501基地 地中海
「ふぁ~…」
サーニャは夜間哨戒を終え、欠伸をしながら基地に向かっていた。
「みなさん、おはようございます」
朝、ミーナがレクリエーションルームで挨拶をする。
部屋の中にはミーナの他に、美緒、芳佳、リーネ、ペリーヌ、ルッキーニ、エイラ、亜弥が居た。
そして、ミーナは通達を説明する。
「今日の通達です。先日来の施設班の頑張りにより、お風呂が完成しました。本日正午より、利用可能になります」
その言葉を聞いて、皆の顔が笑顔に変わった。
「やった~!」
「おっふろ〜!おっふろ~!」
それぞれの喜ぶ姿を見てミーナは微笑み、そして捕捉した。
「アドリア海を一望できる、野外に作ってもらったのよ」
「ほう、露天風呂か」
ミーナの言葉に美緒が感心したように言う。
ブリタニアの501基地にあったお風呂は室内浴場であり、露天風呂は珍しい形であったからだ。
「では、各自今日は自由行動です。お風呂の件は他の人にも教えてあげてね」
『は~い!』
ミーナの言葉に全員が返事をした。
「良かったね、芳佳ちゃん、亜弥ちゃん!」
「うん!一緒に入ろうね!」
「露天風呂…楽しみだね~♪」
芳佳は早速リーネと亜弥に約束を交わす。
「ペリーヌさんも!」
「ねぇ、ペリーヌさん!」
「え?ま、まあ汗を掻いたとにすっきりするのはいいことですわ…」
そして、芳佳と亜弥はペリーヌも一緒に入ろうと誘う。
名前を呼ばれたペリーヌは少し恥ずかしそうにではあるが、芳佳たちと一緒に入ることを約束した。
そんな中、ルッキーニは我先にとお風呂に直行しようとする。
「おっふろ〜!おっふろ〜!あったしがいっちば~ん!」
言いながら走っていくルッキーニの上着の襟を美緒が掴む。
「聞いてなかったのか?風呂が使えるのは正午からだ」
「え~…まだ駄目なの?」
ルッキーニは美緒の言葉にブーブーと言う。
ルッキーニとしては、今すぐにでもお風呂に入りたい気持ちでいっぱいだったからだ。
「風呂に入れるまでまだ時間があるな…というわけで、風呂に楽しく入る方法があるのだが…」
「何ですか?坂本さん」
美緒は風呂で楽しむ方法があると言う。その言葉に食いつき、芳佳が聞く。
すると、坂本美緒は自信満々に言った。
「訓練で汗を掻け、全員基地の周りでランニングだ!」
美緒の言葉に全員が顔を変える。
「え~…」
「でも、訓練だったらいつでも…」
全員が不満そうな顔をする。しかし、美緒は有無を言わさずに声を変えた。
「つべこべ言わずに走れ!」
『は、はい~!』
美緒に言われて全員がレクリエーションルームから走って出て行くのだった。
そこに、芳佳たちと入れ違いで洋介がやって来る。
「おはようございます」
「おはよう、桜井」
「おはよう、桜井さん」
洋介は部屋の中に居た美緒とミーナに挨拶をする。二人とも洋介に挨拶を返す。
「さっきのあれ、何ですか?」
「宮藤たちか。風呂に入りたければ訓練で汗を掻けと言ったんだ」
洋介は芳佳たちが部屋から出て行く姿を見て疑問に思い聞くと、美緒が答えた。
「風呂ですか?」
「えぇ、基地にお風呂が完成したんです。正午から利用可能です」
「へ~♪」
風呂と聞いてピンときた洋介だが、ミーナの説明を聞き納得した。
「それにしても…なんで風呂如きであんなにはしゃげるんだ…」
「それで英気を養えるならいいじゃない」
美緒は疑問に思ったようで口にするが、ミーナはそのあたりを寛容に見ているようである。そして、ミーナはどこか疲れた様子で肩を叩く。
「疲れています?」
「最近はネウロイと戦うよりも、上層部と喧嘩してることの方が多い気がするわ」
ミーナは疲れた声で言う。その様子に美緒も「そうだな」と言った様子で言う。
「そういえば出撃する機会も減っているな。ネウロイの撃墜数も確か…」
「長い間、199機のままね」
「199…次墜とせば勲章ですね」
ミーナの言葉で洋介は驚く。急激に頭角を現した洋介の撃墜数は370機、ミーナの199機には差があった。
「トライヤヌスでのことは醇子から聞いたが、たった一人で100機以上のネウロイを倒すなんて、鬼や死神もびっくりだな~」
