Saga of Creatures〜Battle Galaxy~ 作:hinoki08
「おい、てめー言われてんぞ」
「うんにゃ、実況の兄ちゃん! 食堂車でもの食って何が悪かんべ!」
「さてはてめぇ、最初っから飯目当てでこの車両選んだな? ったく、よく鼻の利くガキだよ……」
「でもよー、ベンケイ!」
ワッショイエクスプレスが発射して、現在約1時間。
「そろそろ腹ごしらえだってしたっていいべ!? この車両のやつら、オラとベンケイでみんなやっちまったんだからっ!」
トドロキのその言葉通り、同じ車両に乗り合わせた超獣は、トドロキとベンケイのコンビネーションを前にバッタバタと倒されていた。
「つっても、油断は禁物だぜぇ?」
また新たにおむすびを作りながら、ベンケイは言う。
「オレたちもそうだが……そろそろ、各車両で勝ち上がった奴が、他の車両にも移動し続けるだろ」
「だからこそ、今は腹ごしらえだべよっ!」
「だからそれは、テメーが食いたいだけだろうが」
「いえ、合理的な判断だと思いますよ」
突如、そこに響く声がある。トドロキとベンケイが振り返れば、そこには一人の《サイバーロード》と見られる少女が近未来的なデザインを思わせるカプセルに体を預けていた。
サイバーロード。それは水文明の支配階層的種族である。彼らは肉体の成熟を犠牲にし、永遠に子どものような姿と情緒のままでいる代わりに、膨大な知力を持っておりそれを武器にする。
また肉体の発達を捨てているが故、彼らの身体は非常に虚弱だ。そのため彼らは陸上で活動する際には、特殊なカプセルに乗り込む必要がある。
「こんにちは、私は《ピロロン》と申します」
彼女はカプセルを動かし、トドロキたちに向かって歩みを進めた。
「えー! 本物のサイバーロードだべかっ! すげーべ! そのカプセル! カッコいいべなーッ!」
トドロキはと言えば、ピロロンの姿に目をキラキラさせている。彼女は面白そうにクスリと笑って「ありがとうございます」と言った。
「おいトドロキ、油断すんじゃねえ、この車両に来たってことは……彼女も、戦いに来たってことだぞ」
「あっ、そうか! そうだべな!」
そうベンケイに言われて、トドロキも臨戦体制に入りなおす。
「オラはサムライの《牛若剣士トドロキ》! ピロロン、さあ、勝負だべよっ!」
しかしだ。
さあ、いざとばかりにジュウベイの刀身を抜き、さっそくピロロンにそのカプセルごと切りかかろうとしたとき……。
「《スパイラル・ゲート》」
ピロロンがカプセル内の端末を操作し、一瞬のうちにその斬撃の衝撃波はその場に突如開いたワープシステムの中に的確に吸い込まれていく。ジュウベイの攻撃はたちまち、無に帰した。
なるほど、虚弱なサイバーロードの身で予選第一回戦を勝ち進み、1時間経過時点での生き残りなだけのことはあるようだ。
「なかなか、やるべなっ!」と、トドロキが体勢を立て直した、その時だった。
「そちらこそ……トドロキさん、やはりあなたは『データ通り』ですね」
彼女のその言葉にへっ? とトドロキが首をかしげているさなか、彼女は冷蔵庫を漁って「あっ! やっぱり、ありますね。サイバーロード用の食事も」と、哺乳瓶のようなデザインに入った流動食を取り出して、口をつけた。そして……彼女は唐突に告げた。
「落ち着いてください、トドロキさん。私、あなたと勝負をしに来たのではありませんから」
「勝負しに来たわけじゃないって……どういうことだべ?」
「3時間の長丁場のバトルロイヤル……何も私、戦い続けることはないと判断しました。あなた方がしていたように休憩を取ったり体力を確保するのは、合理的な判断だと思います」
「だってよ、ベンケイ! 頭いいっていうサイバーロードがそう言ってんべ!」
「じゃ、あんた……ここに何しに来た? 飯食いにか?」
「まあ、それもありますけれど……」
彼女は哺乳瓶のおしゃぶりから口を外し、改めてトドロキたちに向かい合う。
