美神の副団長は苦労人 作:金鳥
もう1話投稿します。
クロエはアンタレスが消耗していることに気が付いていた。
モンスターも生物である以上、不眠不休で動き続けることは不可能でありそこに飲まず食わずの状態が加わればいかに強力であろうとも必ず衰えてくる。
奇しくも数日に渡って不眠不休でアンタレスをこの地に封じ込め続けたアフロディーテの奮闘が報われ、目に見えて成果が現れだしたのだ。
そうでなければこのモンスターはとっくに自分達二人を殺し喰らっていただろう、それぐらい力の差があるのだとクロエだけでなくルノアも察している。
ジリ貧ではあるが僅かながらにダメージを与えられているという状況がアンタレスの弱体化を物語っていた。
獣は空腹な時ほど恐ろしいとは言うが、裏の業界で名が轟く実力者である二人にとっては飢えで単調な動きを繰り返すモンスター程やりやすい物は無い。
消耗を避ける為に子供を産むことを辞めたことも有り難かった。
この状況で何より避けたかったのは物量差によるゴリ押し。
手数が足りなくなれば勝機は無かったが理性が薄れたアンタレスはその選択をしなかった。
故に、チャンスはある。
「そこだオラァ!」
「ついでに喰らうニャ!」
ルノアが拳を叩き込み、生じた傷口から氷の魔剣で追撃する。
どんな生き物でも低温下では動きが鈍くなり、ましてそれが飢えで弱っているのなら尚更だ。
未だに脅威であることに代わりは無いがアンタレスは徐々にだが確実に衰弱していく。
「(とはいえ、こっちの限界も近い)」
「(こっちだってギリギリの状態で戦っている以上普段よりも消耗が早い)」
だがそれはクロエとルノアも同じだ。
少しでも誤れば即座に死んでしまうだろう綱渡りの状況を何時までも続けられる訳では無い。
裏稼業に身を置いている以上忍耐に自信がある二人でも限界は近付いていた。
そろそろ賭に出るしか無い、そう腹を括った時。
「待たせたわねあんた達!可憐で慈悲深い超絶最高な美神、アフロディーテ様の御帰還よ!!」
アンタレスを押し付けてくれやがった元凶(アフロディーテ)が戻ってきた。
自意識過剰な口上、そして何より魅了まで使って死んでもおかしくない状況に巻き込んでくれやがった美神に対してイラッ☆ときた二人だが今しばき倒したら確実に死ぬので渋々と矛を収める。
何はともあれこの美神が戻ってきた以上、撤退しても問題ないと判断した二人。
命懸けの、それも金にならない割に合わなすぎる仕事なんかしねぇとアフロディーテに任せて帰ろうと考えたのは必然である。
「覚悟しなさいアンタレス!あのアンポンタン女神、アルテミスが戻ってくるまであんたを足止めシデぇヴァッ!?!?」
「「・・・え?」」
だが、それは叶わない。
突然濁った悲鳴を上げたアフロディーテ。
何事かと思わず振り向いた二人の視線の先。
目に入った光景に二人は硬直した。
矢だ。
矢が刺さっている。
惚れ惚れするほど見事なまでにど真ん中に刺さっていた。
そう───アフロディーテの尻のど真ん中に、矢が突き刺さっている。
