「えぇ? そんなポケモンがですか……?」
コトブキムラ帰還後、隊長室にラベン博士とシマボシ隊長、そしてテルを集め、さっき起こった事をありのままに話した。
「ショウの何倍も大きく、桃色の鱗と紫の体毛、そして怒り狂うと鼻を鶏冠、背中の皮を翼のように展開するポケモン……確かに聞いたことがない」
シマボシはショウから聞いた情報をまとめながら、喉を唸らせた。
かれこれ、ギンガ団がポケモンの調査を始めてから数十年経つと聞く。キングやクイーンなど、比較的巨大な身体を持ち強大な力を有するポケモンはいたけれど、今回ばかりは例外のようだ。
「なぁショウ。そいつ、捕まえられなかったのか?」
「……とてもボールで捕まえられるような、そんなポケモンには見えなかった」
あんな巨体がボールに納まるのなら、なんだって捕まえられる。
それに、奴はポケモンとは違う点が一つだけあった。
それは、瀕死になっても身体が小さくならなかった事だ。
死体は元の大きさのまま、そのまま放置された。ポケモンは皆、瀕死になれば身体を縮めて身を護る性質を持つが、奴は違った。
「……ポケモンと違う生き物……では、今後奴のようなポケモンを“モンスター”と呼称することにしよう」
「モンスター……」
その単語は、なんとも響きが重々しかった。
すると、突然、懐に忍ばせていたアルセウスフォンが震え始める。
取り出して画面を見ると、そこに写されたのは先程のモンスターの姿だった。
その下にはご丁寧に、【蛮顎竜 アンジャナフ】と記されていた。
「アンジャナフ?」
「おぉ、ショウのそれは何でも分かるんだな!」
「今後、モンスターと出逢えば、それで何かが分かるかもしれないな」
アルセウスフォンは、本当に便利だ。――便利過ぎて不気味なくらいだった。
「ショウ、テル。再び黒曜の原野に赴き、異常が無いかを調査せよ」
ショウとテルは横に並び、敬礼をした。
「了解!」
◇
「では気をつけてくださいね」
高台ベース。ラベンはいつものように、キャンプでお留守番だ。
「久しぶりだな、お前と二人で調査なんて」
「そうですね、先輩」
はっきり言って、テルは少し頼りない。ピカチュウは中々進化しないし、手持ちのレベルも少々低めだ。
「……! 先輩! あれ!」
目の前の存在を察知して、思わず足を止める。
背の高い、鋭い鎌が特徴のポケモン。コロトック。体格が大きいため、オヤブン個体だろう。迂闊に近づいていれば、危なかった。
「ショウ、ここは俺がやる!」
「せ、先輩下がって!」
テルが自信満々に前に出たため、ショウは思わず呼び止めた。
その時――天空から異様な気配を察知し、背中が痺れた。
本能的にテルを抱き締め、左斜め前へ大きく回避した。
何か巨大な存在が通り抜けていき、コロトックを鷲掴みにして飛び上がった。
「な?!」
ムクホークにも劣らない狩りの能力。
空を飛ぶその姿をよく見てみれば、全身が緑の甲殻で覆われた二対の巨大な翼を持つモンスターがそこにはいた。
アルセウスフォンが反応し、画面を見てみれば、そこに記されていた名は。【雌火竜 リオレイア】。
「リオレイア……尾に毒がある……」
ショウはリオレイアに目をやる。
オヤブンコロトックを、いとも容易く食い殺している。
カミナギの笛を吹いて、ウォーグルを呼ぶ。
いつまで経っても乗るのが怖いサドルに搭乗し、リオレイアを追いかけた。
「お、おい! ショウ!」
テルの声は、彼女には聞こえなかった。
ウォーグルは速い。しかし、リオレイアはそれに勝る飛行能力を有していた。
「速い……何とかして追いつかないと」
ショウは、自分でも、なぜモンスターに固執しているのかは分からなかった。
けれど、なぜだか追いかけてしまったのだ。
「ウォーグル、攻撃して、奴を!」
がたん、と大きくサドルが揺れる。
ウォーグルが立ち止まり、頭部からサイコキネシスを放つ。
異様なエネルギーの波動は、リオレイアに命中。体勢を崩し、地上へとどんどん降りていった。
「ありがとう、ウォーグル!」
ショウも地上に降り立ち、リオレイアと睨み合う。
やはり、ポケモンには無い異質な気迫と存在感が、モンスターにはある。
「行くよ、リーフィア!」
モンスターボールを投げ、リーフィアを繰り出す。彼女は華蓮な動きで敵を翻弄しつつ、頭から靡かせる草のような帯で敵を斬りつけるパワーを持っている。様子見には最適だ。
「リーフィア、リーフブレード!」
彼女が空中で翻り、硬質化した帯でリオレイアの頭部を斬りつける。
奴の反撃を華麗に受け流し、追撃でリーフブレードを叩き込んだ。
リオレイアは飛び上がり、火球を放った。大地を焼き払い、リーフィアも巻き込まれそうになる。
(ほのおか……く、相性が悪い)
でも、まだ相手を知れていない。リーフィアには、まだ頑張ってもらわなければならなかった。
「リーフブレード!!」
もう一度、リーフィアに攻撃を命じるも、異常に気づいた。
