ロマーニャ基地
桜井洋介と娘の亜弥が自身のユニットを整備しに、熱気が篭る格納庫に赴いた時。
「……いいか、整備兵の整備だけではなく、最終的にパイロットの点検も…」
「…それでもカールスラント軍人か!」
「え?そうだけど?」
「あっはははははは!」
格納庫内部で下着同然のシャーリーとエーリカ、天井付近で寝込むルッキーニを律儀なトゥルーデが規律を述べる。
トゥルーデは当たり前だといった様子で述べ、彼女はそんなエーリカを睨む。その様子を見て、シャーリーは大声で笑うのだった。
「暑いな…」
その時、洋介と亜弥も格納庫に入って来る。
彼らは格好はまともであるが、格納庫内にこもった熱にうんざりとした様子、零式ユニットの前に上着を脱ぎ置いて、整備を始めた。
トゥルーデは丁度いいといった様子で、洋介に言う。
「桜井!」
「ん?」
「こいつらにも何か言ってやってくれ。隊の規律が乱れて仕方がない」
そう言って、シャーリー達の方を見るトゥルーデ、それにつられて洋介も見ると、赤面しながら納得をした様子だった。
「う…///暑いから服を脱いだ…ってことかシャーリー?」
「おう洋介、この堅物軍人に何か言ってやれ。この暑さで服なんか着てたら、それでこそいざというときに動けなくなる」
「規律を守れと言ってるんだ!もしこの時にネウロイが来たらどうするつもりだ?」
シャーリーとトゥルーデはヒートアップしていく。
その様子を、洋介は「またか…」といった様子で見ることしかできなかった。
「ねぇ…お父さん…あの二人…」
「ん…この格納庫でムシャクシャする暑さだ、僕は2年、南方のラバウルとフィリピンでそんな奴らがいたもんだ…」
どちらの言うことも正しいから、彼はこの場は時の流れに任せることにした。
その時、格納庫の入り口から数名の兵士たちが入って来る。彼らは何か荷物を持ってきた様子で運んでいる。それと同時に、ミーナと美緒も入って来る。
そして、兵士たちの運んできたものは、ユニットの固定台に乗っていた。
「ほう…これがカールスラントの最新型か」
「正確には試作機ね」
美緒はそこに固定されたユニットを見て呟き、ミーナが捕捉する。
そこには、全体を赤く塗られたユニットがあった。
そして、ミーナは手元の資料を読みながら続けて説明した。
「Me262V1、ジェットストライカーよ」
「ジェット?」
「ハルトマン中尉」
「どうしたんだ?その恰好」
ジェットという言葉に、エーリカが反応する。しかし、ミーナと美緒はエーリカの格好を見て驚く。
「こら、ハルトマン!服を着ろ服を…ん?」
トゥルーデがエーリカに注意をするがトゥルーデも目の前に固定されたジェットストライカーに気づく。
「なんだこれは?」
「ジェットストライカーだって」
「ジェット!?研究中だったあれか!?」
エーリカの説明に、トゥルーデは思い当たるものがあるようで反応した。洋介もユニットを見る。
「ジェットか…終戦前の帝都防空で橘花を思い出すな…」
「橘花…?」
ユニットは、通常エンジンのある位置とは違い、翼の部分に魔導ジェットエンジンが搭載されていた。
洋介がジェットに、思い当たることは、北海道の千歳基地に転属する以前、最後の帝都東京防空の任務に就いたことだ。
完成して間もない数機の橘花がすぐに戦場に導入され、帝都に侵入したアメリカ爆撃機B-29を撃墜した。
だが、その引き換えに燃料の消耗が激しく、滑空しながらの帰路の中で、P-51ムスタングの餌食に過ぎない。
洋介は愛機零戦64型で幾つものムスタングを撃墜した。
「今朝、ノイエ・カールスラントから届いたの。エンジン出力はレシプロストライカーの数倍、最高速度は時速950キロ以上、とあるわ」
「950!?凄いじゃないか!」
ミーナの説明に、シャーリーが反応した。950キロという速度は、今まで使われてきたレシプロストライカーでなかなか出すことのできなかった速度だ。
「んで、そっちのは何だ?」
洋介は横に並べてあるものが気になり聞く。そこには4つの大型機関砲と、戦車砲のようなものが置かれていた。
「ジェットストライカー専用に開発された武装よ。50ミリカノン砲一門、他に30ミリ機関砲四門」
「凄い!」
「そんなに持って、本当に飛べるのか?」
ミーナの説明にトゥルーデは目を輝かせるが、美緒はそんな武装を実際に持っていけるのかと疑問に思う。
