Saga of Creatures〜Battle Galaxy~   作:hinoki08

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第一章 第三部 『戦国タッグ・トーナメントfeatライト級』
第一話


「《ドルゲユキムラ》様」

 そこは、不思議な空間であった。

 そこにひしめくのは、ジャイアントとアースイーターが混合したかのような、途方もなく大きな超獣……で、あるはずなのに、不思議に彼らすらもそこまで巨大な存在と思わせない。まるで、異次元のような雰囲気をもつ空間。

 

「仰せの通り……全部隊の戦国武闘会への派遣が完了いたしました」

「そうか。それは……何より」

 そのドルゲユキムラ、と呼ばれた存在は、厳かにうなずく。

 

「ドルゲユキムラ様。しかし、『それ』は本当に……?」

「《光牙忍ソニックマル》もかような未来を見たようだ。間違いはあるまい」

 彼らはその「力」で、どことも知れぬ場所から眺めている。コロッセオ・シティを。

「第百回戦国武闘会……不吉な力が動いておる。必ずや、凶事が起こるであろう」

 その、五色の花火が飛び交う平和の象徴たる都市を眺めて、彼はそう告げた。

「《斬隠》、《光牙》、《土隠》、《不知火》、《威牙》の全部隊に告げよ。……一時たりとも、力を抜くことなかれ。……我らの目的を果たすためなら……手段は問わぬと」

「御意に。ドルゲユキムラ様」

 

 

 

 

 火文明の某所。

「クッソ……」

 一人の若い《アーマード・ドラゴン》がどこまでも続く荒野を眺めながら一人歯噛みしていた。ダメだ。「彼」はここにもいない。

 

「コラー! ここにいたッピか、《裂空》!」

「んだよ、《紫蔵》に《紫郎》……」

 と、そこに飛んでくる二羽のファイアー・バードがあった。

 彼らの名前は《バルルン・紫蔵》に《ボルット・紫郎・バルット》。

 ファイアー・バードは元はと言えば、ドラゴンと共に在る、龍の友たる種族……その中でも彼らは、戦国武闘会の初代チャンピオンにして、いまだレジェンド級の力を誇る戦国武闘会の英雄、《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》に仕えるファイアー・バードたちだった。

 そしてそれは、この若いドラゴン《バルキリー・裂空・ドラゴン》も同じこと。彼は紫電のその強さに惚れこみ、半ば強引に彼のもとに弟子入りした経歴の持ち主であり、以後この紫蔵や紫郎とともに紫電に仕えている身である。

 ではなぜ、そんな彼らがこのような何もない荒野にいるのか。

 

「裂空、とっとと武闘会に戻るッピよ。もう各階級、予選第三回戦も始まるッピ!」

「うるせーな! 本当は、予選第一回戦と二回戦に律儀に出ただけでも、不本意だったよ、俺は!」

「そんなこといってどうするッピ! それでも紫電さんの弟子だッピか!」紫郎が怒ったように言う。「仮にも伝説のチャンピオン、紫電さんの弟子を名乗るなら、その名に恥じないように圧倒的勝利を得て本選入りするべきだッピ!」

「だからっ!」

 そして紫郎のその怒りに負けないほど声を荒げて、裂空は言った。

 

「その紫電さんが行方不明なんだぞ、武闘会どころじゃねえだろうがっ!!」

 

 

 ボルバルザーク・紫電・ドラゴン。

 彼は戦国武闘会の生ける伝説にして、すべてのサムライの頂点に立つといっても過言ではないこの戦国時代最強級の戦士。その二連斬をまともに食らい、敗北を喫さなかった選手はこの第百回武闘会を数えるまでいまだ、一人としておらず。

 そう……その紫電が、なぜかこの空前絶後の大規模開催、第百回武闘会を目前にして、忽然と姿をくらましてしまったのだ。

 

「そんなに焦らなくても」冷静に、紫蔵は言う。

「紫電さんほどの実力の持ち主なら、何があったって心配することはないッピ」

「紫電さんは最初っから予選免除だッピ」と、紫郎も続く。「きっと、僕たちの目の届かないところで、ぎりぎりまで鍛錬するつもりだッピよ! この空前絶後の大規模開催だからこそ!」

「でも、紫電さん、今まで俺たちに黙ってどこか行くなんてことなかったはずじゃねえか……!! そりゃ、紫電さんの身に危害を与えられる奴なんてこの世に存在しねえよ! だからこそ、なんかの理由で……紫電さんが自ら、行方をくらませたってことじゃねえか!」

 万が一……と裂空は言う。

「紫電さんが、戦国武闘会に出ないつもりなら……そんな戦国武闘会、何の価値だってありゃしねえ」

「そ、そんなこと、無いと思うッピが……」

「紫電さんは……紫電さんが輝く戦国武闘会は、俺の全てだ」裂空は鬼気迫る顔で言い放つ。「紫電さんが何を考えているかわかるまで……俺は安心なんて出来ねえよ」

 

