美神の副団長は苦労人 作:金鳥
お久し振りです。
ネタはいくつか思いついていたのですがどれにすべきか悩んでいたらこんなに間が空いてしまいましたorz
アレンは都市最速の冒険者だ。
2つ名に入っている戦車という単語に恥じない速力を持っている。
彼の疾走から逃れられる者はいない。
───筈、であるのだが。
「フレイヤ様ぁぁああッ!?」
「嘘だろあの女神どこにも姿が見えないんだけど」
今ここに、彼の疾走から逃れられる者が現れた。
そう、他ならぬ彼の主神フレイヤである。
────いや、何で?
神とは地上において全知零能、つまり身体能力は一般人と変わらない。だというのに第一級冒険者、世界規模で見てもトップクラスのアレンが見失うって何だろう。あの女神、マジで何者?
俵抱きにされて運ばれるアリィはなんかもう限界だった。
たった1日の間にとんでもない事がありすぎてこのまま寝落ちしたい位だ。
正直、シャルザードの首都を攻め落とされた時よりも精神的ショックが大きい。
「獣人なら匂いとかで探れないのか?」
「イヌ科の連中ならともかく猫人は鼻がそこまで効かねぇんだよ!!」
「そうなのか・・・あの狂神の眷属なら出来ると思ったんだが」
「・・・狂信極まった下っ端共なら種族関係なく多分いけるだろうな」
「可能なのか(冗談のつもりだったんだが)」
フレイヤ・ファミリアは魔境。
アリィはその事を胸に刻んだ。
「しかし本当にあの方はどこに行ったんだ?割とすぐ追い掛けたってのに全く見当たらねぇ」
「いや、私が着替え終わるまで10分くらい掛かったからそこまですぐでは無いだろう?というか私の事は放っておいて追い掛ければ良かったんじゃ・・・」
「あぁ?あんな痴女染みた格好で放置出来るか阿呆。てめぇ、そもそも自分がワルサの連中に狙われてるって忘れてんのか?」
「いや、まぁ確かにそうなんだが」
「ならてめぇを運びながらあの方を探すしかねぇだろう。あんな格好のお前を連れ回す訳にもいかねぇんだから着替えの時間位は待って当然だ。くだらねぇ事をいちいち気にしてるんじゃねぇ」
「(こいつ当然のように私を守るつもりでいるな。口は悪いけど思考と行動が善人だ)」
「そもそも、ワルサどころかこの砂漠中の戦士が纏めてかかって来た所で俺には勝てねぇ。だから余計な心配してんじゃねぇよ」
戦争中の、それも敗北寸前の国の王族を守ることがどれ程大変で面倒な事になるのか等すぐに察しがつく。
ましてアレンはシャルザードはおろかカイオス砂漠の住人でもない、完全な部外者だ。
だというのにたった一晩共に働いて酒盛りをしただけの関係であるアリィを当然のように守るつもりでいる。
「(こいつ、絶対に女誑しだ。しかも質の悪い天然の)」
「何か言ったか?」
「いや、何も。それより、あっちにオアシスがある筈だから行ってみないか?」
「なる程、あの方が休憩の為に立ち寄っている可能性があるな・・・よし、案内しろ」
ほんの少し、ほんの少しだけこの時間が長く続いて欲しいと思いながらも王族としての使命を果たす為、アリィはその想いに蓋をしてアレンと砂漠を駆け抜けた。
───まあ、シャルザード軍と合流するという目的を忘れてフレイヤ様を追い掛けている時点で使命も糞も無いのだが。
この王女、隠し砦に運んで貰えばアレンはフリーで動けるし自分はシャルザード軍に守られるから問題ないということに気付いてすらいなかった。
色々と育った今の状態で信じて貰うとか無理だろうとのたまっていたが、そもそも将軍クラスは全員アリィの性別を知っていたし何ならアリィという名前自体が王族と将軍達しか知らない筈の物だ。加えてその中で女性なのはアリィだけ。
要するに、アリィと名乗り将軍達との思い出の1つ2つを話せばそれで済む話なのだ。
