デーモンハント〜異世界編〜   作:ガジャピン

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第2話 唯我独尊系美少女登場!?

 俺は空腹のまま、とぼとぼと力なく活気のある大通りを歩く。

 考えてみれば当たり前の話なのだが、日本の通貨である円がどの飲食店も使用不可なのだ。飲食店が駄目ならどの店に行ったって駄目だろう。

 幸運だったのは、エロDVD三枚を買った後だったので財布に千円ちょっとぐらいしか入っていないことだ。一万五千円がゴミになるより、千円がゴミになった方が精神的ダメージは少ない。だがダメージがねえわけじゃねえんだぞコラ。

 今の俺は多分楽しみにしていたゲームシリーズの続編がクソゲーだった時のような顔になっているだろう。

 もちろん円が使用不可だと理解した次に目指した場所は銀行である。銀行に行けば大抵は両替してもらえる。もし今いる場所と同じ世界に日本があれば、円の価値を知るこの場所の銀行は喜んで両替に応じる筈だ。

 しかし、信じられないことにそもそも銀行が無さそうだった。自分の探索不足かもしれないが、銀行は人通りの多い道に面しているのが普通。人気のない場所に銀行はよっぽどのことがない限り置かない。

 銀行がない。その事実に至った衝撃はアメコミとかでよくあるバングという擬音とともにピストルで頭を撃ち抜かれたようだった。銀行だけにバングってね。

 それから、この場所はどうやら英語ではなく、英語によく似た言語が使われているようだ。英語感覚でなんとなく読めるが、英語そのものではない。

 

 ──これは……さすがに確定か。

 

 ずっと考えないようにしてきた可能性。すなわち、異世界への転移。

 娯楽物ではよくある設定のため、当然俺の頭には異世界転移という文字がずっと浮かんでいた。

 

 ──マジかあ……。

 

「あの……すいません!」

 

 俺がショックのあまりその場でソーラン節を踊っていると、まっすぐな黒髪を肩の辺りで切り揃えている美少女に声をかけられた。間違いなく美少女。アイドルとかモデルとか、いわゆる芸能人にいても違和感のない顔をしている。上半身はぴったりとした白色の麻の服。腰のベルトには剣が二本、両腰の辺りに鞘ごと取り付けられていた。下半身は暗めの赤色のレザーパンツ。両膝にナイフホルダーが付けられていて、それぞれ四本ずつ短剣が納まっている。背には身の丈ほどの抜き身の大剣を背負っていた。

 だが、今の俺は容姿より気になることがあった。

 

「へ? 日本語?」

 

 そう。他の連中が英語やら中国語やらフランス語やらヒンディー語やらスワヒリ語やらを話しているのを聞いたことはあるが、日本語は聞いたことが無かった。

 で、ここで一つ、海外に一人で旅行に行って学んだ教訓を教えよう。それは、相手の方から親切そうに声をかけてきたら十中八九要注意人物だ。信頼してほいほい付いていったら財布からパスポート、髭剃りも何もかも盗まれ、最終的に日本領事館のお世話になりました。今では良い思い出です。日本領事館の職員さんにはこの場を借りてお礼を申し上げます。あ、この話聞いて「こいつマヌケだな」とか思った奴は公共交通機関を利用している時盛大に漏らして大恥をかけ。

 で、その理屈でいくと、この美少女は十中八九要注意人物なのである。綺麗な薔薇には刺があるとよく言われるが、この美少女もそうかもしれない。

 

「あたし、日本人なんです」

「ああ、そうなんですか。よく俺が日本人だって分かりましたね」

「なんていうか、日本! って感じが全身からかもしだされていたんで……」

 

 そら道の真ん中でソーラン節踊ってたら誰もが日本! って感じになるわな。

 納得した俺は頷き、先を促す。

 美少女も頷き返し、言葉を続ける。

 

「それで、物は相談なんですけど、同じ日本人同士、協力し合いませんか?」

 

 きたきた、と俺は思った。

 そう言って仲間が隠れている場所に誘導し、強奪する。よくある手口だ。

 こんな見え透いた手に俺は引っ掛からない。

 

「ありがたい申し出ですが──」

「食事をご馳走しますよ」

「行きます。こんな美少女に食事をご馳走してもらえるなんて、俺は幸せものだなあ。はっはっはっ」

 

 美少女も大口を開けて笑っていた。

 今にして思えば、気付くべきだったのかもしれない。美少女と呼ばれるカテゴリーに大口を開けて笑う美少女は含まれないと。

 だが、背に腹はかえられぬというし、今の自分にとって奪われて困るのは何もない。強いて言うなら『雌犬と雌猫のワンニャンパラダイスでラビット!』ただ一つ。もちろんお楽しみ的な意味でだ。奪われる可能性も低い。なら、乗るしかないだろう。このビッグウエーブに。この美少女の胸にはウエーブはないが。

 で、俺はほいほい美少女に付いていき飲食店に……ではなく、なんか役所みたいなところに連れていかれた。ちなみにこの美少女、背中のベルトにも短剣が二本、鞘ごと取り付けられている。この美少女の持つ短剣は、見える部分だけで十本あるということだ。更に剣が二本と、身の丈ほどの大剣。え~と、アサシンクリードの熱烈なファンかな?

