第34話 高野五十六
オラーシャ帝国、ノヴォホルモゴルイ港から北極海を経由した扶桑海軍第3艦隊は、扶桑皇国の横須賀に向けて航行してるその途中。
北太平洋
「風向きよし、進路よし…桜井亜弥…行きまーす!!」
ギュイイイィィン
異世界からやってきた小さきウィッチ、桜井亜弥はユニットを履いて、扶桑海軍の航空母艦瑞鶴の飛行甲板を走り、発艦する。
亜弥は艦隊上空を一周し、空母瑞鶴の飛行甲板を目指し、着艦準備を整えた。
「うぅ…やった!…きゃっ…」
着艦したところで、艦体は上下に揺れた影響でバランスを崩し倒れた。
「おーい、亜弥ちゃん!?」
「大丈夫か!?」
甲板に待機していた整備員たちが、心配し駆けつけた。
「イタタ~うん、大丈夫です…」
「空母の飛行甲板は陸上の滑走路と違い、上下に揺れるから無理するなよ」
「よいしょっ……お父さんや孝美お姉ちゃんのような、負けないウィッチになりたいの……もう一度!」
亜弥は再びユニットを履いて、魔導エンジンを発動し、発艦した。
「…亜弥ちゃんのお父さんが…世界初のウィザード、桜井洋介中尉の実の娘さんとは……」
「それ以上に驚くのは父親は21歳、娘さんが9歳。年の割が合わなねぇな…」
「亜弥ちゃんのお母さんって、どんな人なんだろうな」
「それがな、お母さんは…中尉が戦場で行方不明になった影響で…」
「……そうか…気の毒だな…」
「それに…中尉は娘さんのために再婚する意思はあるのか…」
「どうだろう…仮に再婚する相手はウィッチだったりして…」
整備員たちが噂を告げる中、亜弥は繰り返し、離発着の訓練を続けていた。
そして、別の空域にて
ギュイイイン ダダダダダダ
「消えた……」
「ここだぁ!孝美さん!!」
ダダダダダダ
「きゃあぁっ!?」
零式64型ユニットを履いて扱う桜井洋介中尉は、紫電改ユニットの雁渕孝美中尉と模擬空中戦を行っていた。
孝美は洋介の背後に付き、彼は急降下で逃走。海上の太陽の光の反射を利用して、ユニットを捻って回避、孝美が油断した隙を狙い、止めを刺した。
「ふぅ…、4勝ですよ。そろそろ空母へ…帰還しま…」
「いいえ、まだです!ウィザードの洋介さんに勝つまで!」
「わかりました……はぁ、…誰かさんと似てるなぁ…」
オラーシャ帝国から離れて3週間後、扶桑の横須賀へ接近した報を聞いた洋介は、デッキに上がり、眺め、涙を流した。
「あれが扶桑か…異世界と言えども…僕は……日本に……日本に…帰ってきたんだ…」
洋介が日本の本州で最後まで過ごせた思い出は山口の岩国基地と帝都東京を防空する厚木基地以来だった。
第3艦隊は横須賀軍港に寄港。
洋介と娘の桜井亜弥は空母の艦橋に寄った。
「小沢提督、孝美中尉。お世話になりました!」
「うむ、桜井中尉。オラーシャの戦いは見事だ。また、何かあれば、よろしく頼むよ。」
「はっ!」
「亜弥ちゃん、妹のひかりと仲良くしてありがとう」
「うん、こちらこそありがとうございます!孝美お姉ちゃん、お元気で!」
互いに握手して、二人は空母を降り、ユニットが降ろされた後、第3艦隊は佐世保に向けて出港した。
洋介と亜弥は、自身を乗せた艦隊に向けて敬礼した。
「さてと…」
「おーい、おーい!」
「ん…?あれは…」
降りた波止場には、くろがね四駆と海軍第二種軍服と眼帯を付けた、見馴れた女性士官が立っていた。
「はっはっはっ!久しぶりだな、桜井!」
「あっ、坂本さん!」
坂本美緒、扶桑皇国海軍少佐。
洋介がブリタニア防衛、ガリア解放戦で世話になったウィッチであった。
「坂本さん、お久し振りです!!」
「オラーシャの活躍は見事だったな!ん…?」
美緒が洋介の背中を叩きながら、彼の側にいた少女を見つめた時、亜弥は洋介の背後に隠れた。
「桜井…その娘は…?」
「はい、以前手紙で知らせた俺の娘です。」
