Saga of Creatures〜Battle Galaxy~   作:hinoki08

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第二話

 トドロキが去った後の巨大オーロラビジョンに映るは、実況チーフ、ミラクル・ショーの姿。

『こちらミラクル・ショー! さて、第百回戦国武闘会予選も第三回戦に突入! 着々と各地で猛者たちが本選を目指して勝ち進んでいく中……ビッグニュースだ! 各階級で、サムライたちの快進撃が止まらないぜ!!』

 

 

 

 自然文明の山地、緑がたっぷり茂っていたはずのそこは、戦いでとっくのとうに草木一本生えない荒地へとなり果てている。

 それも仕方のないこと。その場で戦うのは……山々など文字通り足元にも及ばないサイズのウルトラヘビー級配属の選手たちなのだから。

 

『こちらラ・ウラ・ギガ戦国モデル32号! ウルトラヘビー級Aブロック予選途中経過をお知らせいたします。ただいまD-3座標にて、《邪眼の毒蛇エウドキア卿》選手と《維新の超人》選手が交戦中です!』

 

 

「ちっ、派手にやってくれたの、闇文明のナイトが!」

 荒れ果て切った山地を見据え、ジャイアントのサムライ《維新の超人》はその巨体にふさわしい刀を構えつつ、忌々しげに吐き捨てる。戦国の世に生まれた若い個体であっても、いや、平和な戦国の世にあるからこそジャイアントはジャイアント。動脈の超人がそうであったように、大地の痛みにはどんな種族よりも敏感だ。

 だがそんな彼を見据え、彼に対峙する邪眼のナイト、エウドキアは不適に笑った。

「会場のことなど気にしている暇があるのかね? 魔弾デュアル・ザンジバル!」

 エウドキアの放った魔弾、普通ならば茨になるはずのそれは代わりに漆黒の大蛇の姿を取って、次々に維新の超人へと絡みついていく。

「維新の超人……サムライの勢力『新一派』の若き戦士であったな。ふ、貴様のような小物を抱えているとあらば、里が知れようというもの……」

「何ィ?」

 その挑発に、直情的な維新の超人は実に率直に不快感をあらわにした。その反応が面白いのか、エウドキアは「おや、図星かね」とくすくす笑う。

「図星なわけあるかっ! おんしゃぁ頭足り取らんのじゃないか! なんでこのオレが小物なんじゃ!」

「小物だよ」

 エウドキアは残虐な笑みを浮かべ、毒蛇に拘束された維新を見下ろし告げる。

「魔弾デュアル・ザンジバル!!」

 そう、彼が再度唱えた時……今までの数千、数万倍かという勢いで、一気に大蛇が湧き出た。黒雲のごとく躍り出た大蛇の群れは渦を巻きながら、巨大なジャイアントの体を包み込んでいく。

「なにしろ『卿』の位にすぎぬこの私ですら、本気も出さずに勝てるのだからなァァ!! フハハハハハハハッ!」

 ……そう、今までの蛇の魔弾攻撃は全く、彼の本気ではなかったのだ。

 維新の超人の体が真黒に覆われたのを見届けて、エウドキアはパチンと指を鳴らす。魔銃の大蛇たちはケタケタケタと不気味に笑いながら一斉に鎌首をもたげ、維新の超人のエネルギーを吸い取りにかかった。

 巨大な黒い塊が見る見るうちに小さくなっていく。ジャイアントの体を構成するエネルギーを吸い取り尽くして。やがて、それは、空に浮かぶ雲と同じ程度の高さに、彼らの見下ろす山脈と同じくらいの高さに、そこにそびえる枯れ木ほどの高さに……ついには、完全に消えてなくなっていった。

「これで良し。邪眼一族に、栄えあれ……」

 勝利の余韻に酔いしれつつ、エウドキアが天を仰いだその時であった。

 

 

 巨大な斬撃が飛び、毒蛇たちが薙ぎ払われる。彼らは先ほどまでの笑いはどこへやら、恐怖の悲鳴を上げてあっという間に黒いオーラに溶けて無に還っていった。

 エウドキアが驚いて振り返ったそこには……つい先ほど、無様にエネルギーを吸いつくされて消えたはずの、維新の超人の姿! 

