さて、色々あったが、俺はイブの正式なパーティーメンバーになった。なんのパーティーかは言わずもがな、冒険のパーティーだ。冒険とは何か。血沸き肉躍るワクワクドキドキモンスターや、頭ぱっぱらぱーのイブみたいなサイコパスとくんずほぐれつぶっ殺し合うことだ。あ~楽しみ! ほんと楽しみ! はぁ……。
で、みんなに質問だ。バトル・ロワイアルを勝ち抜き、金銀財宝素材をがっぽり手に入れるにはまずどうしたらいいか。答えは装備だ。何よりも装備を整えることが重要だ。
そういうことで、俺たち二人はショップにいた。様々な武器や防具、装飾品、アニメや漫画でしか見たことないような紋章が入っている物(多分マジックアイテム?)がずらりと店内に並べてあった。
イブはこういうことにかなり慣れているようで、店内の物をテキパキと選んで買っていた。
それら(多分イブ一人分の体積があった)を軽々と持ち上げ、俺の前にズンッ! と置いた。
「はい、これ」
はいこれって言われましても……。
俺はどう対処していいか分からず、無言で目の前の物体を凝視した。身の丈ほどの木製の杖、革製の衣服、指輪が四つにネックレス一本、その他革袋や革水筒といった消耗品がどっさり。
──どう返しゃいいんだよ……。
まずこれを持てないから、ありがと~などと言いながら持つ選択肢はない。
かと言ってここで即着替えするのもNG。店主と用心棒は男だが、その後ろにちょこんと明らかに自分魔法使いっす! って格好の女の子がいるし、一応イブもいる。
「何固まってんの?」
「そりゃ固まるだろ。こっからどうせいっちゅうねん」
「装備してけばいいじゃん」
「公衆の面前だぞ!」
「そこに更衣室があるじゃろ?」
イブが一つの扉を指さした。
「えっ!? あれ更衣室!? てっきり倉庫か物置きだと思ってたわ」
「倉庫ですけど?」
ずっとだんまりを決め込んでた魔法使いチックな女の子がポツリと言った。
場の空気が急速に冷えていく。
「イブ、お前……」
「更衣室だよ?」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
その場にいたイブ以外の全員が同時に言った。
「更衣室だよな、あそこ。このご時世、買った装備をその場で装備できない武具屋があるわけないもん」
「うっ……!」
店主が呻きに近い声を発した。イブは的確に店主の弱点に言葉のナイフを突き刺したようだ。
ここでイブさん、渾身の一言。
「その場で装備できないってんなら、他のお店に行っちゃおうかなぁああああ?」
店主の顔がみるみる青くなっていく。
これだけの売上がパァになるだけでなく、今後イブとの取引も無くなると考えたら、ここでイブを他店に行かせるリスクの大きさくらい素人の俺にも分かる。
「ご、五分待ってくださああああい!」
やがて店長は絞り出すような声でそう言った後、倉庫改め更衣室に飛び込んだ。
イブをチラッと見ると、俺に向けてどや顔でサムズアップしている。
いやお前、別に良いことしてないぞ、と思ったが、口には出さなかった。
それからちょうど五分で店長が倉庫から出てきて、弱々しく「どうぞ」と手を扉の方へ向けている。汗だくで燃え尽きたような表情の店長の姿で、どれだけの苦労だったか察しがついた。
俺は感謝の意を込めて店長に軽く頭を下げ、自分の身長近くある荷物を倉庫改め更衣室に引き摺っていった。
着替えて最初に思ったことは、この世界に染まっちまったな、だった。身の丈ほどの杖を手に持ち、怪しい指輪を両手に二個ずつ嵌め、怪しげな石のネックレスをかけ、革製の衣服にフード……まさにRPGによくいる魔術師といった見た目だ。なんとなく身体が熱くなっている気がする。
倉庫改め更衣室から出ると、イブが満足そうに頷いた。
「これで囮くらいには使えるね!」
イブさん、本音をオブラートに包むことを覚えてください。
