格納庫ー
ニパとサーシャの関係が改善した後だった。
「…どうしたのひびき?…どこに行くのひびき?…ひびきっ!?」
亜弥は居座っているエゾオオカミのひびきを撫でている時、何かを察知したのか格納庫から飛び出し、基地から出て行き、暗闇へ溶け込んだ。
「どうしたんだ、亜弥!?」
ユニットを整備していた洋介は中断して、亜弥の元に駆けつけた。
「お父さん、…ひびきが…ひびきが出て行っちゃった……」
亜弥は泣きながら、洋介にしがみついた。
洋介は隊長であるラルに相談した。
「そうか、亜弥の友であるオオカミが…」
「はっ、私的なことですが…万が一擬似態するネウロイと遭遇したら、捜索の許可を下さい!」
「良いだろう、許可する」
「ありがとうございます!では、失礼しま…」
「待て、桜井」
「なんですか?ラル隊長…」
亜弥は、父親である洋介が戻るのを待っていたため、亜弥自ら隊長室に向かった。
「…お父さん、遅いなぁ~…なにしているんだろう……」
「なんですって!?」
「…っ!?」
洋介の言葉に驚き。扉が開いていたため、亜弥は隙間から覗いた。
「そんな馬鹿な…亜弥の…亜弥の体内にネウロイのコアが…」
そう、亜弥がこの基地で身体検査にて、レントゲン撮影で医師からの診断で心臓部にネウロイのコアを確認した。
「(…そん…な…わたしの身体に…ネウロイのが…)」
亜弥は両手で口元を押さえて、後ろ向きでゆっくりと歩いた。
「隊長、亜弥を…俺の娘をどうするつもりだ、…この基地で処刑か、もしくはカールスラントの研究施設に移送するのか…あなたの判断次第で許さんぞ…」
洋介は殺気を出しながら、右手を拳銃のホルスターに近づけた。
「落ち着け桜井。お前の娘を処刑はしない、無論、研究施設にも送らん」
ラルの瞳は曇り無く、真剣な眼であった。
「…隊長…取り乱してすいません…」
「構わない。これだけは約束する、君の亜弥は絶対に犠牲にしない」
「……はっ、ありがとうございます!」
洋介が格納庫に戻ると亜弥の姿はなかった。
「……亜弥…まさか……!?」
翌日、再び行われたマーカー型ネウロイと亜弥の捜索に出た洋介たち。
ロスマンが指揮する砲撃ネウロイ捜索組はネウロイはもちろん、亜弥の捜索を行った。
「亜弥ちゃーん!!」
「亜弥くーん!!」
「亜弥~!!」
「亜弥ちゃーん!!」
「亜弥ちゃん、どこー!?」
その中で定子は能力を全開して人一倍に探索した。
出撃前、格納庫ー
「頼む定子、亜弥を探してくれ!僕と…亡き妻の…血の繋がった大事な家族だ…」
洋介は両手で定子の肩を握りしめ、涙ながら嘆願した。
定子は亜弥が眠っている時、洋介の以前にいた世界での経緯を知った。
神戸の水害で両親を亡くし、弟は陸軍に入隊して戦車部隊に配属。姉は従軍看護婦に従事。
戦争に突入して、弟はベルリンで戦死し、姉は沖縄で行方不明。
そして、前妻の雪も洋介の帰りを待ちながら亡くなった。
「…洋介さん、わかりました。必ず見つけます!…それに、わたしは洋介さんと亜弥ちゃんの家族に迎えさせてください!」
「…わかった!…俺はウィザードとして二言は無い!」
洋介は定子の家族入りの条件を受け入れた。
ペテルブルグ市街地ー
二つのチームに分かれ、ニパとひかりのペア、サーシャと洋介のペアで飛行していた。
ニパとひかりは共に海軍港周辺を飛行していた。
「今日は別行動なんですね、ニパさん」
「うん。サーシャさんが街を記憶して、ネウロイが潜んでいるのを見破るんだって。洋介さんはサーシャさんの付き添い」
「えっ!?この街を全部ですか!?」
ニパの説明を聞きひかりは思わず驚くが、ニパはまさかという反応をした。
「流石にそれは無いよ。次にネウロイが狙いそうな施設の周辺を記憶して、あぶり出すんだって」