ほんの、僅かな異常。リオレイアが翼を広げ、その場で静止していたのだ。
「ッ……リオレイア! 避けて!」
そういった時には、遅かった。
リオレイアは空中で宙返りをし、鋭い棘のついた尻尾を力の限り振るった。
尾の棘はリーフィアに突き刺さり、彼女は地面に弱々しく転がった。
「尾に毒……」
その言葉を思い出し、彼女を急いでボールに戻した。
「頼むよ、トリトドン!」
繰り出したのはトリトドン。しかもオヤブン個体である。
「行こう、だいちのちから!」
トリトドンに命じると、彼は小さな鳴き声を天空に響かせる。
すると、リオレイアの足元がぐつぐつと煮え滾り、火口のようにエネルギーが噴出し、奴を攻撃する。効いている様子だった。
リオレイアは地面に降り立ち、口に炎を溜め込む。
そして、こちらに向けて三連続に渡り火球を放ってきた。
トリトドンの特防を持ってしても、あと数回受けるのが限界だろう。
「くっ……トリトドン、もう一度だいちのちから!」
だいちのちからで、再び攻撃させるも、今度は外してしまった。
反撃が来る。二、三歩後ろに下がり、飛び上がって宙返りし、尻尾を振るう。
トリトドンは諸に喰らい、毒を貰ってしまった。
(もう限界か……)
彼をボールに戻し、次なるポケモンを繰り出す。
「頑張ってね、エンペルト!」
ペンギンそっくりのポケモン、エンペルトを繰り出す。彼はみず、はがね。タイプも優秀で、技範囲も中々に広い。エンペルトで奴を追い詰める。
「ハイドロポンプ!」
エンペルトは両羽の先端に水を集中させる。高圧力で発射したそれを、リオレイアの頭部へと命中させた。
緑の甲殻を削り取り、大ダメージを与えることに成功した。
再び発射されるハイドロポンプ。今度はリオレイアの翼膜を貫き、またもや大ダメージを与えた。
リオレイアは口から炎を溢れさせながら、三連続で火球を吐き出した。
岩に、岩に、崖にぶつかった火球は、惜しくも全てエンペルトには当たらない。
回避を終えたエンペルトは羽をクロスさせ、そこに鋼のエネルギーを集中させる。
「ラスターカノン!」
球体状になったエネルギーを、タックルによって放ち、リオレイアを攻撃する。
頭部の鱗はボロボロになり、血が滴っている。
何だか心苦しくなってきた。しかし、今更引き下がることなどできない。
「エンペルト、トドメのラスターカノン!」
鋼の球体がリオレイアを穿つ。
咄嗟に尻尾で防御したのが仇となり、尻尾の先端が弾け飛んで地面に落ちる。
リオレイアは弱々しい声を上げながら、ボロボロの翼で飛び上がり、何処かへ去っていった。
「……まぁ、しばらく悪さはしないだろう」
「おーいショウ!」
テルが追ってきた。逃げていくリオレイアを見て、目を輝かせこちらの肩を掴んでくる。
「ショウ! お前はやっぱりすごいなぁ!」
「や、やめてくださいよ先輩」
彼の手を振り払い、静かにそういった。
「そう……か。悪い」
本気では無かったのだが、テルは落ち込み、肩から手を離した。
謝ろうかと思い口を開いた時、別の声がそれを遮った。
「君たち、少し伝えたいことがあって」
シンジュ団のキャプテン、キクイだった。ここのキング、バサギリをこよなく愛する少年だ。
「キクイさん……どうしたんですか」
「聞いてくれよ、バサギリが傷だらけで帰ってくるから様子を見に行ったら……巨大なポケモンが雷を起こしていたんだよ」
「えぇっ?!」
同時に驚いた二人は、キクイにモンスターの事をきめ細かく説明した。
キクイは初めは納得いかない顔だったが、ショウ顔を見てすぐに納得したようだ。
「モンスター……では僕が見たのもそれだったのか」
「隊長や博士に知らせよう」
「そうだね。リオレイアの事もあるし」
ショウはそう言って首の襟巻きを巻き直した。
モンスター。やはり自分にとっては、耳の中で何度も響き渡ってくる、重みのある言葉だった。
◇
隊長室に集まり、シマボシ隊長への報告を終えたショウ。
隊長や博士は口を揃えて、「キングを退けるモンスターなんて危険だ」と言っていた。
要するに、退治してこいと言われたのだ。
簡単に言うが、こちらだって命懸けなのだ。ましてやポケモンではなく、モンスターの相手など。
布団に寝転がり、そんな事を考えていた。
隣で眠る用意を整えているジュナイパー。彼に縋るよう、胸元に顔を埋めた。
彼は驚いたのか、顔を赤くして首をしきりに振っている。
「ジュナイパー……君たちだけだよね。私のこと、受け入れてくれるの」
強制的に膝枕をさせる。ふかふかの羽が、今日の疲れを一瞬のうちに包み込んで、ゆっくり溶かしてくれる。
彼女はいつの間にか、彼の膝の上で眠りに落ちていた。
呆れたジュナイパーは、起こさないようゆっくり布団の上へ彼女を戻し、羽の手入れを再開した。
しかし、何を思ったのか急に外へ飛び出し、空を見上げた。
瞳に映るは、小さな雪の結晶。
ひらひらと舞い落ちて、溶けて地面に吸い込まれていった。