Saga of Creatures〜Battle Galaxy~   作:hinoki08

3 / 42
第二話

 チョッキーの掛け声に合わせて。全選手は一斉にスタートを切った……! と景気よく行きたいところだが、現実はそう甘くはない。

 

「うわっ、何だこれ!」

「は……走り辛い!」

 地上を歩く種族たちの足を、スタート地点から急に深くなった雪がからめとった。

 もともとこのマボロシ山脈の名前の由来こそ、その降雪量の多さにある。夏が来てようやく雪が全部解け切った頃には地形すら大きく変わり、あたかも冬に見ていた光景は幻のようであったように思わせられるからこそ、付けられた名前だ。

 

「お先に!」

 光文明をはじめとする、飛行可能な種族たちがまず前に躍り出た。

 

『あーっと、まずはやっぱり、足を取られない飛行種族の優勢だぜ! 先頭を行くのは……天雷の使徒ロドミア選手―ッ!』

 

 中でもロドミアの速さは頭一つを抜けていた、しかし飛行不可能種族とてそれで終わるような根性はしていない。

「しゃらくせえ! 雪なら、溶かせばいいんだよ!」

 ティラノ・ドレイクの選手《ライジン・ドラグーン》が勢いよく言った後、その体に炎をためた。雪を溶かしにかかったのだ。……しかしだ。

 雪が解け、足が自由になったと思ったのもつかの魔……突如、彼やほかの選手を巻き込んで、「あるもの」が彼らに襲い掛かった。

 

『あぶねえっ! ライジン・ドラグーン選手の炎で、雪崩が発生だーっ!』

 

「うわあっ!」と声を上げ、他の選手数名を道連れに雪に飲み込まれていくライジン・ドラグーン。その様子を浮遊する雪の結晶に乗っていたシャーマン・メリッサが見下ろしながら、くすくすと笑った。

 

「気づいたかしら? 雪の恐ろしさに。雪はね……冬だけの脅威じゃないの。ときには、春の到来が騒々しいことだってあるのよ」

 そういって彼女は背中に背負ったリュートを手に持ち、スノーフェアリーに伝わる呪文を詠唱し始める。

「《フェアリー・ライフ》……!」

 彼女の持つ「春」の魔力に呼応し、マボロシ山脈の深い雪に埋もれた土壌から、次々にぽこ、ぽこと春の芽生えが訪れた。すると、何が起こるか……。

 その芽は大量の雪を押し上げ、地上へ出ようとする。その勢いでライジン・ドラグーンの比ではない大雪崩が発生した! 

 

『ひーっ! シャーマン・メリッサちゃんの大雪崩で、飛行種族までもが飲み込まれていくぞ! シャーマン・メリッサちゃんが一気に首位に躍り出た! これこそ、自然文明の春の到来! 春は優しいだけじゃない!』

 

「このまま1位で勝ち抜けてやるわ!」

 メリッサは再びフェアリー・ライフを詠唱。今度は首位を走るロドミアに向けて雪崩を発生させにかかる。

 芽吹く植物、崩れる雪。そして、それがロドミアに襲い掛かるその瞬間……彼は自分の武器に光の魔力をため、こう唱えた。

 

「《魔弾プラス・ワン!》」

 すると、たちまちのうちに光のバリアが発生し、彼を守護した。光のシールドに跳ね返された雪たちが、逆にメリッサを襲う。彼女はすんでのところで避けつつ、舌打ちした、

 この《魔弾》、そしてそれを打ち出す武器……特殊な銃《魔銃》。

 これこそが、惑星を牛耳る貴族階級ナイトの象徴であり、ナイトのみが握ることを許された武器である。

 サムライがクロスギアを操る戦士たちなら、彼らは魔銃から、呪文を弾丸化した《魔弾》を打ち出し、それを自由に操る戦士たち。

 

 攻撃を防ぎ切ったロドミアは再び歩みを進める。「(どうした、頼光)……」と例のサムライに思いをはせつつ。

「(こんな雪如きに苦戦する。貴様の実力は、そのようなものではあるまい……!)」

 

 そして、彼の思う通りであった。後方、頼光は雪崩に巻き込まれて阿鼻叫喚の様相を呈する地上種族たちの中で一つため息をつき、「全く……低レベルな戦いだ」と呟いた。

 そして彼は、自分の魔導具にマナの力を蓄える。

 

