹き飛ばされるオッタルとフィン、ガレス。

 そして、少し離れていたガリバー兄弟とリヴェリアにまで暴風が襲い掛かる。

 

 

 

 さて、ここで一つ説明しなければならないことがある。それはガリバー兄弟とリヴェリア、白黒エルフコンビにヒリュテ姉妹が互角に戦っていた理由だ。

 レベル5が4人対レベル6が1人にレベル6が2人対レベル5が2人。明らかにロキ・ファミリアの方が不利である。

 

 それば互角に戦っていた理由は、端的に言うと白黒エルフコンビがガリバー兄弟を仕留めようとしていたからだ。なんでそうなったかと言えば、エルフだからとしか言えない。

 

 フレイヤに忠誠を誓ったとはいえ、エルフである以上ハイエルフは敬うべき存在であるということに変わりは無い。故に、白黒コンビはリヴェリアと戦うなど以ての外でありガリバー兄弟に押し付けた。

 だがそれはそれ。ガリバー兄弟がリヴェリアを傷付ける等言語道断、と自分達が押し付けておきながらガリバー兄弟許すまじとヒリュテ姉妹と戦いながら隙あらば彼等を仕留めようとしていた。

 

 マジで巫山戯んなエルフ共と悪態を尽きながら必死でリヴェリアと白黒エルフ共を相手に戦うガリバー兄弟。それを見て内心ドン引きしながら戦うリヴェリアとヒリュテ姉妹。何だかんだで全員余裕が無く、アレンがオッタルに酒瓶を投擲したことに気が付かなかった。

 

 故に

 

「うぉっ!?」

「風!?」

「『剣姫』か!?」

「しまっ、って!?」

 

 体重が軽いガリバー兄弟は体勢を崩し、手にしていた武器が

     

「プァッ!?」

 

「「「「あ」」」」

 

 リヴェリアの顔面や鳩尾等に直撃した。威力は其処まででは無いが予想だにしていなかったタイミングで急所に叩き込まれた事もあり気絶するリヴェリア。

 そして

 

 ビチャッ!!

 

 そこに、酒瓶に入っていた酒が降り注いだ。剣姫が少し飲んでしまったがそれでも充分な量があったそれは不幸なことに血のように真っ赤なワイン。

 つまり

 

「「り、リヴェリア様ぁあアアアアアアーーー!!!???」」

 

 血の海に倒れ伏すハイエルフ(死んでない)が誕生した。

 

 コメディのような展開に誰もが呆ける中、真っ先に動いたのは当然白黒エルフ。へディンはかつて無い程素早く詠唱を完成させるとガリバー兄弟に問答無用で魔法を叩き込み、ヘグニはカースウェポンに後先考えずにありったけの体力を注ぎ込んで射程を伸ばした一撃を叩き込む。

 

 黒焦げになり、切り刻まれながら吹き飛ぶガリバー兄弟。そのタイミングで到着するリヴェリアの救援に駆け付けたオラリオ中のエルフ達。

 

 そんな最悪のタイミングで、へディンは叫んだ。

 

「駄猫、貴様よくもリヴェリア様を!!!」

「(え。これ俺のせい?)」

 

 反論しようとしたが、突然感じた悪寒に従い咄嗟にその場を離れるとそこに大量の魔法が降り注いだ。

 炎が、氷が、風が、雷が、ありとあらゆる属性の魔法が雨霰と降り注ぎクレーターを作り出す。顔を引き攣らせたアレンが魔法が飛んできた方向に顔を向けると。

 

「よくもリヴェリア様を!」

「殺してやる、リヴェリア様の仇討ちだ!」

「killキルkillキル───!」

「あの、君達?彼女まだ死んでないんだけど」

「全員詠唱を開始しろ!最大威力で塵一つ残さず消し去るぞ!!」

「『能力低下』の呪文持ちも全員あのクソ猫にありったけの魔力で叩き込んでやりなさい!!」

「あれ、もしもーし。おーい、聞こえてるー?彼女死んでないから治療して欲しいんだけど・・・」

「魔剣も使え!借金してでもヘファイストス・ファミリアにある在庫全部持ってこい!!」

「あ、ダメだこれ聞こえてない。というか、『女神の戦車』への殺意が強過ぎるや。死んだな彼」

 