「おぉっ、そうか!名前は…?」
亜弥はやや硬直気味になりつつも、美緒の前に出た。
「は…はい、桜井亜弥です。父が大変お世話になりました!」
「はっはっはっ!君の父、桜井洋介の上官の海軍少佐、坂本美緒だ。よろしくな、亜弥。」
「はい!よろしくお願いします!」
「お前と亜弥、横須賀鎮守府へ出頭命令が下された。」
「「 えっ? 」」
洋介と亜弥は美緒の従兵、土方圭介兵曹が運転するくろがね四駆に乗車。
横須賀鎮守府へ向かいながら積もる話をした。
特に亜弥に関しては、ネウロイの極秘計画で魔女の世界に転移、ウィッチの覚醒。
扶桑からオラーシャに輸送された、零式54型ユニットを履いての戦闘で活躍した。
「そうか、このご時世で一人でも戦力になるウィッチが欲しいからな!」
「そのことなんですが坂本さん。俺がこの扶桑に呼ばれた理由は何ですか?」
「あぁそれか…実はだな。ある海軍の将官がお前について興味を持ってな。私が何度説明してもお前と直接会って話したいと聞かなくてな…お前たちが異世界から来たということは話していないぞ」
「それで、その将官さんが俺を扶桑に?」
「ああ。それだけじゃない。これは私の推測だが桜井、お前を正式に扶桑海軍所属にしたいんじゃないか?」
「俺を?」
「あぁ、お前はいまだに無国籍扱いだ。事実上お前は義勇軍兵士であって国籍はない。それだけじゃない、お前を欲しがっている国は多々ある。その中でも三つの国がある。一つはカールスラント、一つはブリタニア、そして最後は扶桑。お前は別世界の扶桑…日本人だって言ってはいるが、そんなことはここの国のお偉いさんには通用しない。向こうは無国籍のお前をどうしても手に入れその国の人間にしたいと思っている可能性があるからな」
「はぁ…そうだったんだ…」
「だが、さっき言ったようにこれは私の勝手な推測でしかない。もしかしたら別の要件で呼んだのかもしれない」
「それは?」
「それは…私にもわからない。万が一、警戒しておけ」
「はい!」
その間に車は横須賀鎮守府へと着く。
鎮守府の廊下で洋介と亜弥、坂本美緒少佐は歩いて応接室に着いた。
「ここ…ですか?」
「ああ。ここだ」
そう言い坂本少佐はドアをノックすると
「海軍少佐、坂本美緒。桜井洋介中尉と他一名をお連れしました」
「(…他一名って…わたし…?)」
亜弥はその他の言葉を聞いて頬を膨れていると、そう言うとドアの向こうから
『入りたまえ』
ドアの向こうから男性の声が聞こえ、美緒が入室した。
「入ります」
一言言うと、ドアを開け、二人一緒に部屋に入る。洋介は部屋の中に幾人の将校がいるのかと思ったが、部屋の中には一人の初老の男性が座っていた。
「やあ、よく来てくれたな桜井洋介君、亜弥君」
「はっ…海軍中尉、桜井洋介です」
「同じく、桜井亜弥です!」
洋介と亜弥が自己紹介、敬礼すると男性は頷いた。
「私は大本営作戦部長官の高野五十六大将だ…欧州から遠路はるばる着て申し訳ない」
「(五十六?)いえ…それで私を呼んだのはあなたなんですか長官?」
洋介は、ある名前を聞いて耳を傾けた。
「ああ、そうだ。君のガリア解放とオラーシャのグリゴーリの撃破した活躍は聞いているよ。」
「大変恐縮です。それで何の要件ですか?」
警戒した目で洋介がそう訊くと、彼は少し真剣な目になった。
「坂本少佐。すまないが彼と娘さんの三人きりで話がしたい。席を外してくれるかな?」
「はっ、わかりました」
そう言い美緒は部屋を出ると、まず彼が最初に開いた言葉は
「さて中尉、本題に入る前に私から一つ質問がある…」
そう言い、彼が洋介に訊いた言葉は
「あのラバウルで、アイヌの測量士、金城幸吉君の海ガメのチタタプゥは絶品だったな~♪桜井飛行兵曹長。」
「っ!?…ラバウル…幸吉……海ガメのチタタプゥ……飛曹長…あなたはもしや…山本長官…!?」
