ブリタニア 首都ロンドン
統合戦闘航空団、各部隊の指揮官が集った。
第501 ストライクウィッチーズ
ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐
第502 ブレイブウィッチーズ
グンドュラ・ラル少佐
第503 タイフーンウィッチーズ
フーベルタ・フォン・ボニー少佐
第504 アルダーウィッチーズ
フェデリカ・N・ドッリオ少佐
第505 ミラージュウィッチーズ
グレーテ・M・ゴロプ少佐
第506 ノーブルウィッチーズ
ロザリ-・ド・エムリコート・ド・グリュンネ少佐
ジーナ・プレディ中佐
第507 サイレントウィッチーズ
ハンナ・ヘルッタ・ウィンド少佐
第508 マイティウィッチーズ
新藤美枝少佐
オブザーバー
ルミナスウィッチーズ
グレイス・メイトランド・スチュアード少佐
議長 アドルフィーネ・ガラント少将
副議長 エディタ・ノイマン大佐
各部隊の指揮官、もしくは代理で副長が出席。
それぞれの欧州戦線での戦果を、ウィッチ軍トップの総監であるガラント少将に報告する。
「グンドュラ少佐、去年に出現したグリゴーリの討伐見事だったね。」
「恐れ入ります少将、私の屈強な部下のウィッチたちが団結してくれたお陰です。」
「うむ。」
ガランド少将は、オラーシャに出現した『グリゴーリ』を502部隊が撃退した報告で、指揮官のグンドュラ・ラル少佐を褒め称えた。
「…その言葉、どの口が言うのかグンドュラ…」
ガラントの前で、ラルが誇らしげに報告する時、503のフーベルタ少佐が睨みながら告げた。
「ん…フーベルタか…私がおかしなことを言ったか?」
「何を言うかグンドュラ、お前の手引きで各部隊は知らない訳ではないぞ!」
フーベルタの言葉で、参列したウィッチ指揮官も同意見だった。
グンドュラ・ラルの強引とも言えるウィッチの手引きにより、各ウィッチ部隊はおろか、各国のウィッチ軍も常に警戒していた。
実際、統合戦闘航空団には8つの部隊、後方支援の部隊が設置されている。
優秀な人材が喉から欲しがっているのも事実である。
下手すれば、会合で代表者が掴み合いか殴り合いでの一触即発であった。
次の題はウィッチの人数の増強についての内容。
「手元の編成表を見てもわかるように統合戦闘航空団に所属するウィッチは十名前後…どうしてもここ辺が限界ね…」
ミーナは書類を見ながらそう呟く。
「もっと増やすべきだな」
「確かに、多くて困ることはない」
ラルもミーナの意見に同意した。
「私も二人に同感だけど、各国が提供してくれる数には限りがあるのよ」
ガラント少将の権限であっても、交渉が難しいところもある。
近年のネウロイ戦争にて、かつての扶桑海事変やヒスパニア戦役で従軍したウィッチたちも、今の欧州戦線にて二十歳過ぎ、ウィッチとしてそのまま従軍し、本国にて教官として就き、魔法力が枯渇した元ウィッチは軍属として従軍していた。
「確かに、内部で融通を利かせるにも限界がある。」
「勝手で一方的な引き抜きは融通とは言わないわよグンドュラ?」
「…私は過去に拘らない性分だ。ミーナの部隊、桜井洋介と亜弥に関してだが、いつ私の部隊に配属するんだ…?」
「…グンドュラ、桜井親子をいつあなたの部隊に転属すると話したの…」
ラルの言葉で、ミーナは怒り気味だった。
「桜井親子?今ロマーニャで戦っていると言うウィザードの桜井洋介か!?ガラント少将、その桜井洋介は何者ですか?」
「そうか、ミーナとグンドュラ、ドッリオ少佐と新藤少佐以外のウィッチは彼を見たことはないのだね。解説をやってくれるか、エディタ。」
「はいはい、やればいいのね。」
ガラントの言動で、副議長のノイマン大佐がやや呆れ顔で、プロジェクターを立ち上げ、白いシートに写し出す。
「彼が世界で初めてのウィザード、桜井洋介大尉だ。」
「これが、桜井洋介か……」