「へぇ~」
ニパの説明を聞き関心するひかり。
だが、ニパは横を見ながらよそ見飛行をしてしまい正面に気づかず、先に気づいたひかりが慌ててニパの名前を呼ぶ。
「ニパさん前!」
「え?ぎゃ!」
しかしニパはその言葉に反応できず、正面に迫っていた銅像に激突した。
「ニパさん大丈夫ですか?」
「またかよ…えっ?」
ニパは自分の激突した銅像を確認し、そして不思議に思う。そこは建物の屋根より高い高度、本来ならこんな場所に銅像などありはしない
「こんなところに銅像…?」
そう思った次の瞬間、銅像の形がぐにゃりと変形をする。
そして、昨日見たネウロイの形になった。
「わわあぁ!?」
二人は慌ててネウロイに機関銃を向けるが、ネウロイはバレたと知ると一目散に逃げ始め、弾をすいすいと避ける。
その様子は別行動中の洋介とサーシャにも届いた。
『マーカーネウロイ発見!追跡中です!』
「なにっ?」
「位置は?」
『えっと、海軍港を北に…わあっ!ニパさんが頭からズズズって街灯に!ニパさんしっかりして―!!』
と、状況報告をするひかりがこんがらがったように言うが、同時に位置を報告してくれたおかげで場所は分かった。
「全くあの子ったら…ついているのやらいないのやら…」
「とにかく追いかけましょう!今度こそネウロイの好きにはさせない!!」
そうして二人は報告のあった海軍港の方角に向かう。
すると、その道中に街灯にめり込んでいるニパを見つけ、さらに奥には木に絡まっているひかりが居た。
「何でそう絡むことができるんだ…」
「…っ!…あっ!あそこです!」
洋介は思わずその姿を呆れ見て言うが、ひかりはそんなことを構わずネウロイの方向を指す。
そこには銅像が一つ立っており、その手前にいびつな形をした像が立っており、間違いなくネウロイの変形したものだ。
ネウロイは自分を見ている洋介達の方をチラリと見る。
「それで隠れたつもりか!」
「バレバレよ!」
洋介とサーシャが機関銃を撃つと、ネウロイはそそくさとその場から逃げる。
そしてそれを洋介とサーシャが追いかける。しかし、昨日と同じように段々と洋介は遅れが生じる。
「くそっ…戦闘機でこんなところ通ることなんて殆ど無いからな…(亜弥…無事でいてくれ…)」
しかしそれでも懸命に食らいつきながら亜弥の無事を祈る洋介。
その頃、ペテルブルクから88km離れたラドガ湖周辺地点で、亜弥はひびきを探しながら雪原の斜面で身を潜めていた。
「…ひびき…どこにいるの…寒いよ…お母さん、お父さん…」
「…ここにいたのね」
「っ!?皆さん……」
ユニットの爆音を鳴らしながら5人のウィッチが空中停止した。
「…なんで…ここにいるのを……」
「定ちゃんの能力で探したのよ」
「…そうなんだ……」
ジョゼが説明するなか、亜弥は踞った。
「亜弥ちゃん、基地に帰りましょう。あなたのお父さんの桜井さんも探していますよ」
ロスマンが亜弥に手を差し伸べた
「…わたしを…殺すの…?」
「え…?」
「わたしを殺すの…!!…あなたたちは…ネウロイと言う化け物と戦い、退治する魔女、わたしの身体の中に…化け物の一部が……」
あの夜、亜弥は隊長室の前で体内にネウロイのコアが確認されたことに気付き、恐怖に怯え、ひびきを探しながら出て行った。
「そんなことが……」
亜弥の出来事でウィッチたちは蒼然。そして次の言葉を述べた。
「お願い…わたしを殺して…」
ウィッチたちは亜弥の言葉に驚愕した。
「亜弥くん、ボクたちの隊長はそんな馬鹿なことをしないよ」
「そうよ、亜弥ちゃん。あなたの体内にネウロイの一部が入っても守るわよ!」
クルピンスキーとロスマンが助言した時、亜弥は制服の懐から隠し持っていた短剣を取り出した。
