美神の副団長は苦労人 作:金鳥
今回、アレンもオッタルもフレイヤもアリィですら大なり小なりやらかしてます。
久し振りの長期休暇の筈だった。
知り合いの商人に頼んで砂船に乗せて貰い、辿り着いたオアシスの町。多くの人と富が集まるその地には当然美味い物もある訳で、それを目当てにしていた。
実際、美味い物は沢山あった。
スパイスが効いた串焼きの肉に魚、もちもちとした歯応えが最高のパンに砂漠の物とは思えない程瑞々しい果実、甘くて冷たいチャイ。
兎に角ひたすら美味い物を食べ続ける最高の休暇、の筈だったのだが
「───羊肉のトマト煮込みとサボテンサラダ、大魚の香草焼きは人数分仕上がったからとっとと配膳しやがれ!」
「はいですぞ!」
「アレン、じゃが丸くんのタネがあと三百個分足りないんだがどうすれば良い!?」
「あぁ?ボフマンテメェ、じゃがいもの納品が予定より少ねぇぞ!急いで担当の商人に確認してこい!!」
「も、申し訳ございません。すぐに遣いを出します!」
「急げ!じゃが丸くんはガキ共に人気があるんだ。絶対に切らすわけにはいかねぇ!アリィ、お前は兎に角今ある分のタネをどんどん揚げていけ!」
「わ、解った!」
───なんで俺は料理を作っているんだろうか?
レベル6の能力をフルに使い次々に料理を仕上げていきながらアレンは内心混乱していた。
あれ、俺って休暇の筈だったし冒険者だよな?なんで前団長みたいに引退した訳じゃないのに料理作ってるんだ?
「あ、あのー。私も何か」
「「コックを全滅させたクレイジーシェフは来るな/勘弁下さいですぞ!!!」」
「(´・ω・`)」
「(なんか最近フレイヤ様の表情が可笑しくなること多くね?)」
厨房に顔を出したフレイヤに必死の表情で叫ぶアリィとボフマン。彼等の脳裏には先程フレイヤが作った料理によって死屍累々の有様になったコック達の姿が浮かんでいた。
フレイヤファミリアの幹部陣なら絶対に口にしたくないフレイヤの料理。奴隷から解放された子供達と話していた時にフレイヤの趣味が料理であると告げたことから悲劇は始まった。
食べてみたいと無邪気に目を輝かせてねだる子供達に応えようと善意で作るフレイヤ。
最初はなんとお優しいと感動しながら見ていたコック達だったが、まず材料の時点で首を傾げ作る予定の料理を聞いて自分達の正気を疑い、調理過程を見て虚無を背負った。
フレイヤが用意したのは鶏肉に卵、小麦粉、バター、肉果実、砂糖、蜂蜜、エリクサー、ニンニク等々。エリクサーを見たコックに何を作るのかと問われたフレイヤはこう答えた。
「?何って勿論ケーキよ。子供達が喜ぶ物と言ったらお菓子でしょう?」
「「「「「「なんて?」」」」」」
ケーキに肉もニンニクも使う訳が無い。勇気あるコックの一人がツッコんだが、これを入れれば元気が出るでしょう?と輝く美神スマイルにやられて思わず肯定。
何やってんだと魅了された馬鹿をしばくコック達を尻目に調理を始めるフレイヤ。
そこにたまたま訪れたアリィ。
「(奴隷生活で予想以上に弱ってしまっている。シャルザード軍と早く合流する為に少しでも回復しないと)何か消化に良い物、無くても水だけでも・・・」
「あらあなた、お腹が空いてるの?なら丁度良かったわ、今ケーキを作ってる所なんだけど、特製クリームの試食をしてくれる?」
「・・・済まない、私が知るケーキには毒々しい虹色のクリームを使用した物は無いのだが」
はい、どうぞと差し出された皿に盛られたクリームは見てるだけで気分が悪くなりそうな毒々しい光を放っていた。