「まぁ坂本さん、俺だけじゃなくバッキーの共同があったからこそ撃墜し、生き延びました…」
「私もたまに、桜井さんたちウィザードが敵じゃないことに感謝するときがあるわね…」
「ははは…」
苦笑してそう呟く洋介。
書類整理に関して、尉官になった時は個人と部下、機体の損傷の始末書と書類整理とかにイラついた。
「でも、そんなのはいらないから、書類を減らしてほしいわ」
ミーナは勲章をもらう事よりも事務仕事が減るほうが嬉しいようだった。
疲れている様子のミーナに、美緒が提案した。
「風呂に浸かって温まれば、疲れもとれるぞ。ミーナも入ったらどうだ?」
「ああ…でも、この後も書類の整理が残ってるから。考えておくわ、ありがとう」
ミーナもその提案に乗ろうかと考えたが、まだ彼女には消化しなければならない書類がある。そのため、一旦は保留にすることにした。
「そうか、無理するなよ」
「ミーナ中佐、一応手が空いてますから手伝いましょうか?」
「そう?ならお願いしてもいいかしら」
美緒はそんなミーナに労わるように声を掛け、洋介はミーナの負担を減らせるかもしれないと思い自分も書類仕事を手伝うと述べた。
洋介の言葉はミーナにとっての助け舟になり、ミーナも了承したのだった。
一方ルッキーニたちは海岸沿いをランニングしていた。
「え?虫?どんな?」
「えっとね〜このくらいですごいキラキラしてるの!あとで芳佳と亜弥にも見せてあげるね!」
「へえ~楽しみ~」
「どんな虫かな~♪」
寒地の北海道で育った亜弥は、蛾以外の虫を見たことがない。
ルッキーニは今朝木登りをして虫の採集をしていた時、テントウムシサイズの黒い虫を見つけ瓶の中にいれて基地に持って帰っていたのだ。
だが、その虫が今回の騒動の原因になるとも知らなかった
「…時間だ、入って良し!」
美緒が手元の懐中時計をしまいながら言った。そしてルッキーニを先頭に浴場へと入る。
「さっ、亜弥ちゃん行こう!髪の毛洗ってあげるから~」
「うん♪」
そう言い亜弥は芳佳の手を握り風呂場へと入った。
みんなが浴場へと向かう中ペリーヌは美緒の方を見ていた。
「ん?どうしたペリーヌはいらないのか?」
「あ、あの…少佐は入らないのですか?」
「ん?ああ、私は朝練の後に行水をしたからな。今日はもういい」
「え?そ、そうですか…」
がっかりしたような様子で風呂場へと入っていくのだった。
風呂場
「いっちば~ん!」
「にーばんっ!」
「さんば~ん!」
芳佳とルッキーニ、亜弥の三人が水しぶきを上げながら浴槽に飛び込む 。
みんなも風呂に入る。リーネは体の前をタオルで隠し湯舟に入り、ロマーニャの風呂を楽しむ。
「どう、亜弥ちゃん?初めて基地のお風呂は?気持ちいい?」
「お姉ちゃん…とても気持ちいい~……」
「それはよかった♪」
芳佳の言葉に、亜弥は嬉しそうに言った。
「なんか芳佳ちゃん、ほんとの姉妹かお母さんみたいだね」
リーネが微笑を浮かべる時、エイラが彼女に巻いたタオルをひっぺ剥がす。
「きゅあっ!!ちょ、エイラさん!?」
「おっ、リーネ。前よりでかくなったんじゃ?」
「え…///?」
「どれどれ~♪」
「キャー!///やめてエイラさん!!」
リーネが悲鳴を上げる中、エイラは幸せそうな顔をして胸を揉む。
芳佳はその光景をうらやましそうに見ていると
「芳佳はどれどれ…えいっ!」
「うひゃぁ!うう~…///」
ルッキーニが背後から胸をもまれた芳佳が恥ずかしそうな顔をする
「あ~、やっぱり残念賞…」
「残念………残念って何っ!?」
「残念無念…」
ルッキーニが残念がる中
「リーネお姉ちゃんの仇!」
「あ、亜弥!?何してんだよー///!?」
「ほうほう…」
亜弥がエイラの胸をもんでいた。
「何がほうほうだ〜!!///」
「なんて下品な~!!///」
浴場で眼鏡を曇らせていたペリーヌが注意する。
そして浴場はパニック状態になった。
この騒動はまだ序章に過ぎずこの先さらに大きな騒動が始まるのであった。
「いい湯だったね~」
「あ~気持ち良かった~♪」
「あとでシャーリーともう一度行こ♪」
「はぁ~早くサーニャ起きてこないかな?」
「あ~気持ちよかった~♪」
ご機嫌に風呂から出てくる女子組。
