美神の副団長は苦労人   作:金鳥

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こうして彼等の運命は変わった2

 

 海上学術機関特区、通称学区。

 世界中を飛び回る浮遊艦でもあるそれは、元々は海上要塞であった為かなり頑丈だ。

 三大クエストの一角、海の覇王リヴァイアサン討伐にも使用された実績もあり更にはレベル6の団員もいることからまさしく難攻不落の要塞と称されている。

 

 だが学区の誇る難攻不落神話は今、脆く崩れ去ろうとしていた。

 

 

「競技場並びに鍛冶クラス教室等のメイン施設、3割が壊滅!」

「レベル2の生徒で臨時編成された5人小隊も撃退されました!」

「レベル4以上の教師を付き添いにし、レベル2以下の生徒は緊急用シェルターに避難させろ!」

「レベル3以上の生徒は必ずペアを組み行動!戦闘は避け取り残された生徒がいないかの確認と避難誘導を行わせろ!」

「監督生達は重要機関の見張りへ回れ!付き添いには参加しない教員で戦闘が得意な物はレオン先生の指揮の下、襲撃者の撃退に専念しろ!」

「襲撃者はたった2人だが確実に第一級冒険者クラスだ、油断するな!」

 

 たった2人。そう、たった2人の無法者によって学区は今崩壊の危機に陥っている。

 これには誰もが驚愕したと同時に恐怖に震えた。

 下手人はたった2人で世界に誇る学区を攻め落とす気なのだと。 

 そして何よりそれを実行出来てしまうであろう戦闘力に慄いた。

 

 だが、彼等にも矜持はある。

 オラリオの冒険者とは違い世界中の紛争、モンスター討伐を成し遂げてきたという自身と誇りが彼等を掻き立てた。

 

 油断はしない。

 相手の戯れ言に耳を傾ける等以ての外。

 そんな隙を見せたら確実にやられると確信している。

 

 故に・・・

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

「───いや、だから俺はフレイヤ様に言われてイズン様に届け物を持って来ただけって言ってるだろうが!!??」

「私も、同じくイズンとやらに用があるのだが・・・なんだこの騒ぎは?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───襲撃犯、もとい【女神の戦車】アレン・フローメル並びに【静寂】のアルフィアの主張は全く聞き入れられず武器を向けられ続けるのであった。

 なおこの2人、ちゃんと先触れを出しておりその際に今回の訪問理由も手紙に記載している。

 

 何がどうしてこうなったと苛つきながら襲い掛かる教員と生徒を蹴散らす2人。

 ここに、過去最強2大派閥の片割れファミリア団員と現最強2大派閥の片割れファミリア団員による異例のタッグが結成された。

 

 

 

 

 

 

 ・・・いや、なんで?

 

 

 

 

 ◆遡ること、半月前。フレイヤ・ファミリア副団長室

 

「学区への遣い?」

「ええ、そうよ」

 

 一ヶ月後の遠征に備えて各種必要物資の手配と遠征期間中の書類仕事に追われていたアレン。

 そこに主神であるフレイヤ様が来訪された為、自分の休憩も兼ねて茶を淹れることにした。

 茶菓子は女神デメテルから貰った野菜クッキーを出す。

 

「どうぞ」

「ありがとう。・・・あら、これ美味しいわね」

「茶葉も茶菓子もデメテル様から頂いた物ですが、流石の一言に尽きますね」

「そうね・・・それで、本題なのだけれど」

 

 カップをソーサーに戻したフレイヤがアレンを訪ねた要件を話し始める。

 オラリオから第一級冒険者を派遣して欲しいと学区から要請があった。

 それを受けたギルドは諸々の事情を考慮して【女神の戦車】が適任だと判断し、ロイマンから直接フレイヤに依頼が来たとの事。

 

「なんで俺が・・・しかもこのクソ忙しい時に」

「まぁそうよね」

「しかもなんで第一級冒険者が必要なんですか?向こうには猪野郎と同じレベル6がいますしそもそも俺達の事を嫌ってる餓鬼共ばかりでしょう」

「それなんだけど、どうも生徒達の意識改革の為に来て欲しいみたいなのよ」

「?どういうことですか?」

「どうも最近苦戦らしい苦戦をしなくなって増長する生徒が増えてきたみたいでね、威張り散らすような事はしないけど向上心が薄れてきてるみたいなの」

「あー、そういう事ですか」

 

