Saga of Creatures〜Battle Galaxy~   作:hinoki08

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第一章 第一部 『マボロシ山脈一周レース』
第一話


 青銅の鎖鎌と別れたトドロキたちは、何とか目的地にたどり着いた。

 自然文明北部、マボロシ山脈。案内によれば、ここがトドロキの所属するライト級ルーキークラスCブロックの試合会場だ。

「ここら辺のはずなんだがなあ……」

「ベンケイ、さみーべなぁ……冬はとっくに終わってんのに」

「ここいらは寒冷地体だからな、まだ雪が残ってるんだよ」

 彼らのいるマボロシ山脈は、自然文明でも有名な雪山であった。サクリサクリと雪を踏み分けつつ地図を見ながらベンケイとトドロキがキョトキョトしていると、彼らの前に現れる姿がある。

 1台の《蒼天の守護者ラ・ウラ・ギガ》だ。もとは光文明の量産型ガーディアンで、この戦国時代においてもその量産性と汎用性の高さゆえ、時代を超えて戦国武闘会スタッフとして幅広く活躍している。

「牛若剣士トドロキ選手ですね、お待ちしておりました。そちらは……風来の雲ベンケイ選手の予選会場は、こちらではありませんが」

「ああ、それオレも百も承知よ、オレぁただの付き添いだ」

「承知いたしました。では両選手、私の体に乗ってください」

 ラ・ウラ・ギガはそう言って、地面に着地する。その平たいボディの上にトドロキとベンケイが乗り込むと同時に、彼はすっと重力を感じさせないかのような動作で浮き上がり、山脈の中を動き出した。

 

 

「到着いたしました。ここがスタート地点です」

 ほどなくしてラ・ウラ・ギガが降ろした場所には、すでに数十体の超獣が集まっていた。

 種族はバラバラだ。ヒューマノイドにガーディアン、竜人種族《ティラノ・ドレイク》、知性を宿した野菜である《ワイルド・ベジーズ》……共通しているのは小柄なところくらいだ。

 

「よーしっ! こいつらみんなと戦うんだべな! もっと他にはいないんだべか! 《ドラゴン》とか、《ジャイアント》とか!」

「いきなりそんな奴らと戦うわけねえだろ! ライト級だって言ってるんじゃねえか!」

「……ベンケイ、なんで戦えないんだべか!? オラ、でっかくて強いやつらとも戦いたいべー!」

「お前、『階級』制度をわかってねえのかよ!?」

 この超獣世界は、多くの種族によって構成される。種族にとって、その体の大きさもまちまちだ。

 それ故、戦国武闘会に導入されているのがこの階級制度。予選の内は体の大きさに合わせて『ライト』、『ミドル級』、『ヘビー級』、『ウルトラヘビー級』の4階級に分かれ、全部で6回戦ある予選が後半になってくるとライト級とミドル級、ヘビー級とウルトラヘビー級の垣根がなくなる。

 そして全階級から出そろった1000名による本選が始まってから、初めて体格別の階級の垣根が完全に消えるというわけだ。

 もう一つ付け足せば、当然体格の小さなライト級選手は武闘会においては不利だ。今回第百回を数えるこの戦国武闘会で、いまだにライト級からの優勝者は出ていない。そんなライト級に特別に設けられているのが、このルーキークラス制度。武闘会参加経験2回未満の超獣のみで構成される特殊ブロックだ。

 何故そのようなクラスが用意されているかは……後述するとする。

 

「だからまあ、ドラゴンやらなんやらと戦いてえんなら、まずは本選出場を目指すこったな。それだけでも戦士として十分ハクになるぜ」

「よーし! 皆倒して目指すは優勝だべよー!」

「オレの話聞いてんのかよ」

 

 イキと元気のいいトドロキの姿に周囲の選手たちもあきれ半分ほほえましさ半分といった感じで笑いあっていた。だが……1台のラ・ウラ・ギガに乗って表れた一人のティラノ・ドレイクがその場に現れると同時に、ぴたりとその空気は無くなる。代わりに立ち込めたのは……緊張であった。

 そのサムライのティラノ・ドレイクの姿を、みんな知っているようであった。

 

「《エッジアーム・頼光・ドラグーン》だぜ!」

「前大会では、初出場で本選まで行ったんだろ?」

 周囲がどよめく。トドロキは「ほえー」とのんきな声を出した。

「あの兄ちゃん、そんなに強いんだべかぁ」

「ああ。過酷なルーキークラスを通過だけじゃなく本選入り……ただもんじゃないぜ」

 