「《炎刃ズバット・アクセラー》ジェネレート!」

 すると、そのクロスギアは炎刃という名前に相応しく超火力で燃えあがる。ほかの選手たちは目を見張った。火をもって雪を溶かすのはかえって危険だと先程証明されたようなものだ。しかし……。

 

『おおーっ! こいつはすごいぜ! エッジアーム・頼光・ドラグーン選手と相棒ズバット・アクセラー……その火力の前に、雪崩すら一瞬で蒸発していくぜ!』

 

 そう。溶けて襲い掛かる雪崩すらも一瞬のうちに消え去るほどの火力を携えながら、頼光は雪の道をかき分けながら猛然と走っていく。マボロシ山脈のはるか下の地表を、難なく。

 彼はあっという間に、ロドミアたちの先陣組に追いついた。

 

「やはりな、さすがの力だ」

「……」

 

 ロドミアの言葉には答えない頼光。ロドミアはそれにさらに業を煮やしたかのように、がむしゃらに空を飛んでいく。

 このまま頼光とロドミアの先頭争いになるだろう。そう予想されていた頃に……。

 

『おおっと? こ、これは意外! 牛若剣士トドロキ選手も、首位組に追いつく勢いで快進撃を続けているぞーっ!』

「えっ、なんですって?」

 頼光とロドミアを追いかけていたメリッサが、その実況に驚いた。彼女が振り返ってみれば……そこには、頼光のようにクロスギアの火力すら必要とせず、ひょいひょいと雪の上を駆けていくトドロキの姿。

 

『牛若剣士トドロキ選手、すげえ身軽さだ! 普通なら足を取られる深雪の中を、難なく駆け抜けていくぜ!』

 

「にへへっ、オラ、生まれは火文明だけど育ちは自然文明の山奥だべ!」

 チョッキーに紹介されて照れた様なトドロキ。

「このくらいの雪の上なら、よく遊んだもんだべよっ!」

「……ヒューマノイドのくせに、生意気じゃない」

 メリッサはそれを見て再度フェアリー・ライフを詠唱。雪崩がまたぞろ巻き起こる。しかし……トドロキは雪の上をジャンプし、それを難なく避けた。

「あぶねーべなあ、姉ちゃん!」

「……やるわね。おチビちゃんのくせに」

 ひとまずフェアリー・ライフを連打するだけの魔力も切れメリッサは、チャージも兼ねて再びレースに復帰。

 後ろからも、雪崩に巻き込まれ、雪に足を取られつつ……それでもレースをやめない他の参加者たちがちらほらと追い上げを続けている。

 

『ただいまの途中経過をお知らせするぜ! 先頭は天雷の使徒ロドミア選手とエッジアーム・頼光・ドラグーン選手! その後ろからシャーマン・メリッサちゃんと、牛若剣士トドロキ選手が追い上げ! 先ほどの雪崩によって脱落した選手は10名ほどだ!』

 

 チョッキーの実況を聞きつつ、先頭組の目に見えてきたものがあった。それは……レースコースの中にたたずむ古代の神殿。

 

『さあ先頭組、古代遺跡ゲンソウ神殿に到着だ! 神殿の中は大迷路! ちなみに重要文化財だから、力づくで突破しようと傷つけちまったらその時点で失格になるぜ! 迷路を抜けてレースに最初に復帰するのは誰になるかな!?』

 

「何っ!?」

「迷路!?」

 これには、ロドミアと頼光もひるむ。まさかレースコースにそのようなものが設置されているなど。

「(あたしも、さすがにこの迷路の攻略法は知らされてない……ガチンコ勝負よ)」

 いずれにしても狼狽えている暇はない。

 

『さあっ上位4人、一斉に神殿の中に入っていったーっ! そのあとにもさらに、選手たちが続いていくぜ! ここで大分順位が入れ替わることが予想されるが……最初に抜けるのは一体誰になるかなーっ!?』

 

 

「……ちょっと、マズいな」

 スタート地点で待機しつつ、実況を聞いていたベンケイがぼそりと呟いた。

「トドロキのやつ、方向音痴だからな……迷路なんて抜けられるのか?」

 

 