 心底呆れたと表情に出るアレン。

 それを見たフレイヤもまぁそうなるわよねと溜息を吐いた。

 

「向こうからはオラリオの冒険者(俺達)は世界の危機に無頓着な野蛮人だと見られていたと記憶してるんですが・・・」

「私もそうね。逆にここの子達は彼等をいけ好かない奴等って思ってるわね」

 

 再度溜息を吐いて一人と一柱は言い切った。

 

 

「「クソ下らねぇ/下らな過ぎるわね」」

 

 

 確かにオラリオの冒険者は都市外の紛争、モンスターの被害に対処することは滅多に無い。

 だがそれは別に都市外の事に無関心だからでは無く、自分達が更なる混乱の切っ掛けになることを防ぐ為だ。

 そもそもオラリオはあらゆる道具の燃料になる魔石を都市外に販売して富を得ている。

 もし仮に冒険者の都市外への行き来が簡単に出来る場合、特定個人や国家に密貿易する者が出る可能性があるのだ。

 加えてオラリオの冒険者は強い。

 戦力的に申し分なく、莫大な富を得られる可能性が目の前に転がっていて逃すような悪人はまずいないし相応のメリットを提示されて彼等の誘いを受ける冒険者が出てしまう可能性は残念ながら否定できないのである。

 

 

「てことは要するに図に乗った餓鬼共の鼻っ柱をへし折りに行って来いと」

「いえ、違うわよ?」

「?」

 

 気に入らない仕事をさせられるのかと思いきや、違うらしい。

 フレイヤ様は小包を取り出すとそれをアレンに差し出した。

 

「貴方にお願いしたいのはこっち。これをイズンに届けて欲しいのよ」

「これは確か・・・ああ、なるほど。出来上がったんですね」

「そうよ。アレンにも付き合って貰った甲斐があって最高の出来栄えだわ」

 

 ギルドからの要請は当てがあるから大丈夫よ、だからお願いね。

 そう告げるフレイヤ様に、アレンは頷いて了承した。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・まあ、この書類終わらせないとそもそもオラリオどころか執務室から出ることすら無理なんですけどね」

「・・・えっと、」

「今から不眠不休で頑張れば日を跨ぐ頃には一段落着いて他の奴等に引き継いでも問題無いので、安心して下さい」

「その、ごめんね?食事はミアの店から取り寄せてここに運ばせるわ」

「いえ、何時ものことなので。むしろお気遣いありがとうございます」 

 

 アレンの背後に聳える書類の山々を見てフレイヤ様は流石に申し訳無さを感じた。

 当のアレンが「いつも通りですけど何かおかしいですか?」と本気で思っているのが尚更居たたまれない。

 事務要員、早急に増やそうかしらとフレイヤ様は本気で考えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで今から学区に向かうとなると俺の脚でも半月位掛かりますけど、これそれまで保つんですか?」

「ヘルメスにお願いして【万能者】に作らせた保存用魔道具を使ってるから大丈夫よ」

 

 哀れアスフィ。

 他ファミリアなのに扱き使われて徹夜5日目に突入。

 もし出来なかったら魅了でちょっとね?正気を失って一生物の黒歴史が出来るかもしれないけど解るわよね?という脅迫に逆らえず文字通り死ぬ気で頑張った。

 そして、現在入院中である。

 

 なお、フレイヤ様はちゃんと代金を色を付けて多目に払ったのだがヘルメスが全て使い込んだというのを退院日に知り再入院する羽目になるのは余談である。

 

 

 

 

 ◆

 

 

「・・・という訳で俺はここに来たんだが、あんたはどうしてこんな所に来たんだ?フレイヤ様やオッタル、何ならロキ・ファミリアの奴等から聞いた限りだとこういう騒がしい場所嫌いだろ?」 

「貴様の主神から聞いていないのか?」

「フレイヤ様から?」

 