ミーナを含む4人のウィッチ以外の指揮官は驚く。オブザーバーのグレイス少佐はどことなく驚かず、笑みを浮かべていた。
「ガラント少将、ウィザードの桜井洋介だが、501部隊配属以前にニュースに出てもおかしくない人物だ、何者なんだ?」
ゴロプ少佐がガラントに対し、質問する。
「流石に鋭いな、ゴロプ少佐。実を言うと彼は異世界からやって来た人物だ。」
「そうか、理解した…」
「ん、キミは驚かないんだね。」
「私もネウロイと戦う軍人の一人だ、どんな襲来がやって来てもおかしくないぞ、少将。」
「ガラント少将、あやって娘は何者だ…?桜井大尉の妹か…」
「…少し違うね。」
「え…?」
「実は、桜井洋介大尉の実の娘なのよ。」
「え…えぇ…っ!?」
フーベルタがガラント少将に質問したところ、ミーナとラル、フェデリカと新藤美枝を除き、彼女を含めて数人のウィッチは驚いた。
プロジェクターで洋介の写真から、亜弥の写真が写った。
「これが、桜井亜弥。若干9歳の少女だ。」
「……これが、9歳のウィッチ…父親の桜井大尉は21歳。なんでこんなに若い、なぜだ…?」
「ネウロイの秘密計画、通称『ガリバープロジェクト』。その娘は父親である桜井大尉が行方不明になった9年後の異世界から、この世界に迷い込んだ。桜井亜弥を回収した後、ウィッチに覚醒した。」
ウォーロック事件及びフレイヤー作戦において、ミーナはガラント少将に報告、以後は各部隊の指揮官級のみの通知を受け、代表のウィッチたちは納得する。
「ガリバープロジェクトでですか…グンドュラ、…ウィッチ教育部隊に入隊する年齢に達していないぞ…なぜ戦場へ……」
「君の言葉の通りだが、亜弥は強い意志でウィッチ隊に志願した。その結果、オラーシャのフレイヤー作戦で、グリゴーリの撃破に貢献した一角だ。」
「それに亜弥は、父親の様に元気があり思いやりがあるお利口な子でいい娘だ。フーベルタ。一つ訊く。その子をネウロイの秘密計画に巻き込まれた娘を研究施設に送ってしまえなどという馬鹿な連中と同じ考えは持っていないだろうな?」
ラルの目が少し吊り上がり、ミーナも少し警戒した目でそう睨む。
「いいや、それはない。もし仮にそうだと言ったらどうする?」
「その時は桜井大尉に八つ裂きにされるだろうな……ある意味ネウロイより敵にしたくない相手だ…それに私も許さん。」
「あら?珍しいわねグンドュラ。」
「ふ…大したことはない、私にとっても亜弥は可愛い妹みたいなウィッチだからな。ミーナ、亜弥は元気なのか?」
「ええ、とっても微笑ましいくらいよ(あなたが亜弥さんの妹みたいとは…ふふ、トゥルーデが妬くわね…)」
事実、ラルが亜弥を実の妹の様に可愛がっていることを本音にする。
そのことを聞いたミーナは、笑みを浮かべた。
「仮に配属させるのは遠慮するぞ、私はまだ年端もいかぬ少女は。」
「私も聞いた話では、扶桑の北郷校長の報告で横須賀ウィッチ学校にて、ウィッチ候補生を模擬空戦で、5人を撃墜したと聞きました。仮に508は親子での配属を推薦している身です。」
ラルは微笑むが、ゴロプは反対であり、新藤は親子に対して推薦を望んでいた。
「少将、屈強な親子がいるのに、なぜロマーニャ…いぇ、ヴェネツィア奪還はなぜ遅れているのですか…?」
「ん、それはだね…」
「そうですね。少将、わたしが説明します。」
「そうか、助かる。」
506のグリュンネ少佐が質問する時、ガラント少将が解説すると、504のフェデリカが挙手し、解説する。
「皆さんも知っての通り、504部隊は異世界からやって来た二人のウィッチとウィザードが配置しています。」
「なんだってっ!?」
「桜井大尉の他に、もう一人のウィザード!?」
プロジェクターに写っていた亜弥から、504部隊のウィッチ、ステラ・A・エヴァンス中尉。もう一人のウィザード、バッキー・S・五十嵐大尉を写し出した。
「扶桑系リベリオンウィザード、バッキー・S・五十嵐大尉。扶桑とリベリオンのハーフウィッチ、ステラ・A・エヴァンス中尉。」