直感的にアリィは悟る。
これを口にしたら私は死ぬと。
「大丈夫よ。これは砂糖を加えて泡立てた生クリームにエリクサーと肉果実とサンドワームの汁を加えただけだから」
「大丈夫な要素が全く無いのだが?!エリクサーはまだ良いが肉果実はユニーク過ぎるしサンドワームの汁に至っては人知を逸脱し過ぎているだろう!!?」
「だって私女神だし」
「狂神の間違いでは????」
この女神、イかれてやがる。
アリィは一刻も早くこの場を脱出する為の手段を考え始めた。
そんな二人のやり取りを見てこっそりと動き出したコック達。彼等はフレイヤが作るケーキが元奴隷、特に子供達にトドメを刺す劇物だと悟り隙を見て処分することを決意した。
慎重にオーブンに近付き、蓋を開ける為の取っ手に手を伸ばす。
「とゆうかそもそもこんなクリームを塗るケーキスポンジは何を材料にしてどう作ったんだ!?」
「え?小麦粉と卵とベーキングパウダーと砂糖を混ぜた生地を特製の飴でコーティングした七面鳥のお腹に詰め込んでオーブンで焼いてるだけだけど?」
「なんで菓子作りに肉が出てくる!?ケーキは普通デザートだろう!メインディッシュを作ってどうする!?」
「甘い物は全部デザートでしょう?」
「微妙に反論しづらいことを言うな!それと使った材料は本当にそれだけか?」
「勿論よ。ほら、これが材料が入っていた袋」
「・・・なあ、私の目にはその袋にベーキングパウダーではなく火薬(万能者製)と書かれているように見えるのだが気のせいか?」
「・・・あら?」
そんな不穏な会話が背後でされているとは露知らず、コック達は慎重にオーブンの扉を開けた。
そして目に飛び込んできたのは真っ赤に赤熱した七面鳥。見た目は良いのに中身がケーキ生地という外見詐欺
にも程がある代物を処分しようとする。
だが、それを止める一人のコックがいた。
「・・・なあ、おかしくないか?」
「何がだ?」
「これ、七面鳥だよな?」
「当然だろう?」
「・・・いくら焼いてるとはいっても、七面鳥ってこんなに真っ赤に赤熱する物だっけ?」
「「「「・・・」」」」
その言葉に改めて七面鳥を見る。
真っ赤だ。真っ赤に赤熱している。
まるで鍛冶屋が加工してる最中のインゴットのように赤熱しているしよくよく見れば表面がボコボコと泡立っていた。
───え、なにこれ?
「・・・そういえばさっき鶏を特製の飴でコーティングしたって言っていたが、それは何で作ったんだ?」
「サンドワームの汁に砂糖を溶かして作ったんだけど・・・」
「この際サンドワームの汁は置いておくが、その砂糖が入っていた袋はどれだ?」
「これよ」
「・・・なあ、私の目にはその袋には水溶性粉ガラス(万能者製)と書かれているように見えるのだが?」
「・・・」
サンドワームは砂漠に適応した魔物である為、その身体は必然的に耐熱仕様になっている。【万能者】もといアスフィが作成した水溶性粉ガラスは本来ならば耐熱性は低いがサンドワームの汁によってオーブンによる加熱程度ならそう簡単に融けないようになっていた。
それが七面鳥を、中身の火薬入りケーキ生地を火から守っていたのである。
・・・ところで、熱したコップに冷たい水を注ぐとコップが割れるという現象を聞いたことはあるだろうか。
この館、特に厨房は食材の鮮度を維持する為に室内を冷やす魔道具が多目に設置されており室温は肌寒いくらいである。
つまり、オーブンの蓋を開けるということはその冷たい空気が吹き込むわけで
