Saga of Creatures〜Battle Galaxy~ 作:hinoki08
「よう。名門のナイト様がお相手とはやりがいがあるな、よろしく頼むぜ」
「……フン」
ナヴァールはその挨拶に返事も返さない。ただ、自分がなぜこのような矮小なサムライと戦わなくてはならないのか、とばかりに見下し続けている。いっそ、それが恥じ入るべきことですらあるかのように。
「兄ちゃん」その相手の態度に対してもあくまで冷静に、ベンケイは頭の笠を目深にかぶりなおした。
「挨拶されたら、返さないとダメだぜ。オレァ小さいガキを世話してんだ。そいつがあんたの真似でもし出したら、責任取ってもらうからな」
「……おい。貴様ら。時間がもったいない。早く始めるのだ」
ナヴァールは相変わらずベンケイのことは気にもかけず、代わりに実況席にむかってそう問いかける。彼の言葉通り、慌てて鳴らされる鐘の音。それにベンケイは呆れたようにため息をついた。
「参ったねぇ。あわてんぼうさんだ」
「魔弾チェーン・スパーク!」
ナヴァールがそう唱えると同時に、彼の金色の両腕にとりつけられた魔銃がキラリと輝き、光の鎖が複数展開される。それはライト級の中でも小柄なベンケイの体めがけて四方八方から正確に襲い掛かり、瞬く間に彼を拘束した。
ナヴァールは早くも勝利を確信したかのように自信満々に、攻撃用の魔弾をチャージしながらベンケイに向かって躍りかかった。……だが、その時。
「《JK兜パッパラ・ベンケイ》、ジェネレート」
鎖に拘束された状態でベンケイがそう告げる。すると彼の笠がまたたく間に姿を変え、上部に輪のようなオブジェのついた緑色の兜に変形した。
あれがあのサムライのクロスギアか、とはナヴァールも一瞬で悟った。だが、どうにせよチェーン・スパークで拘束されている以上ただの悪あがき。要はとるに足らない弱小サムライが展開に遅れただけだ、と……。
だが、彼の目の前のベンケイは表情一つも変えることなく、彼の思惑とは裏腹に落ち着き払っている。そして眼前にナヴァールの銃口が迫ったその瞬間、変形完了した兜に向かって彼は叫んだ。
「さあ、飛び出て驚け! 『パッパラパラッパ』!」
そしてその掛け声とともに。パッパラ・ベンケイの輪のオブジェの中にある空間がゆがみ……槍状の武器を持った巨大な腕が出現した!
「なにっ!?」
槍の先端に灯った魔力が、ナヴァールの魔弾を見る見るうちに打ち消す。そして空砲と化した魔銃に槍はそのまま突っ込んでいき、ナヴァール自身の体を持ち上げ……ベンケイが頭を一振りすると同時に巨大な腕も激しく動き、ナヴァールを投げ飛ばした。
緑色のボディがコロシアムの壁に激突し激しい金属音を建てる。その隙にベンケイはもう一度掛け声を唱える。
「まだまだいくぜ! パッパラパラッパ!!」
するとどうだろう。腕は槍ごと引っ込んだかと思うと、今度は巨大な工具のような武器を持って現れ、一瞬でチェーン・スパークの光の鎖を切断する。体の自由を取り戻したベンケイはパタパタと羽ばたき、ナヴァールから間合いを取る。
「貴様……それが、貴様の魔導具の力……」
「おー、ようやくオレに口をきいたな、兄ちゃん。そうともよ。これがオレの相棒パッパラ・ベンケイ」体勢を立て直したナヴァールが、先ほどの無視の姿勢から一転し自分を睨み付けたのを、じっと変わらない目つきで見つめ返しながらベンケイは言う。
「こいつぁオレが今まで出会ったサムライたちの魔導具の形状を記憶してるんだ。それで、てめぇの魔力をその武器たちに具現化して、疑似的に展開できる」
「貴様、一人で複数の魔導具を扱えるようなものか……」ナヴァールはその言葉を聞き、ただでさえ悪い目つきをさらにぎらつかせ、巨大な口で歯ぎしりした。
