美神の副団長は苦労人   作:金鳥

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 今回から少し過去編に入ります。


こうして彼等の運命は変わった1

 

 ザルドは目の前の現実を受け入れる事が出来なかった。

 かつて黒竜に挑んだ仲間達が敗れファミリアが壊滅した時よりも、その後仲間の一人がよりによってヘラが特に溺愛していたアルフィアの妹を孕ませた事を知った時よりも強いショックを受けた。

 

 だが、この現実から逃げる事は許されない。

 逃げたら、色々な物が終わる。

 ベヒーモスの毒に侵されたこの身体でどこまで出来るかは解らないが、死力を尽くして解決しなくてはならない。

 

 そう、それが例え────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グギャァァアアアア?!??!」

「フッフッフッ・・・」

 

 ・・・例え、メーテリアと仲間の忘れ形見がゴブリンを豚か何かを丸焼きにするかのように火で生きたまま炙りながら筋トレをしているという事態であったとしてもだ。

 

「(ゼウスゥゥウウウウーーー!!!おま、お前、どういう教育してんだぁぁああアアアアアアアアアアアアアアーーーッッ!?!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆衝撃の光景から、数日後

 

 オラリオは壊滅的な状況を迎えていた。

 多くの神々が送還され、恩恵を失った冒険者達は次々と犠牲となり闇派閥の快進撃が続く。

 都市は包囲され、市民を逃がすことも出来ない。

 だがそれでも、希望はあった。

 

 闇派閥の最高戦力はレベル5。

 対してオラリオにはレベル6のオッタルがいたからだ。

 彼を中心に闇派閥の主力を撃破し続ければオラリオは負けないと誰もが思っていた。

 だというのに、そんな希望を打ち砕くかのようにある男が現れたのだ。

 

 

「ザルド!何故、何故貴様がここに・・・ッ!?」

 

 その男は、英雄だった。

 ベヒーモスを倒し、毒に侵されて一線を退いたとはいえその強さは本物。

 オッタルを超えるレベル7。

 かつてオラリオの頂点に君臨した2大派閥の片割れが誇る英雄は突如現れ、闇派閥の主力を撃破した彼等を嘲笑うかのように一瞬で吹き飛ばしたのである。

 唯一、立つことが出来たのはオッタルだけだった。

 

 

「エレボス!貴方まさかこんな隠し球を・・・ッ」

 

 それを見た女神アストレアは隣に立つ邪神エレボスを思わず睨んだ。

 彼が何の為に今回の大抗争を引き起こしたのかをアストレアは察している。

 故に、神の送還を含めたこれまでの策謀の数々を納得は出来ないが理解は出来た。

 だが、これは予想外だ。

 

「【暴食】ザルド、ゼウス・ファミリアの生き残りをまさか連れて来るなんて!あの怒りよう・・・彼にオラリオへの復讐をさせるつもり!?」

 

 ザルドは遠目でも解るほど激怒していた。

 殺気を漲らせ、歩を進める。

 一歩一歩大地を踏みしめる毎に彼の怒りが伝わってくるかのようだった。

 

「子供達への試練だというのなら解るわ。けどこれは違うでしょう!?」

 

 戦力に差があり過ぎる。

 何より、登場したタイミングが最悪だ。

 希望を取り戻した子供達を再び絶望に叩き落とすような所業は、試練というには相応しくない。

 

 どういうつもりだとアストレアはエレボスを睨み、糾弾した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・え?何アレ知らん、怖っ」

「・・・え?」

 

 だが、当のエレボスの困惑した様子を見てアストレアは混乱した。

 

「あれ、貴方の差し金じゃないの?」

「いや、一応考えてはいたぞ?未来に希望を遺す為の試練としてアルフィアとザルドに試練として立ちはだかってくれないかって。けど、アルフィアは聞く耳を持たなかったしザルドは用事があるとかで竜の谷にいなかったからこの案はボツになったんだが・・・」

 

 えー・・・、とドン引きしながらエレボスは語る。

 

「あれは予想外だぞいやマジで。むしろ何であいつあんなに怒り狂ってるんだ?ゼウスの話だと二人とも追放された恨みは無いって言うから声掛けようと思ってたのに」

 