「今なんかガラスが割れるような音しなかったか?」
「気のせいだろ?」
「・・・割れてる」
「ん?」
「───七面鳥が、罅割れてる」
「「「「・・・え?」」」」
次の瞬間、七面鳥をコーティングしていたガラスは砕け散る。そしてオーブン内部の火が七面鳥を直接炙り、中のケーキ生地にも届いてしまい───。
「「「「「!?!?!?!?」」」」」
大爆発を起こし、オーブンごとコック達を吹き飛ばした。
「コック達ぃぃイイイイ!!??」
「・・・あら、まあ」
「あら、まあじゃないだろこの人でなし!?」
「女神だから人ではないわね確かに」
「やっぱりお前狂神の類だろう!?」
木っ端微塵に吹き飛んだオーブンとブスブスと焦げながら転がるコック達の成れの果て(死んではいない)。
騒ぎを聞きつけたアレンとボフマンがそこに駆け付けた。
「フレイヤ様、御無事ですか!?」
「な、何事ですぞ!?」
「あらアレンにボフマン、丁度良かったわ」
ボフマンは惨状に驚き何があったのかを尋ねたがアレンは違う。
まず、フレイヤの無事な姿を確認して安堵。
次にその手に持った悍ましい虹色のクリームを見て顔を引き攣らせ、空になった袋に書かれている文字を読んで全てを察し真顔になった。
今まで味わってきた苦労が、経験がアレンに事の成り行きを正確に把握させる。
そしてこの後自分が背負う苦労も。
「コック達全滅しちゃったから、代わりに料理お願いねアレン?」
「・・・承知致しました」
「いつもごめんね?」
「いえ、もう慣れましたので」
死んだ目で応えるアレンを見てアリィとボフマンは悟る。美神の副団長は苦労人なのだと。
「・・・悪いが、流石に一人で全部こなすのはキツいから手伝ってくれ」
「わ、解りましたぞ。ただ私、料理を作ったことが無いので材料の仕入れやその他雑事をさせて頂きます」
「私は簡単な料理なら作れるからそれでも良ければ」
恩に着る、と死んだ目で感謝を告げるアレン。その背中は煤けていて彼の普段の苦労が察せられる。
「フレイヤ様はこいつらの看病任せても良いですか?大広間の机の上に俺が持ってきたエリクサーがあるのでそれを飲ませるか振りかければ良いので」
「・・・ええ、解ったわ」
「?(何か今間があったような。・・・気のせいか?)」
レベル6の身体能力でコック達の屍(重ねて言うが死んでいない)を医務室に運ぶアレン。
そしてフレイヤは
「(・・・どうしましょう。アレンの物だと思わず料理に使ってしまったわ)」
滅茶苦茶焦っていた。
女神の矜持で表には出していないが物凄く焦っていた。
この女神、思いっきりやらかしている。
眷属の私物を勝手に料理に使ってしまったから自分が怪我させた人間達の治療が出来ませんというのは不味いということはこの女神にも理解出来たのだった。
まあそもそも、誰の物か解らない物を勝手に使うなという話だし更に言えばいい加減自分のメシマズを自覚しろと言いたい。
「・・・火を通した訳じゃないし、効果あるわよね?勿体ないし」
◆
そして現在、アレンは何とか調理を終え一息ついていた。
自分達用に作った賄い料理とボフマンが気を利かせて持ってきた高級酒を口にし労を労い合う三人。
何だかんだで慣れているアレンは兎も角ボフマンとアリィは慣れない作業でヘトヘトだった。
豊穣の女主人で働いているレベル4の妹でもキツい仕事量を恩恵を持たない身でやり遂げた二人をアレンは素直に賞賛する。