 現状を把握する為、取り敢えず情報を交換するアレンとアルフィア。

 次々に学区の教師と生徒が襲い掛かって来るがそこは第1級冒険者、余裕を持って迎撃しながら会話を交わし合う。

 

「貴様が受ける筈の依頼を私が代わりに受けたのだ。雑音響く場所には来たくなかったが、報酬として神イズンが持つあるアイテムの情報を前払いで貰ったのでな」

「あるアイテム?・・・というかこの騒動ってもしかして」

「餓鬼共の鼻っ柱をへし折るという依頼だったのでな、少々派手にやらせて貰った。当初はもう少し穏便にやるつもりだったが、無礼な餓鬼がいたのでな。まぁ最も、予想外の事態が起きて喧しくなってしまったようだが」

「(これが、少々?)」

 

 アルフィアの魔法で吹き飛ばされる生徒達とついでに教師。

 壁、床、天井を問わず次々と量産されていく穴と瓦礫の山。

 どう見ても模擬戦では無くガチの侵攻である。

 

 アレンは激しくツッコみたくなったが、下手な事を言えば自分も被害者の仲間入りすることは目に見えているので忘れることにした。

 

 

 

「・・・ところで貴様、神イズンに毒を盛ったとはどういうことだ?別にイズンとやらがどうなろうと知った事では無いが、私が欲しているアイテムが手に入らなくなったらどうするつもりだ?」

「いや、それは俺が聞きたいんだが。俺はフレイヤ様からの届け物を渡しただけだぞ?」

 

 困惑するアレンには本当に心当たりが無いのだろう。

 アルフィアにもそれが解ったので溜息を吐くしかない。

 フレイヤはアルフィアにとっていけ好かない神の1人だが、毒を盛るような性格では無いことを知っていた。

 つまり何者かが女神イズンに毒を盛ったのだろう。

 アレンが届け物をし、自分が依頼通り襲撃した後のタイミングで行ったということはつまりそれは今日自分達が来ることを知っていた人物で罪を擦り付けようとしているという事だ。

 

「全く、舐めた真似をしてくれる」

 

 この程度で私を倒せると思っているのか、もしくは私の名誉を地に落とそうとしているのかは知らんが良いだろう。

 自分が誰に喧嘩を売ったのか解らせてやるとアルフィアは決意した。

 

 

 

 

 

 

 

  

「・・・ところで届け物とは何だ?」

「アップルパイだ、フレイヤ様特製の」

 

 俺も味見に付き合ったと言うアレンはこちらに突撃してくる教師を弾き飛ばし、そのまま突撃し返した。

 アルフィアもフレイヤの料理の腕前を全く知らないのでその台詞に全く違和感を持たなかった為、勘違いは続く。

 

 アルフィアとアレンを嵌めた奴などいないと気が付かないまま、アルフィアもまたアレンと同様に敵を殲滅するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

「これは、一体どうしたものか・・・」

 

 学区が誇る最高戦力レオン・ヴァーデンベルクは頭を抱えていた。

 今回のアルフィアによる襲撃は彼の発案によって行われたのだが、まさかこうなるとは予想外である。

 モンスターが蔓延り、イレギュラーが日々起こるダンジョンから冒険者を離す訳にはいかないオラリオの現状や世界の危機よりも自国の利益を求める国々による冒険者の勧誘、取引の誘い等々の理由で彼等が都市外に目を向ける余裕が無いことをレオンは把握していたが、生徒達の大多数はそうでは無い。

 

 むしろオラリオの冒険者を蔑む生徒の方が多く、一応それなりの修羅場を超えてレベルアップもしてきたことが彼等を増長させていた。

 確かに実力はあるのだが、本当に危なくなれば即座に自分達が助けられるように備えていたし超えられないような修羅場にはそもそも近付けないように調整していたので生徒達は冒険者とは違い未知への対処法が全く身に付いていないのだ。

 

 これではマズいと判断したレオンは生徒の成長と彼等の冒険者に対する認識を変える為、ギルドに内密で依頼をしたのだった。

 

「だがまさか、彼女が来るとは・・・」

 

