「インジャタール。」
トレーナーが私を呼んだ。
トレーニングで疲れた身体を動かし、トレーナーの元へ行く。
トレーナーは厳しい顔をしていた。
(何でそんな顔なのだろう。私、トレーナーの癪にさわる事でもしたのだろうか。)
トレーナーに声をかける。
「トレーナーどう…」
トレーナーどうしたの?と聞こうとしたが、その声はトレーナーに打ち消された。
「契約破棄だ。今すぐ出てってくれ」
(…え?)
私は呆然と立ち尽くした。
(聞き間違いだよね?そう、そうに決まってる。)
「も、もう一回言ってくれるかなトレーナー」
自分でも私の声が震えているのが分かる。
「だから契約破棄だ!さっさと行け!」
(うそ…何でなのトレーナー…嫌だ嫌だ嫌だ!)
:
:
:
「あ、夢か…」
気づけば全身冷や汗をかいていた。
(なんであの頃の夢を見たのだろう)
汗を洗い流す為にシャワーを浴びながら、
まだ私がトレセン学園にいた頃を思い出す。
なんとか合格して入ったトレセン学園。
座学の成績は学年で一位二位を争う程だったが、レースは全然だった。
フォームは意識して走っていたし、スタートやコーナリングは得意だったのにタイムは遅かった。
『レースで勝ちたい』という思いを胸に、日々トレーニングに励んでいた。
そをなある日、トレーナーに声を掛けられた。
スタートやコーナリングの技術を買われたのか、スカウトされたのだ。
私は喜んだ。
そのトレーナーは既に何人ものウマ娘をスカウトしており、私はそのチームに入ることになった。
(これから私は強くなれる。速く走れるようになる。)
そう思っていた。
トレーナーから指示されるのは、主にチームメイトとの並走トレーニングだ。
私と並走トレーニングをするのはスタートやコーナリングが苦手な子ばかりだった。
その子達は私との並走トレーニングを続けるうちに、苦手を克服して強くなっていく。
(でもこれで私は強くなれるのだろうか)
そんなことを考えていた時に言われたのだ。
「契約破棄だ。出てってくれ」
頭が真っ白になった。そんな事を言われるとは考えもしていなかった。
私は理由を訪ねた。納得いかないのだ。
「どうしてなの。何でなのか教えてよ!」
「…分かった。ただし話したら直ぐに行くんだぞ。お前以外にはメイクデビューが迫っている。こっちも忙しいんだ」
(私以外…私はメイクデビューに出走することさえ出来ないのか)
辛かった。私は精神的に打ちのめされていた。
立っていられるのが自分でも不思議なくらいだ。
トレーナーは無情にも話を続ける。
「最初のうちはお前にも期待していたさ。フォームは綺麗で、スタートやコーナリングが得意な奴は速いに決まっている。そう思っていたんだ。でもお前は遅かった。勿論、こいつらも最初は遅かったさ。が、それはスタートやコーナリングが苦手などという改善点があったから。こいつらはお前との並走トレーニングを重ねて見事に速くなった。でもお前はどうだ。改善点が無いのに遅いというのはお手上げだ。本当は直ぐにでも契約破棄しようと思ったが、苦手克服の道具になってもらった訳だ。で、こいつらの苦手が無くなった今、お前はもう要らない。」
「…」
(道具?私、そんな風に使われてたんだ。私はトレーナーを信用して、毎日頑張っていたというのに。)
悲しい。悔しい。
いろんな感情が押し寄せる。
もはや立っていられなかった。
私はその場で崩れ落ちた。
泣いた。涙が枯れるまで泣き続けていた。
そんな私を尻目に、トレーナーは他の子の指導を再開した。
その後、トレーナーを失った私はメイクデビューに出走することも出来ず、退学となった。
レースで輝かしい成績を残すウマ娘がいる一方で、多くのウマ娘は一度も勝てず引退していくのが現状なのだ。
しかし、私はレースに出られずに引退…いや、デビューさえ出来なかったので引退と言うのもおかしいだろう。
私の競争ウマ娘としての夢は早々打ち砕かれたのだった。