「卑劣な……! かような戦い方に、清らなる天雷騎士団の一員としてひざを折るわけにいくものか!」
「いーや、そうでもねぇ。ハンデはあるっちゃあるんだぜ。何しろ、この兜……」
ベンケイが言い終わらないうちにまたもや激しくチェーン・スパークを乱射するナヴァール。だが一度拘束から逃れたベンケイは今度は易々とは引っかからない、乱舞する光の鎖の間をひょいひょいと縫って飛び回り、加速しながら確実に間合いを詰めていく。
「その時になるまで、何が出てくるか、このオレにも分かんねえもんよ」
「え?」
「でもなあ……オレ、運がいいんだわ。生まれつき」
チェーン・スパークの連射がとうとう途切れた。チャージする一瞬、その間をついてベンケイはナヴァールの眼前にホバリングする。
「なんせ、生まれてこの方ジャンケンで1回も負けたことないくれえだ。いっつも、その時々オレに必要なもんが出てきやがる。さて……」
てめえ相手には、どんなもんが出てくるかね? ……そう言い残し、ベンケイは最後の掛け声を唱えた。
「勝者、風来の雲ベンケイ選手──っ!!」
フレイム・コロシアムに響く歓声。ボディをひびだらけにして戦闘不能となったナヴァールを見届け、ベンケイは魔導具を解除する。巨大な腕はその手に持っていたハンマー型の疑似魔導具と共に引っ込み、兜は元の笠に戻っていった。
「ま、今度ッから相手には礼儀を払わなくちゃいけねえよ。たとえオレみたいなチビでもな」
「おーい、ベ──ンケ──イ!!」
と、歓声に混ざって観客席から響く無邪気な声。それにベンケイは首を180度回して振り返る。
「おーう、トドロキ! 見てたのか! まっ、オレにかかればこんなもんよ」
ベンケイも試合終了の鐘の音とともに、翼を広げて観客席のトドロキの方まで飛んでいく。
「いやー、それにしてもよくここまでたどり付けたもんだな? 正直心配してたんだぜ。おめーを一人でコロッセオ・シティに放っていいもんかって」
「あっ、それは、姉ちゃんのおかげだべ!」
「姉ちゃん?」
「あたしよ、あたし。風来の雲ベンケイさん」
その声と共にひょい、とトドロキの隣から現れた姿に、ベンケイも驚いた。
「あんた、雪溶妖精シャーマン・メリッサ!? あの『刺客』の!」
ヒューマノイドの頭ほどもある、巨大な水晶玉。それを手に乗せて、「彼」はあーあ、と呟いた。
その中にはフレイム・コロシアムの光景が映し出されている。仲良くじゃれ合う小さなサムライたちと、その隣で屈辱的に大破したナヴァール卿の姿が、ありありと。
「邪眼も氷牙も天雷も、だらしないの。威張っておいてギタギタにされれば、世話はないね」
もっとも、と彼は紫色の唇を愉快そうにゆがめて、再び水晶玉に魔力を込め、別の光景を投影し始める。
「うちのあの子は……心配ないんだけど」
「いや、驚きだよ……なんであんたが、ここに?」
「なんでって、あたし大会運営スタッフよ。コロッセオ・シティに居るのは当たり前じゃない」フレイム・コロシアムを出て歩きながら、トドロキたちは話し合っている。
「いや、そうじゃなくって、なんでトドロキんとこに」
「フフッ。だって、まさかこのあたしをあの雪山で破るなんて思ってもみなかった子でしょ? そこに来て、あのワッショイエクスプレスの死闘……あたしも、ばっちり見ていたんだからね」
メリッサは上機嫌そうにニコニコ笑って語る。
「正直、最初は勢いだけの坊やかと思ってたけど……ライバルたちとも仲良くできて、チームワークもあって、しかもあんなに勇気のある子だなんてね。そう思ったらあたし、すっかりこの子のファンになっちゃった」
「ファン!?」
「そっ」クスクスという笑い声とともに、トドロキの頭をポンポン叩くメリッサ。