「牛若剣士トドロキさん。私と、共闘してくださいませんか?」
「共闘?」
トドロキがグリンと首を傾げた。
「ええ、先ほども言った通り、これは3時間にわたる長丁場……しかも、通過人数に制限は無し。どんな手を使ってでも敵を倒すのもありなら……一部の選手とは戦わないのも、手段の一つという事です。そして私、トドロキさんこそその共闘相手に相応しいと判断しました」
「生憎だが、トドロキの相方はオレで間に合ってんだよ」
ベンケイがパタパタと飛んできて、その間に割って入る。
「サイバーロードはずるがしこいっていうからな。今一つ信用がならねえ」
「まあ、そんな……心配されずとも」
彼女はそう言って、なんと端末一つをもって、カプセルから出てきた。
「私はこの通りサイバーロード。いざ騙されたとあらばこのカプセル無くしてはあなた方2人によってすぐにでもやられてしまう立場、私の身の虚弱さが担保です。……『風来の雲ベンケイ』さん」
ピロロンの言葉を聞いて、ベンケイがはっとする。
「……いや待て、あんた、なんでオレの名前を知っている?」
トドロキは名乗っていたものの、自分は名乗りを上げたことはなかったはずだ。ワッショイエクスプレスの実況に、名前を呼ばれた覚えもない。
「そうですね……共闘を頼むならば、こちらの持ち駒を見せるのは礼儀でしょう。良いでしょう、お見せいたします」
彼女はそう言って、すっと頭から腕のように伸びた触手を、自分の胸に合わせた。
すると、どうだろう。彼女の体の中から青色のマナが沸き上がり……。
「シールド……『リンク』」
彼女の周囲に、先ほどのカプセルが彼女を護っていたかのようにマナの薄い膜が展開された。
そして刹那のうちに、その膜の上に無数に映し出される、トドロキとベンケイには訳も分からない数式の羅列……「解析完了」としばらくして後彼女は言い、そして手にした端末の画面を二人に見せた。
「トドロキさん、ベンケイさん。これは……現在のワッショイエクスプレスの全員の選手、全状況のデータです」
……文字の羅列はトドロキとベンケイにはわけのわからないものであったが、それでもそこに映されている図面はワッショイエクスプレスの図解を現しているということくらいは理解できる。
「あ、あんた、何だ、この力……!?」
「《シールド・フォース》ですよ。ご存じありません?」
シールド・フォース。
その言葉を聞いて、ベンケイははっとする。
それは一部の超獣のみが使える超能力だ。世界が平和になり、五文明が互いに手を取り合い様々な研究を発展させてきたこの世にも、まだまだ解析不可能な領域というものがある。
そのうちの一つを、彼らは仮に『楯』と名付けていた。
仮定するとすれば、おそらくそれは超獣の「命」を構成する一部。そして何人かの種族を問わぬ超獣は、その「命」を自分の意思で顕現させ、それと引き換えに多大な超能力を得ることができるのである。
それこそが、《シールド・フォース》。
「……光文明最強の精霊って言われてる《不滅の精霊パーフェクト・ギャラクシー》も持ってるっていう、あの力か……?」
「はい。私、シールド・フォースの能力者です。そして私の能力は……データの解析。トドロキさん。私、この列車内の選手のデータをすべて見て、貴方こそが共闘相手に相応しいと判断しました。どうですか、私の申し出、受けてくださいますか?」
「んー……確かに、すごいけど……」
「ああ、すごい分、信用しづらいとこがあるぜ……なんで、こいつなんだ?」
しかし、ベンケイがそう聞こうとした時のことであった。
「出会え。ここに敵はいないか!」
急にピロロンが来たのとは逆方向のドアが壊れ、一体の超獣が現れた。見たところイニシエート……勾玉のような形のクロスギアを周りに浮遊させている。サムライだ。
『ハイハーイ! そろそろ、全車両の覇者たちが移り始めたころですねえ。第八車両を制した《武力の使徒ウコン》選手、第十車両に到達いたしました! 対するのは牛若剣士トドロキ選手と風来の雲ベンケイ選手、それに第十三車両からやってきたピロロン選手です!』
