それから4日後、第二種軍服を着用した熊井と中山は特攻出撃前夜に休暇が下されたが、市街地で中山と酒を飲んでも、どことなく顔が冴えなかった。
「……熊井……出撃は明日だから飲め!」
「…すまない中山…おれは…」
熊井に続き、中山も冴えなくなった。すると軍用トラックが二人の前に停車した。
「わわっ!?」
「馬鹿野郎!なにするんだ!あっ…あんたは…桜井少尉!」
第三種軍服を着用した洋介と進次郎がトラックを運転してやってきた。
「熊井少尉、中山少尉。トラックの荷台に乗車しろ!」
二人は洋介の指示に従い、進次郎が運転するトラックの荷台に乗車した。
「おい、戦闘機の少尉!どこに向かうんだ?」
「今にわかる!」
向かった先は基地郊外の住宅、熊井の実家であった。
「ここは……ここにどうするつもりだ!?」
熊井は洋介の襟首を掴み、持ち上げた。
「ぐっ、熊井少尉の明日は特攻出撃だ。あんたが死ぬ前の情けだ、仮初めの式を挙げてやる!」
「よ…余計なお世話だ、きさま!」
「桜井さ…」
熊井は腰に帯刀していた鷹狼を抜き、洋介に向けた。進次郎が心配して赴いたが洋介が制止した時、家の玄関から女性が出てきた。
「大二郎さん…?」
「……大二郎っ!」
「…おふくろ…夏ちゃん…」
母親と婚約者が熊井の名前を呼んだ。手元の軍刀を落とし、二人の元に駆けつけた。
「…大二郎さん…」
「…大二郎…お前、身体は大丈夫か…?」
「おふくろ……あぁ、大丈夫だ……」
「あの、……あなた方は……?」
婚約者の夏子と母親が洋介たちに気づき、三人は敬礼した。
「私は海軍少尉、桜井洋介です。本日、我々は熊井少尉が命ある限りいつ、明日か明後日の戦場で散る前に式を挙げたいのです。どうか、少尉と婚約者の式の許可をください!」
「お願いします!」
洋介は熊井の母親と婚約者の前にお辞儀して、中山と進次郎も続いてお辞儀した。
「………わかりました。家にお入りください。夏子さんの衣装準備をしますので、お時間をください」
「はいっ!」
洋介たちは、熊井を除いて居座る居間を式の準備を急がせた。
式を見守る三人は、夫婦になる証の盃を用意など。すると、座布団に座る熊井は洋介に尋ねた。
「なぁ、桜井少尉…」
「……僕の名前、初めて言ってくれましたね」
それを聞いた洋介は嬉しそうに笑みを浮かばせた。
「…あんたは、その…結婚しているのか…?」
「えぇ、います。…妻は妊娠していると電報がありました」
「そうか、…あの時とさっき…刃物を向かせてすまなかった」
「別に気にしていませんよ。フィリピン、硫黄島の激戦時以来、僕は特攻隊を護衛する任務に就いています。特攻隊員で少尉みたいに式を済ましたり、中には学生結婚して子供を授けて、最後の晩餐となり出撃。僕は戦闘機パイロットの意地として最後まで見届けました」
「……そうか……明日は必ず頼む」
「はっ…………」
すると、母親が襖から出てきた。それに続いて夏子が簡素で白衣の花嫁衣装を纏って出てきた。
「お待たせしました。夏子さん」
「はい、大二郎さん…///」
「夏ちゃん…///」
夏子は熊井の左側に居座った。司会は洋介が務めた。
「う…おほん……以下略」
辞を終え、二人の前に盃に酒が注がれて、そして一気に飲み干した。
この契りにより、熊井大二郎と夏子は夫婦となった。その光景を目の当たりにした母親は嬉しく、感動して涙した。
式を終え、洋介たちはトラックに乗車した。
「熊井、先に基地へ帰って待ってるぞ!」
「あぁ、すまない中山。桜井少尉、沖田一飛曹ありがとう…!」
「いえ、…夫婦となった今、明日の朝迎えに行きます。良き時間をお過ごしを…」
洋介と進次郎は敬礼してその場を後にした。
明朝、洋介と進次郎はトラックで熊井を迎えに行った。
「熊井少尉!」
「待たせたな二人とも。悔いはない、行こうか!」
「はっ!」
熊井がトラックに乗車。彼は背を向け、家から去った。家の内部から最後の最後まで息子、夫の光景を見届けた。
「…大二郎…!」