アリィを隠し砦に運ぶ程度、アレンなら数分あれば十分だからむしろさっさとアリィをシャルザード軍に預けて自分は全力で走りフレイヤ様を探した方が早い。
アリィに負荷が掛からない程度まで速力を落として探している今より絶対に早い。
だがアレンはシャルザード軍が潜む隠し砦についてアリィから聞かされておらず、自分が彼女を守るしか無いと思っていた。
故に、この状況が爆誕したのである。
パニクった王女と真面目な猫人。
この2人がこの事実に気付いた時にはもう全てが手遅れになっていたのだった。
◆
女神フレイヤは今、かつて無いほど全力を出していた。
美神であるが故に多くに愛され、苦も無く全てを手に入れてきた彼女はそれ故に退屈な日々を送っていた。
天界ではオーディンが、下界ではヘラがそんな彼女に不自由を与えていたのはある意味ありがたかったかもしれない。
当時は腹立たしかったが、自由な今ふと思い返してみれば彼等が強いた不自由がなければ自分は恐らく心を壊していただろうと推測出来るからだ。
今はアレンを筆頭に眷属達のお陰で日々を楽しく過ごしており、充実している。
そんな日々でも、全力を出すことは無かった。
脱走にしてもそう。
もし自分が全力を出せば誰であれ見つけることは出来ないという確信があり、それはつまらないからこそ自分が楽しめて尚且つアレン達が対応出来る程度に遊んでいた。
だが今回は違う。
絶対に為さねば成らぬ事がこの女神フレイヤにはある。
故に全力で自分を止めようとしてくるアレンから全力で逃げ隠れる。
そう、全ては───
「全ては、アレン(息子)の晴れ姿を見るためにっ!!!」
ヘルメスから借り(強奪し)た漆黒兜(ハデス・ヘッドと臭い消しのアイテムをフルに活用してフレイヤは結婚式を行う為の手を打つ。
シャルザードが敗戦寸前なこと、アレンの相手が王女であること、オラリオのファミリアが戦争に介入する大義名分が無いこと等々障害は多々あるが問題無い。
女神フレイヤの全力、とくと味わうが良い。
◆
「ん、着いた」
「お疲れアイズ、運んでくれてありがとうね!」
「大丈夫、このぐらい余裕」
時を同じくしてカイオス砂漠を訪れたのはロキ・ファミリアの2人、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインと【大切断】ティオナ・ヒリュテ。
共にオラリオの冒険者としては上澄みである彼女達は本来なら都市外へ出ることはまず無いのだが、
「フ、フレイヤ様と眷属達をなんとしても止めろぉ・・・!!」
ギルド長が血を吐くような(実際に吐いていた)思いでロキ・ファミリアへ緊急クエストを出した為、急遽都市外へ出向くことになったのである。
なお、他の主要メンバーは
「フレイヤ様フレイヤ様フレイヤ様フレイヤ様フレイヤ様フレイヤ様フレイヤ様フレイヤ様フレイヤ様フレイヤ様フレイヤ様フレイヤ様フレイヤ様フレイヤ様フレイヤ様フレイヤ様―――」
「ちょっ!?あんたレベル4じゃなかった!?何で私の全力の一撃喰らってるのに平気なのよ!?」
「儂も割とキツいんじゃが・・・!?」
「うーん。どうやら主神への愛が振り切れたっていうか中毒症状が出て肉体の限界を超えているみたいだね(白い目)」
「現実から目を背け無いで下さい団長?!あとラウルが何故か【男殺し】に襲われています!!」
「よし行けベート。君に決めた!!」
「巫山戯んじゃねえぞフィン!?」
───フレイヤ・ファミリア幹部総出で主神フレイヤの出奔を隠蔽したにも関わらず、何故か正確に彼女の居場所を察知し都市外へ向かおうとする狂信者達を抑えるのに必死だった。
その余りにもアレな凄惨過ぎる光景を年少組(精神年齢が)に見せるのは憚れる為、2人が選出されたという事情もある。
因みにリヴェリアに関してはもし万が一その身に何かあった場合、【女神の戦車】VS【オラリオの全エルフ】事件と同じ悲劇が再発しかねない為ディアンケヒト・ファミリアに匿われている。