 そこには、殺意に満ち溢れたエルフ達がいた。フィンがリヴェリアの治療を頼んでいるが聞き取れていない為、最早止めようがないことを理解せざるを得なかった。故にアレンが取れる選択肢は一つ。

 

「───さらば!」

 

 すなわち、逃走である。

 

 

 ◆そして現在

 

 

「退団してぇ・・・」

 

 普段なら絶対に口にしないことを言いながらアレンは襲い来るエルフ達を撃退し続けていた。ハイエルフ殺害事件(死んでない)というあまりにもインパクトが強すぎるトラブルによってフレイヤファミリアとロキファミリアは落ち着きを取り戻し図らずも全面抗争を停めるという目的は達成された。

 

 だが、その代償として今度はアレン対オラリオの全エルフという次の抗争が始まってしまいオラリオは更なる混乱に包まれた。

 

 

 

 一方その頃、何とか復活したギルド長はフレイヤファミリアとロキファミリアの抗争が収まったことに歓喜してとっておきのワインを開け、その直後にハイエルフ殺害事件を知ってワインを吹き出し再び倒れた。

 

 余談だが、この時ギルド長部屋には他に誰もいなかったりする。とあるハーフエルフの受付嬢が母共々世話になっているリヴェリア殺害事件を知って発狂しその対応にギルド職員全員が追われていたからだ。嫌われ者であるが故に放置されたロイマン。

 

 一応目覚めた時すぐに情報を確認できるように職員がロイマンの枕元にメモを残していたが、故に悲劇が起きた。メモは2枚あり、1枚目に抗争が止まったことが書かれており2枚目にリヴェリア殺害事件(死んでません)が書かれていたのだ。しかも重なった状態で。

 

 まずロイマンは1枚目のメモを見て祝杯をあげ、その後2枚目を見てワインを吹き出し気絶した。この時ロイマンが飲んでいたワインは白ワインだったが、ストレスによって穴が空き血と一緒に吹き出した為惨事が起きる。

 

 ロイマンの様子を確認しに戻ってきたギルド職員が見たのは赤い液体を吐き倒れたギルド長の姿。すぐ側にワインの瓶が転がっていた為、職務中に泥酔したのかと最初は思ったがよく見ると中身は白ワイン。

 

 ───つまり、ワインを飲んで血を吐き死んでいるギルド長(死んでない)。

 

 ここに、ギルド長毒殺事件が勃発した。

 

 そして、ギルドは機能が完全に麻痺しオラリオの混乱は加速する。

 

 

 

 

 

 

 アレンは困惑していた。エルフ達は最初はリヴェリア殺害疑惑による殺意に満ちた叫びを上げていたが、何故か途中からギルド長の暗殺疑惑まで叫ばれていたのだ。

 リヴェリアの事は納得は出来ないが理解は出来る。だがロイマンについては理解すら出来ない。何故?というかあのデブエルフ暗殺されたの?

 

 実はここでアレンがギルドにフレイヤファミリア暴走を伝えるように遣いを出していたことが裏目に出ていた。伝言を頼まれた侍女はギルドに着き受付嬢に緊急の要件があると伝えたがその際にアレンの遣いで来たことも伝えたのだ。

 それ自体に問題はなく、むしろ当然の事なのだがタイミングが悪過ぎた。ギルド長暗殺犯(死んでいない)が誰かを一部の真面な職員が探し出そうとして真っ先に思い浮かんだのが直前にロイマンと会っていたその侍女だったのだ。

 

 最初に対応した職員は彼女がアレンの遣いで来たと言っていたことを覚えており、しかも彼はリヴェリアを殺害した犯人(何度も言うが死んでいない)。

 

 よってギルドはアレンをハイエルフ(死んでいない)並びにギルド長(職員が放置しているから気付いていないだけであって死んでいない)の殺人犯と認定した。

 

 ───完全に冤罪である。

 

 だがそれを知る由も無いアレンは更に苛烈になってきたエルフ達の攻撃から逃げていた。

 