「……あなた…」
鹿屋基地ー
本日の護衛戦闘機はたったの二機。
洋介と進次郎は、常にスパナを持ち歩く整備士トチローが、洋介と進次郎の零戦64型の整備を終えた。
その1機の機体は、ストライカーユニットに変化する前の洋介の愛機、零戦64型であった。
「洋介、進次郎!おめぇら愛機の整備を終えたってんでぃ!」
「トチローさん、ありがとうございます」
「しかし、トチローさん。熊井さんと中山さんの特攻機の燃料は片道分ですか?」
「馬鹿言うな、特攻隊の連中の機体の燃料は腹一杯にした!ネジ一本の緩みもねぇってんだ!おれっちにとって、ささやかな情けでぃ!べらぼうめ!!」
「ありがとうございます!」
10人の特攻隊員の中に熊井と中山の姿があった。そして、最後の盃を飲み干し、盃を地面に叩き割った。
「行って参ります!」
特攻隊員は次々と機体に搭乗。
遠くから来た洋介と進次郎は、熊井の姿を目の当たりにした。光景は死ぬ顔には見えなかった。
「出撃!!」
一機、また一機、鹿屋の滑走路から次々と飛び立った。また滑走路には、予科練に入隊した中岡浩二も見送りに帽子を振っていた。
「家だ、…お母さん…夏ちゃん…さようなら…さようなら…」
熊井は朝日が照らされる家と、畑に母親と妻が立っており、薩摩富士こと開聞岳を通過する最後の最後まで目に焼きつけた。
特攻隊、護衛戦闘機を含む12機が喜界島を過ぎた時、一機の零戦が火を吹いて落ちた。
「あっ!」
「敵機だ!」
数十機の敵機が襲来、次々と特攻機を襲って来た。爆弾を身に付けた機体は敵機の的に過ぎなかった。
「…ここまでか…ちくしょう!」
熊井の背後にF6Fがピタリと憑かれ、風前の灯かと思った時に爆発した。
「はっ!?……あれは…」
「そこっ!!」 ダダダダダダダ ドカアァァン
洋介と進次郎は味方を上回る敵機を次々と機銃で火を吹かせ、最後の一機になるまで敵機を海に叩き落とした。
「…すごい…あれだけの敵機を落とすなんて」
「あんたらは一体……」
「…ふぅ…伊達に、南洋のラバウルで6人と共に、幾多の敵機と戦ってきたんだ!」
「ラバウル……?……もしかしたら、あんた達は…」
「全機に告ぐ、我々はこれより海面まで降下する!」
洋介は特攻機に告げて、すぐに機体の向きを変えて降下した。
「なぜなんだ!?予定の進路に…」
「我々はとっくに、敵さんのレーダーにつかまっているから、既に敵機が向かってきます。全機、桜井少尉の指示に従い飛行せよ!」
「…り…了解!」
進次郎が洋介の助言して降下、熊井たち特攻隊員も頭を傾げながら降下、全機が海面ギリギリに飛行していると、敵機の大群が待ち伏せしていた。
「敵機だ……」
「危なかった…あのまま飛行していれば敵機の餌食に……」
「大丈夫ですか、桜井少尉。上からは丸見えですよ…」
「安心しろ、海面に太陽が反射して見えやせん」
太陽の反射で海面が靡く中、暫く低空のまま縦陣飛行。
「よしっ、機首を起こせ!太陽に向かって上昇!」
「なぜだ桜井!このまま水平飛行で敵艦隊に向かった方が確実だろう」
「俺たちの方が実戦は知っとる!ついてこいっ!!」
熊井たちは疑問に感じながらも、9機の特攻機は洋介機と進次郎機の誘導に従い太陽に向かって上昇する。
「高度二千、…三千、…四千、…五千…機体を水平に直せ!」
「熊井さん、中山さん、下を見てください!」
「なにっ!?…て…敵艦隊だ!」
全機が機体を水平に保てた時、特攻隊員が下を見下ろした時、編隊は敵艦隊の上空を飛行していた。
洋介たちの角度は太陽を背にしており、高度なレーダーがあっても発見しにくかった。
フィリピン戦以来、初期の戦いで特攻隊で混乱していたが、沖縄に至るまで慣れていた。
特攻の爆装零戦では速度が遅く、水平飛行で敵艦に一直線に進めば絶好の的。例え敵の弾に当たらなくても、砲弾の水柱に突っ込んでも成功の見込みはない。
「見ろ、太陽を背にしているから気づいていない、進入角度は二十度数から入って五十度の急降下で突っ込むのが一番効果があるスピードがでる」
