ヒスイ外伝 氷凛と滅猛の試練   作:聖成 家康

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もうお気に入りが……ありがとうございます。


その2 『女王君臨』

 

「えぇ? そんなポケモンがですか……?」

 

 コトブキムラ帰還後、隊長室にラベン博士とシマボシ隊長、そしてテルを集め、さっき起こった事をありのままに話した。

 

「ショウの何倍も大きく、桃色の鱗と紫の体毛、そして怒り狂うと鼻を鶏冠、背中の皮を翼のように展開するポケモン……確かに聞いたことがない」

 

 シマボシはショウから聞いた情報をまとめながら、喉を唸らせた。

 かれこれ、ギンガ団がポケモンの調査を始めてから数十年経つと聞く。キングやクイーンなど、比較的巨大な身体を持ち強大な力を有するポケモンはいたけれど、今回ばかりは例外のようだ。

 

「なぁショウ。そいつ、捕まえられなかったのか?」

「……とてもボールで捕まえられるような、そんなポケモンには見えなかった」

 

 あんな巨体がボールに納まるのなら、なんだって捕まえられる。

 それに、奴はポケモンとは違う点が一つだけあった。

 それは、瀕死になっても身体が小さくならなかった事だ。

 死体は元の大きさのまま、そのまま放置された。ポケモンは皆、瀕死になれば身体を縮めて身を護る性質を持つが、奴は違った。

 

「……ポケモンと違う生き物……では、今後奴のようなポケモンを“モンスター”と呼称することにしよう」

「モンスター……」

 

 その単語は、なんとも響きが重々しかった。

 すると、突然、懐に忍ばせていたアルセウスフォンが震え始める。

 

 取り出して画面を見ると、そこに写されたのは先程のモンスターの姿だった。

 その下にはご丁寧に、【蛮顎竜 アンジャナフ】と記されていた。

 

「アンジャナフ?」

「おぉ、ショウのそれは何でも分かるんだな!」

「今後、モンスターと出逢えば、それで何かが分かるかもしれないな」

 

 アルセウスフォンは、本当に便利だ。――便利過ぎて不気味なくらいだった。

 

「ショウ、テル。再び黒曜の原野に赴き、異常が無いかを調査せよ」

 

 ショウとテルは横に並び、敬礼をした。 

 

「了解!」

 

 

 

 

 

 

「では気をつけてくださいね」

 

 高台ベース。ラベンはいつものように、キャンプでお留守番だ。

 

「久しぶりだな、お前と二人で調査なんて」

「そうですね、先輩」

 

 はっきり言って、テルは少し頼りない。ピカチュウは中々進化しないし、手持ちのレベルも少々低めだ。

 

「……! 先輩! あれ!」

 

 目の前の存在を察知して、思わず足を止める。

 

 背の高い、鋭い鎌が特徴のポケモン。コロトック。体格が大きいため、オヤブン個体だろう。迂闊に近づいていれば、危なかった。

 

「ショウ、ここは俺がやる!」

「せ、先輩下がって!」

 

 テルが自信満々に前に出たため、ショウは思わず呼び止めた。

 

 その時――天空から異様な気配を察知し、背中が痺れた。

 本能的にテルを抱き締め、左斜め前へ大きく回避した。

 

 何か巨大な存在が通り抜けていき、コロトックを鷲掴みにして飛び上がった。

 

「な?!」

 

 ムクホークにも劣らない狩りの能力。

空を飛ぶその姿をよく見てみれば、全身が緑の甲殻で覆われた二対の巨大な翼を持つモンスターがそこにはいた。

 

 アルセウスフォンが反応し、画面を見てみれば、そこに記されていた名は。【雌火竜 リオレイア】。

 

「リオレイア……尾に毒がある……」

 

 ショウはリオレイアに目をやる。

 オヤブンコロトックを、いとも容易く食い殺している。

 