矢が飛んできたであろう方向へ視線を移せば、そこには弓を構え如何にもたった今矢を放ちましたよという姿勢で固まっているアルテミスがやっちまったぜ☆という顔でそこにいた。
その後ろには引き攣った顔で同じく固まっているレオン。
レオンの隣にはうわぁという表情をしながらベルとレフィーヤの目を手で塞ぐアレン。
村の雑貨屋でヤバいことに気が付き全力でアフロディーテの元へ向かったアレン一行。
一応自分のせいであるので珍しくアフロディーテを心配していたアルテミスは到着するなりいつも通りのアフロディーテを見てホッとしたのだが、アンポンタン呼ばわりされた事でイラッとしてしまう。
そしてつい天界にいた時のノリでいつものように矢をつがえ、放つ。
放った矢は狩猟の女神に恥じない技量で吸い込まれるように獲物へ向かい、いつかのようにアフロディーテの尻へ突き刺さった。
そして
「・・・(白目を剥いて気絶、崩れ落ちる)」
「(理解が追い付かずポカンとしてしまう蠍)」
「(アンタレスの口の中に落下)」
「(空腹だったこともあり反射的に呑み込む)」
ゴクン。
「「「「「「「・・・あ」」」」」」」
「「あ、アフロディーテ様ぁぁぁぁぁぁ!!??」」
アフロディーテは捕食された。
◆そして、現在。
「(ギャグ補正とは?)」
「あれだ、ゼウスが浮気してヘラにエグい折檻されても何故か送還されないしすぐに復活していただろう?ああいった事の類だ」
「なるほどすごい説得力ですね」
つまり考えるだけ無駄だと。
レオンは意識をアンタレス討伐へと変えた。
何故かいた実力者の少女二人は消耗していたがここに残る事を決め、今はポーションを口にして僅かながらも休息を取っている。
「(【ナイト・オブ・ナイト】と【女神の戦車】相手に逃げるとかマジ無理)」
「(だったら逃げて敵視されるよりも味方して少しでも恩を売れる方に賭けた方がマシにゃ)」
第一級冒険者二人を相手するぐらいなら味方した方が生存率は高いと判断したクロエとルノア。
「(それにあの少年、結構好みにゃ!どさくさに紛れてあんなことやこんなことをしても・・・フフフ、夢が広がるにゃー!)」
「(うわぁ、こいつなんかやらかしそう。巻き込まれないようにしとこ)」
なお、片方は己が欲望を満たしたいが為と言う理由も大きかった。
「・・・ところでよ、食うにしてもどの部位を剥ぎ取れば良いんだ?尾は間違いなく毒があるだろうから、無難に足とか鋏か?」
「いや、加熱すれば尾も食べられた筈だ」
「そもそも倒したら剥ぎ取った部位も消えるでしょうし、取り敢えず身動き出来ないように足と鋏は全部切り落として目と口も焼いて塞ぎます?」
「レフィーヤ、サラッと怖い発想を口にしないでくれるかな?」
「待って下さいレフィーヤさん。確か目玉は以外と美味しいって聞いた事があります!」
「ベル、それ誰に習った?誰が君に余計な知識を吹きこんだか怒らないからちょっと先生に教えてくれないか?」
「(え、あのモンスターを食うつもりなのこいつら?)」
「(にゃふふふふ、やっぱりここはまずお尻から・・・)」
会話の内容がおかしい。
お前等あの女神様が心配じゃないのかよ、見ろよあの眷族達必死になって助けようとしてるぞ人の心とか無いのか?
