デーモンハント〜異世界編〜   作:ガジャピン

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第12話 短い旅

 

 とりあえずこれからの目的地はプリフィカシン砦というところらしい。この砦の名前であるプリフィカシンという言葉は、日本語に訳すと浄化という意味のようだ。この砦はデーモンの本拠地とされている森に一番近く、またこの砦より南に人工物は何一つないという話をピュレから聞いた。

 俺はその旅の途中、ピュレから様々な呪文を教えてもらっている。教えてもらった呪文はちゃんとメモして、財布にいれた。

 

「火の呪文『ファイア』……と。呪文がだいたい英単語なの覚えやすくて助かるな」

「呪文は集中力と想像力の向上のために使われるもので、絶対に必要なものじゃありません。極論、無詠唱でどの魔法も発動することができます」

「……ふーん」

 

 俺は呪文を唱えず、光球をイメージしながら前方に手をかざした。体が熱くなり、熱が手の平へと伝播。光球が生まれ、前方を歩くイブの背中にくっついた。確かに、呪文無しでも呪文で発動する魔法が使える。呪文を使わなかったからといって呪文で発動した時より体に負担がかかるとかでもない。

 俺は試しに教わったことのない魔法を頭に思い浮かべた。自分の周囲で風が渦を巻き、吹き荒れるイメージ。すなわち風の魔法。杖を握りしめ、杖の魔石が輝きを放ち始める。体の熱が放出されるのと同時に俺の周囲で風が巻き起こり、ピュレとイブに襲いかかった。ピュレは俺の魔力の高まりを感じとっていたらしく、俺の魔法と同時に呪文を唱え終わり、自分の正面に魔力の壁を創って風を防いだ。イブは振り返り、鬱陶し気な表情をしながら短剣を振り下ろして暴風を切った。短剣に込められていた魔力が暴風と混じり、暴風そのものが打ち消される。これはおそらく、短剣に触れた魔法を無力化する魔法が発動していたのだろう。ただしピュレの方の風は消えていなかったため、無力化する魔法には範囲があり、範囲外の魔法は同魔法でも無力化できないらしい。

 暴風が過ぎ去ったらピュレは魔力壁を消した。

 イブとピュレは俺の方を見ている。ピュレは柔らかい表情を崩していないが、イブはめちゃくちゃ剣呑な目つきだ。おまけに殺気も感じられる。

 俺はとりあえず謝ることにした。

 

「すまん」

「今の魔法はなんですか?」

 

 ピュレが言った。

 

「風の魔法だよ。明らかだったろ」

「私が知ってる風の魔法と違いますね。どのような想像で魔力を放出しました?」

「風で周囲の物を吹き飛ばすイメージだよ。台風みたいな」

「間違った想像ですね。風は本来刃として切り裂くか、浮遊するか、一方向へ風の渦を発生させるか、そのどれかが基本です。その想像では魔力が広範囲に分散されてしまって威力が弱体化してしまいます」

「なるほど、重要なのは適切なイメージか」

 

 確かに無駄な方向にも風が生まれていたから、魔力の無駄使いは半端なかった。

 

「そっちの話は終わったかな?」

 

 イブが明るい声で割り込んできた。

 

「はい」

 

 ピュレはイブの明るい声に隠れた不機嫌さに気付いたようで、イブの機嫌を損ねないように従順になっている。

 

「よろしい」

 

 イブが一つ頷くと、いきなり俺の胸ぐらを右手で掴み、高く持ち上げてきた。

 俺はいきなりのことで気管が詰まり、何度か咳き込む。

 

「見えるか?」

 

 俺の様子など全く気に留めず、イブは左手であらぬ方向を指差す。

 俺は頑張って呼吸しつつ、イブが指差した方に顔を向けた。向けた瞬間、俺の頭は苦しさを忘れ、驚愕と恐怖に支配された。

 雑草の生え散らかした草むらの先にある雑木林から、様々な姿形をした怪物たちが続々と出てきている。怪物の目はどれもこちらを向いていて、俺たちを意識していることがよく伝わった。