その時、シャーリーがジェットストライカーの前に立ちながらミーナに話しかけた。
「なあなあ!これあたしに履かせてくれよ!」
「いいや、私が履こう!」
しかし、そのシャーリーの言葉に待ったをかけたようにトゥルーデが言った。
「なんだよ、お前のじゃないだろ?」
「何を言っている、カールスラント製のこの機体は、私が履くべきだ」
「国なんか関係ないだろ。950キロだぞ?超音速の世界を知っているあたしが履くべきだ!」
「お前の頭の中はスピードのことしかないのか?」
シャーリーとトゥルーデの言い合いはヒートアップしていく。その様子を、ミーナたちは呆れたように見る。
「また始まったわ…」
「しょうもない奴だ…」
「喧嘩好きだね全く…」
それぞれが言う。しかし、ミーナは洋介に聞いた。
「桜井さんはどう?」
「え?」
「履いてみたいと思わないの?一応前の世界でもジェット戦闘機を見たことがあるのでしょう?」
ミーナに聞かれる洋介だが、彼は特にジェットに対しての頓着が無かった。
「前の世界でもジェット戦闘機橘花と共に戦いましたが…それに、俺は愛機零式ストライカーのウィザード、そっちを放り出すわけにはいかないですから」
洋介は遠慮した。
その時、鉄骨の上で寝ていたルッキーニが飛び出した。
「いっちばーん!」
「あっ、おい!」
「ずるいぞルッキーニ!」
今まさに二人が取り合いをしていたジェットストライカーに足を入れた。
その様子にはシャーリーとトゥルーデも驚くが、ルッキーニはそのまま魔道エンジンに魔法力を流し始めた。
「へへーん、早い者勝ちだも~ん!」
そう言いながら、ユニットのエンジンは回転数を増していく。格納庫内に先ほど以上の轟音が響き渡るその様子を、全員が見守っていた。
「ぴぎゃー!?」
しかし、突然ルッキーニが跳ね上がった。彼女はユニットから足を離すと、そのまま固定台に体をぶつける。
しかし、ルッキーニはそんな事を気にしていないのか、突然なりふり構わず走り出した。そして、ルッキーニはシャーリーのユニットの固定台の裏に隠れる。
「ルッキーニ!?どうしたんだよ?」
シャーリーがルッキーニの下に行くと、ルッキーニは震えていた。
「なんかビビビッて来た!」
「ビビビ?」
「あれ嫌い…シャーリー、履かないで…」
そう言って、ルッキーニはシャーリーを見る。シャーリーはルッキーニが怯えながら目で何かを訴えかけているように見えた。
「やっぱあたしはパスするよ」
「何?」
「考えてみたら、まだレシプロでやり残したことがあるしさ。ジェットを履くのはそれからでも遅くはないさ」
「フッ、怖気づいたな。まあ見ていろ…」
シャーリーの言葉にトゥルーデが自慢げに言う。
「私が履く」
そして、トゥルーデはジェットストライカーに足を入れた。そして、魔法力を流し始める。
「凄い…」
一瞬にして、トゥルーデはジェットストライカーの力を感じる。けたたましい音の中に感じる不思議なエネルギーは、彼女を納得させるに十分だった。
その様子を格納庫に居たものが全員見るが、ルッキーニだけが嫌そうに見ていた。そして、トゥルーデは言った。
「どうだ?今までのレシプロストライカーでこいつに勝てると思うか?」
「なんだと!?」
トゥルーデの煽りにシャーリーが反応する。
「みなさーん!こんなところに居たんですか…あれ?」
「朝ごはんの支度が出来ましたよ~…?」
朝食の支度を終えた芳佳とリーネがやって来る。しかし、どうも様子がおかしいということに二人は気づく。
「いい年してはしゃぐなよ。新しいおもちゃを買ってもらった子供みたいだぞ」
「負け惜しみか?みっともないぞ」
「気が変わっただけだ。あたしはこれでいいんだよ」
「勝手気ままなリベリアンめ!」
「なんだと!?この堅物軍人バカ!」
その間にも、シャーリーとトゥルーデの言い合いはヒートアップしていく。
「…なんだ…このジェットの違和感は…?」
この場をどうにかして押さえないといけないと思いつつも、洋介はジェットストライカーにある違和感を感じた。
格納庫 昼食時
「芋いただき!」
「あっ!?」
「ふふ~ん勝った勝った~♪」
格納庫でトゥルーデとシャーリーが間食をとっていた。
食堂はまだできてなく、そこで食事をすることになっていたのだった。
そしてその中でシャーリーはトゥルーデがとろうとしていた蒸かしたジャガイモを取って得意げな顔をしていた。
