Saga of Creatures〜Battle Galaxy~ 作:hinoki08
そして、Aブロック。ここの戦いは……混迷を極めていた。
と言うのも、キューティー・ハートを生け捕りに、と言うルールに隠された意味が、選手たちの思惑と全く意味が違うものであったからだ……。詳しく言えば……。
「こっ……こいつらっ! 大人しくしろ!」
「ギャー!! イタイイタイ痛い!!」
『あーらら、選手の皆さん・キューティー・ハートちゃんに逆に襲われちゃってまーす!』
陽気に響く、コスモ・ポリタンの声。そうなのだ。愛らしいサイバー・ウイルス、キューティー・ハート……なんと襲われると、豹変した。
急にその小さな身体から、胸部の心臓を軸に巨大な鎌状の武器が出現し。自分を捕まえようとした戦士たちをなりふり構わず襲ったのだ。
『なんだかきれいな生き物が、ちょっと目を離したすきに凶暴な生命体に早変わり……なんてのは深海じゃよくあることさ、と、サイバーロードの学者クウリャン博士の言葉にもあります!』
そう、選手たちの見立てが甘かった。キューティー・ハート……その見た目に反して秘められた実力は、戦国武闘会の戦士たちをも圧倒できる恐ろしさ! それを、倒しつつ生け捕りにせねばならないというのだ!
『可愛いからって油断は禁物だぜ、選手諸君!』ショーは司会者席から、サンプルのキューティー・ハートに餌をあげつつ告げる。
『ちなみにコスモ・ポリタンちゃんのペットも、そうかな?』
『えーっ失礼ですう! 《フェアリー・キャンドル》ちゃんはあんなに怖くなりませんよぉ! 型としては旧式ですけど、とっても優秀なボディガードです!』
『わりいわりい!』
コスモ・ポリタンの側に控えているのは、フェアリー・キャンドル。サイバー・ウイルスとして旧世界から続くほどの古い種であるが……今現在も改良を重ね愛玩される、優秀な護衛種だ。
それはさておき。てんやわんやになった海中闘技場で、一人のナイトが落ち着き払って言う。
「……どうやら、攻撃をする必要もないな」
そして彼は、魔銃を構え……何と自分に銃口を合わせた。そして……。
「……《魔弾オープン・ブレイン》」
発砲音が響く。
『んんっ!? こ、これはどういうことだ!? 《氷牙レオポル・ディーネ公》選手、自分に向かって魔弾をうったぞーっ!?』
そして、ショーの実況が響いた次の瞬間。ふわり、と何かが海中に立ち込め……。
『おおーっと! どうしたことかー!? レオポル・ディーネ公の周囲にキューティー・ハートが押しかけてきたぞ―!?』
そうなのだ。レオポル・ディーネはたちまち、目をハートにしたキューティー・ハート達に囲まれる。彼はそのままサンゴ礁を泳ぎ回り、なおも大量のキューティー・ハートを引き寄せていく。
『あーっ、分かりました! 彼の周囲に、ある物質が漂ってます! これは……サイバー・ウイルスが求愛の時に出す、フェロモンですっ!』と、解析機器を覗き込んだコスモ・ポリタンが言う。
魔弾オープン・ブレイン。それは通常の魔弾とは一味違い、使用者自身を強化する呪文。そしてレオポル・ディーネは、キューティー・ハートたちと同じくサイバー・ウイルスだ。
彼はオープン・ブレインの力を応用し、求愛フェロモンの活性化へと使ったのだ!
『要するにあの子たち、みんな雌で……みんな、レオポル・ディーネ選手にメロメロですよっ!』
『なにー!? こ、こんな勝ち抜き方も……!』武闘会スタッフ経験の長いショーも、思わず素で舌を巻いた。
「ご婦人を巻き込んで無粋な戦いをするのは、騎士の流儀にはそぐわぬ。氷牙の者共、私に続け!」
その声と共に、レオポル・ディーネについて泳ぎだす氷牙の騎士たち。これだけ大量のキューティー・ハートがいれば、氷牙の選手は全員通過可能だ。雌のキューティー・ハートも先ほどまでの凶暴さはどこへやら、嫌がる様子一つせず大人しくついてきている。
『しかし……フェロモンたってすげえ寄ってこられ方だぜ! オレもあやかりたいくらいだ……!』
『レオポル・ディーネ選手、サイバー・ウイルス的にはすっごいイイ男なんでしょうねー……なんか、私までときめいてきちゃいそうですっ!』
『無駄な戦いを好まぬクレバーぶり! これぞまさに、氷牙の騎士の戦いと言えよう! このオレも思わずびっくりしたが、こいつは超ファインプレーだぜ、氷牙レオポル・ディーネ公選手!』
『あっ、やーん! あたしのキャンドルちゃんまでー!』
「くっ、ふざけやがって!」他の選手たちも、レオポル・ディーネ公の前に立ちはだかる。
「貴様らだけの勝ち抜けは許さん! オレ達に渡せ!」
だが、レオポル・ディーネは……「無粋な」と冷静にガチャリ、と魔銃を抜く。
「ご婦人方の前だ、礼儀をわきまえんか!」
そしてそれと同時に……オープン・ブレインによって漂った彼のフェロモンが、とたんに青く輝く魔弾として再度凝固し、いくつもいくつも彼の魔銃に吸い込まれていく。そして彼は、目の前に標準を合わせる。
魔弾が自動的に充填されたのだ。オープン・ブレインの力は、まだ生きている!