「テメェ等、すげぇな。本当に恩恵を貰ってないのか?」
「ドゥフフフフ、私は商人で戦うことはまずありませんからな」
「私もシャルザードの王族だからな。ラキアやテルスキュラのような軍事国家で無いのなら戦う力は基本的に不要だ。まあそのせいでワルサに対して劣勢を強いられているからこれを気にどこかから神を招いて恩恵を授けて貰うのも良いかもしれない」
疲れ切っているが、二人はアレンが作った料理をもりもりと平らげていく。
「それにしてもこれ、美味だな。それになんだか食べれば食べる程力が沸いてくるようだ」
「ああ。オラリオにいる医神様ととある女神様達に協力して貰って考案した特製の薬膳料理だから良く効くだろう?」
「成る程それで。しかし私が以前食べた薬膳料理とは大分違いますな。前に食べたことがあるものはこう、苦味が強かったり匂いがキツかったりして正直食が進む味ではありませんでしたな」
「うちのファミリアは主神が今回みたいなことをしょっちゅう起こす問題神だったり団長が脳筋過ぎて書類仕事が俺の所に回ってくるからな。ストレス解消と体調管理の為に美味くて身体に良い物を食べたくて研究した結果、これが完成した」
「・・・先程から思っていたのだが、アレンは普段どれだけ苦労しているのだ?」
「思い出すだけで胃壁が擦り切れそうなくらいはしてるぞ。因みに本来なら今は長期休暇の筈だった」
「・・・今夜だけは飲んで忘れましょう」
「ボフマンの言う通りだ。私もストレスが限界まで溜まったら記憶が飛ぶまで飲むようにしているが、結構楽になるぞ」
心底同情したボフマンと共感したアリィに勧められるまま酒を呷るアレン。
宴が進むにつれアリィも悪酔いを始め、自分の苦労を愚痴り始めた。アレンはそれを静かに聞いて頷き、時折アリィの頭を優しく撫でる。
まるで兄妹のようなやり取りを微笑ましく見つめるボフマンだが、ふと思い出す。
「(・・・んん?先程アリィ殿は自分の事をシャルザードの王族と言っておりましたような───)」
あまりにも自然に告げられた為に理解し切れていなかった言葉。本当にシャルザードの王族というのならこんな所で酒盛りなどしてる場合ではないし色々と不味いことになる。
「(・・・まあどうでも良いですな。それより酒盛りを楽しむ方が大事ですぞ)」
だが何だかんだで酔っ払っていたボフマンは再び流してしまう。
酔っぱらいにとって大事なのは酒とつまみと飲み友であってそれ以外は至極どうでも良いのだ。
「ん、つまみが切れそうだな。追加で新しいのを作ってくるから少し待ってろ」
「ありがと~。なんか熱いから冷たい物が良いな~」
「あの凛々しいアリィ殿が甘えん坊になるとは、意外でしたぞ。しかし言われてみれば確かに熱いですな」
「そうか?俺は涼しいくらいだが、それなら冷たいデザートも作ってくるぞ」
夜の砂漠は昼の猛暑が嘘のように冷える。
空調を効かせているこの館でも例外では無く、肌寒いくらいだ。
だがアリィとボフマンの2人はうっすらとはいえ汗をかいていた。
疑問が浮かぶが、酒の飲み過ぎが原因だろうと納得し厨房に向かう。
ドライフルーツと蜂蜜をたっぷりと使い、香辛料を少し利かせることでしつこさを無くしたアイスクリームでも作るかと思考を切り替える。
「・・・そういえばボフマンの奴、酒盛りの前より痩せてる気がしたが、気のせいか?」
◆
「・・・あの、もしかしなくても今私達って迷子だったりします?」
「・・・もしかしなくてもその通りだな」
