目覚めたら、二つあるベッドの内の一つに寝ていた。どうやらここまでイブが運んでくれたらしい。もう片方のベッドはイブが寝ている。
それから、宿の近くにある服屋でイブが俺の服を買ってきてくれた。
血まみれの服から新しい服に着替える。その着替えを何故かイブはガン見。
「……なんだよ?」
「パンツ脱がないの?」
「脱いでほしかったらこっちみんな」
「別に脱いでほしくないぞ」
イブはガン見を止めない。
この部屋はそもそもワンルームでベッド二つしか置いてなく、他の家具もタンスしか無いため、見えない場所で着替えるということができない。
「なんで俺をじっと見る?」
「変わらないな、と思って。他のアダムは変貌したよ。別人みたいになった」
「俺はお前の味方なんだろ? だったら俺を殺さないよな?」
「うん。ヘマしなかったらね」
ちょっと待て。味方でもヘマしたら殺される対象になるのか? これは慎重に行動しないとな。
イブにはプリケツを見せつつ下着も全部着替えると、イブと昨日夕食を食べた飲食店に行った。朝食を食べるためだ。まだ一日経ってないため、好きなだけ食べれるだろう。
リアが殺されたことを知っている俺は正直気が重かったが、イブは鼻歌混じりのルンルンステップで飲食店まで歩いていた。俺はそんなイブを二度見し、深く考えるのを止めた。
飲食店に着くと、店主が慌ただしく店から出てきた。
「ああ! ちょうど良かった! リアを! リアを知りませんか!?」
「ど、どうしたんです?」
「実はあなた方が店を出た後、ガラの悪い連中が後をつけるように出ていきましてな、リアがもしかしたら襲われるかもしれないと心配しましてそいつらを追いかけたんです。店を出ていく際、一応護身用で包丁は持たせたんだが、この時間まで帰ってこないのです。何か知りませんか?」
「……いえ」
俺は両手を握りしめていた。やっぱりリアは強盗なんて考えちゃいなかった。
店主は肩を落とした。
「そうですか……。いえ、気になさらないでください。さぁ、どうぞ。とびっきり美味しい朝食をご用意しますよ」
店主に店内を案内され、テーブルにある椅子に座った。
店主が離れると、俺は店主に会話を聞かれないようイブに顔を近付ける。
「強盗しようとした奴らとリアの死体をどうした?」
「今頃デーモンの血肉の一部になってるんじゃないかなあ」
イブはまるで『今日の天気は晴れです』と言っているような気軽さでこの言葉を言った。
俺は戦慄した。
デーモンとかいう化け物がいる場所まで死体を運んで、死体を処理させたっていうのか。
「……そうか」
怒りや悲しみ、虚脱感、あらゆる感情がぐちゃぐちゃに混ざりあっている。
だが、負の感情だけでなく、高揚感も確かにあった。
日本で暮らしていてはまず味わえない、この体験。自分の中で形成されてきた世界がぶっ壊れる感覚。
俺はイブの顔を何気なく見た。背筋を冷たいものが撫でる。
イブは不快感丸出しの顔で、店の入り口を見ていた。
俺もおそるおそるイブの視線の先を見る。見た瞬間、言葉にできない衝撃が胸を襲った。
店主が慌てた様子で入り口前に転がりでてきた。
「ああ! リア! どこへ行ってたんだ!? 心配したんだぞ!」
「店長、心配かけてごめんなさい」
リアが頭を下げた。
そばかすのある顔。金髪。青い瞳。豊満な胸。土と血で汚れた服。それら全ての要素がリア本人だと主張している。唯一の違和感は、ずっと左目が閉じたままだということ。
──おいおい、リアは間違いなく死んでたはずだぞ……。
すぐ傍にいた自分が、そのことは一番分かっている。ならば、あの女は誰なのか……。
「まあいい。早く着替えて、あの方たちの食事の用意を手伝ってくれ」
「あの方たち?」
リアが俺たちの方を見て、弾けるような笑みを浮かべた。
小走りで近付いてくる。
「ようこそいらっしゃいました! わたしの名前はリアです! このお店の料理はどれもすごく美味しいですから、期待しててくださいね」
「おいおい、どうしたんだ? その方たちは昨夜この店を貸切状態にしたお客さまだぞ。この店の料理はほとんど食べているだろうし、そもそもお前が出歩いたのも、お二人が心配だったからだろ」
「え、昨日? うッ、頭が痛い……。何も思い出せない……」
リアが苦しげに頭を抱えた。
「リア……どうやらお前は酒を飲みすぎたから、朝帰りなんてしたんだな。もう今日は仕事をしなくていい。休んでなさい」
「……はい」
「あのッ」
俺は口を挟んだ。
「左目、どうかしたんですか?」
「ああ、この目ですか。わたしにもよく分かりません。起きたら、見えなくなっていました」
リアは左目のまぶたを上げた。
俺は息を呑む。
左目になければならない眼球が無くなっており、ただ真っ暗な窪みになっている。
「それでは、失礼いたします」
リアが店から出ていった。
「……イブ、一体どうなってんだよ」
俺は小声で問いかけた。
「これは多分、蘇生魔法か復活魔法だね。誰かがリアを蘇らせたのさ。左目の眼球を供物として。それと、昨日一日の記憶を消去する忘却魔法も」
俺の目からは涙が溢れていた。涙が溢れつつも、俺は笑い声をあげていた。
「なに、笑ってんのさ」
不機嫌そうなイブの声で、俺の笑いと涙は引っ込んだ。
そして、俺は思い至る。再びリアを殺す可能性に。
「また殺す気なのか」
「は? なんで?」
「リアが生き返ったことに不快そうだから」
イブはぽかんとした表情を一瞬した後、小さく笑った。
「リアは記憶消されてるから、殺すまでもないよ。あたしが不快になったのは別の理由」
「じゃあ、なんで?」
「考えてもみなよ。あたしは人がまず入ってこない場所に死体を捨ててきた。なのに、リアは生き返ってる。放置した時間が長ければデーモンに喰われて生き返らせることはできない。ということは、あたしを監視してるかつけてる奴がいるってことさ。胸糞悪い話だろ。あたしのどこに目をつけられるとこがあるんだよ」
「あー……そうね」
目をつけられるとこだらけだろと思ったが、面倒くさくなりそうだったから口には出さなかった。