「撃つ度に次の弾が充填される、これぞ真の魔銃よ! ……《魔弾ストリーム・サークル!》」
そして彼がそう唱えた瞬間……大渦が沸き起こり、たちまち選手たちが押し流された。
彼らを尻目に、レオポル・ディーネはくるりと後ろを振り返り、言った。
「失敬。では、参りましょうか」
……なぜだか、声帯のないキューティー・ハート達の方から黄色い声が聞こえた気がした。
『……すげぇーぜ! 氷牙レオポル・ディーネ公選手! ご婦人に優しくて、クレバーで、名門ナイト、その上戦闘の腕も十分! そりゃあモテモテになるわけだ!』
どちらにせよ、ライト級に参加していた氷牙の騎士たちはぞろぞろと大挙してやってくる。明らかに人数分以上のキューティー・ハートと一緒に。
『はいっ! お疲れ様っ! 氷牙レオポル・ディーネ公選手はじめ、氷牙のナイトたち全員、通過……!』
の、前に、ショーたちの足もとにひょこりとやってくる影があった。
「あのお、すみません、我々に関してもご査収願えませぬか?」
『えっ!?』
慌てて下を見ると、そこにはビワのワイルド・ベジーズの二人組……《風来の股旅ビワノシン》がいた。そして、その熟れた方に……がっぷり噛みついてる二匹のキューティー・ハート。だが怒らせたようではなく……むしろ何故だか、にこにこ笑顔だ。
「早くっ! 取ってくださいっ! でございまする! 痛いのでございまするっ!」
『あ、はい、失礼しました! えー、ただいま、一着の選手が出ました! 氷牙レオポル・ディーネ公選手の分に関してはまだ受理しておりませんので……一着、並びに二着はワイルド・ベジーズのサムライ、ご兄弟で参加の、風来の股旅ビワノシン選手-っ!!』
そのコスモ・ポリタンのアナウンスに「なにっ!?」となる、レオポル・ディーネ。二匹のキューティー・ハートはショーたちが引っ張ってようやく、ビワノシンの熟れた方から離れた。
「おお、痛い……いったいなんでございまするか、これは……」
「うーん……」と、コスモ・ポリタン。
「キューティー・ハートって甘いものが大好きなんですけども……」
「気にいられ……たのかな。もしかして」と、ショー。……二人は顔を見合わせ、思わずごくりと生唾を飲み込んだ。
「食べないでくださいませっ!」ビワノシンは慌てて、頭を抱えて震えあがった。
「我らワイルド・ベジーズ、食べられることが喜びとはいえ、武闘会に未練を残したまま死にたくはないでございまするっ!」
「ジョークだよ」
苦笑いする実況者二人……に抑えられた二匹のキューティー・ハートは、まだビワノシンめがけてバタバタしていた。……傍ら、氷牙一同はポカンとしていた。
そして最後……Dブロック。トドロキとベンケイを乗せたワッショイエクスプレスの様子は……。
『ハイハーイ! こちらワッショイエクスプレス! ただいま自然文明、フィオナの森を通過中、余裕のある選手は左手をご覧ください! 自然文明のシンボル、世界樹が見えます! 明日は世界樹を望む特設会場にて、ヘビー級予選第二試合を予定しております。無事コロッセオ・シティについた暁には、ぜひともシティ名物超巨大オーロラビジョンにてご覧ください! それでは、各部屋の中継に移らせていただきまーすっ!』
各車両の中に取り付けられた小型モニターに、一斉に別の部屋の光景が映る。……もっとも、ゆっくり見ていられる選手も少ないだろうが。
『第一車両、一般客車! ここは……凄いことになってます! 《予言者キビダンボーラ―》選手、一騎当千の戦いぶりでーす!』
なんと第一車両では、金色の小型の球がガツンガツンと壁に、床にあたっては縦横無尽に跳ね回り、選手たちに直撃を続けていた。
「ハッハッハ! こんな小部屋の、しかも揺れの激しい場所など、それがしの戦い方が120パーセント生きるでごじゃる!」