俺はハンカチがあったら思いっきり噛んでイーッ! とやりたいと猛烈に思った。
「あの……右手の指輪はこちらの方が……」
魔法使いチックな少女が申し訳なさそうに指輪を二つ差し出してきた。
イブが不愉快そうに僅かに眉をひそめる。
少女が指輪を二つ交換しろと暗に言っているのは俺も察した。
「値段ならこちらの指輪の方が安いので大丈夫です! 安心してください!」
俺たちの、特にイブの険悪な雰囲気を敏感に感じ取った少女は必死にそう言った。
店主が軽く少女を睨んでいる。高い方買わせておけよ、とその目が言っているのがよく伝わってくる。
「値段は特に気にしてないんだよ。たださぁ……こっちも考えて右手の指輪選んだのよ。納得できる説明をしてくれる?」
魔法使いチックな少女は泳がせていた目をイブに固定した。イブと正面からぶつかる覚悟を決めたらしい。
二人のやり取りがどうなるのか……というより、イブがどういう行動を取るのか、俺は興味を惹かれていた。イブのことをもっと知りたい。一応言っておくが、イブに対する恋愛感情などこれっぽっちもない。イブという生命体がどういう生態なのかという純粋な好奇心からくるものだ。
「楽しそうね、アダム」
イブが視線をこちらに向けた。
俺は咳払いをして、イブの視線から逃げるように顔を背ける。
「装備は同じデーモン属性の素材で揃えると共鳴現象を起こし、より効果が高くなるのはご存じですよね?」
「当然! だから魔獣属性でアダムの装備を揃えたのよ。それをあんたがイチャモンつけてくるからムカついたんじゃん」
魔法使いチックな少女はイヴの険悪な雰囲気に体を縮こませ、目を泳がせてしまっている。
俺はすかさず間に入った。
「まぁまぁ、そんな喧嘩腰じゃこの子も話せないだろ。もっと心広くしようぜ。な!」
「アンタはあたしのなんだ? 保護者か?」
「どっちかはともかく、お前が選んだ装備よりこの子の選んだ装備が良ければ、俺たちにとってプラスだろ。急に話に割り込んでゴメンな。話を続けてくれ」
「あ、はい」
魔法使いチックな少女は呆気にとられたように俺たちを見ていたが、俺の言葉で我に返ったようだ。
「魔獣属性は他の属性と違って種類が桁違いに多く、属性の他に系統があるんです。これはあまり一般には知られておらず、私のような
「バイトウルフ!? 狼がバイトしてんの!?」
「どんなウルフでもバイトしますよ。このウルフは特に噛む力が強力だからバイトって呼ばれてます」
「ああ、そっちのバイトか。オーケー、理解。続けて」
「はい。で、その杖がビッグバウの骨と魔石、左手の指輪二つに使われているのがアイスフォックスの魔石、ネックレスに使用されているのがビッグバウの魔石と、ここまでは全部犬系統の魔獣なのでとても相性が良いです。ただ右手の指輪二つに使われているチョップベアの魔石だけは犬系統ではありません。なので、こちらのバイトウルフの魔石が使用されている指輪をオススメしました。衣服にバイトウルフの毛皮が使われているから、より強い共鳴になってお客さんの力になります」
「あんたの言い分は分かった。そっちに代えさせてもらうわ」
「ありがとうございます!」
イブは店主に代金を渡し、魔法使いチックな少女から二つ指輪を貰った。
俺はイブから指輪を受け取り、身につけた。確かにさっきより身体が熱くなり、何かが装備品から溢れているのを感じた。おそらくこれがこの子の言った共鳴なのだろう。
その時何気なく店の壁を見ると、何枚か似顔絵が書かれた紙が貼られていた。翻訳お札のおかげで文字を読めるため、それが手配書だと分かる。
──ん?
その中の一枚に視線が釘付けになった。長髪で黒髪の少女が書かれているその手配書は、短髪にすればイブに少し似てるかもしれないと思ったからだ。名前はサエキ・ヨーコとあるため、日本人名である可能性も高い。
手配書の罪状は『
イブと名乗る原因でこの理由だけはやめてくれ、と俺は初めて神に強く祈った。