 カミナギの笛を吹いて、ウォーグルを呼ぶ。

 いつまで経っても乗るのが怖いサドルに搭乗し、リオレイアを追いかけた。

 

「お、おい! ショウ!」

 

 テルの声は、彼女には聞こえなかった。

 

 

 ウォーグルは速い。しかし、リオレイアはそれに勝る飛行能力を有していた。

 

「速い……何とかして追いつかないと」

 

 ショウは、自分でも、なぜモンスターに固執しているのかは分からなかった。

 けれど、なぜだか追いかけてしまったのだ。

 

「ウォーグル、攻撃して、奴を!」

 

 がたん、と大きくサドルが揺れる。

 ウォーグルが立ち止まり、頭部からサイコキネシスを放つ。

 異様なエネルギーの波動は、リオレイアに命中。体勢を崩し、地上へとどんどん降りていった。

 

「ありがとう、ウォーグル!」

 

 ショウも地上に降り立ち、リオレイアと睨み合う。

 やはり、ポケモンには無い異質な気迫と存在感が、モンスターにはある。

 

「行くよ、リーフィア!」

 

 モンスターボールを投げ、リーフィアを繰り出す。彼女は華蓮な動きで敵を翻弄しつつ、頭から靡かせる草のような帯で敵を斬りつけるパワーを持っている。様子見には最適だ。

 

「リーフィア、リーフブレード!」

 

 彼女が空中で翻り、硬質化した帯でリオレイアの頭部を斬りつける。

 奴の反撃を華麗に受け流し、追撃でリーフブレードを叩き込んだ。

 

 リオレイアは飛び上がり、火球を放った。大地を焼き払い、リーフィアも巻き込まれそうになる。

 

(ほのおか……く、相性が悪い)

 

 でも、まだ相手を知れていない。リーフィアには、まだ頑張ってもらわなければならなかった。

 

「リーフブレード!!」

 

 もう一度、リーフィアに攻撃を命じるも、異常に気づいた。

 ほんの、僅かな異常。リオレイアが翼を広げ、その場で静止していたのだ。

 

「ッ……リオレイア! 避けて!」

 

 そういった時には、遅かった。

 

 リオレイアは空中で宙返りをし、鋭い棘のついた尻尾を力の限り振るった。

 尾の棘はリーフィアに突き刺さり、彼女は地面に弱々しく転がった。

 

「尾に毒……」

 

 その言葉を思い出し、彼女を急いでボールに戻した。

 

「頼むよ、トリトドン!」

 

 繰り出したのはトリトドン。しかもオヤブン個体である。

 

「行こう、だいちのちから!」

 

 トリトドンに命じると、彼は小さな鳴き声を天空に響かせる。

 すると、リオレイアの足元がぐつぐつと煮え滾り、火口のようにエネルギーが噴出し、奴を攻撃する。効いている様子だった。

 

 リオレイアは地面に降り立ち、口に炎を溜め込む。

 そして、こちらに向けて三連続に渡り火球を放ってきた。

 

 トリトドンの特防を持ってしても、あと数回受けるのが限界だろう。

 

「くっ……トリトドン、もう一度だいちのちから!」

 

 だいちのちからで、再び攻撃させるも、今度は外してしまった。

 反撃が来る。二、三歩後ろに下がり、飛び上がって宙返りし、尻尾を振るう。

 

 トリトドンは諸に喰らい、毒を貰ってしまった。

 

(もう限界か……)

 

 彼をボールに戻し、次なるポケモンを繰り出す。

 

「頑張ってね、エンペルト!」

 

 ペンギンそっくりのポケモン、エンペルトを繰り出す。彼はみず、はがね。タイプも優秀で、技範囲も中々に広い。エンペルトで奴を追い詰める。

 

「ハイドロポンプ!」

 

 エンペルトは両羽の先端に水を集中させる。高圧力で発射したそれを、リオレイアの頭部へと命中させた。

 緑の甲殻を削り取り、大ダメージを与えることに成功した。

 