・・・ラウルだけは何故か1人だけ自分の貞操と尊厳を守る闘いに挑んでいるが文句を言いつつもベートが救助に向かった為、恐らく無事だろう。
◆
一方その頃、フレイヤ・ファミリア幹部陣はというと。
「■■■■■■■■■ーーーっ?!?。っ⭐ ヽ(´▽`*)ゝあ~ぃ!」
「正気に戻れオッタルゥゥウウッ!!!」
「あ、獣化しやがった!!」
「わ、我等が女神の創造する馳走は猛者を狂わせる至極の一品であったか????」
「キャラ作ってる場合かヘグニ!さっさと人格変えろ!!」
「猫娘、お前はそこの将軍が言っていた町へ向かえ!」
「フレイヤ様を頼んだぞ!」
「???えっと、・・・はい(何このカオス)?」
決死の覚悟で暴走したオッタルを止めていた。
なお、辺り一面には彼の手で気絶されられたシャルザード兵達が転がっている。
砦の外も同じ有様だ。
事の経緯はこうだ。
偶々シャルザードの隠し砦を見つけたフレイヤ・ファミリア幹部陣一行。
事情を説明し近くの町について教えて貰った所で昏倒していたオッタル(当然のように外で放置)が覚醒。
白目を剥き、顔面の穴という穴からフレイヤ製ブルーチーズ?を垂れ流しながらシャルザード兵を殲滅する光景を見て事情を把握したが既にシャルザード兵は全滅。
結果、暴走したフレイヤ・ファミリア団長VSフレイヤ・ファミリア幹部陣の戦闘が勃発した。
つまりこいつらのせいでアリィの希望であった隠し砦所属シャルザード軍が全滅したのである。
アリィは泣いて良い。
内容はあれだが暴走したレベル7を相手にするヘディン達は必死だった。
参戦せずこのまま離脱するように言われたアーニャは終始宇宙ネコ状態だったが一応命令だったのでそれに従い近くの町へ向かって駆け出す。
・・・背後で何か大きな物が崩れる音が聞こえたが気のせいだとアーニャは言い聞かせた。
なお、この戦闘の余波で砦のシャルザード軍を狙っていたワルサの兵達も全滅したので一応シャルザードへもそれなりに貢献したフレイヤ・ファミリア。
これにより、とある町が襲撃を受けるかもしれなかった未来は消滅した為主神にも貢献していた事を彼等は知らない。
「・・・なんか今すごく雑に僕の眷属が消えた気がする」
◆
「フレイヤ様ぁぁああああああーーーッッ!!!」
「おぶろぉッ!?」
「待ってアレン、今何か轢いたから絶対何か轢いたから!?」
「また雑に僕の眷属が消えた気がするんだけど・・・え、これマジでヤバい感じ?」
◆
「生き残ったシャルザードの重臣達はこれで全員ね。魅了も使って記憶を改竄、アレンと王女は以前から恋仲で婚約していた事にしてと」
「フ、フレイヤ様?ギルドから手紙を持ってきたのですが・・・その、何をなさって」
「丁度良かったわ【万能者】、アレンとシャルザードの王女をくっつける為の裏工作を手伝ってくれる?」
「なんて?」
◆
「よし、武器は取り落とさせたぞ!」
「あとは私とヘグニが遠距離から攻め立てる!四つ子は援護しろ!」
「任せ・・・いや、ちょっと待てお前!?」
「おい待て止めろ馬鹿猪それはマジで洒落にならん!?」
「ちょっ、待て待て待てお前の馬鹿力で振り回したらヤバい!!」
「そもそもそれ武器じゃねぇから!!」
「闇派閥でもしないぞおい!!」
「■■■■■■■■ーーー(*・ω・)/''' イテラー♪」
「「「「「「それ武器じゃ無くて将軍だから投げるんじゃねぇぇええええッ!!!」」」」」
◆
「団長、大変です!!歓楽街が半壊しました!」
「分かったすぐに対応・・・ごめん今なんて?」
「歓楽街が半壊したんです!物理的に!」
「ま、待て!あそこにはラウルとベートが向かっただろう!2人は無事か?」
「お二人は無事です!むしろ元気に歓楽街を消し飛ばしてました!」