「き、貴様……!」

「奇遇じゃのぉ、俺もおんし程度の小物にゃあ、本気出して勝つのもカッコ悪いと思ったき、手加減しといてやったが……」

 そこでエウドキアは気が付く。彼の鎧、刀、それ等が帯びる今までとは違う色。魔力のオーラ? いや、あれは……電撃。

 そう、維新の超人の振るう刀は、彼のクロスギアですらない。彼の真の獲物は……別にある。

 

「おんし如きと同じ考えっちゅうのも腹が立つ! オレは本気で行かせてもらうぜよ! 《閃光イナズマ・カブト》……ジェネレートぜよっ!!」

 

 彼がそう唱えると同時に、大地のマナが鮮やかな萌黄色の電撃となり、彼の兜に集まっていった。彼の鎧が、刀が、強大な電撃のエネルギーに包まれていく。

 このマナから生まれし電撃の兜こそ、維新の超人の操る魔導具。

 

「ち……調子に乗るな、小物風情がァァ!」

 エウドキアは再び全出力のデュアル・ザンジバルを放つ。しかしそれを電撃をまとった刀で維新は軽々と薙ぎ払っていく。

「く……」

「とっとと消えろ! 目障りじゃき!」

 維新の超人はエウドキアがひるんだすきに一気に切りかかっていく。だが、それを見てエウドキアは……再び「ひっかかったな」と笑った。

 次の瞬間、彼の魔銃から……最早蟒蛇の群れですらない。山をも凌駕する彼らの巨体にも見合う毒蛇がずるりと湧き、大口を開けた。

 そしてそれが勢いよく突っ込んできた維新を飲み込む。エネルギーの体が再び消滅し、エウドキアは再び勝利の笑いを……。

 

「そういちいちヘラヘラ笑おうとすんな、おんしも忙しいやつじゃの」

 

 あげるはずだった。

 その声が上げられる前に、またぞろ何処かから現れた維新の超人に、エウドキアの切り札であったはずの巨大毒蛇の首が真っ二つに切って落とされた。

 エウドキアは今度こそぎょっとする。どういったことだ、だって先程、維新の超人の体を確かに飲み込んだ……いや、正確にはまだ飲み込み切ってすらいなかったはず。自分が襲った彼は確かにこの魔弾の毒蛇の中へ……。

 そこでエウドキアは初めて気が付いた。毒蛇の体の残骸からほとばしるもの。それは、ジャイアントの体のエネルギーではない……バチ、バチと弾ける萌黄の電気だ。

 

 そう、これこそがイナズマ・カブトを使いこなせし維新の超人の真骨頂。彼は電撃を操り、自らの分身を作り出すことすらできる。

 

 エウドキアは慌てて魔銃を展開、再び蛇の魔弾を放つ。だが先ほど大技を出した直後、チャージが十分にできているはずもなく、思うようなものは放てない。その上……それが直撃した維新の体すら、パチッ、と、電撃にはじけた。

 あれも、分身? 

 本物はどこへ? どこへ、打てばいい? 

 

 狂乱状態で打つ魔弾など、ただですら、百戦錬磨のサムライの猛者にそんなものが当たるはずもない。しかも、狙い撃つのは本物かどうかも分からない相手……。

「(どこだ?)」

 エウドキアの顔からは、もはや笑いなど消え失せている。勝ち誇り笑うという発想すら、湧いてこない。彼の頭を占める思考はただ一つだけ、

「(どこに、打てばいい? 奴は、本物のやつはどこにいる? どこに……)」

 

「ここぜよ」

 