「まったく!どうしてあなた方はマナー良く入らないんですの!?」
ペリーヌは注意するが、みんなは服を着替え始めた。
すると
「亜弥ちゃん、どうしたの?」
芳佳が亜弥を見ると、亜弥は周りをキョロキョロしていた。
「なにか感じる…気のせいじゃない。この気配は…ネウロイ!?」
「えっネウロイ!?」
「きゃあぁぁー!!」
『っ!?』
リーネが悲鳴を上げ、みんながリーネに注目する。
「ど、どうしたのリーネちゃん?」
「ひゃう!…ズボンの中に何か居るの…」
リーネが顔を真っ赤にしてプルプル震えていた。
すると、リーネのズボンの中に何かがうごめいていた。
「何これ?虫?」
「む、虫!?いやぁぁぁ!!」
リーネが悲鳴をあげてズボンを脱ぐと黒い虫みたいなのが飛んでいく。その時亜弥はそれを見てネウロイの反応を感じた
「あれは…?」
「あ、出た!」
「な、なんとおぞましい…」
「どったの?」
亜弥は虫型を目で追う。
「ナンダヨー、虫ぐらいで騒ぐ、な…んっ///」
エイラは急に顔を赤くし尻を抑える
「エイラさん?」
「ズ、ズボンの中に、何かが…///」
「え?それって…」
「きっと虫です!」
「ムシー♪」
「見せて!」
芳佳たちがエイラに近づくが
「く、来るナ…///」
そういってあとずさる
「えい!!」
亜弥はエイラのズボンに手を突っ込み、虫を捕まえようとする。
「亜弥!?何してんだよ///!?」
「エイラさん、動かないで!あともう少しで取れそう…」
亜弥は奥へ奥へと手を突っ込み、エイラのズボンに入っている小型ネウロイを取ろうとする。
「ひゃ///ひぅ…亜弥……そこは…///」
エイラは顔を真っ赤にして身もだえる。そして
「くっ!こうなったら!」
亜弥はエイラのズボンを脱がし、そして虫型はエイラのお尻にぴったりくっついていた
「亜弥!?何するんだ///!?」
エイラが嘆いた瞬間
「虫、覚悟ぉ!」
亜弥はそう右手を大きく振りかぶって、
バチィン!!
「ギャァァッ!!///」
亜弥がエイラのお尻を思いっきり叩いた。そしてその結果は
「失敗しちゃった…やっぱりハエたたきかじゃないと」
「お、お前…」
「ご…ごめんエイラさん…」
エイラが涙目で睨み、亜弥は謝罪する
「……何やっとるんだ、お前ら」
そこへ風呂桶とタオルを持って、美緒がやって来た。
「なに、虫型ネウロイだと!?ほんとか亜弥!?」
「はい坂本さん、ネウロイで間違いありません!」
「じゃあ、すぐにでも捕まえないと!!」
「そうだな!!それがいい!!」
脱衣所にいたウィッチたちは、虫型ネウロイを探しに行ったのだった。
隊長室
「だいぶ片付きましたね…」
「そうね、桜井さんが手伝ってくれたおかげね…ありがとう」
「いえいえ…ん?この書類は」
洋介は一枚の書類を手にした。
それはアドルフィーネ・ガランド空軍少将からの招集指令の書類であった。
「この書類はガランド少将…またウィッチ会議ね…」
「ん?」
「いえ、なんでもないわ。桜井さん、あとはもう大丈夫よ。あとはこの書類一枚だけだから」
「わかりました、では」
洋介はミーナに敬礼をして部屋を出た。
「ロンドンのウィッチ会議、はぁ~…またグンドュラと顔を合わせないといかないのね…これを終わったら美緒や桜井さんの言う通りお風呂に入ろうかしら」
頭を抱えて言うのであった。
廊下
「穏やかだな…」
基地の外に見える海を見ながら、洋介はそんなことを思う。
休日の501にしては随分と静かだと思いながら洋介は廊下を歩いていき、そして自分の部屋に入る。
「何を騒いでいるんだ!」
トゥルーデが部屋から出てきた。
「バルクホルンさん!」
「お姉ちゃん」
「亜弥、お前もか宿舎の廊下で騒ぐのは軍規違反だ!」
「う…ごめんなさい…」
トゥルーデの言葉に、亜弥は謝罪した時に彼女の周りに例の虫が現れた。
「あっ!いた!」
「虫!」
「虫?虫がどうした?こんな騒ぎを誰が、ぁぁぁ///」
「あ、大尉のズボンに入ったナ」
虫型ネウロイがトゥルーデのズボンの中に潜り込んだのだ。
そしてトゥルーデの顔は赤くなる。そしてみんなが騒めきだすと
「静まれい!戦場では、常に冷静な判断力が…」