「チビ猫てめぇ、リヴェリア様だけで無くあのデブまで!」

「あんたには人の心が無いの?!」

「リヴェリア様とロイマンを同時に、しかも両方お酒で殺すなんて・・・!!」

「ロイマンと同じ扱いなんてリヴェリア様に失礼過ぎますわ!!」

「ロイマンの方は『男殺し』の寝屋に放り込むなりオークの餌にするなりもっと相応しい方法があっただろう!!」

 

「「「「そうだ、そうだ!!」」」」

 

「・・・いや、そもそも殺してねえしお前等どんだけあのデブエルフのこと嫌ってんだよ」

 

 何かとウザいが少しは優しくしてやるべきだったかと思わず憐れんでしまう程、エルフ達のロイマンへの扱いは酷すぎた。

 

 そしてチビ猫って言った奴、覚悟は良いな。

 

 殺意が導くまま再び転がっていた酒瓶を拾い上げ、全力で投擲しようと構えるアレン。

 そこに───

 

「あら、アレン?そんな所で何をしてるの?」

「ッ!フレイヤ様」

 

 探していた神、フレイヤがひょっこりと顔を出した。

 

 更に

 

「ようやっと見つけた。自分ら少し落ち着き・・・って、色ボケ!何をやっとるんやお前は!?」

 

 神ロキがファミリアの団員を引き連れてやってきた。

 

「あらロキ。何って散歩してたら何だか騒がしかったから見に来たんだけど?」

「自分んとこの子らがお前を探して危うく大抗争が始まる所やったんやぞ!!」

「え?何それどういうこと?」

 

 そして始まるロキからフレイヤへの事情説明。何だか良く解らないが取り敢えず最初の目的は達成できたと一息ついたアレンだが、ふとエルフ達からの攻撃が止んでいることに気が付いた。

 代わりに何故か撲殺音と悲鳴が聞こえたので先程とは違う悪寒を感じながら振り向くと

 

「てめぇ等ああああああ!!よくも団長の話を無視しやがったなああああああ!!全員その無駄に長い割に機能してねぇ耳を引き千切ってやるからそこに並べええええええええええ!!!!」

「ちょっ、ティオネ?!」

「ぜ、全員退避!!【怒蛇】が襲ってくるぞ!身を守れ!!」

「誰がてめぇ等なんぞ襲うか!私が襲うのは団長だけだゴルァアアアアアアア!!!」

「いや、襲うの意味が違うよ!?」

「あ、【大切断】!頼むからそのアマゾネスを止め、ギャアアアアアアアアアーーー!!??」

 

 悲報、【怒蛇】がエルフ達を鏖殺しそうな件について。

 

 思わず自分のキャラではない台詞を思い浮かべてしまったが、それぐらい酷い光景が目の前に広がっていた。

 妹の【大切断】が必死で止めようとしているがスキルが発動しステイタスに補正が入った姉は止まらない。

 悲鳴が響き、エルフが吹き飛ぶ。

 

「ちょっ、【女神の戦車】!止めるの手伝ってこのままじゃ死人が出ちゃうから!?」

「っ?!ふざけんな、何で俺が・・・」

「この場で唯一のレベル6だからに決まってるでしょ!あとそもそもの原因はフレイヤファミリアが暴走したからじゃん!」

「暴走したのは他の連中で俺はそれを止めようとしてただろうが!寧ろ何でてめえ等こそあの馬鹿共と戦ってたんだよ!?」

「けどここまで騒ぎを大きくしたのは【女神の戦車】でしょ?!何がどうしてリヴェリアとロイマン殺害犯になってんの!?」

「んなもん俺が知りたいわぁああああああああーーー!!!」

 

 いつの間にかティアナ対アレンの口論が始まっていた。当然その間ティオナを止める人間は誰もおらず、エルフ達は次々に空を舞う。

 