「…わたしはネウロイ…人類の天敵…いっそ自決を…」 パァン
亜弥が鞘から短剣を抜き、喉元を突き刺そうとした時、定子は地上に降りて彼女の頬をぶった。
「…亜弥ちゃんはネウロイじゃないわ…絶対に、死なせはしないわよ…」
「…………お母さん……」
亜弥は定子を、亡き母である雪の幻影を見た。
すると、砲撃型ネウロイ捜索班はついにそのネウロイを発見した。
「砲撃型ネウロイ発見!」
「あれだけ砲撃を受けていれば、砲撃地点からある程度潜伏地点を絞り込めます」
管野がロスマンを見る。砲撃ネウロイの潜伏地点を割り出したのはロスマンだったのだ。
砲撃型ネウロイはあぶり出された腹いせに攻撃を開始する。
「さぁ、仕留めますよ」
『了解!』
「あ…あぁ…」
「下原さん、ジョゼさん!亜弥ちゃんを連れて基地に!!」
「「 了解!! 」」
ロスマンの指示で定子が護衛をする形で、ジョゼが亜弥を抱きしめながら基地へ飛行しようとした時ー
ヒュウウウ ドカアァン
「「 きゃっ!! 」」
砲撃型ネウロイが一発だけ定子たちに向けて砲撃、定子とジョゼは衝撃によりバランスを崩し落下。
「っくぅ……」
ネウロイが油断していた定子に向けてビームを放った。
「しまった!」
「定ちゃん!」
「やめろーっ!!」
亜弥が定子の前に出て庇おうとした。
「「下原」さんっ!!」
「「 亜弥ちゃんっ!! 」」
ロスマンとクルピンスキー、直枝とジョゼが腕を伸ばした時ー
ウオオォー
「(ひびき…?)」
いなくなったはずのエゾオオカミのひびきが現れ、亜弥に体当たりをしたと同時にビームが着弾した。
「亜弥!下原ーっ!」
「…そ、そんな…下原さん、亜弥ちゃん…」
「…あ、あれは…!?」
直枝が叫ぶ前で、ロスマンとジョゼが涙ながらにしている時、噴煙が無くなると、クルピンスキーが指を指した。
「……こ……これは……!?」
黒髪だった亜弥の髪が白銀となり、頭部と尻にひびきの耳と尻尾が生え、定子を庇いながらシールドを貼っていた。
「…あ…亜弥ちゃん?」
「シールドを貼っている!あなた……ウィッチの力が!?」
「……え?……ウィッチ…?…あ…あぁ…耳と尻尾……なんだこりゃー!?」
亜弥は頭部と尻に触手して確認しながら混乱に陥った。
「素質のある者が使い魔と契約することで魔法力を発揮することができる……」
「ロスマンさん。そうですね…あの狼は…亜弥ちゃんを守る為に付き添い、そして、庇られたことで使い魔になったのね」
「使い魔……?ひびきが……!?」
砲撃型ネウロイが移動をしながらウィッチたちを攻撃。
「ひっ…まだ、わたし達を狙っている!」
「シールドがあるならもう心配ないわね!」
ロスマンが接近して亜弥に助言した。
「……どうする気なの!?」
「人類とペテルブルグを守る為に、ネウロイと戦うのみよ。攻撃開始!」
「「「 了解!! 」」」
ロスマンの指揮により、ウィッチたちは砲撃型ネウロイを攻撃した。
「…凄い…これが…これがウィッチの闘い…」
亜弥の身体が硬直して、固唾を飲み込んだ。
5人のウィッチたちはネウロイに攻撃を集中していく内に弱点であるコアが露出した。
「コア発見っ!!」
「一気に決めてやるぜっー!!」
直枝が右手に魔法力を込めてシールドを展開、殴り込みをした時、砲撃型ネウロイのアンテナ部分が点滅、砲身をペテルブルグに向けて一髪放った。
「うわっ!?」
「しつこいよっ!!」
クルピンスキーが突撃銃でコアを狙い射撃、砲撃型ネウロイは撃破した。
「…やった…やった…!!」
亜弥はネウロイが撃破した時、驚愕した。それ以前にネウロイにマーキング、射撃を許してしまった。
定子は市街地捜索班に連絡した。
跳ばされた砲弾はサーシャ率いる市街地に潜むマーカーネウロイを捜索、撃破した部隊に情報が届き、洋介とニパが目前に防ぎ、市街地を守った。