「おっ! また、敵だべか!?」
反応したトドロキに「彼は光文明のサムライ、武力の使徒ウコンです」とピロロンは言った。
「ちょうどいいです、トドロキさん、私の指示通りに戦って頂けませんか? 私の力のほど、お見せできると思います」
「トドロキ、信用すんのか?」
ベンケイが急いで釘を刺したが、ウコン、と言われたそのイニシエートは待つ様子を見せない。「何をゴチャゴチャ言っている。行かぬのならば、こちらから行くぞ! ジェネレート!」と、複数の勾玉を一気に展開しトドロキに向かって攻撃させた。
しかし身軽さと反射神経ならばトドロキの十八番だ。トドロキは一瞬のうちにそれらをよけ、「ジュウベイ、ジェネレート!」と、自分もジュウベイの刃を展開。ウコンに切りかかった。
しかしだ。
「……通らぬ!」
ウコンが両の腕を閉じ防御態勢に入ると同時に、ジュウベイの攻撃は防がれる。それだけではない。彼は自分の間合いに入ったトドロキに対して、今度はその両腕から光線状の刀を展開し、切りかかってきた。
「うわわっ!」
トドロキも慌てて反撃しようとするが、そうすると瞬く間にウコンはまた防御態勢へと変形。防御態勢と攻撃態勢の変形の仕方が絶妙で、まったく攻撃が通らない。
それだけではない。宙に乱舞し光線を放ってくる勾玉型のクロスギアの攻撃もよけ続けなくてはならない。
「ちくしょーだべ……こいつ、強いべな」
「トドロキさん」
その時、ピロロンが言った。
「ウコン選手への攻撃をやめてください。周囲のクロスギア全てを打ち落としてください。私のデータによれば、彼の『弱点』はそこです」
「へっ!?」
「彼の変形機構は、彼自身のクロスギアと密接にリンクした構造になっています」ピロロンはつらつらと語る。
「クロスギアがすべて破壊されれば、彼は変形が不可能になります。まずは彼のクロスギア全てを破壊することで、こちらが優位にたてます」
あまりにも当たり前のようによどみなく語る彼女の姿に、トドロキも驚いたが……その彼女の発言がただのハッタリかどうか解るのに、まったく時間は要さなかった。
「き……貴様、なぜそれを!?」
当のウコンが動揺したからだ。まるで大正解ですと自分で証明したようなもの。
「……わかったべ! 信じてみるべよ! ベンケイ! ベンケイも手伝ってくれだべ!」
「あ、あいよ!」
ベンケイもその足に持った錫杖から、炎を展開した。
「《ベンケイ・バーニング》!」
「言われたとおりに……クロスギアからたたっ切ってやるべ! いくべよ、ジュウベイ!」
トドロキもぴょいと跳ね上がり、右へ左へ逃げ回る複数の勾玉を次々に切り落としていく。「させぬ!」とウコンも光線刀で反撃したが、トドロキはまず今一度、彼からの攻撃からは逃げてみることにした。
そうこうしているうちに、最後の勾玉が弾き落とされる。すると……どうだろう。
ウコンの刀が急に光を失い、そして……彼は自動的にガシャン、と防御形態に戻った。
「お、おのれ……」
苦しそうにそうつぶやいている姿からも、それが彼の本意でないことは明らかであった。
「あとはもう、彼は攻撃できないはずです」ピロロンが言う。
「とどめを刺してください」
プスプスと煙を発するウコンの隣で「ピロロン、すげーべな!」とトドロキは言った。
「ベンケイ、オラ……こいつといることにすんべっ! ほかの車両にもいってみる!」
「そうこなくては!」ピロロンが言った。
「勝手にしやがれ……トドロキ、オレはここを護ってるぞ。どうせまた腹すかせて帰ってくるだろうしな」
「ん! ベンケイ、飯よろしく頼むべー!」
トドロキとピロロンはまず、後部車両に向けて扉を開いた。
「トドロキさん。まずは第十五車両に向かいましょう! 現在、成績ナンバー1の選手がいます! 彼に勝てば、私たちのポイントが大幅アップですよっ!」