「私は女神だが心はちゃんとあるぞ」
「サラッと心読まないでくれませんか女神様?というかなにこの状況、何がどうしてこうなったんですか?」
「私の眷族達が食中毒で入院したんだがそのタイミングであそこにいるアンタレスの封印が解けてな。オラリオへ救援を呼びに行く時間を稼ぐ為に偶々近くにいたアフロディーテに足止めを頼んでから立ち寄った村で救援要請を出せたので返事が来るまでの間、あの少年に魔物の調理方法を教えていたら偶々村を訪れた3人と合流したんだ。お互いの状況を話していたら少年の身内が病の身だというので治すためにアンタレスの部位を剥ぎ取ろうという話になり、その後アフロディーテの尊厳が召されそうな事態だと気付いて駆け付けたら天界時代を思い出させてくれたのでつい反射的に弓でいつものようにあいつの尻を射抜いたらこうなった」
「・・・ソウデスカ」
ルノアは理解することを放棄した。
◆その頃、オラリオ。
取り敢えず大災厄はミアに任せておけば大丈夫だろう。
そう結論付けた面々は、地上に残る第一級冒険者全員でアルフィアを迎え撃つことを決めた。
彼女と同じレベル7が二人いるのなら倒すのはまだしも溜飲が下がるまで耐えることは可能だろうと判断したからである。
主力となる二人だがオッタルはレベルアップの慣らし、ザルドは病み上がり(まだ完治はしていないが)のリハビリの為アミッドとヘイズの立ち会いで試合をすることにした。
最初は劣勢で何度も負けたオッタルだが、レベル7の力に慣れてくるにつれ良い勝負になっていき50試合目でとうとうザルドから1本とるという快挙を成し遂げる。
オッタル本人はザルドが本調子で無いことを踏まえてあまり納得はしておらず、再度試合を続けようとした。
ザルドはザルドでそんなオッタルに勝ちは勝ちだろうと呆れながらもまだまだやるつもりだった。
そしてヒーラー二人に回復を依頼し、
「「何回やれば気が済むんですか愚患者が!!」」
付き合わされて色々と限界を迎えた彼女達のドロップキックを喰らってボロボロの野郎二人は沈むのであった。
サラッとレベル7をしばき倒す辺り、割と強いなこの二人とフィンはアルフィア迎撃の策を練りながらそんなことを考える。
幸い、ヘルメス・ファミリアからアルフィアの魔法を軽減出来るマジック・アイテムを提供された事もあり勝算は零では無い。
・・・なんか親指がかつてない程震えているというか今にも千切れて勝手に何処かへ行きそうな程危機を知らせているのを見ないようにしながら現実逃避するのであった。
なお、ガレスは人生最後と言わんばかりの勢いで酒を呷っているしリヴェリアは自分に何かあったらアイズを頼むとファミリアの仲間、特にエルフへ頼んでいる。
完全に死地へ向かう人間の心境だ。
今夜は僕も飲もうかなと考えるフィンもまた彼等同様、ちょっと生存を諦めかけている。
◆アフロディーテinアンタレスと対峙している一行
「んじゃ取り敢えず動けなくしてから適当に剥いだ部位を味見するか?」
「そうだな」
「そうだなじゃないですアルテミス様!?アレンも食うこと前提に考えないで下さい!」
「待って下さい。今私、大事な事に気が付きました!多分食べても意味無いです!」
「レフィーヤっ!やっと正気に「私達じゃ本当に病気に効くか解らないです。なのでまずは医神様を攫って来ましょう!」戻って無いなむしろ悪化してる!?」
「言われてみれば確かにそうか」
「なら俺がひとっ走りオラリオに戻って強欲爺を連れて来るか?」
「神を誘拐しようとしないでくれ!?」
発想が更に物騒な物へなっていく。
ツッコむレオン(真面な人間)の限界は近付いていた。
「あのー、ちょっといいかニャ?」
そこへ今まで黙っていたクロエが割って入ってきた。
こいつも他の面々同様、ヤバいことを言い出すんじゃないかと警戒するレオン。
「あの蠍、多分薬効とか無いニャ。なんか妙に殺傷に特化し過ぎてて治療に使うとか無理」
「そうなのか?」
「一応私、調合の発展アビリティ持ってるしモンスターの素材で色々作った経験が結構あるから医神様程じゃないけどそれなりに技量はあるニャ。だから断言出来るけど、あれは無理」