 その声とともに、エウドキアの体が一刀のもとに切り裂かれる。と、同時に……刃にまとわれていた電撃がエウドキアの体内で、一気に爆発した。

 勝った時とは正反対に、彼は何を言うこともなく、強大な音を響かせて山々の間へと沈んでいった。

「チッ、ド小物が。オレを馬鹿にするにゃあ百年早いぜよ」

 

 

『こちらラ・ウラ・ギガ32号より、お知らせいたします! D―3座標決着がつきました! 邪眼の毒蛇エウドキア卿選手敗退! 維新の超人選手が予選4回戦進出です!!』

 

 

 

 

 ところ変わって、水文明の海上に浮かぶ孤島。そこで行われているミドル級Bブロックの試合は、水文明の名門氷牙のナイト、グランド・デビルの《氷牙封魔グリエルモ候》の独壇場であった。

「ふん……たわいもありませんな」

 大量に散らばった魔弾の薬莢と、氷の粒の混ざった冷たい霧。それに埋もれるかのように倒れる他選手たちの体が、つい先ほどまで行われていた激戦を強く物語り、その光景にグリエルモは一層のこと勝ち誇っていた。

 ……だが、そんな中、低く、厳かな笛の音が響きだす。グリエルモがその音色に注意を引かれ顔を上げると、氷の霧の中からゆっくりと、一人のサムライが現れた。

「おや。まだ生き残りがいたとは」

「……ずいぶんとやったものだな。貴様は……氷牙の騎士か」

 その笛を持った《アーク・セラフィム》のサムライ……《霊騎キヨマサ・コムソー》は目の前の惨状に動揺する様子も見せずに静かにたたずみながら、半ば呆れたように言う。

「これほど魔弾を無駄遣いしてやることもないだろう、可愛そうに」

「大きなお世話ですよ。サムライごときに魔弾の使い方が理解できるでもあるまいに」

 ですがちょうどよい、とグリエルモ候は魔銃を構えなおす。

「貴方に貴族の戦いとは何たるかを叩きこみ、三回戦を堂々の勝ち抜けとゆきましょう」

「……問うても無駄か。傲慢なるナイトよ」

 そう告げると同時にキヨマサは再び笛を構えなおし、吹き鳴らした。低く美しい音色がその場に響き渡る。

 ……その時グリエルモは、はっと異常に気が付いた。自分が大量に薬莢を撒き散らかした大地がぽつ、ぽつとうごめき始める。

 

「魔力の灯よ、拙僧に力を与えたまえ……」

 

 その鼓動とともに大地からは次々に鮮やかな小粒のマナが湧きだし、そしてそれは……キヨマサの背負う木琴のような形のクロスギアに集まっていった。

 

「《叫鬼ジャミング・ビート》! ジェネレート!」

 

 そしてキヨマサがそう叫ぶとともに、木琴はガシャガシャと音を立てて変形し、カラフルなライブステージのような巨大クロスギアへと見る見るうちに変わっていく。キヨマサは飛び上がり、その上にひらりと着地……すると同時に、ステージの中央に自らの笛を勢いよく垂直に突き立てた。笛はクロスギアと一体化し、一瞬でスタンドマイクの形に早変わりする。そして……。

 

 

「オラオラァァ──ーッ! 戦国のロックスター、キヨマサ・コムソー様参ッッ上ッッ!! だぜェェェ──ーッ! てめえのような高慢チキチキナイト一匹にこのオレ様の独占ライブはちぃっとばかし勿体ねぇ──―が!! やるからには楽しんでいけよォォォーッッ!!」

 

 ……キヨマサの人格までも、先ほどまでの厳かな姿が嘘のように豹変した。

 

 その変貌ぶりにあっけにとられながらも、グリエルモはやがて落ち着きなおす。

「勿体ないとは……これはまた。しかしそこまでにのたまうならば、相手にとって不足なし!! 貴方のように生意気な目立ちたがりをそのステージから引きずり下ろすのは、さぞや快感でしょうからね!!」