「そうか、この4人は異世界人ってことなのだな。フェデリカ少佐、このバッキー大尉とステラ中尉の実力は…?」
「そうね……バッキーは元の世界で、501の洋介大尉とはライバルだと聞いたわね。9回の内8回は引き分けと1敗。ステラ中尉は…」
「アフリカの星、マルセイユ大尉の報告で、ステラ中尉の模擬空戦の結果は引き分けだ。
」
「なるほど…」
フェデリカとアフリカ方面軍ノイマン大佐の言葉で、ラルは理解する。
「是非、502に欲しい人材だ。」
「また始まった…」
「502にウィッチとウィザードを配属させたら、各部隊の戦線のバランスが崩れ兼ねない!」
「第一、4人のウィザードとウィッチがロマーニャに留まっているのはどうかと思う。」
「まぁ…間違っていないことだね…」
「ラル少佐の意見、どことなく納得するわね。」
ラルの人材確保の意見内容で指揮官たちは反論するが、彼女の正当な言葉に言及し、半数の指揮官が納得する。
「グンドュラの言葉に間違いはないが、504部隊の報告で、ヴェネツィアにのネウロイ侵攻を抑えられているのは4人が居てくれているおかげだ。」
ガラント少将の一言で、指揮官たちは静粛になる。
「そうなんだな…グンドュラ。桜井大尉と亜弥軍曹の親子を我々503に配属させたら、以前にポクルイーシキン大尉の件に関して、上官のサフォーノフ中佐に水に流してやることを進言してやるぞ。」
「ありがとうフーベルタ、その気持ちだけは受け取るよ。」
「なにっ!?」
「桜井大尉と亜弥に関しては、貴重な人材だ。私が先に唾を付けたから、私の部隊の一員として同然だ。」
ラルの言葉で、ミーナは怒りの血管を浮かばせていた。
「そもそもグンドュラ、桜井大尉に関して501の管轄であったブリタニアにて、ウィザードとして回収した人材よ。以前の501解散である程度の紹介したことを忘れないでね。」
「その時の情報に今でも感謝しているよミーナ。亜弥に関して、我々502のオラーシャ管轄で回収した逸材だ。親子共々手放したくない人員だからな。」
ミーナとフーベルタ、ラルの間で論争が勃発。
「そう思っていたよグンドュラ、サフォーノフ中佐から伝言を預かっている。」
フーベルタ少佐は懐から手紙を出し広げる。
「コホンっ!ブロニスラヴァ・フェオクチストヴナ・サフォーノフ中佐から親愛なるグンドュラ・ラルへ…『くたばって地獄へ落ちろ!』」
「まあ、素敵な言葉ね~。」
フーベルタ少佐が手紙を読んでその内容を聞いたミーナ、ラルの被害に遭ったウィッチたちは笑みを浮かべ、心の中で拍手する。
それぞれの管轄でただの軍人と普通の娘がウィザードとウィッチに覚醒し、親子の戦力を我が物としようとする。
「我々501部隊は、ウィザードとウィッチと共に全戦力を討って出て、ヴェネツィアを奪還します。」
「同じ、504部隊も人材不足でありますが、一人でも多くのウィッチ回復の為に、異世界人と共にネウロイと戦っていきます。」
会議室では論争の結果、ミーナとフェデリカが何とか各部隊の指揮官たちを押し込み、結果はロマーニャ戦線のミーナとフェデリカの勝利に終わり、今回の会議は結局白紙に戻るのであった。
議会が終わり、それぞれの各戦闘航空団の代表がそれぞれの拠点に戻る時だった。
「流石に一筋縄にはいかんな、ミーナは。」
「当たり前よ。あの親子に対して、お礼が言えない程にネウロイと戦い、感謝しているわ。」
「同意見だ、最後にミーナ。これを亜弥に渡してくれないか?」
ラルは、胸ポケットから、糸で編んだ紐をミーナに手渡した。
「これは…?」
「私の部隊の先生が、ヒスパニアの隣国、ルシタニアに伝わる、魔力が込めた繊維で編んだお守りだ。」
「お守り…」
「そうだ、亜弥はまだ幼きウィッチだ、少しでも安全で居られるように、これからの決戦に向けて、502が丹精込めて編んだミサンガだ。」