そして、7機の特攻機が突入の準備を整え、それぞれの標的艦に向かって飛行した。
「進入角度をとります!さようなら、みなさんさようなら!!」
戦艦や輸送船、航空機の基地である空母を標的に向かった。
「やった…やりました!」
「あぁ、戦艦、輸送船の突入を確認。だが…」
空母突入組は対空射撃により落とされ失敗した。
最後に残った中山と熊井は突入準備を整えた。
「中山少尉、空母に突入する!」
「熊井大二郎少尉。同じく空母に突入する。桜井洋介、沖田進次郎。最後に、君たちラバウル六勇士に会えてよかった。おれたちの介錯人を務めてくれて、幸いだ!」
「…熊井さん、…中山さん…」
二人は空母に向けて突入した。
速度を維持して弾幕をすり抜けつつも、機銃等で進入を拒ませた。
「…く…ここまでか…あっ…」
二機の零戦64型が、空母の機銃座を掃射。
「(……二人とも、生きて帰れたら。おれの母さんと妻の夏ちゃんに最後を教えてくれ…さようなら…)」
中山機と熊井機は空母の飛行甲板に突入。撃破した。
「…やった……中山さん…熊井さん……必ずや、最後をご家族に報告します!」
洋介は敬礼しながら涙を流し、進次郎と共に鹿屋基地に帰投した。
その3ヵ月後、亜弥が産まれ、8月15日に戦争が終結し、日本は敗戦した。
そして3日後、洋介は北方の戦いより、魔女の世界に異動した。
502基地、ミーティングルームで観賞していたウィッチたちは考えられず恐怖して青ざめた。
洋介は半年前まで人間同士、血にまみれた戦場で戦ってきた兵士であった。
「…洋介さん…」
「…桜井、君の世界の人間は、想像以上に残酷非道だな…」
「あの、桜井さん。熊井さんの家族に、彼の最後を伝えたのですか?」
洋介はサーシャの言葉に反応して言った。
「…帰還して5日後、報告しました。熊井さんは妻との間に身籠っていました」
「...そんな……」
「…皮肉なことですね桜井さん…男女の結婚してすぐに死へ追い込むなんて……軍人はともかく、それが人間のやることですか?」
ロスマンが洋介に怒りと悲しみを込めて述べた。
「…返す言葉がありません…ロスマン先生…あの特攻隊が実戦に参加した時から作戦とも言えない邪道な戦いです。僕は家族へのお詫びとしても金と、一族の繁栄です。…彼らこそ、戦争が終わった後の未来を作るべき人間だった…戦場で散って逝った者たちへの手向けです。祖国は連日の空襲で灰燼…女子供が爆弾で焼かれる想像ができますか?」
「…………」
「あれから何十人のパイロットが死にました…直援機は特攻機を守るのが役目です…例え自分が楯になろうとも…守るのが務めです……それなのに…それなのに僕は見殺しにしてしまった…僕は……彼らの犠牲の上に生きながらえている…彼らが死ぬことで生き延びている…」
洋介はミーティングルームから出て行った。
「…お父さん…」
「…洋介さん………」
亜弥と定子は洋介のうしろ姿はどことなく悲しい姿をしており。彼は格納庫から出て夜空を眺めた。
「(…熊井さん…あなたの残した家族はどうしていますか……?)」
熊井大二郎の妻、夏子は翌年に娘を出産した。
サーニャとエイラがスオムスに帰投する日に、502のウィッチたちが洋介の誕生日を祝った。
「おめでとうございます!洋介さん!」
「洋介くん、おめでとう~!」
「おめでとうございます!」
「おめでとう、洋介!」
「洋介さん、おめでとうございます!」
「おめでとう、中尉」
「おめでとう!」
「おめでとうございます!」
洋介は誕生日を迎え、21歳になった。
「ウィッチの皆さん、僕の誕生日を祝ってくれてありがとうございます。僕はこのウィッチの世界にきて1年が経ちました。このネウロイの戦いで各国の連合軍が犠牲がでる中、少しでも犠牲を抑えるために、未来と勝利、平和の為に戦います!」
洋介のスピーチが終わった時、その場にいた502部隊のウィッチたちとサーニャとエイラ、娘の亜弥が拍手した。