「・・・俺達、なんで脳筋の団長を信じて砂漠を突っ走っちゃったんだろうね?」
アレン達が酒盛りをしている頃、カイオス砂漠の僻地でアーニャ達は道に迷っていた。
フレイヤ様を追うことしか考えておらず、先導する団長に続いて走り続けるヘディン達。
危うく試食させられそうになったマグログミという劇物をシルは一体どんな発想で作るに至ったのかと意識を飛ばしていたアーニャは他の面々より正気に戻るのが早く、ふと気になって訊ねたのだ。
フレイヤ様はカイオス砂漠のどこにいるのかと。
───瞬間、空気が凍った。
全員の足が止まり、先導していたオッタルに視線が集まる。その肌には砂漠の熱とは違う原因の汗が滝のように流れていた。
おい、まさかお前───と、幹部達の縋るような視線を一身に浴びたオッタルはゆっくりと振り返り、告げる。
・・・すまん、砂漠のどこにいるかまでは把握していなかった。
テヘペロ、と何時ぞやの主神の真似をする筋肉達磨(オッタル)。当然そんなことで許されるわけもなく───
「おらぁ!口を開けろ!まだまだフレイヤ様の料理は残ってるぞ!」
「遠慮?不要だ安心しろ!半日近く俺達を率いて砂漠を爆走したんだから1番腹減っただろ?遠慮無く食えやごるぁ!!」
「・・・俺達が言うのもなんだけどレベルが1番高い冒険者を団長にするっていう風習、無くした方が良いと思う」
「それな」
主神フレイヤが用意した砂漠越え用の装備の1つ、フレイヤ特製ブルーチーズをガリバー4兄妹の手で食わされていた。
なおこのブルーチーズだが普通の物とは違い青カビを使用しておらず、その上で色鮮やかな青色をしている。というより、なんだかドロドロしているし何故か苦悶の表情が浮かんでいた。
───どう見ても、【外道 スライム】です。
まさか再び生み出されるとは思ってもいませんでした。
激烈な不味さで泡を吹くオッタルを尻目にヘディン達は近くに町が無いかを確認する。
「見える範囲で町は見当たらないな。だが向こうに大岩が見える」
「なら誰かが野宿してるかも?」
「可能性はあるな」
取り敢えずそちらに向かうかとヘディンが先頭に立ち大岩へ向けて歩き始めた。
奇しくもその大岩はアリィが合流しようとしているシャルザード軍の隠し砦。彼等は現在フレイヤが滞在しているオアシスの場所を知っている為、順調にいけばフレイヤと合流出来ただろう。
そう、順調にいけば。
「(・・・なんとなくまた団長がやらかしそうな予感がするのは気のせいかにゃ?)」
実は危機察知能力がオラリオでも随一に高いアーニャだけが何かに勘付いていたが、確証が無い為気のせいだと断じた。
◆
翌日、フレイヤが購入した館の一室にて。
「うぅ、朝か?」
もぞもぞとベッドから這い出しながらアリィは起床した。アレン特製のデザートを食べた後の記憶が無いが、どうやら酔い潰れた自分を誰かが運んでくれたらしい。
まあ恐らくアレンだろうなとアリィは笑った。
「それにしても久し振りに楽しかったなぁ。お酒なんて滅多に飲まないし、飲んだとしても1人寂しく飲むのが当たり前だったからな・・・」
思わず顔が緩んでしまうのを止められない。アリィこんなに楽しい気分になったのは何時以来だろうと過去を振り返る。
そう、確か母が生きていてまだ自分が王子ではなく王女として振る舞えていた時だった。あの時は本当に楽しかった。
今でも覚えている。
父と母、家臣達が優しく微笑んでくれていた日々のことを。
「・・・ん?」
そう、自分が王子ではなく王女として振る舞えていたいた、時?