「…へぇ、これがミサンガ。」
「亜弥の誕生日が近い、私たち502によるプレゼントとして、あの娘の手首に結んで欲しい。」
「わかったわ。グンドュラたち502のプレゼントとして、亜弥さんに渡すわ。」
「感謝する。私はペテルブルグに戻る、無事を祈っているぞミーナ。」
「えぇ、グンドュラ。また会いましょう。」
ラルはペテルブルグに向かう飛行機に搭乗、502の拠点であるペテルブルグに帰投した。
ミーナは戦友のグンドュラ・ラルと別れた後だった。
「ミーナ中佐!」
「あなたは…」
先程の議会で、オブザーバーとして出席した音楽隊の隊長、グレイス・メイトランド・スチュアート。リベリオン陸軍少佐であった。
「色々と議会は大変ですね…」
「こんなのは、ただの愚痴と文句の言い合いに過ぎません。」
「…はは…そうなんですね……」
グレイスもかつて、数年前までは武器を手にした航空ストライカーユニットを履いたウィッチであったが、二十歳を過ぎ、魔法力が枯渇したために前線を退き、ウィッチを引退した。
軍に残って、後方支援の一環である、連盟空軍航空魔法音楽隊『ルミナスウィッチーズ』の隊長兼マネージメントを担当していた。
「グレイス少佐の音楽隊、色々と世界から脚光を浴びていますね。」
「いえ、ここまで漕ぎ着けるまで苦労しました…ネウロイとの戦いで疲れきった兵士と民間に対し、音楽で人を救うことが私の信念です。」
グレイスは引き抜きが苦手なため、かつての前線で負傷した敏腕のウィッチや中途半端で覚醒したウィッチを編成した。
だが、思う様に伸びがなかったために、音楽隊の募集広告でウィッチを募らせた。
射撃の腕が下手な者、飛ぶことが苦手な者、爆睡する者、魔法力が安定しない者、船酔いする者、身分が公女。
メンバーで唯一固有魔法を持つナイトウィッチだが、電波の受信が出来ても発信が難しい者。
戦うことが不向きのレッテルを貼られ気味のウィッチ9人が募ったことで、世界一有名な音楽隊に成長した。
「…ですが、グレイス少佐も去年の記念式典での歌手デビューは素晴らしいです。」
「こ…これは大変恐縮です…」
「……はぁ…羨ましい…」
記念式典でグレイスは隊長としての司会を解説したと同時に、観客の前で堂々と歌手デビューを行い、その影響で彼女のファンも増え、それ以降は隊長とマネジメントを兼ねての歌手。多忙になっても、ファンへのサービスを大切にしている。
ミーナにとっても、音楽隊は羨ましい組織だった。
もしも、ネウロイとの戦いがなかったら、ミーナは歌手になっていたのかもしれないことで、気が沈んでいた。
その事に感づいたグレイスは、両手でミーナの手を掴みあげた。
「み、ミーナ中佐!必ずや、歌手希望だったミーナ中佐を、ルミナスウィッチーズの特別ゲストとして、舞台に立たせます!!」
「…ぐ…グレイス少佐…ありがとうございます…」
グレイスの言葉で、ミーナの片目に一筋の涙が流れた。
「…あの中佐…約束と引き換えで、これと言って何ですが、おお…いえ、…桜井大尉と亜弥軍曹に、これをお渡しして欲しいのですが…」
グレイスは足元に置いていた紙袋を、ミーナに手渡した。
「いいですが、まずは中身の確認をよろしいですか?」
「はい」
手渡されたミーナは確認のために、紙袋の中身を確認する。
「……これは、青と白銀の帯…?」
「はい、私たちルミナスウィッチーズが桜井親子のために、丹精を込めて造られた帯、云わば襷です。」
「…襷…」
「もうすぐ亜弥軍曹の誕生日と、ロマーニャとヴェネツィアの決戦のため、身に付けて下さい。と…ルミナスウィッチーズたちの伝言です。」
「……わかりました。必ず桜井大尉と亜弥軍曹にお渡しします。」
ミーナは彼女に対し、互いに敬礼し、グレイスはこの場を去った。
そしてミーナも、お守りを握りしめながら、複雑な思いを持って、ロマーニャの501基地に帰投した。
ロマーニャ・ヴェネツィアの決戦まで、目前に迫っていた。