「嘘はついていないみたいだな。宛が外れたか・・・」
だがその警戒は無用だった。
むしろ、この黒猫ファインプレーである。
レオンは歓喜のあまり叫びそうになった。
「そ、そんなぁ・・・!」
「ベル、気を確かに。まだ他に手段がある筈です!」
だがそうは行かない。
家族を治す事が出来ないと告げられたベルが今にも泣きそうになっているからだ。
彼を尻目に喜ぶのは人として唾棄すべき事であるし、もしもそんなことをしたら間違いなくアルフィアとヘラに殺される。
「ガキが、泣いてんじゃねえ。泣く暇があったら方法を考えろ」
「アレンさん・・・」
「会ったことが無くても身内で、治すと決めたんだろうが。だったら歯ぁ食い縛ってあがきやがれ」
それとも諦めるのか?と問うアレン。
ベルの答えは決まっていた。
「僕は・・・僕は、絶対に諦めません!必ず伯母さんを治してみせます!」
「ハッ、威勢だけは良いじゃねえか。・・・なら、行動と結果で証明してみろ」
なんか良い雰囲気になっている二人。
先程までヤバい発想を口にしていたとは思えない程真面な発言をしているアレン。
お前、そんな事も言えたのかと驚愕するレオン。
とはいえ、なんとかなった。
「しかしそうなると困ったな。【静寂】の病については私も噂では聞いていたが、ミアハとディアンケヒトでも治せなかったのだろう?ダンジョンを当時最も深くまで潜り様々な素材を手に入れられたヘラの派閥にいながら治せなかったというのであれば生半可な素材では無理な筈だ」
「・・・大聖樹辺りを刈りますか?」
「レフィーヤ、それ君達エルフの大事な物じゃなかったか?」
「アルフィアお義姉様に弟子入りするなら、些細な犠牲です!」
「(どうしよう、この子の親御さんにどう詫びたら良いか解らない)」
エルフとの全面戦争が始まりかねない。
レフィーヤ、覚悟ガンギマリ過ぎである。
「天界なら黄金の林檎があれば病などなんとでもなるのだが」
「黄金の林檎?」
「どんな傷や病でも1口囓るだけで治る神々の食べ物の1つだ。天界でも数が少ない希少な物で、地上ではまず手に入らん。仮に人の子が食べれば量によるが不老不死とまでは行かなくても若返りや寿命の増加、あらゆる病が完治し不眠不休で数日は暴れ回っても疲れない活力を得るだろう」
「え、それなら食ったぞ?」
「「「「「「・・・は?」」」」」」
ちょっと待ってくれ。
この猫、今なんて言った?
「茶会でイズン様からそれで作ったアップルティーとコンポートを御馳走になったんだが、だから妙に疲れが取れてやがったのか」
「ちょっ、おまっ?」
「【静寂】には『あなたはこれも食べた方が良いよ。大丈夫、ちゃんと人の子用に調整したから元気一杯になる程度だよ☆』って追加でタルトも振る舞ってたがそういうことだったのか」
「・・・そういえばイズンは黄金の林檎を栽培している女神だったな」
ならいくつか下界に持って来ていても不思議では無いかと呟くアルテミスの言葉がどこか遠くに聞こえる。
つまり何か、アルフィアの病は
「完治したって事だな」
「ほ、本当ですか!?」
「良かったですねベル!」
「天界の物を無闇に下界で使うのはあまり良くないが・・・まあ大丈夫だろう。彼女の回復を素直に祝おう」
うん、良いことなのだが1つだけ言わせてくれ。
「・・・いや、早く言えよぉおおおおお!!!」
レオンは、これまでの苦労を思い出しながらかつて無いほどの声量で叫んだ。
「「「いや、それよりあれ(アンタレス)どうにかしろよ!!!」」」
そして、アフロディーテの眷族とルノアも全力でツッコんだ。
アフロディーテ、現在進行形で大ピンチである。
そして、完全復活したマジギレのアルフィアに襲撃されるオラリオも大ピンチである。
息抜きに書いたONE PIECEのネタ小説が思ったより評価頂けたので結構びっくりしました。
アルフィアの完治、結構雑かなと思ったのですがこの時点で治しておいた方が面白いかなと思い少しプロットを変更しました。
アンタレス料理を期待してくれていた方々、申し訳ございません。