 元々百パーセントこの美少女を信頼していたわけじゃなかったので、俺は疑いの目を美少女に向ける。

 美少女は俺の視線に気付いたのか、振り返ってにこりと笑い、

 

「ここに転移してきた人はこうして役所で登録しておかないと、色々面倒になるんですよ」

 

 と言った。

 俺は驚きつつ、

 

「え? 転移される人って珍しくないんですか?」

 

 と訊いた。

 

「はい。もうしょっちゅう空から人が降ってきますわ。日常茶飯事です」

 

 ああ、だから俺の周りは大騒ぎをしておらず、エロDVDの方に関心が寄せられたのか。クソが。

 と、ここで俺は疑問が浮かんだ。

 

「そういえば、なんで遥か上空から落ちて死なないんです?」

「ゲートをくぐる際、物理的ダメージを一度だけ無効にする魔法がかけられるんです。だから、地面にまっ逆さまに落ちれば死にません。逆に途中で鳥とかドラゴンとか建物とかにぶつかったら、そこで魔法が切れて死ぬか重傷を負います」

 

 さらっととんでもないこと言ったぞこの美少女。

 つまり、俺は運試しを転移させた奴にやらされたわけだ。ふぅ~! 地面にまっすぐ墜落して良かったぜ!

 

「あ、ちょっと指借りますね」

 

 そう言って美少女は俺の右手を取り、受付に置かれている赤色の液体に俺の人差し指をつけ、赤く染まった俺の人差し指を何かの書類に押しつけた。

 その書類を見つつ受付の女性が笑顔で何か言ったが、俺には意味が分からない。やはり英語ではない。

 

「どうしたんだい、のび太くん」

 

 俺が困惑した表情を浮かべていると、ドラえもんの声真似をした美少女が声を掛けてきた。俺はさらに困惑したが、一応美少女のノリに乗った。つまり、のび太くんの声真似をしたのだ。……自分でも何やってるんだと思う。

 

「何しゃべってるか全然分からなくて困ってるんだよ~」

「まったくしょうがないな~のび太くんは。そんな時は……ピコンチャチャチャ翻訳お札~」

 

 美少女は道具を出す時の効果音も完コピしつつ、一枚のお札を高々と掲げる。

 

「翻訳お札?」

「このお札を身体のどこかに貼ると、どんな言語も脳内で理解できる言語に翻訳されるんです。もちろん相手に話す時も、相手の理解できる言語に翻訳されますよ」

「ご都合主義すぎない?」

「今までの転移者の知恵と努力の結晶です。断じてご都合主義ではありません」

 

 美少女は俺の右腕の袖をまくり、腕にお札を貼り付けた後、受付の女性にもう一度さっきの言葉を繰り返してほしいと頼んだ。

 

「かしこまりました」

 

 受付の女性は嫌な顔一つせず、頷いた。てか、マジで言葉分かる……。俺は感動していた。

 

「冒険者の登録完了しました。アダムさんはイブさんのパーティーとして、ティルロースでの活動を許可します」

「……は?」

 

 確かに、受付の女性がこういう意味合いの言葉を言ったと理解できた。だが、理解できても納得できるかどうかは別の話。

 アダム? イブ? パーティー? ティルロース? なんのこっちゃ。この翻訳お札がおかしくなったんだな。きっとそうに違いない。

 美少女は振り返って俺を見た。

 それは劇的ビフォーアフターだった。

 なんということでしょう。見る者に希望と温かみを与える天使のような愛らしい微笑みをしていた美少女が、他人の不幸を嘲笑う悪魔のようなゲスな笑みを浮かべているではありませんか。媚びた感じはすっかり消え去り、素材そのものの魅力をしっかりと前面に出しています。

 美少女の唇の端が吊り上がった。

 

「これからよろしくな、アダム」

「ノオオオオオオッ!!」

 

 俺の絶叫は役所を駆け抜け、付近の店内まで届いた。

 人は過ちを繰り返す。そんな言葉が脳裏をよぎった。

 イブとかいう美少女は俺の顔を見て、笑みを消し怪訝そうな表情になる。

 

「なんで笑ってんの?」

「……え?」

 

 俺は絶叫を止め、 右手で顔に触れた。

 自分の人権がこの美少女に握られ恐怖しているのに、俺はこの予測不能な展開をどこかでわくわくもしているらしかった。

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