 再び発射されるハイドロポンプ。今度はリオレイアの翼膜を貫き、またもや大ダメージを与えた。

 

 リオレイアは口から炎を溢れさせながら、三連続で火球を吐き出した。

 岩に、岩に、崖にぶつかった火球は、惜しくも全てエンペルトには当たらない。

 

 回避を終えたエンペルトは羽をクロスさせ、そこに鋼のエネルギーを集中させる。

 

「ラスターカノン!」

 

 球体状になったエネルギーを、タックルによって放ち、リオレイアを攻撃する。

 頭部の鱗はボロボロになり、血が滴っている。

 何だか心苦しくなってきた。しかし、今更引き下がることなどできない。

 

「エンペルト、トドメのラスターカノン!」

 

 鋼の球体がリオレイアを穿つ。

 

 咄嗟に尻尾で防御したのが仇となり、尻尾の先端が弾け飛んで地面に落ちる。

 

 リオレイアは弱々しい声を上げながら、ボロボロの翼で飛び上がり、何処かへ去っていった。

 

「……まぁ、しばらく悪さはしないだろう」

「おーいショウ!」

 

 テルが追ってきた。逃げていくリオレイアを見て、目を輝かせこちらの肩を掴んでくる。

 

「ショウ! お前はやっぱりすごいなぁ!」

「や、やめてくださいよ先輩」

 

 彼の手を振り払い、静かにそういった。

 

「そう……か。悪い」

 

 本気では無かったのだが、テルは落ち込み、肩から手を離した。

 

 謝ろうかと思い口を開いた時、別の声がそれを遮った。

 

「君たち、少し伝えたいことがあって」

 

 シンジュ団のキャプテン、キクイだった。ここのキング、バサギリをこよなく愛する少年だ。

 

「キクイさん……どうしたんですか」

「聞いてくれよ、バサギリが傷だらけで帰ってくるから様子を見に行ったら……巨大なポケモンが雷を起こしていたんだよ」

「えぇっ?!」

 

 同時に驚いた二人は、キクイにモンスターの事をきめ細かく説明した。

 キクイは初めは納得いかない顔だったが、ショウ顔を見てすぐに納得したようだ。

 

「モンスター……では僕が見たのもそれだったのか」

「隊長や博士に知らせよう」

「そうだね。リオレイアの事もあるし」

 

 ショウはそう言って首の襟巻きを巻き直した。

 

 モンスター。やはり自分にとっては、耳の中で何度も響き渡ってくる、重みのある言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 隊長室に集まり、シマボシ隊長への報告を終えたショウ。

 隊長や博士は口を揃えて、「キングを退けるモンスターなんて危険だ」と言っていた。

 要するに、退治してこいと言われたのだ。

 

 簡単に言うが、こちらだって命懸けなのだ。ましてやポケモンではなく、モンスターの相手など。

 

 布団に寝転がり、そんな事を考えていた。

 

 隣で眠る用意を整えているジュナイパー。彼に縋るよう、胸元に顔を埋めた。

 彼は驚いたのか、顔を赤くして首をしきりに振っている。

 

「ジュナイパー……君たちだけだよね。私のこと、受け入れてくれるの」

 

 強制的に膝枕をさせる。ふかふかの羽が、今日の疲れを一瞬のうちに包み込んで、ゆっくり溶かしてくれる。

 

 彼女はいつの間にか、彼の膝の上で眠りに落ちていた。

 呆れたジュナイパーは、起こさないようゆっくり布団の上へ彼女を戻し、羽の手入れを再開した。

 

 しかし、何を思ったのか急に外へ飛び出し、空を見上げた。

 

 

 瞳に映るは、小さな雪の結晶。

 

 

 ひらひらと舞い落ちて、溶けて地面に吸い込まれていった。

 

 

 

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