その名前で高野は頷き、唱えられた洋介の階級はラバウル時代であったのに衝撃を受けるのだった。
あのブーゲンビル島上空で山本五十六は敵機の奇襲を受けて命を落とす前に、厚木十三と沖田新一郎と沖田進次郎の兄弟。
大賀虎雄と金城幸吉、秋山敏郎と敏子の双子の兄妹。さらに原住民の少女サンと、現地で調達した食材を囲んで食事したことを呟いた。
彼、山本五十六はブーゲンビル島上空で戦死した。だが、彼はふと目が覚めたら新潟で生まれ、生前と同様軍人の道を進んだ。
この世界では人類との争いが無く、突如出現した異形の存在ネウロイ。
高野は、初陣の扶桑沖戦役、扶桑海事変から戦闘を嫌ほどネウロイ知ったのであった。
洋介もあの戦時下での報告をした。
マリアナ沖海戦とフィリピン海戦で航空部隊と連合艦隊が壊滅。その戦いで戦艦武蔵、翌年の4月に戦艦大和が撃沈された。
精鋭パイロット集団、ラバウル六勇士に関して、44年の2月に解散。
翌年の45年2月に突入してから隊長の厚木十三少佐がフィリピンのマバラカットで戦死。
7月、マラッカ海峡上空で大賀虎雄少尉が戦死。
8月、長崎上空で特殊爆弾により沖田新一郎大尉、金城幸吉一等飛行兵曹が戦死した。
「8月15日、日本は敗戦しました。そして、私はその後、ソビエトロシアとの戦いで、このウィッチの世界へ…」
「あの、わたしも戦争終結から9年後、ネウロイの計画でこの世界に…」
「そうか、あの忌まわしい戦争で日本を守ってくれた事と、この世界で欧州のブリタニア防衛とガリア解放、オラーシャの激戦で人類の為に戦ったことを、心から礼を言う。」
高野は洋介の前で礼を言い、頭を下げた。
「長官、私は長官の指示でラバウル六勇士の編成とその一員として大変感謝しています。苦楽を共にした仲間がいました!それに、私はこの世界で人類の未来と平和の為なら、勇士として当然です!」
身体を整え、キリッとした表情になった。
「そうか、謙虚だな…上の方の報告と連合軍上層部については私がいろいろとやっておこう。あの戦争で戦った同郷のよしみだ。今後、桜井洋介中尉、亜弥君は正式に扶桑皇国の国籍及び、正規兵に編入される。そして、桜井中尉は今後、大尉になる。亜弥君は一等飛行兵曹に任命する。」
「はっ!!」
「はい!!」
「追伸、5日後に佐世保へ行き、欧州行きの二式水上大型飛行艇に搭乗。ロマーニャの504部隊へ短期配属を命ず」
「5日後ですか…?」
「そうだ、わずかな日数だが扶桑で骨休めしなさい。娘の亜弥君と共に」
「ありがとうございます、やま…いえ、高野長官!」
「ありがとうございます!」
洋介と亜弥は高野五十六長官に敬礼。
その後に二人は坂本美緒と合流した。
「それで、桜井。いったい話とは何だったんだ?」
「俺と亜弥は正式に扶桑皇国海軍の正規兵に着任。俺は大尉に昇進、亜弥は軍曹に就任しました。5日後に、再び欧州へ配属命令を下され、佐世保でロマーニャ行きの飛行艇に搭乗せよと、高野長官の指示です。」
「そうか…はっはっはっ!まぁお前の実力とウィザードなら、昇進されてもおかしくないからな!ちょっと済まないが、私はあるところに行かねばならならない。代用で1日だけ、横須賀のウィッチ候補生の教官なってくれないか…?」
「俺が、ウィッチ候補生の教官ですか…?」
「そうだ、私も近い内に欧州で戦う為に鍛えたいから頼むぞ。」
「……うん、わかりました。坂本さんにはブリタニアから色々と恩がありますから、引き受けます。」
「はっはっはっ!桜井、ありがとう!宿泊に関して、私に任せろ!」
確かに洋介は、この世界に来て美緒から幾つかの縁があり、断れなかった。
横須賀に到着して早々、高野五十六により正規軍に編入。更に昇進する。
洋介は再会した上官の坂本美緒により、ウィッチ候補生の教官を任されるのであった。