校門では、土方圭介海軍兵曹が洋介と亜弥をくろがね四駆に乗車させる。
「お待ちしてました!桜井大尉、亜弥さん。坂本少佐が指定する宿泊場所をご案内します!」
「あぁ土方さん、宜しく頼みます」
「お願いします!」
向かった先は横須賀港が見渡せる坂に昇り、ある民家に到着した。
「到着しました」
「ありがとう、土方さん。ここは…診療所か…」
「…あ……その声は…もしかして……洋介さん!?」
よろずや診療所。
本件の庭から玄関に一人の少女が現れたのは、501で洋介の命を救われた戦友、宮藤芳佳の実家であり、ブリタニア以来の再会だった。
洋介と亜弥は芳佳の実家の居間に上がり、彼女の母親の宮藤清佳、祖母の秋本芳子からおもてなしを受けた。
「あの、桜井さん。私たちの芳佳がブリタニアで大変お世話になりました。」
「いえ、芳佳さんからお世話になったのは、僕の方です。彼女の治癒魔法が無ければ、僕は生きていません」
洋介は清佳に感謝の意を述べ、頭を下げた。
「しかし、あんたが孫の世話になった、桜井さんとは~!芳佳からよく聞いているよぉ~!」
「僕のことは存じ上げているのですか…?」
「そりゃあもう!新聞に載るくらい世界初のウィザードだからね。ガリアとオラーシャを救った扶桑の英雄の1人だって、あんた有名だよ。それに若いのに娘さんまでいて、驚いたよ~!」
「きょ、恐縮です。あはは……色々と理由がありますが…これ以上は極秘です…」
芳子の言葉で洋介は頭を掻きながら苦笑する中、亜弥と芳佳、彼女の親戚で友人の山川美知子が芳佳の部屋で賑わっていた。
「へぇ〜!洋介さんと亜弥ちゃんは、別の世界の扶桑からやって来たんだね!」
「うん、その事は他の皆に内緒にしてね美千子さん…」
「わたしの事は美千子でいいよ、亜弥ちゃん!」
「ねぇ、亜弥ちゃん。亜弥ちゃんの能力は凄いんだね〜!映画みたいだったよ、あれが洋介さんと亜弥ちゃんがいた世界の扶桑、日本なんだね!」
「うん、芳佳お姉ちゃん。わたしのお父さんはあの戦争で死んだんだと、ずっと思っていたんだ……この魔女の世界に迷い、お父さんと再会したのには驚いちゃった。だけど、もっと驚いたのは、わたしもウィッチになっちゃった…!」
「凄いね。ねぇ、続きはお風呂に入ろう亜弥ちゃん~♪」
三人の少女は風呂場に移動、洋介は三種軍服から浴衣に着替え、お茶を啜りながら月と庭を眺めた。
「(…畳と庭の匂いが懐かしい…僕の家もこんなんだったな…)」
亜弥は芳佳の部屋に寝泊まり、洋介は芳佳の亡き父の部屋、新一郎の部屋に寝泊まりした。
翌日、洋介と亜弥は芳佳と横須賀を巡り歩いた。
「洋介さん!」
「お父さん!」
「二人とも、あまり引っ張るなよ~」
軍港を見渡せる公園や諏訪大神社。更に市街地で食事や買い物など、三人で手を繋いで楽しんだ。
夕暮れ時
「洋介さん、亜弥ちゃん。横須賀はどうでしたか…?」
「僕は、戦闘機パイロットの育成を受けたからな。教え子として、あるいは教官として、休暇の度によく出掛けたな~」
「わたしは初めて。お母さんと二人でお買い物をしたのがちょっと懐かしい…」
「亜弥…」
「亜弥ちゃん……ごめんなさい……」
亜弥がウィッチの世界に転移する前に、母親の雪が亡くなった辛いことがあったために、芳佳は謝罪する。
「そんなことないよ芳佳お姉ちゃん、なんだか…お父さんとお母さんと歩いている気分だったよ…」
その言葉で、洋介と芳佳はどことなく赤面する。
「…………///」
「///…そ…そうだ!…ねぇ二人とも、今から温泉に行きませんか…?」
「「 温泉…? 」」
洋介と亜弥は芳佳の案内でウィッチ御用の温泉旅館『島田屋』に赴き、男女に分かれて入浴した。