 【静寂】のアルフィア。

 レオンは彼女の事を知っていた。

 学区とは元々彼女達ヘラ・ファミリアが海の王者リヴァイアサンを討つ足場として建造された物だ。

 レオンはかつての光景を、アルフィアがリヴァイアサンを討伐したその瞬間をよく覚えている。

 何なら彼女に対して憧れを抱いてすらいた。

 

 だからこそ、ヘラ・ファミリアが黒竜に敗北し壊滅状態に陥ったと聞いた時は我が耳を疑った。

 同時に、あれ程強い彼女達ですら叶わない黒竜の脅威に情けないが恐怖を感じたのである。

 

 ・・・その後すぐ聞こえてきたアルフィアによる磔刑騒動を聞いてそんな恐怖すぐに塗り替えられたが。

 生きていて良かったという安堵と共に、そう言えば彼女はあのヘラの眷属だったなと実感した。

 オラリオを追放されたと聞いた時は彼女の病の事もあって最早会うことは叶わないだろうと思っていたのだが───。

 

「病とは何だったのだろうな・・・」

 

 思わず遠い目をしてしまうレオン。

 

「『福音』」

「「「「「「ぐわぁぁああああああああッ!?!?」」」」」」

 

 彼女の魔法一撃で教師と生徒が吹き飛ぶ。

 学区の至る所に穴が空く。

 

 これが病人とか冗談だろ、全世界の病人に謝罪しろなどと思わず口にしてしまいそうになりながらもグッと堪え剣を構える。

 これでも学区の最高戦力であるレベル6。

 いかに彼女がレベル7であれ生徒達の手前そう易々と負けるわけにはいかない。

 何より、レオンにとってもこれは成長するチャンスでもある。

 

「レオン先生!」

「アリサ、下がりなさい。彼女の相手は私がする」

「で、でも・・・!」

「良いから下がりなさい。大丈夫、私は負けるつもりは無い!」

 

 自分を慕う生徒を下がらせアルフィアと向き直った。

 彼女はレオンを見てああ、お前かと懐かしそうに口を開いた。

 

「久しいな悪童。リヴァイアサン討伐戦に紛れ込んでいたお前が随分と成長したものだな」

「お蔭様で、元気にしていますよ。今は教師として彼等を導く立場です」

「お前が教師?・・・ふむ、どうやら少しは見所がありそうだな。少なくともロキやフレイヤの所の連中よりは真面に後進を育成していると見える」

「お褒めに預かり光栄です。ところで、何故これ程の騒ぎを起こしたのですか?こちらからの依頼はあくまでそこそこの騒動を起こして頂き生徒達の意識を変える切っ掛けを作って欲しいという物だった筈ですが?」

「一応言っておくが神イズンについては知らんぞ?むしろそいつに用があるついでにフレイヤの仲介で依頼を受けて来ただけだ。奴の眷属であるあの猫も奴に頼まれて菓子を届けに来ただけのようだしな」

「ふむ・・・貴方は嘘をつく性格では無いのでイズン様については本当に知らないのでしょう」

「あの猫が届けた菓子もあの女神が作ったものではあるが、奴は気に食わない相手であろうと毒を盛るような性格では無い。ましてそれが態々眷属に味見させてまで作った物なら尚更だろう」

「・・・あの、今もしかしてフレイヤ様が作った菓子と仰いました?」

「そうだが?」

「・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(いやそれ明らかにその菓子が原因ー!!オッタルからも愚痴られたし1度見せて貰ったことがあるけど明らかに食べたら駄目な奴だろう!?)」

 

 

 レオンは内心でツッコんだ。

 滅茶苦茶キャラ崩壊してるが、何とか表に出していない。

 生徒達は避難していてここにいないがこんな状況で醜態を晒すわけにはいかなかった。

 

 

「恐らく私達を嵌めようとした下種がいるのだろう。今日私達がここに来ると知っている奴等を一通り尋問しておけ」

「あ、いえ大丈夫です。イズン様が倒れた原因解りましたし貴方達を嵌めようとした奴はいません」

「何?どういうことだ?」

「えーと、ですね?」

 

 レオンは話した。

 神フレイヤの料理の腕前が壊滅的なこと、それは第1級冒険者ですら耐えられず昏倒間違い無しの劇物であるということ等々全て。

 レオンが話し終わる頃、アルフィアは頭が痛そうにしていた。

 