 あ、オッタルが吹き飛ばされた。

 なんて呟くエレボスが嘘をついているようには見えない。

 つまり、完全なイレギュラーという訳だ。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

「ザルド、何故!何故お前が・・・ッ!?」

「黙れ小僧!自分の胸に聞いてみろ!!」

 

 ザルドは攻める。

 レベル7、現在の世界最高レベルの力と培った武技を振るいオッタルを追い詰めていく。

 ヘディンもヘグニもガリバー四兄弟も、フィンやガレスにリヴェリア達ですら先の一撃で意識こそ飛ばなかったものの立つことが出来ないダメージを負っていた。

 2人の戦い、現在のオラリオ最高戦力が為す術無く蹂躙されるその光景は彼等どころかオラリオの全住民の心を折るには充分すぎる。

 

 反対に、闇派閥の士気はこれまでに無いほど上がっていた。

 

「は、はは・・・ヒャハハハハハハハハハハっ!!何だよおい最高かよ」

 

 ヴァレッタもその一人だ。

 フィンに追い詰められ、危うい所で逃げた彼女はこの光景を見ていても立ってもいられ無かった。

 エリクサーで傷を無理矢理癒し、駆け付ける。

 

「ざまぁねえなあフィ~ン!お前等よりこっちの隠し球の方が上だったって訳だ!」

「ぐ、ヴァレッタ・・・っ」

「それにしても意地が悪いぜ邪神様よぉ!こんな切り札をあたし達にまで隠してたんだからつれないぜ!」

 

 

 

 ◆

 

「あの子、あんな事言ってるけど?」

「いや、マジで俺も知らないんだってアイツに関しては。とゆうか彼女、なんか死亡フラグ立ててるっていうかナレ死する脇役の悪党みたいになってない?」

「正義を司る女神として言わせて貰うけど、割と雑な感じで退場しそうねあの子」

 

 ◆ 

 

「まぁ何にせよ、テメェ等はここまでだ!」

 

 動けないフィンに得物を向けるヴァレッタ。

 

「楽には殺さねぇよ?じっくりたっぷりと絶望を味わいながら死んで行きな!」

 

 そして、彼女は武器を振りかぶり

 

「さあ!お楽しみの始「さっきから喧しいわァアア!!」ブゲラァッ!?」

 

 ───ザルドに吹き飛ばされた。

 天高く打ち上げられた彼女はオラリオを一望出来る高さまで飛び、そのまま都市を包囲していた闇派閥の集団の中に落ちた。

 

 

「「((ああ・・・やっぱり))」」

「「「「「「「「・・・え?」」」」」」」」

 

 2柱の神を除いて誰もがその光景を目にし固まった。

 そんな彼等を尻目に、ザルドは荒ぶり続ける。

 

「ギャーギャー煩いわ!!こっちは取り込み中だってことぐらい察して静かにしていろ!!」

「いや、あのザルド?」

「なんだ小僧!?」

「お前、闇派閥に味方してオラリオを滅ぼしに来たんじゃ無いのか?」

「ハァ!?誰がそんなことをするか!!」

「え、ならなんで・・・」

「貴様がとんでも無いことをしでかしたからだろうがぁ!!!」

「お、俺?」

 

 オッタルは困惑する。

 自分がザルドにした事といったら、不本意ながらではあるがザルド達のオラリオ追放に協力したことしか思い浮かばないがこの怒りようからしてそれとは別件だろう。

 

 全く心当たりが思い浮かびませんという様子のオッタルにザルドは更に激怒する。

 

「お前、3ヶ月程前にとある白髪赤目の少年をモンスターから助けたらしいな?」

「何故それを・・・いや、確かに助けたが」

 

 オッタルは思い出す。

 例によって例の如く脱走したフレイヤ様を追って東奔西走している最中に偶々モンスターに襲われている少年を見つけたので助けた事を。

 御礼を言ってくる少年がやけにキラキラとした目で見てくるので、そういう視線に慣れていないオッタルはむず痒いような照れ臭いような想いをした。

 

「お前、そいつに何て言った?」

「む?確か・・・」

 