「あぁ~気持ちいい~」
「極楽極楽……洋介さん、どうですか~?」
「あぁ…生き返る……空を眺める温泉は…元の世界…北海道の夕張温泉以来だ……」
洋介は戦闘機のパイロット時代、南方のニューブリテン島のラバウル航空隊にて、空戦を終えて、疲れや負傷する度に花吹山の麓の温泉にて身体を治療していた。
また、本土防衛として鹿児島の鹿屋や北海道の夕張温泉以来だった。
「気に入ってよかった♪ここの温泉は、坂本さんの勧めた温泉なんです。以前にペリーヌさんとリーネちゃんが扶桑にガリア復興事業に来日し、坂本さんたちと温泉で入浴したんです♪それに、古くからウィッチ御用たちと言われてきた由緒ある温泉なの」
「へぇ~そうなんだ!」
「…そうなのか…この温泉の成分は……ウィッチ御用と言われているが、ウィザードである僕にも有効だな…」
洋介は笑みを浮かべながら魔法力を発動し、シールドを出した。
そして温泉から出て、芳佳の実家に向かって歩いた。
「あぁ~気持ちよかったね、お父さん」
「うん、温泉に案内してもらってありがとう芳佳…芳佳…?」
芳佳は月を眺めた。
「こんな静かで穏やかなのに…今もどこかで戦争が起きてるなんて、ウソみたい…」
今でも血みどろの戦場から、遥か彼方の扶桑からは平和であった。
解散した501部隊のウィッチたちや、オラーシャのペテルブルグを拠点に、502部隊のウィッチは今でも怪異の敵、ネウロイと戦っている。
「そうだな…僕と亜弥はあと3日したら、この扶桑の佐世保を出て欧州に行く……弟と戦友の妹さんに慰霊碑を建立するために…」
「そうなんだね……ねぇ洋介さん、亜弥ちゃん。この戦争が終わったらどうしますか…?」
「あ…」
「そうだな…考えてなかったな…」
「いつか、戦争が終わったらわたしの家で暮らしませんか?」
「えっ!?いいの?」
「…………///」
芳佳の言葉で洋介は赤面した。
芳佳の家に帰投した洋介と亜弥。芳佳の家族、洋介と亜弥の親子5人は、卓袱台を囲みながら食事を摂った。
「ねぇ…洋介さん…?」
「あぁ、すまない芳佳。食事がとても美味しく、つい言葉を失ってしまったよ…」
「あの、洋介さん」
芳佳の母、清佳が赴き進言した。
「…あっ、なんですか?」
「洋介さん…私たちの娘、芳佳を嫁に貰ってくれませんか…?」
「ぶはっ…げほげほっ…え…芳佳さんの…嫁ですか…///」
その言葉で、洋介はお茶を吐き出し咳き込んだ。
芳佳の家族の母親の清佳と祖母の秋本芳子は、由緒ウィッチの家系。親子揃って治癒魔法を持っている為に、病気や負傷する患者を治癒させる。
もしも、洋介と亜弥が芳佳の家族となれば、魔法力を持つ家族となる。
余談だが、横須賀ウィッチ航空学校に関しても候補生たちからも、自身を嫁にしてくれとの声ばかりであった。
色々なことで、洋介の顔が赤面する。
「(色々な意味で、ウィザードってのは厄介な存在だよ………雪……君は………僕が…許さんのかね…)」
洋介は内心で亡き妻の雪に、呟いた。
翌朝
「はぁ…はぁ…」
洋介は走り込みながら数種類の花を摘んで、芳佳の実家に戻り、芳佳の手作りの朝食を摂った。
「洋介さんと亜弥ちゃんは、再び欧州へ行くんだね」
「あぁ。今日中に佐世保に到着して、明後日は欧州行きの便に乗らねばならん。軍からロマーニャ行きの命令を下されたからな」
「そうなんだ、せっかく洋介さんが横須賀に来てくれたのに残念です…」
「わたしも芳佳お姉ちゃん。兵隊さんになって、とても大変だよ…」
仲良くなったばかりの亜弥と芳佳は気持ちが沈みつつあった、特に芳佳はあの命令違反の影響で不名誉と除隊を下された。
洋介は考えながら、あることを提案した。