「・・・って、私はシャルザード軍と合流しなければならないんだったぁぁああああああああああああああああああーーーッ!!??」
昨日の狂神クッキングのショックでド忘れしていたがアリィはアラム王子としてシャルザード軍の生き残りと合流し、王都を奪還しなければならない。
奴隷生活で衰弱していた身体を休めてから行動しようと思っていたのでよく食べよく寝たのは良いが酒盛りをして酔い潰れたのは流石に不味い。
国の危機に何をしているんだと頭を抱えるがすぐに気を取り直して立ち上がる。
アレンが作った薬膳料理のお蔭か疲れは無く、身体は羽のように軽い。
「アリィ殿、朝食の準備が出来ましたのでそろそろ起きられては如何ですかな?」
「ボフマンか?済まないが至急やらなければならないことが」
寝室の扉を開けながら応えるアリィだったが、その声は途中で止まった。
扉を開けた先にはボフマンが、あの膨よかな体型をした男がいる筈だと思っていたからだ。
───だが、そこにいたのはマッスルだった。
筋骨隆々、けれど見苦しさを感じさせない整ったバランスのボディをした彫りの深い顔立ちのイケオジと称するべき男が立っている。
「・・・え、誰?」
「ボフマンでございます」
「(嘘だろ)」
「昨晩アレン殿が作って下さった料理を食べた後、身体の芯から活力が漲ってきましてな。久し振りに運動がしたくなり先程までランニングに励んでいたのですが、気が付けばこの通りでございますぞ」
「・・・マジで?」
確かにアレンの薬膳料理は自分でも効能を感じるくらいだったけど、流石に一晩でこうなるのはおかしいだろう。そうツッコミたかったアリィだが───。
「アリィ殿もよく効いておりますようで何よりです。今の貴女は女神様にも匹敵する程素晴らしい美女ですぞ」
「・・・何?」
ボフマンの発言に固まった。
アリィは普段から男装しているので、自分は男のような見た目で女らしさ等欠片もないと思っていた。
男装をしやすい位に肉付きは悪いというか薄い。
魅力的とは言えないスタイルだとアリィは思い込んでいたのだが、ボフマンは女神のように魅力的になっていると言う。
一晩でとんでもないビフォーアフターを遂げた男の発言にアリィは顔を引き攣らせ、自分の身体を見下ろした。
普段なら地面が近くに見える視界。
だが今、地面は見えず代わりに山があった。
自分には絶対に得ることが出来ないと遥か昔に諦めた母性の象徴がそこにはあったのだ。
思わず寝室に引き返し、鏡を見る。
そこには長い黒髪が腰まで伸び瑞々しい肌、出る所は出て締まるべき所は締まっている美女がいた。
褐色の肌ということもあり、外見はアマゾネスに近い。身長も、昨日までのアリィより伸びている。
「な、なんだこれぇえええええええええええええええええええええええええーーーッ、!!??」
自分の変わりようにアリィは思わず絶叫した。
叫び声は館中に響き、ただ事では無いと察した元凶(アレン)が駆け付ける。
アリィの姿を見て目を丸くしたアレンは思わず呟いた。
「え、痴女?」
「誰が痴女だバカ猫っ!?」
もう一度言う、アリィは一晩でアマゾネスのような魅力満載ボディへと成長した。そうなるとまぁ当然、服ほそのままのサイズなのでこう、色々と食い込みがエグく卑猥な感じになっている。
アマゾネスは露出が多い衣服を好むが、サイズはちゃんと自分に合ったサイズを着る。だがアリィはピチピチパツパツの服装のため、ぶっちゃけ下手なアマゾネスよりもエロさがヤバい。
「おま、お前、私達に何を食わせた!?一晩でこんなに外見が変わるなんておかしいだろう!!」
「何って薬膳料理だが?確かにお前がそんなに成長したのは驚いたがそりゃあお前の体質がそういうのだったってだけだろ」
「一晩で絶壁が山脈に変わる人間がいるか!?そんな羨ましい体質があったら私は今まで苦労してないんだよォォオオオオオオーーー!!!」
実は未練たらたらだったアリィ。王子として振る舞ってはいてもやはり女として巨大なお山を欲していたらしい。
「俺の妹はそういう体質だが?」
「マジで?!」