「っという訳や、解ったか?」

「私の脱走が原因なのは解ったわ。けどこんなことになったのは予想外よ。神々ですら見通すことの出来ない未知ね正しく 」

「上手いこといったところで自分の責任っちゅうことに変わりは無いからな?ちゅーか自分の子、あんなキャラやったっけ?」

「アレンのこと?あの子は表に出さないだけで元々あんな性格よ。妹のこともとても大切にしてるしね」

「シスコンとツンデレ両方の属性持ちっちゅうことかい。端から見るとおもろいけど本人めっちゃ苦労してそうやな」

「解る?そういう所が気に入ってるのよね」

 

 一方主神達は何故か会話に花を咲かせている。

 

 結局この騒動は正気に戻ったオッタルと意識を取り戻したリヴェリアがフィンと共に駆け付けてエルフ達に事情を説明するまで収まることは無かった。

 なお、ロイマンについてはギルドにリヴェリアの事を説明に行くついでにガレスが現場検証をしようとした所、実は生きていたことが発覚。

 誰もがホッと一息ついて頭がある程度回るようになったところで今回の騒動を振り返る。原因はフレイヤファミリアであることに間違いは無く、オッタルを含めた幹部達もそれを認めていたが1番真面に対応していて被害を被ったのがフレイヤファミリアの副団長という現実。

 

 ギルドへの報告に暴走した団員達の鎮圧。やっていることは正しく、責任を果たしている。だがその対応が今回の騒動を引き起こしており、処罰しなければ体面が悪い。

 

 だがそれで処罰した場合じゃあどうすれば良かったと聞かれれば誰も答えることが出来ない。更に言えば今回1番被害を受けた人物が誰かと言えばアレンであるとしか言えないのだ。

 

 ちなみにフレイヤはテヘペロで誤魔化そうとしてロキの鉄拳を喰らっていたが取り合えずそれで罰を受けたということになった。

 

「今回の騒動の責任を取る奴と方法を決めろだ?」

「そうだ、駄猫」

 

 ギルド職員全員で悩んだが結局結論が出ない為、最大の被害者であるアレンに処分を任せることになる。というよりかつて無い程激怒したロイマンがギルド職員全員に大量の仕事を押し付けてディアンケヒトファミリアに入院したため手が回らなくなり、それを見たへディンが出した提案に賛同した結果そうなった。

 

「大変不本意だが今回貴様以外の幹部は私を含めて全員等しく何も対応出来ておらず騒動の原因を担ってしまったからな。だがロキファミリアは私達が何かの作戦中だと誤解して襲い掛かってきたし、エルフ達も詳しい事情を確認もせず貴様を襲撃し続けた」

「それで?」

「ならばいっそ今回1番被害を受けた貴様が沙汰を下すべきだと判断したのだ。ギルドもろくな対応を出来ていなかったから全てが終わってからしゃしゃり出てきた所で誰も納得しないだろう。だから大変不愉快だが我々への沙汰を貴様が決めろ、駄猫」

「・・・」

 

 正直面倒臭い。朝から異常な光景を目にし、暴走する団員達を鎮圧し、幹部全員が放棄した責務を果たした上にエルフ達からの数時間に及ぶ襲撃───。

 はっきり言ってもう帰って休みたかった。何ならフレイヤ様から特別に暫く休日を頂いたので久し振りに妹の顔を見に行くついでに豊穣の女主人で美味い飯を食おうと考えていたのに最後の最後で面倒な仕事が来やがった。

 

 この時アレンは疲れていた。一刻も早い休息を求めている脳は騒動を起こした連中1人1人に与える罰を考えることを拒んだが無罪放免はそれはそれでむかつく。

 何より今朝からずっと抱いていた怒りが再燃してきたのでここはいっそ全責任を1人に負わせて終わらせようと考えた。

 

 そしてその1人。責任を負うべき奴は既に決まっている。今回の騒動で他よりも明らかに罪が重い奴がおり、しかも反省する様子もなくすました顔でさも自分は働きましたよと言わんばかりの態度の奴が。

 

「解った。なら今から俺がすることに文句はねぇな」

「?当然だろう、提案した私を含めてこの結論に異存は無い。しかしオラリオの住人を納得させる理由はちゃんと述べろ。そう出ないと後々面倒なことになるからな」

「安心しろ、絶対に納得する」

 