「まぁ亜弥、芳佳。少しでも長くいるために、横須賀の滑走路まで見送りに来てくれ。」
「えっ、本当に!?」
「ウィザードとして、僕の権限で土方兵曹に頼みつける」
「やった〜!ありがとうお父さん。」
その後、迎えの土方兵曹とくろがね四駆が到着。芳佳の計らいで美千子も乗車、横須賀航空基地に向けて出発した。
「ありがとう洋介さん、美っちゃんも乗せてくれて。」
「なぁに、治癒回復と一宿一飯の恩がある」
「ねぇ洋介さん、さっき道中で摘んだ花はなに…?」
芳佳の質問に深刻な顔をした。
「あぁ、これは……僕の亡き家族と戦友への手向けだ…」
「あ…」
芳佳と亜弥は、以前に洋介の苦い思い出話を聞いたのだった。
あの戦争で、洋介の家族と戦友はそれぞれの災害で、国内の戦場で命を落とした。
故郷の水害で両親は、亜弥にとっての祖父母であった。
「だけどお父さん…この世界におじいちゃんとおばあちゃんのお墓が無いんだよ…意味が…」
「意味がある、…例え別世界であっても、亡き者に花を捧げ無ければならない。父さんの戦友と戦友の妹さん、そして弟の勇介が亡くなった戦場でもだ!」
「…お父さん…うん、わたしもおじいちゃんとおばあちゃん、勇介叔父さんの元へ!」
亜弥はあることを思い出した。
魔女がいる世界に行く前、血の繋がった叔母の桜井志帆も、年と時間が掛かっても弟たちが命を落とした戦場跡へ花束を捧げることを呟いた。
2年前、小樽
「叔母さん、あやもお父さんと叔父さんのところにお花を…!」
「……亜弥…うん、そうだね。」
横須賀航空ウィッチ学校 滑走路
「芳佳お姉ちゃん、美千子お姉ちゃん。短い間だったけどありがとう!」
「お元気で、亜弥ちゃん。」
「亜弥ちゃん、欧州に行っても頑張ってね!」
まだ眠る時刻でウィッチ候補生がいない滑走路にて、芳佳と美知子は亜弥を抱きしめた。
「芳佳、今はいないが坂本さんによろしく。いい医者になる様に頑張れよ。」
「うん、洋介さん。洋介さんも欧州の無事を祈っています。」
「洋介さん、サインありがとうございます。」
「美千子さん、どういたしまして。土方さん、この横須賀でお世話になりました。」
「はっ、こちらこそ!」
土方兵曹は洋介に対して敬礼した。
洋介と亜弥はそれぞれの武装など装備、生活用具を容れたリュックを背負い、発進ラックに上り、自身の零式64型と54型ユニットを履き、魔導エンジンを発動させた。
「桜井洋介、行きます!!」
ギュオォォン
「桜井亜弥、行きます!!」
ギュオォォン
洋介と亜弥は佐世保に向けて飛行した。
「行っちゃったね芳佳ちゃん、…亜弥ちゃんと洋介さん…今度はいつ会えるかしら?」
「わからないよ…だけど、おそらく戦争が終わるまで…二人は大丈夫だよ美っちゃん」
横須賀から飛行して20数分、神戸上空。
洋介は横須賀で摘んだ花を神戸の空に投げ、ばら蒔いた。
「お父さん、お母さん!長く掘ったらかしにて、すみません……そして…空襲で亡くなった民間の皆さん…ご冥福を…」
「……おじいちゃん…おばあちゃん…」
二人は手を合わせ、水害で命を落とした亡き両親と、空襲で亡くなった方々への冥福を祈った。
それから、広島上空にて花を投げ、ばら蒔いた。
「お父さん…?なんで広島に…?」
「あぁ、父さんの上官だった、隊長の柚子さんと生まれたばかりのお子さんが、広島のピカで亡くなった…」
「っ!?…そうなんだね…」
洋介と亜弥は、広島に落とされた原子爆弾の被爆で幾万の人々が亡くなった。
二人は広島の空にて手を合わせ、冥福を祈った。
「(…隊長の娘さんが生きていれば…、亜弥と友達になっていたかも知れんな…)」
そう思いながら、洋介と亜弥の親子は長崎の佐世保へ向かった。