 迷宮の中でバラバラになった各選手たちの戦いも、実に多種多様であった。

「……落ち着け、冷静になれ。この道は先ほども来た。しからば……あの道が正解か」

 堅実に迷宮を解いていく頼光。

「魔弾の光よ、私に真なる道を示せ……!」

 魔弾の魔力とともに迷宮の全貌を割り出そうとするロドミア。そして。

 

「だーっ! どこだべかー!? 今オラ、どこにいるんだべかーっ!?」

 思いっきり道に迷っているトドロキであった。

 先頭組がそうこうしている間にも、数多くの選手たちがゲンソウ神殿にたどり着き、迷宮の中に入っていく。……その神殿がギミックとしてレースコースに配置された、真の意味も知らないままに。

 

「くしゅん! よ、ようやく、神殿まで来ました……」

 その時、また一人新たな選手が到着した。カブのワイルド・ベジーズ、《カブラ・カターブラ》だ。

「でも……ラッキーみたいですねぇ」

 カブラは遺跡の門の前にある、「ある」ものに目をつけ、にやりと笑う。

「『こんなもの』が隠れているのにまだ誰も気が付いていないなんて……もう、私の勝ち抜けは決まったようなものです!」

 カブラは自らの持つ魔法のステッキを取り出し、魔力を充填する。

「術師のマナに答えよ! 《鼓動する石板》!」

 すると、どうだろう。遺跡の小脇に無造作に転がされていたと思しき石板が、急に神秘の力に満ち溢れた。

「魔法のステッキ振りましょう! カブラ・カタブラ・カブランバ!」

 

 

『さあーって、めぼしい選手たちは全員ゲンソウ神殿に到着。内部カメラからの映像では……やはり各選手、迷宮攻略に手間取っているようだぜ! おっと、ここで天雷の使徒ロドミア選手がようやく出口に到着だ!』

 

 一番最初に迷宮を攻略したのは、光の魔力で迷宮の全貌を解析することに成功したロドミアであった。続いて、他の幸運にも迷宮を抜けることのできた選手たちもあとに続いていく。

『さあ、迷宮を抜けたらお次はマナ・プラント! 天然のマナが所狭しと湧き出る幻想的な光景の広がる、マボロシ山脈の名所だぜ!』

 

 さて、先頭を駆けるロドミアのことをほかの選手たちも追いかけようとするも、彼の速さには誰も敵わない。マナ・プラント……すべての超獣の体、そして世界のあまねく大地に宿るエネルギーである《マナ》……それらが飽和状態になり湧き出ている、なんとも美しい土地の中を駆け抜けていくロドミアであったが……! その時、ふいに彼を奇妙な存在が襲った。

 地下から湧き出るマナが突然にクリーチャーの姿の顕現し、彼に襲い掛かったのだ! 

「何っ!?」

 不意をつかれたロドミアは、そのままその攻撃を食らってしまう。彼の機体は傷つき、一瞬のうちに雪原に叩きつけられた。

 現状を把握せねばとロドミアが振り返れば……そこには、同じようにマナに襲われる後方の選手たち。なんだ、何が起こっている……!? 

 

 その時、ゲンソウ神殿から、信じられない者が出てきた。それは……本来であればライト級クラスにいるはずのない存在。一体の《アース・ドラゴン》だ! 

 そしてその背中には、カブラ・カターブラが乗っている。

「よくぞ我を見つけたな、術師! 望みどおりに力を貸そうぞ!」

「はいっ、お願いします! 《バグナボーン》!」

 

『おおーっと! カブラ・カターブラ選手! どうやらゲンソウ神殿の主として眠る《緑神龍バグナボーン》の存在に気が付き、それを目覚めさせたようだぜ!』

 緑神龍バグナボーン、それはチョッキーの紹介したとおり、石板の中に眠っていた神殿の主。

 この大会にあたりゲンソウ神殿をレールスートとして貸してほしい、と大会運営に持ちかけられた際、彼は答えたのだ。

 もし自分の存在に気付けるだけの選手がいたら、力を貸したい、それならば協力してやっても良い、と。

 

『カブラ・カターブラ選手、その小さな体にも似合わない確かな魔術師としての実力! 竜の力を借りて、ロドミア選手を抜き一気に首位へと躍り出たーっ!』

 

「このままゆくぞ、術師よ!」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。