「あたし、あんたのファン1号よ、トドロキ!」
「びっくりだべ……オラにファンって……」
「オレもびっくりだよ……」
「スノーフェアリーってのはね、自分が応援したいと思った相手を応援する種族なの、昔っからそういうものよ」
あたしは、トドロキを応援するからね! という彼女に対して、「いいのかよ、運営スタッフが特定の選手を応援って……」とベンケイがぼそり呟いたが、彼女の耳には聞こえていない様子。
「メリッサ姉ちゃん、ありがとうだべ! それにしてもベンケイ、かっこよかったベー!! オラも早く戦いたくなってきたべよ!」
「おめーのブロックはCだろ? まだ後日だよ、それまで我慢しな。試合以外での乱闘は、最悪失格だからな」
「もっとも、結構やられてるけどね、ウフフ!」
コロッセオ・シティのど真ん中でぶんぶんと腕を振り回すトドロキを、ベンケイは軽く笑いながらいなす。
「こうしてせっかく武闘会の聖地に来てんだ、今日は他の奴らの試合でも見ていこうぜ。他人の戦い方を知るのも修行のうちよ」
「あたしもついていくわ! 今日のとこは、仕事はフリーだし」
「そーだべか! じゃあ、どこに行けば……」
と、急にドン、とトドロキの動きが止まる。テンションが高ぶるままによそ見をしながら猛然と走っていたので、何者かにぶつかって転げたのだ。
「いって……あの、ごめんなさいだべ……」
地面から起き上がりながら、トドロキはその自分のぶつかった「何者か」を見る。そして……急いで駆け寄ったベンケイたちともども、ぎょっとした。
巨大な選手、ヘビー級相応だろうか。種族はおそらくデーモン・コマンド。
その本人自体も十分に大きいが、その体にふさわしい馬型の巨大な四足獣に騎乗している。そしてその高貴さを感じるたたずまい、片手に握られたランス状の魔銃。
間違いなく、ナイトだ。
「えっ……ま、まさか……」
そしてその姿を見て……トドロキを助け起こすシャーマン・メリッサとベンケイが、声を震わせた。
「《魔光帝フェルナンドⅦ世》……っ!」
さて、トドロキにぶつかられたフェルナンド、と呼ばれたそのナイトだが……驚き震える彼らとは裏腹に、一瞬自分の馬の行く末が遮られた原因に向かってわずかに一瞥したきり、あとはちっともトドロキたちには関心を払わなかった。
非礼と咎めすらしない。道端の小石に引っかかってしまっただけだったか、とでもいうように彼はその場にいる二人の小さなサムライを無視して、その威厳あふれる姿にふさわしい悠然たる態度で五大コロシアムの一角、ダーク・コロシアムへと消えていった。
「あー、びっくりした……まさか、あいつにぶつかるとは……トドロキ、てめえ、よかったな……あいつに目ぇつけられなくてよ……」ヘタ、とベンケイは、フェルナンドが見えなくなったのを見届けて体中の力を抜いた。
「トドロキ、大丈夫? 何かこっそりされたとかは……ないわよね」
「ベンケイ、メリッサ姉ちゃん、あいつのこと知ってるんだべ? すっごい強そうなやつだべなー……」
「いや、知ってるっつーか、別に試合を見たことがあるってだけだけど……」
「ちょうどいいべ! あいつの試合見てみたいから、オラたちもダーク・コロシアムに行くベ!」
「絶ッ対だめ!」
「そうよ、ほかの試合にしときなさい!!」
うきうきと発せられたトドロキの声。しかしベンケイは一転普段のポーカーフェイスも嘘のように、必死の形相でそれを遮り、シャーメン・メリッサもそれに続いた。
「えーっ、なんでだべ?」
「いいからっ!」
トドロキの髪を錫杖にひっかけて、半ば強引にベンケイはその場を放れていく。
「──あいつの戦いは、教育に悪ィ……」
「子供は見ちゃいけないわ、あんなもの……」