 魔弾ストリーム・サークル! と彼が唱えたと同時に、彼の左腕に装着された魔銃から水流がほとばしる。だがキヨマサが体を素早く動かし、ジャミング・ビートの鍵盤を踏み鳴らし……そのリズムが背後のスピーカーから激しく流れだすと同時に、その水流は勢いを弱め、霧の中へと溶け込んでいった。

「ホラホラどうしたッ! そんなチンケな攻撃しかしねえんだったらこっちから行くぜェェ!!」

 キヨマサはさらにリズムを変える。より激しく攻撃的なリズムとなったそれはスピーカーからソニックブームとしてあふれ出し、グリエルモに襲い掛かった。

 薬莢を吹き散らしとびかかったそれらに、グリエルモは余裕の笑みを浮かべながら魔銃の照準を合わせる。轟音が響き渡った。

 ……だが、氷の霧の中出てきたグリエルモは全くの無傷。代わりにまた、彼の魔銃から大量の薬莢が飛び出た。

「ふ……貴方ごときの攻撃なぞ通りません。この魔弾の盾の前にはね!」

 これこそがグリエルモの術。魔弾を身代わりにし、彼は自分自身を護ることができる。グリエルモは余裕の笑みで再度魔弾をチャージ、他の対戦者と同じように圧倒されているであろうキヨマサに追い打ちをかけようとした。

 ……しかし、読みが外れて驚いたのは、グリエルモの方となった。

 

 キヨマサはまたリズムを変える。今度は一転、壮麗ながらもどこか穏やか、悼みの気持ちすら感じさせるような音楽に。そしてその音にあわせて……グリエルモが今しがた犠牲にしたばかりの魔弾の残骸から、先ほど以上に大きなマナが生まれ、キヨマサとジャミング・ビートの方に吸い込まれていく! 

「なっ……?!」

「大金持ちのナイトさまよォ、いくら試合に勝つためだからって、てめぇの武器をそんなに粗末にしちゃあならねぇぜ。オレはな……そーいった了見のやつが大ッッ嫌いなんだよォォォ──ー!!」

 

 ガン、とマナをフルチャージしたジャミング・ビートはまた激しいリズムを刻みだす。グリエルモは再びストリーム・サークルを放とうとした。だが……遅かった。

 魔銃が、動かない。弾切れ? いや、違う! マナを吸い込んで強化されたジャミング・ビートの音波によって……魔力の波が阻害されている!! 

「くっ……」

「どーした、もう攻撃できねえのかァ? それじゃ……フィナ──レと行くぜェェェ────ッ! てめぇも、盛り上がってけやァァァ────ッ!!!」

 キヨマサはマイクを握りしめ、息を吸い込んだ。

 今までで一番ハイスピードで凶悪なリズムが刻まれ響き渡り、それをさらに増強するかのようにキヨマサの歌声が響き渡る。

 それは大量のソニックブームとしてスピーカーから展開され……そしてもはやそれを防ぐ術など、魔銃の動かなくなったグリエルモにあるはずもなかった。

 

 爆音が響き渡ると同時に、キヨマサはふうと息を吐いて歌を終える。グリエルモは……今度こそ薬莢の海の中に沈んでいた。

 

 

 それを見届けたキヨマサはジャミング・ビートの展開を解除し、いまだ爆音の余韻が冷めやらぬ中元の姿に戻った笛を静かに吹き鳴らす。

「さあ、魔力の灯たちよ。還るべき場所で安らぐがよい……」

 氷の霧の中、色とりどりのマナが生まれては舞い、そして静かに大地に帰っていく。最後の一つが消えたのを見届けて、キヨマサは「南無」と一言告げ合掌した。

 

 

 そしてフレイム・コロシアム。

「さあライト級予選第三回戦Bブロックもいよいよ大詰め! 最後の一戦はナイト《天雷機士ナヴァール卿》選手とサムライ《風来の雲ベンケイ》選手──ッ!」

 実況の声の通り、その場に立つのは緑色のボディで包まれたいかめしい顔の《キカイヒーロー》のナイトと、そしてベンケイであった。

 

 

 

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