「…っ!…定子…なんだって...!…亜弥が…」
当然、洋介のインカムから定子の連絡があった。それは娘の亜弥がウィッチに覚醒したという知らせだった。
「…亜弥が…ウィッチに…うぅっ…」
洋介は飛ぼうにもユニットが損傷して飛行不能になった。すると、ひかりとサーシャが手を差し伸べた。
「基地に帰りましょう桜井さん。亜弥ちゃんが待ってますよ」
「そうですよ!わたしたちが支えて行きます。その目で亜弥ちゃんのウィッチの姿を」
「あっ、しかし……」
洋介は赤面して、帽子の鍔を掴み顔を隠した。
「二人の言う通りだよ、洋介さん!壊れたユニットじゃ基地に帰れないし、サーシャさんの街を救った英雄だよ。堂々すればいいよ」
「ニパ、……そうだな、……ひかり、サーシャさん。頼みます…」
「「 はい! 」」
洋介は二人のウィッチに支えられ、基地に帰投した。
そして、砲撃型ネウロイ及び亜弥を捜索していたウィッチたちも、亜弥は定子におぶさって帰投した。
基地、格納庫ー
亜弥は自らウィッチの力を発動。ウィッチの特徴である頭部に耳と尻に尻尾を生やした。
「どう?お父さん!」
「……………」
その光景を目の当たりにした洋介は言葉を失った。
「お父さん…?」
「洋介さん、どうしたのですか?」
「あ…いや、…凄いが、確かにこれはエゾオオカミのひびきの耳と尻尾。髪が銀色に染まるとは…」
洋介は亜弥の頭部に触れながら、険しい顔付きになった。
「亜弥…ウィッチになったのは凄いことだが、前線だろうが後方支援で生死を別ける戦場に送られる。僕がラル隊長に扶桑、つまりこの世界の日本に送る手配を進言するから……」
「お父さん、わたしもペテルブルグに残ります!」
「……なんだって!?」
「わたしは…危険なことでも覚悟を決めました!もし、ウィッチになったらこの世界の人たちを助けるために、守るためにウィッチたちと戦いたいの!!……それに、わたしのような、家族を亡くした人たちを作りたくない!」
亜弥の言葉で洋介はハッとした。
あの大戦で母国がアメリカ軍の爆撃機B-29の空襲や、この世界でネウロイの戦闘で親が犠牲になり、焼け野原や国を失った市街地を彷徨く子供たちを目に焼き付けていた。
その光景を見て、自信も何も出来ず、無力であったことを悔やんでいた。
亜弥の瞳は曇りなく、真剣な眼差しを、父親の洋介に送っていた。
「ウィッチの戦闘によるネウロイとの戦いはそんなに生易しくない。僕も、今日の戦い以前何度も死にかけた!あの戦争でもだ!」
「…洋介さん…」
側にいた定子は心配しながら洋介の手を握った。
「そこまで真剣なら父さんは反対しない…正規のウィッチになりたいなら、ロスマン先生の指導を受けろ!」
「その通りだ」
洋介が歯を噛み締めた時、ラルが格納庫に赴いた。
「ラル隊長!」
「ラルさん……」
「亜弥、君がウィッチに覚醒した報告はロスマン先生から聞いている」
「…先生から……ですか?」
「先生の指導は厳しい、それでもいいんだな亜弥」
「はいっ!!」
「そうか、…なら、戦いたいなら強くなり、生きろ!」
「はい!桜井亜弥、ウィッチになるために頑張ります!!」
「(雪…)」
亜弥の瞳は狼の如く真剣な表情になり、洋介の視点では、1942年末、戦時の呉で再会した雪に似ていた。
「桜井亜弥、私と同じ狼の使い魔同士のウィッチだ。よろしくな」
「はいっ!」
ラルは笑みを浮かべ、亜弥と握手した。
その後、再びレントゲンを撮り、亜弥の体内にネウロイのコアは確認されなかったが、まだネウロイの副作用が残っていた。使用するのはまた後の事。
この時点で弱冠9歳、扶桑の年少ウィッチが第502統合戦闘航空団に居座った。