 しかしその頼光、というティラノ・ドレイク本人は、自分を取り巻くそのざわめきにふん、と鼻を鳴らしいささか不機嫌な様子だった。

 

「あれ、何を怒っとるんだべ? 兄ちゃん」

「貴様らの志の低さに呆れているのだ」

 

 そう短く言い残し、頼光は口をつぐむ。

 

「(本選まで、だと……? 違う、本選まで「しか」進めなかった、それが前回までの俺の実力……だが、今の俺は違う! 今度こそは本選をも勝ち上がり、優勝を果たして見せる!)」

 

「不愛想な兄ちゃんだべなあ」

「まっ、そこは人それぞれだぜ、トドロキ」

 と、トドロキとベンケイが話し合っていた……その時だ。

 

「私を覚えているか? 頼光」

 不意にゆらりと、金色のボディを持つ戦士……おそらくは光文明の戦闘種族《イニシエート》であろう戦士が現れ、人込みをかき分けながら真っすぐに頼光の下へ飛んできた。

 その身のこなしは何とも優雅にして上品。集まった有象無象の超獣たちも、つい道を開けてしまっていた。

 イニシエートはその無機質な瞳で、頼光を睨み付ける。

「《天雷の使徒ロドミア》だ。……前大会の予選第一回戦では、世話になった」

『天雷』。その名前にまた一つ、その場に緊張が走る。

 天雷といえば「断罪の天雷」。この世を統べる貴族階級にして、サムライの永遠のライバル……《ナイト》。その四名家の一つだ。

 その実力は折り紙付き。その騎士団からも参加者があるというのか。

 

「前回のごとき醜態は晒さぬ。今度こそ貴様を制し、私が二回戦へと駒を進めようぞ」

 

 だが、頼光はそんな彼さえも……不愛想にあしらう。

「生憎と、負け犬の顔などいちいち覚えてはいない。貴様ら如き傲慢なナイトの家の者なら、なおさらだ」

 そういって彼はまた口をつぐむ。ロドミアはクッ、と小さく声を上げた後、「天雷を侮辱する者、必ず断罪してくれる……覚えていろ」と言い残した。

 

 

 ──「分かっているだろうな、ロドミア。断罪の天雷に、弱者は不要」

 彼は思い出す。自らの主にかけられた声を。

 ──「もし前回と同じ醜態をさらさば……天雷の騎士の名を名乗ることは、許されぬと思え」

「(嗚呼、《ロレンツォ》様……)」

 ロドミアは人知れず脳裏に響くその声を胸に、闘志を燃やす。

「(おっしゃられずとも、その覚悟……貴方の天雷王家率いる騎士団に、負け犬などあってはならぬのですから)」

 

「なんだべ、みんな、緊張してるべな」

「それが戦国武闘会。真剣勝負の場所ってわけよ。覚えときな、トドロキ」

 のんきなトドロキにベンケイが釘を刺した……次の瞬間だった。

 

「どいて。坊や」

「わっ!」

 トドロキをグイ、と強引に押しのける細い腕があった。その勢いに、トドロキは思わず雪の中に転んでしまう。

「冷たいべっ!」

「ぼさっとしてないで。道を開けて」

 つんと澄ました声が頭上から降ってくる。トドロキが顔を上げると、そこには……一人の少女が立っていた。

 人型種族……装備を見るに恐らくヒューマノイドではない。自然文明の《スノーフェアリー》の女性だろう。真っ白な肌に、美人揃いで有名なスノーフェアリーの女性の中ですら、目を見張るほどの美貌の持ち主。

「えっ、誰? めっちゃ可愛い!」「あの子も参加者!?」周囲はまた再びざわめき立つ。

 当の彼女の方はといえば、スノーフェアリーの女性特有の目隠し越しに周囲を威圧するようにじっと自分の行く末を見つめる。

「あっ、通るの? ど、どうぞ!」

「えー、本当にすっごくきれいですねぇ、なんてお名前なんですか? 一緒に頑張りましょうね!」

 

 ……だが、その浮足立った周囲の空気に流されない者もいる。「馬鹿どもめ」と奇しくも時同じくして思ったのは……頼光と、ロドミア。

「(この雪山に、スノーフェアリー……雪の妖精がいる)」

「(その意味も悟れぬとは……所詮、この程度の次元か)」

 