「そこまで紫電を大事に思うならなおのこと、君は予選に戻るべきじゃないのか、裂空」

 その時、やいのやいの言い合っている3つの声よりは一段落ち着いた声が響いた。振り返るとそこには、少しばかり年かさのドラゴンが立っていた。

「《熱風》さん」

「探したぞ、裂空」

 彼の名は《バルザーク・熱風・ドラゴン》。紫電の城《紫電城バルザーク》を預かる、彼の仲間の一人だ。

「裂空、君ほどの力の持ち主が戦国武闘会をボイコットなんてしたら、紫電は確実に悲しむぞ。君、紫電を悲しませたいのか」

「……」

「私も自分の予選に向かう。一緒に行こう、裂空」熱風はあくまで穏やかに、裂空をなだめるように言う。

「紫電のことは紫郎と紫蔵に任せるんだ。大丈夫……彼は必ず、武闘会に戻ってくるよ。武闘会こそが、彼の生きる道なのだから」

「……分かりました」

 その言葉に、ようやく裂空も落ち着いたようだった。

「熱風さんの言う通りだッピ」紫蔵が言う。

「今回の武闘会、僕たちはお休みするッピね。だから二人とも、あとのことは僕たちに任せて、二人は自分の予選に集中してほしいッピ」

 

 

 

 

『ウルトラヘビー級Cブロック予選も三試合目! 対峙するのはまずは火文明の巨人種族、《ビッグマッスル》一の怪力自慢、《マグマ・チョップスター》選手──ッ!』

 もうもうと会場を包む異常な熱気は何も選手の闘志と観客の熱い視線、実況を務めるJK野郎チョッキーの若々しい熱さのみからくるものではない。そこに居るのは片や、ギラギラとマグマ色に輝く岩石で体中を構成した巨人種族の選手。「ハッ! フッ! ホッ!」と試合も始まらないうちから、意気揚々とチョップの素振りをしている。

『マグマ・チョップスター選手、今日も自慢の手刀の切れはノリノリだぜ! そして迎え撃つは……水文明一の超巨大アースイーター、《タイタンクラッシュ・クロウラー》選手──ッ!!』

 そしてその彼の前に立ちはだかるのは、これまた見上げるほど巨大な、まるで津波が姿かたちを持ったかのようなアースイーター。しぶきの狭間にぎろりと光る一つ目さえなければ命を持っているかどうかも分からないだろう彼は、目の前に現れた刺激的なまでの「大地」の塊を前に、今にも飲み込んでやりたいと一つ目をぎらつかせ体をとどろかせている。

 輝くマグマと、波打つ津波。超巨大なそれらが向かい合えば、会場は熱気と蒸気でいっぱいだ。

「さあっ、お互いどうやら戦う準備は万端のようだし……さっそく行っちまおうぜ! 第三試合、『決闘』、スタートッ!」

 

 チョッキーの合図とともにタイタンクラッシュ・クロウラーが思い切り体をうねらせてチョップスターを包み込みにかかる。しかしチョップスターの方も少しも慌てずに手刀を振り下ろし、その水の体に恐れることもなく燃え盛る片手を直撃させた。

 暴力的な音と熱気。炎と水のぶつかり合い。

 

『おおっ、これは……! 両者、お互い相性最良にして最悪の相手を前にしながら、なに一つのためらいもねえ猛攻の嵐!! マグマが冷えるのが先か、津波が蒸発するのが先か……お互いの身を削りながら、両選手、互いにその辞書に引くという文字はないかのようだぜ!』

 

 その実況の示す通り。両者お互いの攻撃を受けるどころかお互い相手を攻撃するたびにすら文字通り彼らの身は削れ、その自慢の巨体も縮んでいく。しかし彼らはそれでも、戦いをやめないどころか攻撃の手を緩めることさえしない。

 片やその手刀で相手を焼き尽くすため、片やそのマグマの大地を腹に納めるためならば体、命など何を惜しむことがあろうかと言わんばかりに……まさに、これぞ戦国武闘会!! ……と、チョッキーが絶賛しようとした、その時だった。

 

 不意に、蒸気に満たされた会場を謎の光が照らす。チョップスターのマグマの光でもなければ空に輝く太陽の光でもない。そんなものはもうとっくに「それ」に遮られた。

 疳高い声を発して、彼らの上に『何か』が飛来してくる。両選手も思わず試合を中断した。

 真っ赤に燃える翼を広げた、とてつもなく巨大な鳥型種族。業火で構成されたその体には2つの星のようなコアが輝いている。

 