「ふっ…負けた腹いせか?みっともないぞ大尉」
トゥルーデが呆れた顔で呟く。
事の発端は今朝のジェットストライカーのことで、あのストライカーを履いてトゥルーデはシャーリーと高度上昇対決で勝って今に至る。
「はぁ~美味しい~」
「シャーリー、次は頑張ってね!」
「おう任せとけって」
シャーリーはジャガイモを頬張りながら食べてルッキーニと話す。
「あ、洋介さん、亜弥ちゃんも芋どうですか?」
芳佳は洋介と亜弥に蒸し芋が盛られた皿を渡す。
「ああ、ありがとう芳佳」
「ありがとうございます、お姉ちゃん」
亜弥は芋を手にして呟いた。
「お父さんも、あのP-51と戦ったことあるの…?」
「ん…もちろんだ…硫黄島から飛来したP-コロと戦った…だが、その時の敵機どもはおぞましいことをやっていたからな…」
「おぞましいこと…?」
洋介はこれ以上亜弥に喋ることは出来なかった。
3月6日以来、本土防空にてアメリカ軍P-51ムスタングが飛来した。
だが、戦争末期になるとムスタングは軍機体、軍用施設のみならず、漁船や家屋、地上に動く物があれば列車と民間人を襲撃した。
当時、洋介の故郷である神戸にP-51ムスタングが襲来、武器を持たない民間人に機銃を掃射。
「なっ民間人が…野郎っ!!」 ギュイィィン
ダダダダダダダダダッ ドカアァン
その光景を目の当たりにし、零戦64型に搭乗した洋介は怒り、民間人を殺傷したムスタングを撃墜した。
「…はぁ…ザマァ見ろっ!」
終戦になっては、その復讐心で洋介は相手は血の通った人間であったことにも関わらず、心から悔やんだ。
軽い食事が終わった後今度は搭載量勝負となった。シャーリーはユニットを履きそして腰や方には弾薬箱をわんさか搭載していた
「そんなにいっぱい持って飛べるんですか?」
芳佳が心配そうにシャーリーに訊くと
「あたしのP-51は万能ユニットだからな。だから、いざとなればどんな状況にでも対応できるんだ」
そこへ、ペリーヌがやってきた。
「今度はなんですの?」
「今度は搭載量勝負だそうです。重いものをどれだけ持てるかって」
リーネがペリーヌい説明するが
「それよりシャーリーさんは胸の搭載量を減らしたほうがよろしくて?」
皮肉たっぷりにそう言いリーネは少し自分の胸を見る。その際に芳佳は彼女の胸をじっと変な目で見ていた。
「待たせたな」
トゥルーデがジェットストライカーを履いてやってきた。
両手には二連装の30ミリ機関砲に肩にはその弾薬ベルトそして極めつけは背中に50ミリカノン砲を背負っていた。
「だ、大丈夫ですか。バルクホルンさん!?」
芳佳が驚いてそう言う。
洋介も驚き、無論みんなも
「おいおい…そんなんで飛べるわけないだろう?」
無論シャーリーも、だが
「う、うそだろ?」
結果は飛べた。 凄い高速でシャーリーを追い越しはるか先にある気球の的を30ミリ機関砲で全部破壊した。
「(すごい…すごいぞこのストライカーは!)」
トゥルーデは嬉しそうに空を飛びそれを見たシャーリーは
「ま、マジかよ…」
あんぐりと口を開き驚いていた。
滑走路で見物する親子は驚愕していた。
「すごい…あんな重武装であんな速度で飛べるとはな…」
「ねぇ、お父さん…」
「ん…?」
「お父さんは、なんでジェット機部隊に入らなかったの?」
「ん…?そうだな……」
亜弥の質問に洋介は頭に両手を乗せた。
洋介と亜弥はトゥルーデとシャーリーが飛ぶ空を見上げるのだった。
「今日の夕食は肉じゃがですよ~!」
夕方みんなが格納庫に集まり夕食を囲んだ。今夜の献立はは肉じゃが。
「おっ!?肉じゃがか~久しぶりに食べるな~!」
「あれ?洋介さんの世界の扶桑…日本にも肉ジャガがあるんですか?と、言うことは扶桑と日本は同じような所なんですね!」
「ああ、俺は一旦扶桑に行ったが、基本的に同じだったな」
洋介が扶桑皇国に立ち寄った時、予科練習生時代の横須賀や、空襲に焼かれる前の神戸と広島に関しての懐かしい光景であった。
一部の歴史と未来を除いてだ。
「私は料理のことはわからないけど宮藤の作る料理は何でも美味いな~あ、これ魚の出汁か?」
「はい。鰹です。ありがとうございます。えへへ~」
シャーリーが笑顔でただ幸せそうな顔でそう言い、芳佳も自分の作った料理が美味いと言われて嬉しいのか嬉しそうに笑う。