「なんだそれは?つまりフレイヤの作った菓子が不味すぎた故にイズンは泡を吹いて倒れたので毒を盛られたと勘違いしたと?」

「ほぼ間違い無くその通りかと」

「く、下らん・・・やはりあの神にゼウスとヘラの後釜を任せるのは失敗だったか?」

 

 心底下らな過ぎると憤るアルフィア。

 さもあらんとレオンも彼女に同意した。

 

「・・・いや待て?あの猫は確かその菓子を味見したと言っていたぞ」

「・・・そう言えばそうでしたね。───え、あれを?」 

 

 アルフィアに言われてレオンも思い出したが、あれを味見していたという事実が異常すぎて思わず呆けてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ところで悪童。牛人の小僧が私の胸を見てゼウスのような反応と台詞を吐いたので思わずやり過ぎてしまったが、どういう教育をしている?」

「誠に申し訳ございません!?」

 

 レオンは恥も外聞も無くその場で土下座した。

 彼の脳裏では巨乳好きを堂々と公言する1人の生徒の姿が浮かんでいる。

 確かにアルフィアもスタイルは良い方だがそこまで見境無しかお前。

 とゆうか1人だけやけに重症だったのはそういうことか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「謝罪はいらん、死ね『福音』」

「ですよね、知ってましたぁああああ゛あ゛!!」

 

 

 土下座態勢から瞬時に飛び起き、全力回避。

 改めて剣を構え、必死になってアルフィアの魔法を避け捌き隙を見て反撃する。

 声色、表情に変化は無いが普段疲れるからと閉じられている目は開かれており、彼女がキレていることをレオンは理解した。

 

 死因が生徒のセクハラとか笑えない。

 絶対に、絶対に!!死ぬわけにはいかないとレオンの闘いが始まったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「か、格好いい・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ある日のフレイヤ・ファミリア

 

 オッタルは吐き気を堪えながらホームの廊下を歩いていた。

 つい先程までシル様の護衛をしていたのだが、その際に彼女が作った料理を味見することになり疲労困憊状態となったのである。

 正直食べたくは無かったが女神への愛と忠誠に背く訳にはいかないので意識が危うく天に召されかけながらも何とか完食したのだが流石に真面に護衛を続けられる状態では無かったのでヘディンに引き継いで帰ってきたのだ。

 

 早く自室に戻って休みたいと歩を進めていると、曲がり角の先からアレンが出てきた。 

 

「オッタル、何でお前がホームにいるんだ?フレイヤ様の護衛はどうした?」

「体調が優れないのでヘディンに引き継いで休みに来た」

「体調不良?テメェ、団長の自覚あるのか?」

 

 アレンの言うことは最もだが、オッタルはイラッと来た。

 お前はあの方の料理の味を知らないからそんなことが言えるのだと思わず怒鳴ろうとして

 

 

「・・・いや待てアレン。お前、その手に持ってるのは何だ?」

「あ?何って、今日の昼飯だが?」

「ひる、めし?それが・・・?」

 

 アレンが手にしていたのはパイのような物だった。

 こんがりと綺麗な焼き目が付いていてパイ自体は美味そうだ。

 

 

 

 

 

 

 ・・・だが、その表面には小さい顔が大量に埋まっていた。

 恐らくパイの具材となったナニか達は苦悶の表情を浮かべながらパイに取り込まれている。

 はっきり言おう、かなり怖い。

 

 

「お、おまえ・・!?」

「?なに驚いてんだ、見た目は変わってるが普通の食い物だぞこれ(アップルパイ)」

「それ(明らかにモンスター)が!?」

 

 この時、彼等の間に大きなすれ違いがあった。

 だがそんなことには二人とも気が付かず会話は続く。

 

「昼飯として食うのは珍しいかもしれねぇけど、好物だからなこれ(アップルパイ)。ガキの頃はよく買って食ってた」

「(モンスターを)狩って食ってた!?」

「おう、まあガキだったから苦労したがな(小遣い稼ぎという意味)」

「(狩るのに)苦労してまで食っていたのか(モンスターを)」

「好物だからな」

 