 どうすれば貴方のように強くなれますか?と聞いてくる少年に

 

「『俺などまだまだ未熟だ、現に俺より強い奴は沢山いた。それでも敢えて言うのであれば常に鍛え、そして飯をしっかりと食え。俺より強い奴の中にはモンスターすらも食って己の力に変えた奴もいるし俺の仲間の中でも特に強い奴も幼い頃はモンスターを狩り、その肉を食っていたらしい』、と言ったな」

「・・・その結果、そいつは捕らえたモンスターを生きたまま炙りながら筋トレをしつつその肉を食おうとするようになったんだが弁明はあるか?」

「・・・え?」

 

 衝撃の発言に固まるオッタル。

 そして、当然この場にいる全員も固まった。

 

「いや、俺はそんなつもりではッ!?」

「あー、オッタル?君としてはそのぐらい貪欲によく食べてよく鍛えろって言ったつもりかもしれないけど、その言い方だとモンスター食を推奨してるようにしか聞こえないよ?」

「何ぃッ!?」

「「「「「「何ぃッ、じゃねぇよアホ猪!!!!」」」」」」

 

 フィンの指摘に驚愕するオッタルに今度はフレイヤ・ファミリア幹部達がツッコんだ。

 

「お前はもっとよく考えてから発言しろ!!」

「筋肉ばかり鍛えてないで頭を少しは鍛えやがれ!!」

「てか幼い少年に何を吹き込んでるんだお前は!?」

「そもそもその少年はなんでモンスターを生きたまま炙ってるんだよ!?お前、その少年に他にも何か余計なこと言っただろ絶対!何言った、何を吹き込みやがったテメェ!?」

「いや、その・・・『鍛錬同様、食事も量だけでなく質も重要だ。妥協はするな』、と言ったがまさか質を新鮮さという意味で捉えたのか?そんなバカな」

「そんなバカなじゃねぇんだよこのアホ!!」

 

 

 最早絶望も歓喜も一切無い。

 敵味方の垣根を越え、この場にいる一同がオッタルのやらかしに頭を抱えていた。

 お前、何をやってるんだ!?───と、彼等全員の内心は一致している。

 

「だ、だがそもそも!何故ザルドがその事でここに来た!?あの少年とお前の間にどんな「あいつ、アルフィアの甥だぞ?」かん、けい、が・・・?」

「「「「「「「「「「・・・え」」」」」」」」」」

 

 瞬間、空気が死んだ。

 アルフィア?アルフィアって言った今?

 嘘だろ、それってあの【静寂】だよな?

 妹が妊娠した事にキレたけど相手が既に死んでたからって代わりに妹の出産の邪魔になりそうな奴等をボコボコにして磔刑にしたあの?

 あの【静寂】の甥っ子に、妹さんの忘れ形見にやらかした?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「───何やってんだお前ぇぇええええええッ!?!?!?!」」」」」」」」」」

「とゆうかお前があいつに言ったモンスターを食って己の力に変えた奴って俺だよな!?俺のことだよな!?この事をアルフィアに知られたらお前だけならまだしも俺まで殺されるわ!!本当に何をしてくれてるんだお前は!?」

「それであいつあんなに殺気立ってたのか」

「なんというか、頭が痛いわね」

 

 エレボスは得心がいったとばかりに頷き、アストレアは頭を抱えた。

 2人ともヘラという女神のヤバさは骨身に染みて解っている。

 そんな彼女が溺愛していたメーテリアの忘れ形見をモンスターを食べる筋肉達磨予備軍にするとか笑えない。

 

 オラリオの主力達は動かない筈の身体を無理矢理動かしてオッタルをシバき始め、闇派閥達はこのままここにいたらアルフィアが襲撃してきて磔刑にされるのでは?と恐怖に慄き逃げ出した。 

 それを止める者は誰もおらず、というよりそもそもオッタルをシバく事以上に優先する事が無かったのでスルーした。

 

 

 

 

 