 そしてアレンは、右手に握りしめたままだったそれを振りかぶる。それを見たへディンはぎょっとした表情でアレンを制止した。

 

「待て駄猫。貴様、その酒瓶をどうするつもりだ」

「決まってんだろ、こいつでぶん殴って罪を清算させる」

「だから待て。私の話を聞いていたか?レベル6の一撃等オッタルや【重傑】でもなければ耐えられんぞ。それだけの制裁を下すなら理由を述べてからにしろ。というかそもそも誰に対してするつもりだその制裁は。今回の関係者全員にするというのならそれは流石に「何言ってやがる」やり過、?」

 

 

 

 

 

「こいつで頭かち割られんのは、1番罪が重いてめぇだけだ白エルフ」

 

 

 

 

 

 ───空気が凍った。

 

 面白そうに見ていた女神二人も、罰を受けることに納得出来ていないロキファミリアにエルフも、自分達の過ちを認めながらもアレンに制裁されるのは心情的にむかつくと思っていたフレイヤファミリアも、遠巻きに見ていたオラリオの住人達も、全員が。

 

 据わった目で酒瓶を振りかぶり、自らのことをチビと呼んだエルフをぶっとばした時よりも殺意を漲らせているアレンを見て悟った。

 

 ───こいつ、マジでヘディンの脳天をかち割ろうとしてやがる、と。

 

 当然焦ったのはへディンだ。

 必死にアレンを止めようと滝のような冷や汗を流しながら話しかける。

 

「待てマテまて、何で私だけなんだ?私をやるなら他の幹部達も同罪だろう?!」

「(なんかこっちに飛び火したっていうか止めてよ不可だよ今のあいつの殺意向けられるとか想像しただけで怖いよ森に引き籠もりたいよというかもうこの時点で怖いよ助けてフレイヤ様膝枕で俺を癒やして下さいっていうかむしろ俺に膝枕をさせて下さいお願いします───!!!)」

「むぅ(必死だなへディン。だがまぁ確かに言ってることは正しいな。寧ろ団長である俺は同罪とはいえ1番重い罰を受けるべきだろう)」

「(あの眼鏡、巫山戯んな!)」

「(異存は無いとかほざいてたのはどの口だ!)」

「(とゆうかあの猫、ミアと同じくらい怖くないか?)」

「(不本意ながら同感だ)」

 

「「「「「「それはそれとしてこっちを巻き込もうとするんじゃねえよ似非インテリ!!!」」」」」」

 

 

 何やら外野がうるさいが、目の前の白エルフに制裁を下すことは決定している。ごちゃごちゃと騒いでいるが安心しろ、理由は今から話す。

 

「てめぇの罪は三つだ。先ず一つ、幹部でありながらろくな対応をせず騒動を起こしたこと。これは他の連中も同様だからそれは良い」

「三つだと?」

「そう、そして二つ目はガリバー兄弟を隙あらば殺そうとしていたこと。あの時てめぇはそんなことせずにさっさとアマゾネス共をぶちのめすことに全力を注いでいれば【剣姫】の風にガリバー兄弟が不意を突かれることは無かったんだよ」

「ちょっと待て、それならヘグニも同罪だろう!?私と一緒にあの四つ子を隙あらば始末しようとしていたしリヴェリア様が倒れられた後共にあいつらを消し炭にしたではないか!!」

「(いぃぃやぁぁああああーー!??止めて、俺を巻き込まないで確かに俺もあの時それしたよ?けど言い出したのはへディンじゃん!?納得した俺も俺だけど罪の重さで言ったらへディンの方が重いよね?そうだと言ってお願い副団長俺にその禍々しい殺気を向けないで!!??)」

「むぅ(言われてみれば確かにそうだ。それにフレイヤファミリアでは当たり前だが同じファミリアの団員同士の殺し合いは普通禁止だったな。俺達ならともかく他の連中にはその理由で納得させられるな)」

「(おいクソ眼鏡、貴様やはりあの時我々を殺そうとしていたな)」

「(とゆうかあれへディンが提案したのか。まぁ確かにヘグニは何だかんだで常識あるからあの場面で我々を仕留めようとしてくることに違和感はあったが)」

「(ヘグニもむかつくがへディンはもっとむかつくな)」

「(猫の言う通り確かに我等よりエルフコンビの方が罪は重いな)」

 