 すれ違いに気付かぬまま、アレンは手にしたパイを一囓り。

 パイにあるまじき、肉と骨を噛み砕いたような音を立てながら咀嚼する様をオッタルは呆然と見ていた。

 苦悶の顔を浮かべていたそれは囓られ、断面からどす黒い赤色の液体をポタポタと垂れ流しながら鉄の臭いを漂わせる。

 

 吐き気がぶり返したオッタルは口元を抑えながら急いでその場を立ち去った。

 

 

「あいつ本当に体調が悪かったのか?遠征用のポーションのついでに良い薬があったらアミッドに頼んで調合して貰うか」

 

 そのままパイを食べ切ったアレンは執務室に戻り普通に仕事の続きに勤しみ、夜になって帰って来たフレイヤ様にアップルパイの感想を伝えるのであった。

 

 

「見た目はユニークで面白かったですけど人を選ぶのでやはり普通の見た目にした方が良いと思います」

「そう、解ったわ。彼女にも伝えてまた明日一緒に作るから試食お願いね?」

「かしこまりました」

 

 

 ◆

 

 とある猪の誤解を招き、アレンによるアドバイスによって改良されたそれは確かに見た目は普通のアップルパイだった。

 苦悶の表情のような皺が浮かぶまで煮込んだ小玉リンゴは細かくカットされて中の具材になった。

 元々パイの焼き方自体は完璧と言って良かったので香ばしく甘い香りを漂わせるそれは食欲をそそって仕方が無い。

 

 故に、神イズンは神友からの贈り物という事と自分が司るリンゴのパイということもあって喜んでそれに齧り付いてしまったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、びっくりしたわ」

 

 だが彼女は復活した。

 見た目と香りは完璧だが味は壊滅的なそれを食べて泡を吹き白目を剥いて昏倒したが自然に回復して「おはよー⭐」等とお通夜状態の生徒達に呑気な挨拶を交わして彼等を仰天とさせた。

 ついでに言えば驚き固まる彼等を尻目に自分で紅茶を淹れて残ったアップルパイらしき何かを完食して見せる始末。

 

 勇気を持って1人の生徒が恐る恐る尋ねた。

 

「あの、イズン様?それ、毒入りじゃないんですか?」

「うん?違うよ?」

「けどイズン様それ食べて倒れましたよね?」

「いやー、それが聞いてよー!これ、物凄く不味いの!あんまりにも酷くて私、つい気絶しちゃった⭐」

 

 不味くて気絶してただけ!?

 なんてややこしいというかそもそもそんな不味い物をなんで態々完食した!?

 

「一口目は流石に許容範囲外だったけど、そういう物だと思って食べればちゃんと食べれたよ⭐神友からのお土産を残すなんてアオハルじゃないしね!」

 

 女神イズン。

 色々と空気が読めていない彼女はけれども間違い無く善神であり、友達思いの人格者でもあるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    

 

 ◆騒動収束後

 

「いやー、ごめんごめん私のせいで大騒ぎさせちゃったね⭐」

「いえ、お気になさらず。大したこと無かったので」

「不快な思いはしたが貴様は関係ないので気にするな」

 

 アルフィアとアレンは女神イズンの自室に招かれてお茶を御馳走になっていた。

 騒動に関しては女神イズンが目覚めだ時点でアルフィア襲来の理由を知っていた神々と一部の教員がネタばらしをしたことで収束。

 釈然としない物はあったが、それでも多くの生徒達の意識を変えることが出来たし経験も積ませることが出来たので結果は上々と言えるだろう。

 

 なお、アルフィアとアレンは割と気が合った。

 具体的には不器用ながらも兄として妹の為に振る舞うアレンを同じく妹を持つ身であったアルフィアが気に入ったのである。

 そんな2人を見てイズンは「これもアオハル⭐」とコメントしたがアオハルとは何だろう?