『アッ……《アレス・ヴァーミンガム》選手!? な、なんと、戦いがあまりに白熱しすぎたか!? 同じくウルトラヘビー級配属、アレス・ヴァーミンガム選手が乱入だァ──! って、乱入だじゃねーよ! アレス選手、あんたの試合、まだ先ですよ、ちょっとー!」

 

『ぴよ? ぴよよよ、ぴよぴよ──!!』

 チョッキーの必死の叫びも全く意に返さず、アレスと呼ばれたその選手は無邪気な小鳥のような声で叫びながら、興奮のままチョップスターに躍りかかり、その体のコアを煌めかせる。……と、その時。

 

「コラー! 何してるッピ! ほかの人たちに迷惑かけないって、ママと約束したッピよ!」

 

 不意にその場に声が響き、その声を聞くとともに途端にアレスは大人しくなり、普通の鳥のようにその場に巨体をうずくまらせた。

 もうもうとした湯気を掻きわけて飛んできたのは一羽のファイアー・バードだった。

「だめッピよ、アレス! ママとの約束守れなかったら、今すぐ武闘会辞めておうちに帰るッピ!」

『ぴ、ぴよよ……』

 しゅんと体の輝きを弱めたアレスに、「ママ」ことそのファイアー・バード……《ライラ・ラッタ》は「分かったらいいッピ。さ、ママと一緒に試合まで待っているッピよ。皆さん、ごめんなさいッピ」と、自分の何万倍あるかもわからないその巨体をひな鳥のようになだめた。

「アレス、お二人の試合がすごすぎるんでウキウキしちゃっただけで、悪気はないんですッピ。あとでワタシからもよーく言い含めときますッピ」

『ぴょえぇ……』

 ぺこりと頭を下げるライラに、チョップスターとタイタンクラッシュの二者もぽかんとしつつも、少なくとも責める気にはならない模様。……第一それ以上に、ウルトラヘビー級に属するほどの巨体の選手を小さなファイアー・バードが従えている状況が異常すぎてそれどころではない。

 そうとも知らず、ライラはアレスを連れながら去っていく。

『ぴよ……』

「……そんな悲しい顔しないでッピ、わかればいいッピ」

『ぴよ? ぴよよ?』

「……えー、嫌いになんてなるわけないッピよ! アレス、こーんなに大きく強く育ってくれて拾ったママも鼻が高いッピ! アレスはファイアー・バードの誇りだッピよ!」

 

『……もしもーし! ママさーん!? その人、絶対ファイアー・バードじゃないと思うんですけどー!!』

 

 

 

「だははっ、面白いべなー、なんだべ、あいつ!」

 画面の中ではチョッキーはあまりのハプニングに依然あたふたとしていて、試合そのものも台無しだ。その様子をコロッセオ・シティの巨大オーロラビジョンを通じて、大勢の超獣たちと一緒にトドロキも見ていた。

 光文明と水文明の科学力を投じて作った装置に、闇文明の魔力を足して世界中のどんな試合でも即座に映し出すことのできるシステム。彼の育った山奥には、当然こんなものはなかった。戦国武闘会の様子を知るものと言えば、古びたラジオが一台だけだったのだから。トドロキはすっかり面白がって、離れた場所だというのにまるで目の前で繰り広げられているかのようなその光景を眺めることに夢中になっている。

「……っと、いけねーべ。ベンケイの試合見にいかんとだったべ!」

 ベンケイが言うには「コロッセオ・シティはでかい都市な分誘惑も多いからな、道に迷うんじゃねーぞ」のとことだったが、トドロキはすっかりその誘惑に陥ってしまっていた。しかし彼とてさすがに、ベンケイの試合を完全に忘れるような真似はしない。

「えーっと、忘れねえようにメモっといたんだったべ……ベンケイの試合は……11時から、『フレイム・コロシアム』だったべなっ!」

 

 コロッセオ・シティには5つのコロシアムがある。

《五元神》……《天神シャイン・バルキリー》、《海神ブルー・ポセイドン》、《黒神ダーク・インドラ》、《炎神フレイム・アゴン》、《地神エメラルド・ファラオ》の名を取ってそれぞれつけられたそれらで繰り広げられる戦いは、まさに武闘会の華だ。

 道行く超獣たち……戦いに赴く選手たちも、この日のために喜び勇んで世界中から観戦へ駆けつけた超獣たちも、やいのやいのとどのコロシアムで行われるどの試合に注目かと話し合っている。

 

「よーしっ! 行くべ、フレイム・コロシアム! えっと、まずは……」

 トドロキはコロッセオ・シティの地図を広げる。しかし「……」と、彼は固まってしまった。

 弱った、どこへ行けばコロシアムにつくんだか、さっぱり分かったものじゃない。……その時。

「あれ? あなた、もしかして……!」

 トドロキに、声をかける影があった。

 

 

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