「・・・ゴフッ」

「って、待てお前達!ザルドが吐血したぞ!?」

「あ、そう言えば彼ってベヒーモスの毒に侵されてるから前線を退いてたんじゃなかったっけ?」

「つまり、オッタルのやらかしにキレて毒の回りが早まった?」

「ゴフッ、・・・ゲフォガァッ!?」

「あ、待って待って待ってマジで死にそうじゃねこれ!?」 

 

 結局オッタルはザルドによって気絶させられたが、その直後に突如吐血。

 それを見てフィン達は彼の状態について思い出し、そして焦った。

 

 

「「「「「「「「((((((((世界救済の貢献者をオッタルのバカなやらかしのせいで死なせる訳にはいかねぇっ!!!!))))))))」」」」」」」」

 

 ベヒーモスの毒で死ぬことに関してはザルド自身受け入れていたから別に良いだろう。

 彼も冒険者だしそのぐらいは覚悟している筈だ。

 

 だが、仲間の忘れ形見をヤバい方向に超進化させた挙げ句最恐の女による八つ当たり死亡フラグを建築してくれやがったオッタルをシバき倒して力尽きましたはヤバい。

 こんな経緯でかつての英雄を死なせたとなったら人類全体の士気が下がる。

 とゆうか普通にいたたまれない。

 

 すぐにアミッドとヘイズ、そして医神達による緊急治療が開始された。

 今回の戦いで傷付いた戦士達も同様に治療を受け始めたのだが、一応一番活躍した筈のオッタルは放置されたことは言うまでも無いだろう。

 

 

 

 ◆後日

 

 

「・・・オッタル、貴方一応レベルアップしたわよ」

「やはり、ザルドと戦ったのが大きかったのでしょうか?」

「正確にはザルドとオラリオの主力達相手に、でしょう?そもそもオッタル、貴方何で反撃しちゃったの?」

「いえ、つい反射的に・・・」

「あそこは大人しく制裁されるべきだったでしょう?空気を読まなさすぎよ、最終的にザルド以外全員倒しちゃってるし」

「・・・申し訳ございません」

 

 いい加減にせんか小僧!とザルドから鉄拳制裁を喰らってようやく気絶したオッタル。

 だがそれまでの間に自派閥の仲間どころかフィン達他派閥の冒険者も空気を読まずに倒してしまった為、彼のレベルアップを喜ぶ者は誰一人としていなかった。

 

「・・・こんなこと言うのもどうかと思ったけど、アレンをお遣いに行かせていて良かったわ。もしあの子がオラリオにいたら今頃胃に穴を開けながら仕事に奔走することになっていたでしょうから」

「・・・そういえば、アレンは今どこに?」

「ああ、あの子なら今・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

「機関部破損!出力ダウン、このままだと三十分後に墜落します!」

「復旧を急げ!それと、進路を海に変更しろ!万が一墜落しても少しでも被害を減らすんだ!」

「医務室より連絡!神イズン様の容態変わらず、解毒の目途も立っていないとの事です!」

「同じく医務室より!バーダインは一命を取り留めたものの、まだ目が覚めないみたいです!!」

 

 世界勢力の1つ、かつてリヴァイアサン討伐の足場となった巨大戦艦通称学区はパニックに陥っていた。

 学区を運営する神の一人であるイズンは毒を盛られたのか顔を青ざめさせながら苦しんである。

 生徒の一人、牛人のバーダインは身体中の骨を折られる重体だ。

 更には学区の機関部を含めた重要機関を破壊される始末。

 

 それをやった犯人達に、教師は生徒を指揮しながら立ち向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・いや、俺はフレイヤ様に頼まれて神イズンに届け物をしただけなんだが!?」

「・・・私も、神イズンとやらに用事があってきただけなんだが?」

 

 

 犯人とされているのはアレン・フローメル。

 そして、  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・煩わしいから取り敢えず『福音』!」

「「「ぐわぁぁああああああああ!!!!」」」」

「良いのかそれ、ていうかそもそも何でこうなった?」

 

 新たなる苦労の訪れを察したアレンは頭を抱え、痛む胃を誤魔化すべくアミッド謹製の胃薬を飲み込むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 ザルドは一応一命を取り留めました。

 ベル君がどうなるのかは今後の展開をお楽しみに
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