 

 騒動の後始末を学区の面々に押し付けた3人のお茶会は紅茶とお菓子が美味しかったこともあって盛り上がる。

 話はやがてアルフィアの妹とその息子についての物に変わったのだが、そこで爆弾が起爆した。

 アルフィアが口にした甥っ子を預けている村の名前にアレンは聞き覚えがあったのである。

 

「それって、●●辺りにある村のことか?」

「そうだが、知っているのか?」

「ここに来る途中に立ち寄ったぞ、多分アンタの甥っ子にも会ってる」

「本当か!?」

「うわぁ、凄い偶然⭐」

 

 アルフィアは思わぬ事にらしくなく声を上げる。

 自分には会う資格等無いと思っていたし、伯母さんと呼ばれたく無いので顔を見に行くことすらしていなかったがやはり最愛の妹が残した忘れ形見のことは気になっていた。

 

 顔を見たら決心が揺らぎそうなので我慢していたが、人伝に様子を聞くぐらいなら大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベルって奴がそうだよな?アンタの甥っ子なら元気に筋トレしながら山でモンスターを狩って捌いて調理して食ってたぞ」

「「・・・え?」」

「なんでも3ヶ月くらい前にモンスターに襲われた所を助けてくれた男に強くなる秘訣を聞いたらよく食べて鍛えろって言われたんだと。そいつの憧れてる男がモンスターを食ってたかららしい(俺以外にもモンスターを食べる奴いたんだな)」

 

 幼少の頃はモンスターを食ってたアレン。

 故に他の誰かがそれをやっていたと聞いても俺と同じ奴がいるんだなぁくらいにしか思わないが他の人間は違う。

 特に、顔を見たことすら無いが甥っ子を溺愛している目の前の女は特に。

 

 ピシリ、と彼女の持つカップに亀裂が奔る。

 魔力も迸り始め、目の錯覚かわなわなと蠢いているようにも見える。

 

「あ、あのー?アルフィアさーん?」

「・・・すまない、用事を思い出した」

 

 席を立った彼女は俯いており、髪が掛かっているのでその表情は伺えない。

 だがキレている。

 間違い無く彼女はキレている。

 先程までのレオンと戦っていた時よりもキレている。

 

「うわぁ、激おこぷんぷん丸だー⭐」

「どこか行くのか?」

「ああ、少しな。腐れ縁の臙脂色の短髪で目元に傷跡がある筋骨隆々のむさ苦しい大男に用があるのを思い出した。急いで探し出して話をしなくてはなぁ・・・!」

「臙脂色の髪で傷跡のある大男?それならアンタの甥っ子がオラリオに向かったって言ってたぞ」

「ほう?それは僥倖だな」

 

 アレンとしては親切心で教えたのだが、これによりとある男に更なる死亡フラグが立ってしまった。

 

「けど今からオラリオに向かっても大分掛かるしそいつもうオラリオにはいないんじゃないか?速度特化のレベル5の俺でもここに来るまで半月近く掛かったんだぞ?」

「あ、それなら良い物があるよ!」

 

 神イズンは自室の隅に置いてあった羽の付いた船のような物を指さした。

 

「これ、錬金学科の子供達が作ったフライングボードっていう魔道具なんだけど、なんと操縦者の魔力を吸って空を飛べるんだよ!魔力を吸わせれば吸わせる程スピードが出る仕組みだから、レベル7の魔道士である貴方ならとっても速いはず⭐」

「なるほど、それはありがたいが使わせて貰っても良いのか?」

「後で使った感想を教えてくれたら大丈夫!レベル7のレビューとか凄く貴重だしね⭐」

「了解した。必ず帰って感想を伝えよう。ところで猫、お前はどうする?」

「フレイヤ様から遣いが終わったら1ヶ月は休んで良いって言われてるからな。適当な場所で久し振りにゆっくり休むつもりだ」

「そうか、ならばここでお別れだな。名残惜しいがまた会おう」

 

 そう言ってアルフィアはイズンの自室を後にした。

 ゆっくりと歩を進め、やがて小走りになり、すぐに駆け足となる。

 

 そして

 

「───ザァルゥドォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」

 

 怒りの叫びを上げながら、学区を去って行った。

 イズンから借りたフライングボードは聞いていた通りに空を飛び、その速度はアレンの疾走よりも速い。

 怒りのままに魔力をぶち込みながらアルフィアはオラリオへ向けて文字通り飛び立った。

 この速度ならばそう時間は掛からないだろう。

 

 つまり、ザルドの命は風前の灯火と化したのであった。

 

 

 

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