 

「お前のせいだぞ」

「俺の……せい? なんで……だよ?」

 

 俺はなんとか言葉を振り絞った。

 イブははぁとため息をつく。

 

「デーモンは一般人より魔力のある混血を好む。そんな奴らが弱々しい風魔法の魔力を感じて、何も行動を起こさないわけないじゃん。お前は今『自分は美味しい獲物ですよ〜』って周囲にアピールした、魔法でな」

「マジかよ……」

 

 俺は自分が軽率に放った魔法がいかに愚かだったか思い知らされた。

 そんな中で、イブは腰のベルトの二本の剣を抜き、怪物たちの方に向く。その顔には獲物を見つけた肉食獣のような、獰猛な笑みが浮かんでいた。

 

「貸し一つな」

 

 イブはそんな一言を俺に放った直後、俺の前から消えた。怪物たちの叫びが響く。俺は叫び声の方を見る。怪物の群れがイブに蹂躙されていた。イブは両手に剣を持ち、その剣の一薙ぎ一薙ぎが怪物たちを両断。辺り一面に怪物の様々な色の血がぶち撒けられている。叫び声だと思っていた声は、怪物の断末魔だった。

 イブによる虐殺は数分で終わった。百体はいたであろう怪物たちが、今は地面に横たわる肉片となって動物や植物の糧となった。

 

「ふぅ……」

 

 イブは返り血を一滴も浴びずに二振りの剣を鞘にしまいながら戻ってきた。地面が怪物の血の池地獄になっていることを考えたら信じられないことだ。どうやらイブにとって返り血を浴びないように斬り込むのは朝飯前らしい。

 

「た、宝の山……、ウヘ、ウヘヘヘへ」

 

 ピュレは目を輝かせながらその血の池地獄に飛び込み、デーモンたちの肉片の山を漁り始めた。いつの間にかピュレは服の上に毛皮のマントを羽織って自身を包んでいる。デーモンの血で服を汚さない備えをしているのは当然のことだった。

 一時間は経っただろうか。ピュレはカラフルな血で自身を彩られながら、ニッコニコの笑顔でこちらに帰ってきた。パンパンに膨れあがった皮の袋を四つ持っている。一つ一つが明らかに持てそうにない大きさの袋だが、何らかの魔法で軽くしているようだ。

 ピュレはカラフルな血で染められたマントを脱ぎ、地面に捨てた。再利用はしないらしい。その後、イブを尊敬の眼差しで見る。

 

「イブさん……もしかして、デーモンの素材を壊さないように殺すのを徹底してます? どのデーモンの魔石も壊されていませんでしたし、素材でよく使う部位もほぼほぼ無傷でした」

「ああ。だいたい素材として使う部位は同じだし、魔石の位置も胴体の中心が多いからね。そうやって殺して金を稼ぐのが癖になっちまったんだ」

「素晴らしいハントの仕方です! イブさんはデーモンハンターの鑑!」

「ふふん、そうだろそうだろ! もっと褒め讃えていいぞぉ」

 

 イブは薄っぺらな胸を張った。

 

「よっ、天才剣士! 最強紋章者! じゃあ、わたしは素材がパンパンになるくらい集まったので帰りますね! さようなら!」

 

 ピュレはイブを褒めつつも魔力を高めていたらしく、更には杖の先で地面に魔法陣をさりげなく描いていた。俺は今になってそれに気が付いた。

 ピュレが魔力の渦を体に纏いながら小さく呪文を呟くと魔法陣が光を放ち、ピュレがその光に呑まれたと思うとピュレの体は跡形も無く消えていた。使い終わった魔法陣と脱ぎ捨てられた血塗れのマントだけがピュレがここに居た証だった。

 俺とイブは顔を見合わせる。

 やがてイブは大笑いしだした。

 

「あはははは! 面白いヤツ! 自分の心に忠実なヤツは嫌いじゃない。もう会うことはないけど、楽しかったよ」

 

 こうして俺たちの旅はあっという間に二人旅になった。


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