生死を左右する、と言おうとしたその瞬間
「えいっ!!」
「なぁああ///!?」
トゥルーデはズボンを脱ぎ、そして亜弥は虫型を叩こうとした。
「もらったぁー!!」
エーリカが素手でトゥルーデのお尻をひっぱたいた。
「ぎゃあぁー!!!?///」
思いっきりひっぱたかれたトゥルーデは悲鳴を上げる。そして虫型ネウロイは
「あ…失敗」
まんまと逃げられてしまった。
「は、ハルトマン…」
トゥルーデはエーリカを見る。すると虫型ネウロイはまたどこかへと逃げて行った。
そして芳佳たちはその虫を追うのだった
「お、お前ら…」
「なんの騒ぎだ…?」
洋介がウィッチたちの騒ぎに駆けつけた。
談話室
集まった芳佳たちは、美緒に報告した。
「あれはただのネウロイではないのか…」
「虫型が通った場所は、停電しているらしいんだ…」
「放っておけませんわ!」
「あたしの虫だかんね!」
「少佐…このままだと基地の機能が停止してしまうかも知れないぞ…」
「そうだな、どうやって見つけるかだ…」
「電気系統を破壊する虫型ネウロイか…厄介なものを放ってきたな敵さんは…」
すると、シャーリーがこんなことがあろうと探知機を持ってきた。
探知機の反応で芳佳のズボンにネウロイが入り込み混乱、芳佳は探知機を持ったシャーリーに激突。
その時の芳佳は、若干幸せそうな顔をしていた。
しばらくしてエイラ、サーニャたちと合流した。
「と、サーニャがネウロイの気配を感じたらしいんダ」
「まだ、はっきりしないけど、建物の中と、それから上」
「建物の中に居るのは、あの虫型だな」
「エイラ、サーニャ、桜井、亜弥。お前たちは協力して、建物の中を探してくれ」
『了解!』
「バルクホルンとハルトマンは、上空の迎撃準備!」
『了解っ!』
美緒の指示で、トゥルーデとエーリカは格納庫に急いだ。
「私たちも探すぞ、桜井!」
「了解です!」
「それと亜弥」
「なんですか坂本さん?」
「ネウロイを捕まえるとはいえ、人のズボンを突然脱がすのはやめような」
「そうだぞ亜弥。びっくりしたんだからな」
「…人のこと言えるエイラ?」
美緒の言葉にエイラは呟き、サーニャに睨まれた。
それからその後、洋介はウィッチたちと二手に分かれて探した。
「なかなか見つからねぇな…亜弥、その虫型ネウロイってどんな奴だ?」
「テントウムシ型だよ!」
「そ、そうか…」
洋介は亜弥の顔に、少し恐怖を感じた。
そのネウロイがなんで人の尻の中に潜るのか疑問、それはネウロイしか知りません。
しばらく基地内走り回ると、ペリーヌと合流した。
「あ、ペリーヌ!いたか?ていうかやっつけたか?」
「いいえ、お花畑にいましたが逃げられました。でもサーニャさんがお風呂場の方にいるって!?」
「風呂場だな!よし、行こう!!」
その後、美緒やシャーリーたちとも合流し、洋介は風呂場に向かう。
洋介は風呂場から立ち止まった。そしてみんなは立ち止まった彼を気にせず風呂場へと入った。すると
「お父さん…どうしたの?」
一緒に立ち止まった亜弥がそう訊く
「い、いや…今そこは俺が入っちゃいけない禁断の場所だ…」
「え?それは…」
亜弥が質問しかけた時
「きゃあぁぁー!!!」
風呂場から書類仕事を終えたミーナの悲鳴が聞こえた。
そして風呂場から
「見事だ、ミーナ」
「流石ですわ!」
「うわーん!私の虫~!」
賞賛の声だったり、泣き叫ぶ声だったりが聞こえてきた。
その後、亜弥の話では『ミーナさんがネウロイをキュッとして倒した』と言っている。
「キュッって何だ…?」
「それは…」
「…亜弥ちゃん、これ以上言わないでね~…」
脱衣場から軍服の上着を着たミーナが、亜弥の口を手で塞いだ。
そして上空に現れたというネウロイはその時の悲鳴とともに爆散したとトゥルーデが呟いた。
「…これで一件落着だな」
カールスラント空軍中佐、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケはこの事件でネウロイ撃墜数200機の記録となった。
カールスラント政府から赤と黒と白の縞模様のパン…ズボン型の勲章が贈られた。
ミーナの顔はどこか上の空のような感じの顔だった。