「それにしても、どうしてこんな油臭いところで食事することになるのかしら?」
「食べながら文句言うナ」
エイラの隣に座るサーニャは
「美味しい…」
満足げに食べていた。
「芳佳ちゃん、バルクホルンさんとシャーリーさんのことが心配なんですよ」
「うん、私にできることはこのぐらいだから。ほらお腹がすくと怒りっぽくなるって言うじゃないですか」
「そうでしたっけ?」
「あれ、そう言えばバルクホルンさんは?」
芳佳の言葉にペリーヌが首をかしげる。
すると芳佳がトゥルーデを探す。彼女の姿が見当たらないと思うと、洋介があたりを見渡すとストライカー発進装置によりかかるように座っていた。
すると亜弥はトゥルーデの傍に近づいた。
「ねぇお姉さん、大丈夫?具合でも悪いの?」
「い、いいや…具合は悪くないよ亜弥…心配するな…」
元気のない声で返事する。すると芳佳はご飯を置いたお膳を持ってきた
「あ、あの…バルクホルンさんもお疲れなんじゃないですか?」
芳佳がそう言うとトゥルーデは顔をあげた。
「ああ……多分そうかもしれない。そこに置いといてくれないか。少し休んでから食べるから…」
やつれた顔でそう言うトゥルーデだった。
「お姉さん…」
「…」
あのユニットが原因なのか、洋介トゥルーデの履いていたジェットストライカーを見るのだった。
あれから翌日基地滑走路先端 、上空では昨日と同じく、シャーリーとトゥルーデがP-51と試作のジェットストライカーMe262を繰り広げている 。
今回の課題はスピード勝負であった。
「よーいっ……ドーンッ!」
ルッキーニが旗をふり、スピード勝負が始まった。そしてシャーリーは全速力で飛ばす
「どっちが勝つと思う? お父さん?あ…」
「……」
亜弥が洋介の隣で質問するが、彼の顔はやや険しくなっていた。
「なんで…?」
シャーリーはとっくにスタートしているのに、トゥルーデはスタート位置から動いていなかった。
「あれ?バルクホルンー、ドーンッ!だってば、ドーンッ!」
ルッキーニが旗をぶんぶん振ってるが一向に動かない、するとトゥルーデのジェットストライカーが急激に轟音をだ出しそして
「うにゃぁっ!」
トゥルーデが急発進し、その衝撃波でルッキーニが流される
「……はやっ!」
「すげぇ…」
静止していたのは、暖機のためか、ハンデなのか、トゥルーデはあっという間にシャーリーを追い越してしまった
「スピード勝負もバルクホルンの勝ちダナ」
「ああ…ストライカーもレシプロからジェットへ世代交代の時代に………ん?」
すると、いきなりまっすぐ飛んでいたトゥルーデのジェットストライカーの軌道が突如乱れた。
瞬時に悪い予感がし、洋介は格納庫に向かうべく走りだそうとした。
「まずい!」
「どこに行くんだ桜井!?」
「ストライカーを履きに…っ!?」
するとトゥルーデは落下し始め、そのまま海面にたたきつけられてしまうのだが、ストライカーを履きに行っても間に合わない、洋介がそう思っている時ー
「お姉ちゃんっ!!」
「あ、亜弥!?」
瞬時に亜弥は零式ストライカーを履き、滑走路から飛び立ち、ジェットストライカーを凌ぐ速度で、亜弥はトゥルーデに向かって飛行した。
「間に合えぇーっ!!」
なんとか亜弥は、海面スレスレのところでトゥルーデを捕まえ、上昇する。
「よかった…だけど…」
「……」
亜弥はトゥルーデの耳からインカムをとり、自分の耳に付ける。
「お父さん、お姉ちゃんを無事に捕まえました!!」
『ありがとう亜弥、大尉は…トゥルーデは!?』
「お父さん、トゥルーデ姉さんは大丈夫です!ただ気を失っているだけです。でも…」
亜弥はトゥルーデの顔を見る。
「…お姉ちゃん…」
「亜弥!」
「シャーリーさん!」
「あとはあたしに任せな!」
心配しながら今にも泣きそうな声で呟く亜弥、そしてシャーリーが合流、トゥルーデを背負い医務室へと運んだのだった。
「……」
洋介は医務室に運ばれたトゥルーデを見て思い出した。
あの戦時下、ラバウル六勇士の厚木十三と沖田新一郎と近所幸吉、大賀虎雄。
弟の桜井勇介と大賀晴香を亡くし、辛いことを味わいたくなかった。
洋介自身やそして、姉を慕う亜弥のために。
「トゥルーデ、無事でいてくれ…」
「バルクホルンさん…」
「お父さん…」
洋介を見て芳佳と亜弥も心配そうに医務室を見るのだった。