 

『えー……これにて皆さん、お揃いだな!』

 そして、その少女が現れて間もなくのことだった。会場にアナウンスがこだまし、1台のラ・ウラ・ギガと、その上に騎乗するヒューマノイドが現れる。

 

『初めまして! 俺はこのルーキークラスCブロック実況を務めさせていただく……《JK野郎チョッキー》! 皆さん、よろしく! 皆さん、初出場の人も多いでしょー? 緊張してっか!? 実は俺も緊張してるぜ! なんたって今日が初仕事だから!』

 ショーさん見ていてください、貴方の弟子が今日初舞台を飾りますっ! と実況なのだか独り言なのだからわからない彼の声まで、しっかりとマイクに拾われている。なんともルーキークラスに相応しく、青々しい実況者である。

 

『えー、そいじゃあ、選手全員そろったという事で、ルールの説明に移らせていただくぜ。ルールはとても簡単! このマボロシ山脈の決まったルートを1周して、1着の選手のみが第二回戦へコマを進めるってわけだ!』

 

 その場に集まった超獣は、ざっと三十名。この人数の中から、通過はたった一人だけ。それだけでも厳しいルールだが……。

『もちろん戦国武闘会らしく……「レースコースを走る」それ以外、ルールは一切なし! 妨害、攻撃、乱闘、何でもありだぜ! えー、なお……ルーキークラスには《刺客》制度があるぜ』

「刺客?」

「なんだそれ?」

 何人かはその意味を知らないようだった。チョッキーは『《シャーマン・メリッサ》ちゃん!』と、とある名前を呼ぶ。その声にこたえてチョッキーの隣にふわりと浮き出たのは……先ほどの美少女だった。

 

『刺客制度とは……この戦国武闘会運営サイドから特別に選手を参加させる制度! 無論「刺客」が優勝した場合、このブロックから第二回戦への通過者は無しという事になるぜ!』

 

「えっ!? ちょっと待てよ」

「あの子って……見る感じ、スノーフェアリーだよな!?」

 

 スノーフェアリー。それは読んで字のごとく、雪の妖精たる種族。

 雪山を一周するレースに置いて……明らかに有利な存在であることなど考えるまでもない。

 

『そうっ! 「刺客」は各ルールにおいて、とても有利な種族を故意に選んでる! そうじゃないと、ギミックにならねえからな!』

「そ……そんなのって、ありかよ!」

 会場が一気にざわめく。そのざわめきも、少女……《雪溶妖精シャーマン・メリッサ》はふんと見下すように構えて見ていた。

 

 しかし、その場に声がこだまする。

 

「騒ぐくらいなら、とっとと帰れ!」

 

 頼光のものだった。

「これが戦国武闘会の洗礼! どちらにしても、これを勝ち抜けぬ弱者に戦国武闘会の門戸を叩くなど百年早い!」

 

『え、えーっと、エッジアーム・頼光・ドラグーン選手が言っちゃってくれたけど、ハイ、その通り! これがルーキークラス! 戦国武闘会の登竜門というわけだ!』

 

 続いて発せられたチョッキーの言葉に、会場の面々も一斉に言葉を失う。なるほど、その通りだ。

 ただでさえ力の弱いライト級クラス、それもルーキーとなれば……相応の実力がなくては、戦国武闘会を勝ち抜くことなど最初からでき無かろう。

 そう、これこそが、ルーキークラス制度の存在意義。戦国武闘会参加者の中でも一番戦闘能力に期待の置けない選手たちを、厳重なふるいにかけるために生まれた制度である。

 

「……わかった。やるぜ」

「かわいこちゃんだからって容赦しねーぞ!」

「私たちの実力、見せつけてやりますよ!」

 

 一気に盛り上がり始める参加在者たち、チョッキーはその盛り上がりを見て言う。

『そんじゃ、会場もいい具合にあったまってきたことだし……さっそく、いっちゃおうぜ! 全選手、位置について!』

 

 彼の掛け声とともに、数十体の超獣はいそいそとスタート地点へ着く。トドロキも同様だ。

「じゃあな、頑張って来いよ」と声をかけたベンケイと別れ、ラ・ウラ・ギガに案内されるまま、自分のスタート位置につく。

 ライト級ルーキークラスCブロック……『マボロシ山脈1周レース』が、今幕を開ける。

 

『「決闘」……スタートッ!』

 

 

 

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