デーモンハント〜異世界編〜   作:ガジャピン

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第11話 イブとピュレ

 

 町が石壁で囲まれているのを知ったのは今が初めてだった。町の門と石壁が作られていて、目測約三メートルの高さがある。

 

「デーモンの襲撃に備えてるんです」

 

 魔法使いチックな少女──ピュレが石壁をジッと見る俺の視線に気付いて言った。

 俺は視線の先をピュレに変更する。

 

「俺はデーモンとやらを見たことないからあれだけど、心許ない気がするな。簡単に壊されて突破されそうだ」

「あれはただの石壁ではなくて、呪文が彫ってあるんですよ。デーモンには共通して嫌いな臭いがありまして、その呪文を見ると嫌いな臭いを感じる幻覚にかかるんです」

「呪文そのものが術式になるのか。魔法は奥が深そうだな。

一つ質問があるんだけど、もし君が俺の体に何かしらの呪文を彫ったら、条件で発動する魔法になるのかな?」

 

 ピュレは少し首を傾げ、顎に右手を当てる。

 

「え〜と、物質に呪文を彫るのと生物に呪文を彫るのではやはり抵抗力の差があります。物質は抵抗力が低いので魔法を発動させやすいですが、生物は意思を持つので抵抗力が高く、上手く魔法が発動しない可能性が出てきます。また魔力のある物質と魔力のある生物では、より顕著にその違いが出てきます。アダムさんは魔力があるので、わたしがアダムさんの体に呪文を彫っても抵抗力のせいで上手く魔法が発動しないですね。死体になったら話は別ですが」

「あッ、そうですか……」

 

 俺はピュレの何気ない最後の一言に寒気を覚えた。死体を魔法を発動するためのトラップに使用している光景が頭をよぎったからだ。

 俺はイブを見る。

 イブは無表情のまま、ずっとだんまりを決め込んでいるからどうしても気になってしまう。

 

「イブ、さっきからどうした?」

「考えてる」

「何を?」

「いずれ目に見える形で分かるよ」

「重要じゃない?」

「ん〜、命に関わるくらいには」

「クソ重要じゃねえか」

 

 命に関わる考え事を無関心でいられるわけがない。

 

「わたしの命にも関わりますか?」

 

 ピュレがおそるおそるイブに訊く。

 イブは満面の笑みになった。

 

「アンタが一番関係してるよ」

 

 俺はイブが冷たい目でピュレを見ていたことを思い出した。さり気なくイブとピュレの間に移動する。

 

「殺す気か? 彼女を」

「それを考えてる」

「何故?」

「その子があたしの手配書をあの店から持っていったからさ」

 

 俺は思わずピュレの方に振り返る。

 ピュレは顔を青くして、目を見開いていた。

 

「それは、あの……」

「あ、弁明あるんだ。言ってみ? 理由によってはこの場で処さないであげてもいいよ」

「可能性の一つとして、旅の途中にイブさんが死んじゃうかもしれないじゃないですか」

「可能性としてはあるね」

「ですよね!? そうなった場合、手配書があれば懸賞金が貰えるなって思って」

「なるほど」

 

 イブはうんうんと頷いている。ずっと笑顔のままだ。

 ピュレは気付いただろう。イブの殺気に。俺は話しだした時から感じていてチビりそうになっている。

 

「どうすればわたしは処されないですか?」

「手配書を目の前で処分すればいいよ。そもそもあたしは死なないから、手配書持ってても無駄だし」

「さっき、死ぬ可能性あるって言ってなかったか?」

「言ったけど、極めて低い可能性だから、ゼロパーセントと同じ」

「いや、全然違うだろ……」

 

 俺は頭を抱えそうになった。

 

「ま、あたしが死ぬならあんたらも死ぬよ。一蓮托生ってやつ」

「言ってること最悪だぞ。そこは『あたしが盾になってる間に逃げろ』ぐらい言うところだろ」

「お前が言えよ、男だろ」

「それは一理ある。でも俺は自分に正直でいたい」

「あたし以上に最低なこと言ってるよ」

 

 ピュレは革製のバックパックから手配書を取り出し、イブに見せる。

 イブがゆっくり頷くと、ピュレは手配書をビリビリに破り、その後八つ当たりと言わんばかりに小さく呪文を唱えて手から火を出して手配書を燃えカスにした。

 イブはピュレに近付き、ぽんぽんと肩を叩く。

 

「これであたしらは仲間だ」

「一つ言わせてもらいますけど、わたしは逃げ足には自信がありますから、一蓮托生ではないです」

 

 イブはぽんと手を叩く。

 

「……ああ、合点がいった。なんで南に行きたがるか気になってたんだ。手配書のことと同じくらいには」

「なんで南に行くことがおかしいんだ?」

「言ったろ? 南にはデーモンの親玉がいると思われる森があるって。全てのデーモンはその森から来る。南に行きたいなんて頭イカれた奴そうそういないよ。元の世界に戻りたい紋章者以外は。ただ、例外はある。それはワープやゲートといった長距離移動魔法を準備している奴だ。その魔法があれば、危なくなったらすぐ北の方に戻れるからな。安心してデーモンの魔石や素材を集められる」

 

 どうやら図星だったようで、ピュレは口を魚みたいにパクパクさせて言葉を探しているが見つからないらしい。

 

「あたしの手配書を持ってくわけだよ。あたしが死んだら、あたしの頭を持ってその魔法でディシグラ国に移動し、手配書に書かれている報酬を受け取る算段だったんだろ。頭良いじゃん」

「……いけませんか?」

「ん?」

 

 青ざめていたピュレの目が据わり、イブを睨んでいる。恐怖よりこの理不尽な責苦への怒りが勝ったようだ。

 

「イブさんは、死んだら何も感じなくなるんです! それが死ぬってことなんですよ! 死体は放置すれば腐るだけで何も残らない! だったら生きている人間が少しでも得するよう再利用して何が悪いんです!? デーモンだって殺したら魔石や素材を取るでしょ! それと一緒です!」

 

 そう力説するピュレに対し、俺はドン引きしていた。死体なら何してもいいという思想は現代人である俺にとってすぐには受け入れられない思想だ。だが、この世界のような過酷な環境ならそういう思想になるのも頷ける部分もある。

 

「なぁ、イブ。ピュレはお前が死んだ場合のことを考えていただけっぽいし、もう仲直りしな」

「それは結果論だろうが。話す前は不意打ちであたしを殺すつもりか、あたしが死体になった場合のことを考えていたのか分からなかった」

「それは……そうだな」

 

 その会話の最中、イブがいきなり目の前から消えた。ピュレの背後に現れ、その首に短剣を突きつける。ピュレは少し右腕を動かしただけで、反応しきれていない。

 

「ひっ」

「ピュレ、あんたはあたしの仲間さ。とりあえず今は。だが変なマネしてみろ。死体にしてデーモンどもの撒き餌にしちゃうからな。頼みの移動魔法も発動する前にあたしに捕まるってこれで理解できたろ」

「分かりましたよ〜! イブさんに忠誠を誓います!」

 

 ピュレは涙目で両手を上げている。どうでもいいが、この世界も両手を上げるサインが抵抗する気がないという意思表示として伝わるんだなと俺は今学んだ。

 そんな一悶着を終えた俺たち三人はようやく門を出た。

 これから、俺の旅は始まる。


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