ちなみにアーニャは食べれば食べるほど部分的に肉が付くタイプである。入団したばかりの頃、初めて食べた普通の美味しい食事に感動して沢山食べ一晩ぐっすり寝て起きたら身長や諸々が一気に成長してフレイヤですら二度見したぐらい成長した。更に最近はシルに誘われて美味しい物を一緒に食べ歩くことが多く、しかもミアが作る料理も三食キチンと平らげているので成長が著しい。
同僚の黒髪猫人やロキ・ファミリアのアマゾネスからの視線に殺意が込められるようになってきているのは余談だ。
「だ、だとしてもボフマンはおかしいだろう!?一晩でこんな「?こいつは昨日からこんなだろ」・・・んな訳あるかぁぁああああああああ!!??」
モストマスキュラーポーズを決めるボフマンを指差すアリィ。だがアレンは何がおかしいのかと返す。
実はアレン、朝食の仕込みを終え日課の鍛錬中に館の周りを走るボフマンに会っていた。最初は少し痩せたか?と違和感を感じていたが、館の周りを一周する毎に痩せていきマッチョへと徐々に変貌していくボフマンを見ていた為感覚が麻痺し気のせいだろうと思うようになっていたのである。
アリィのようにいきなり最終変化形態を見せられれば流石に気が付いたが、徐々に徐々に変わっていく過程を見せられた事と常識的に考えて一晩でマッチョになる訳が無いだろうと判断したのだ。
筋肉は長い時間をかけて付いていく物であり一晩でマッチョになるのは無理。けど身長が伸びたり胸部が一晩で育つのは他ならぬ身内が証明したので有り得る。
なんだかんだで常識を持っている為、一般的に無理だということは把握しているし目の前で証明されたらそういう事もあるのだと認める。
それ故の喜劇であった。
だが、アリィにとっては溜まったものでは無い。
只でさえ王族としての責任感や自分の身体が一気に成長した違和感で色々とギリギリだったのだ。
思わずアレンに掴み掛かり、揺する。
「現実を見ろお前(が作った料理)のせいで私の身体は滅茶苦茶に、女にされたんだよ!(王子としてシャルザードを救うことが出来なくなった)責任を取れ!!取れよぉ!!!」
「ちょっおま、何を大声でとんでもねえ事をほざいてやがる!?」
アリィとしてはこんなに外見が変わった以上アラム王子としてシャルザード軍を率いる事が出来なくなった責任を取れと言っているつもりだった。まあ確かに凛々しい美男子として有名な王子が数日の間にスタイル抜群の美女になる等信じて貰える訳がないだろう。
だが、精神的に限界だったアリィは色々と言葉を省いてしまいしかも涙目でアレンに迫るという今の状況がどれだけマズいことかを理解出来ていなかった。
「・・・アレン?」
「ふ、フレイヤ様!?」
そして間の悪い事にそんな痴情のもつれ(一応誤解)を目撃するフレイヤ。アレンの顔が一気に引き攣る。
───ヤベェ、このままだと俺はアリィを襲った屑野郎だと誤解される!
急いで誤解を解かなければ、と口を開こうとするアレンよりも早くフレイヤが口を開いた。
「───アレンに、・・・私の息子に春が来たぁぁああああああああああああああああ\(^o^)/!!!!!」
「え、ちょっ違」
「こうしちゃいられないわ!すぐにオラリオへ戻って式の準備よ!!」
そして風になるフレイヤ。
残されたアレンとアリィ、ついでにボフマン。
フレイヤの叫びを聞き、正気に戻ったアリィは自分の発言と今どんな格好をしているかを思い出し
「・・・ふ、ふぇ?!」
なんか可愛らしい鳴き声を上げた。
そしてアレンは
「いやそっちぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!?!?」
襲ったのではなく、合意の上でヤッタのだと勘違いされたことにツッコんだ。
根が真面目で職務を熟し、成人しているのに色気よりも食い気を突き進むアレンの事を不能かも?と実は心配していたフレイヤ。そんなアレンが、自分の子供が異性に興味を持つだけで無く恋愛ABCの最後を達成した相手。
絶対に逃す訳にはいかねえとフレイヤはかつて無いほど全力で行動を開始した。
なお、ボフマンは何故かサイドチェストポーズをしながら輝くような笑顔で歯を光らせていた。
アリィを原作そのままの真面目なキャラのままにするかいっそ原型留めないレベルまでキャラ崩壊させるで悩みに悩み、程々にキャラ崩壊しようと決めて書きました。
書き終わってのを読み返して、程々って何だっけ?と思う程度には反省してます(笑)