「そうかそれは良く・・・ないな!?」
「な、なんでそんな事になったんだい?」
「【男殺し】に食われそうになったラウルが【万能者】製の爆薬を大量に爆破して出来た地面の穴から新種のモンスターが出てきたのでそれをベートさんが迎撃する為に魔法を使ったらしいです!」
「そ、それなら仕方ない・・・のかな?」
「被害者はいるのか?」
「避難は完了してたので一般人にはゼロです。冒険者は【女神の黄金】が治したので【男殺し】を除けばこちらもゼロです」
「・・・確か彼女はマグログミとかいうお菓子を食べて入院中では?」
「フレイヤ・ファミリア暴走と幹部陣出奔を聞いて無理矢理退院したみたいです」
「・・・入院中も書類を捌いていて全然休んでくれないってアミッドが言ってたと思うんだけど大丈夫なのかい、彼女?」
「『せめて、せめて副団長が休暇を終えるまでは保たせなければならないんです!やっと、やっとまともな休みを取ってくれたんですよあの副団長が!!』って血涙流しながら頑張ってましたけど・・・」
「あー、うん。納得したよ。彼が倒れたら色々と終わりだからね、フレイヤ・ファミリアというかオラリオ」
「・・・今度何か差し入れた方が良いかもしれないな、どちらにも」
◆
各地で色々な事が起こっているが、彼等はそれを知らない。
自分達の目の前で起こっているレベルのトラブルが他で起きるなんて事無いだろうと思っているからだ。
ただ一つ共通してるのは
「「「「今回の後始末も彼/アレン/俺がすることになるんだろうな...」」」」
と本人含めて全員が確信しているという喜劇である。
そして当のアレンはというと
「店主、ケバブサンド3つと串焼き5本。それと果実茶を氷抜きで一番サイズが大きいのを頼む」
「いや待て何で飯食おうとしてるんだ!?」
「んなもん昼時に決まってるからだろうが。俺は調理中に味見も兼ねて朝飯済ませたがお前はまだだったろ。金は出すから好きな物頼め」
「今結構緊急事態なんだが!?あの女神が何やらかすか解らないんだが!?」
「いくらあの方でも戦争中の国でそこまで巫山戯た真似はしねぇよ。俺が無理矢理お前を手籠めにしたと思われてるだけだろうし精々明日のオラリオの新聞で一面を飾るだけだ」
「私が把握してる限りずっと洒落にならない事をし続けているし、充分すぎるほど最悪の事態になりかけているんだが????」
「ハイエルフ&豚エルフ抹殺未遂からのオラリオ全エルフ襲撃、ショタコンアマゾネス暴走事件に比べたらマシだろ」
「何がどうしたらそんな珍事が起きる!?」
「ちなみに最後は眼鏡エルフの頭を酒瓶でかち割って終わらせた」
「騒動を?そいつの命を?」
割と呑気に飯を食いながらアリィと駄弁っていた。
冒険者として、ファミリア副団長として休める時に休み食える時に食っておくことの大切さを知るアレン。
何よりアレンにとって数少ないストレス解消方法の為、滅多なことでは食事を抜かないのである。
昨夜の酒盛りで何となくアレンにとって食事が大事な事を理解していたアリィは文句を言いつつも仕方ないかと納得し屋台の店主に自分の食事を注文するのであった。
砂漠の国では猛暑による体力消耗がどれ程大変で休息がどれだけ大事であるかを知るアリィ。
それ故彼女も休息を受け入れた。
「・・・というかあの方をこれだけ自由にさせた時点で俺が苦労する事はほぼ確実だから胃がストレスでやられる前に美味い物食って休まねぇと多分死ぬ」
「・・・それは、なんというかその、ごめん?」
「何時もの事だから気にすんな。それよか食え」
「・・・あ、この串焼きおいしい」
「確かにな。店主、これ追加で2本くれ」
こうして2人は束の間の休息を味わう。
・・・・その間に色々と取り返しの付かないことが起きていることにこの時2人は気付いていなかった。