 

「「「「「「それはそれとして、良いから罪を認めろ」」」」」」

 

 

 確かにヘグニの罪も他の連中より重いなと思ったが、それはそれ。制裁を下すのは最も罪が重い1人だけと決めたのだから脳天をかち割るのはへディンだけだ。

 

 この時アレンは少しだけヘグニに視線を向けた。それにビビったヘグニだが直ぐに視線はへディンに戻った為、安堵のあまり涙目になりながらその場にへたり込んだ。

 

「最後、三つ目の罪だがてめぇ俺がエルフ共に襲われる原因を思い出してみろ」

「そ、それはリヴェリア様が倒れられたか「違ぇよ、あの時叫んだことを思い出せ」ら、?私が叫んだこと?それは勿論覚え───あ」

 

 へディンの優れた頭脳は瞬時にあの時の記憶を思い出していた。

 

 ───駄猫、貴様よくもリヴェリア様を!!!

 

「───思い出したな?あの時てめぇがあんなこと叫ばなければ俺はエルフ共に襲われなかったんだよ」

 

 酒瓶を投げたのはアレンだがそれをアイズに弾き飛ばしたのはオッタル。それを割ったのはフィン。中身を飲んで風を起こしガリバー兄弟の体勢を崩し武器を吹き飛ばしたのはアイズ。

 だというのに、へディンはまるでアレンだけが原因であるかのように叫んだのだ。

 

 他にも原因がいるとあればエルフ達も少しは話を聞こうとしたかもしれないが、へディンの叫びを聞きアレンだけが原因であると勘違いしたためフィンの言葉に聞く耳を持たない凶戦士とかしたのだ。

 リヴェリアから真実を教えられた彼等彼女等は流石に申し訳なさそうな顔でアレンを見ていた。

 

「納得したな?つーわけで」

 

 呆然としたへディンに向かって

 

「くたばれ似非インテリエルフがぁぁああああーー!!!!」

 

 酒瓶は、振り下ろされた。

 

 この時、実はへディンには少し余裕があった。

 まず1つ、アレンの力ステイタスは其処まで高くないこと。そしてもう一つは、アレンが振りかぶっていたのがただの酒瓶だったことだ。

 

 第1級冒険者とはいえ敏捷特化ステイタスな上、金属製ですら無い酒瓶の一撃など食らったところで高がしれている。

 

 馬鹿めこれだから学のない駄猫はと内心で罵倒していると、ふと不穏な会話が聞こえてきた。

 

「ゴブニュ様、あの酒瓶って確かディオニュソス様からの依頼で作った『不壊属性』の奴では?」

「うむ、そうだな。しかも確かあれは面白半分で作った最硬金属製の奴で重量も確かそこそこあったな。そういえばあの瓶に入れて熟成したワインがどんな味を出すのか実験すると言っていたが、その場所がこの近辺にあったディオニュソスファミリアの酒蔵だったか」

「・・・あの、それで頭ぶん殴られたら」

「・・・少なくとも零能の儂等は死ぬし同じレベル6でもまあ多分」

 

「(酒瓶なんぞに『不壊属性』を付与するな無能共ぉぉおおおおおーーーー!!!!)」

 

 ゴシャッ!!

 

 ───果物を叩き潰したような音を立ててへディンは沈黙した。

 

 ついでにその場にいた全員も沈黙した。

 へディンと同じく高が酒瓶の一撃なら死ぬことはないだろうと楽観視していた者達もゴブニュ達の話を聞いていたのか顔を真っ青にしている。

 

 アレンが振り下ろした酒瓶はへディンの頭と接触した衝撃で栓が抜け、中身の液体が溢れていた。

 崩れ落ちるへディンと降り注ぐ赤ワイン。

 

 この日3度目のエルフ殺害事件が勃発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、この時怪我人はいないかと念の為様子を見に来た聖女がいなければへディンの命は尽きていたかもしれなかったことは余談である。

 

 

 

 

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