5. 東京都立呪術高等専門学校
東京都郊外。豊かな森に隠された場所にそれはある。
東京都立呪術高等専門学校。通称呪術高専。
呪術を用いて呪霊を祓い、日夜暗躍する影の立役者―呪術師を育成する学校である。
本日、この呪術高専に転入生がやって来た。
「き、緊張する……」
転入生―乙骨憂奈は古びた木製の扉の前で青い顔をしていた。唐突に決まった転入は、憂奈の知らぬ間にあれよあれよと準備がなされ、同級生との別れを惜しむ間も無く今に至る。
「大丈夫よ、深呼吸、深呼吸」
憂奈に取り憑いている特級過呪怨霊―祈本里香が言った。
教室の中から五条の声とクラスメイトの声が聞こえる。今日から憂奈が転入するクラスには、3人しか生徒がいないという。
もしハブられてしまったが最後、高専でのぼっち生活が確定してしまう。
「憂奈には私がいるじゃない」
里香が臍を曲げて言った。
「そうなんだけど、それとこれとは別なんだよぅ」
「入っといでー!」
五条の声がかかり、憂奈は扉に手をかけた。なるべく良い印象を与えられるように笑顔を貼り付けて、教室の中に入った。
「乙骨憂奈です!よろしくお願いします!」
憂奈はがばりと頭を下げた。瞬間、その上を薙刀の刃が貫いた。
「へ?」
憂奈が顔を上げると、眼鏡をかけた少女が薙刀を黒板に突き刺しているのが見えた。その両隣には白髪の少年とパンダ(なぜパンダ?)がおり、敵意がこもった目が憂奈を射抜いている。
「呪霊がなんで此処にいるんだ」
眼鏡の少女が言った。
ぐるりと憂奈の意識が回る。
憂奈の口元に蠱惑的な笑みが浮かぶ。
憂奈の体を乗っ取った里香は、右手を鉄砲の形にして3人に向けた。
「ばん ばん ばん」
里香の指鉄砲から凝縮された呪力の塊が打ち出された。
その塊が3人を教室の奥まで吹き飛ばす。
「私、祈本里香。憂奈の親友よ。憂奈をいじめる奴には容赦しないわ。よろしくね」
里香はくるりとその場でターンすると、スカートの裾を持ち上げお辞儀した。
「クソが……」
「こわい……」
「こんぶ……」
吹き飛ばされた3人に五条が近づく。
「ちょっと〜キミタチィ。瞬殺じゃ〜ん。それでも五条チルドレンなわけ〜?」
五条が不満げに口を尖らせる。
「なんだそれキメエ」
とバッサリ切り捨てる眼鏡の少女。
「悟の子供とか絶対ヤダわ」
と迷惑そうなパンダ。
「おかか」
と首を横に振る白髪の少年。
「この子達ノリわる〜」
五条はヤレヤレと首を振った後、べーんと憂奈に手を向けた。
「じゃああらためて紹介するよ。
死んだ親友に取り憑かれている乙骨憂奈ちゃんと取り憑いてる祈本里香ちゃんでーす。
皆よろしくー!」
「よ、よろしくお願いします」
苦笑いで再び挨拶をした憂奈だが、里香にボロボロにされた3人の反応は薄い。
「こいつら反抗期だから僕がちゃちゃっと紹介するね」
五条が眼鏡の少女の方を向く。
「呪具使い禪院真希。呪いを祓える特殊な武具を使うよ」
真希はムスッとしたまま何も言わない。
「呪言師 狗巻棘。おにぎりの具しか語彙がないから会話頑張って」
「こんぶ」棘はそう言って片手をあげた。
「パンダ」
「パンダだ。よろしく頼む」
と挨拶をしてくれたパンダ。しかしなぜパンダがいるのだろう。疑問は尽きない。
「とまあこんな感じ。
さあこれで一年も4人になったね。午後の呪術実習は2-2のペアでやるよ。
棘・パンダペア。真希・憂奈ペア」
「げっ」
真希は嫌そうに声を上げた。流石に憂奈も傷つく。
憂奈を冷たく一瞥した禪院は、スタスタと教室を出て行ってしまった。
「嫌われちゃったなあ」
ポツリと零した憂奈の呟きを拾ったのはパンダだ。
「里香に瞬殺されたことが悔しいだけさ。恋バナでもすれば女子は仲良くなるだろ」
「それは偏見がすぎるよ…」
第一、真希が恋バナにはしゃぐタイプに見えなかった。
パンダなりの慰めだろうか。
憂奈は憂鬱な気分のまま実習先に向かうのだった。