予言者キビダンボーラー、光文明の支配階級種族《ライトブリンガー》でありながらサムライに属する変わり者だが……彼の戦闘スタイルは、腰に付けた3つのキビボール、と言う武器を放り投げ、相手に打撃を与える事。彼の言葉通り、激しく揺れる狭い車両内はキビボールがあちらこちらへと飛び回って打撃力も高まり、まさに彼に勝てと言わんばかりのステージ。
『第十七車両、ここは貨物室ですけれど……ここにも、注目のすごい選手が二人もいますよ―!』
大勢の選手に向かい合われているのは二人の戦士……片方はマシン・イーター……火文明において古来から職人種族として知られてきた小人種族だ。その周囲には大量の銃。彼ら二人だけで持ち込めたはずがないほどの……
「わりいなぁ、スタッフさん! 貨物の資材、借りさせてもらうぜ! 後でばらして返すからな!」
『どうぞどうぞー! 廃棄予定のガラクタですから返さなくても大丈夫ですよ!』
そう、ガラクタ。ガラクタ倉庫の中から……そのマシン・イーターは銃を大量に急ごしらえしたのだ。そしてもう一人の方、その銃たちを大量に展開し現在、激しい銃撃戦を繰り広げているのは……。
『マシン・イーターは器用な種族と言えども、ここまでの腕はなかなかいません……! えー、今現在注目を集める謎の魔弾使い集団……《爆獣騎士団》の一人、《爆獣工師ピーカブ・フィリッパ》選手ですっ! そして。その魔銃を扱うは……同じく《爆獣》の……!』
「《魔弾パンダフル・ライフ》! チュチュチュー! 出でよ、白と黒の魔獣!」
もう片方の選手、ネズミのドリームメイトがそう唱え魔弾を撃ちだすと同時に、その魔弾の銃痕から次々に魔法陣が展開。そして……白いマナと黒いマナで構成されたエネルギー体の魔獣たちが出現し、他の選手たちに襲い掛かる!
『《爆獣マチュー・スチュアート》選手! こ、こちらもすごい! 確かに貨物庫に積んであるのは光文明の闇文明から出た廃棄物ですが……残りかす同然のガラクタからこれだけのマナを呼び出し操るなど、並大抵の実力ではありません!! 何者なのでしょう、爆獣とはっ!』
『お次は第七車両、寝台車でーす! こ……ここは!?』
寝台車のベッドの上……一人の、小さな、青い姿が寝そべり……バトルロイヤルなど知ったことかとばかりに悠然と窓の外を見ている。
だが、そんなことができているというのは……即ち、そのようなことをしても、彼は即死しないと言うこと。同じ車両のメンバーは先ほどから何故か……彼に手出しができないのだ。
「おい! てめえ! 戦う気あるのか!」選手の一人が息巻くが、彼は「煩いジャニねぇ……」と、面倒くさそうに言った。
「フィオナの森は初めてなんジャニ。テンサイは知識欲を三度の飯より追い求める者ジャニね。お前らみたいな、どうせ勝つってわかってる相手との戦いより、車窓を眺めてるほうが有意義ジャニ。まあ、わからんか。お前らテンサイじゃないジャニからな」
その言葉にカチンときた相手が襲いかかってこようとした。その瞬間……。
ズオッ、と空気がよどむ。そして体中から、力が抜ける。生命力が。立っていられなくなって、彼は床に突っ伏した。
「う、うええ……」
「おい、お前……大丈夫か?」彼の仲間が声をかけた。
「寝といたほうがいいジャニよ。どうせ寝台車だし。駅に付いたらオレが始末してやるジャニ」
彼の方を見向きもせず……サイバーロード、《斬隠テンサイ・ジャニット》は吐き捨てた。
『えー、そして第十車両、こちらは、食堂車ですが……』
「トドロキ、てめえ……いくつ食うんだ?」
「んあ? おむすびならいくつでも食えるべよ! ベンケイのおむすび、うんまいしな!」
食堂車の巨大炊飯器からおむすびを次から次へ作りつつ、トドロキに食べさせているベンケイの姿があった。
『おーい! 牛若剣士トドロキ選手!第二予選はフードファイトじゃないですよ―!!』