Saga of Creatures〜Battle Galaxy~   作:hinoki08

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第十四話

「や、やったべ……」

 トドロキはふらり、とその場に膝をつく。「トドロキ!」キッドが慌てて彼に駆け寄った。

「大丈夫ですか……?」

「うん、大丈夫だべ……なんか知らんけど、ジュウベイに思いっきり力を込めると、いつも結構疲れるんだべ……でも、だからこその必殺技だべよ」

 

 トドロキは炎の力を失ったジュウベイを鞘に納めながら、ふらりと立ち上がる。続いて……ムネミツ達も、立ち上がった。

「それほどの力を隠していたとはな」

「あんまり多くは使えねーべ。でも、あんた相手には……使わないと勝てなかったからべな」

「ふっ、もう通過は決まっているというのに、それでなお、勝とうと本気を出してくれたか」ムネミツは薄く笑う。

「その心意気や見事。君と決勝を競えたことを、誇りに思う」

「僕もだッピよ」てちてちと地面を歩きながら、弥太郎が言った。

「すごいパワーだったッピ。守り切れなくっても……悔いも、無かったッピ」

「ありがとうだべ!」

 両ペアはそれぞれがしり、と握手する。わあっ、と上がる声。そのさわやかな光景に会場が、歓声に沸き返った……。

 

 かのように思えた。

「な、なんだべ、この声!?」

「シャイン・コロシアムから聞こえてくるが……」

 そうだ。彼らのいるブルー・コロシアムにすら届くほどの歓声が、シャイン・コロシアムから上がっている。

 その声は……ただ一つの名前を呼んでいる。

 

「ネロ様!」「ネロ様!」「ネロ様!」「ネロ様!」

 

『こ……こちら、シャイン・コロシアム! このオレたちの実況が届いているのかもわからないほど……会場は想像を絶するネロ様コールッ!』

『1位通過は「《魔光大帝ネロ・グリフィス》選手&《魔光蟲ヴィルジニア卿》選手」ペアーっ! 「斬隠蒼頭龍バイケン選手&《土隠龍ジライヤ》選手」ペアを見事圧倒的実力で破って見せたーっ!」

 

「ネロ様―ッ!」

「さすがの実力! さすがは魔光大帝っ!」

「ナイト! ナイト!」

「みたか、シノビどもーっ! これが騎士の実力よっ!」

 

 

 

「な……何があったんだべ……? シャイン・コロシアムに……」

「どうやら、あちらも決着のようですね」

「決着……?」ムネミツが面食らったように言う。「こちらは準決勝を飛ばしたのだぞ」

「だから、そのくらいのスピードであっちは勝負が決まったってことじゃないッピか?」

 

 

「ネロ様、やったんだ! シノビを!」

「こうしちゃいられねえ! シャイン・コロシアムに行かなきゃ!」

 ブルー・コロシアムに集まっていた観客すら、大挙してシャイン・コロシアムへと向かっていく。

「なんと! わが主、おやりになったのであるか、さすがである! 我らも駆けつけるであるぞ、デ・アシス公!」

「あ、ああ……」

 その名を呼ばれている魔光の名を冠する二人のナイトも同様に、シャイン・コロシアムの方へと向かっていった。「キッド……」トドロキは言う。

 

「せっかくだし、オラたちも向かうべっ! ネロ様ってのは、どんな奴なんだべかっ!?」

「あっ、ちょっと、トドロキ! 何当たり前のように僕の背中に乗って、飛べっていうんですか、もう……しょうがないですね!」

「おい、トドロキ! 人様に迷惑かけんじゃねーぞ!」

「とか言ってついてきて、ベンケイだって見たいんじゃないべかー!? シャイン・コロシアム!」

 

 

「はー。威張っておいてボコボコにされて、なんか君ら、めちゃめちゃかっこ悪くなーい? ねー、ヴィルジニアちゃんもそう思うよね」

「ギュ? ギュグルルルルル……」

 シャイン・コロシアム。その真ん中で二人のシノビの龍を制したのは、大柄な、精霊の力を宿したダークロードが一体と、真っ白い体に金の装甲を纏った巨大なパラサイトワームが一体。

 彼らこそが魔光大帝ネロ・グリフィス……魔光家のトップに立つ当主とその愛玩するペット、魔光蟲ヴィルジニア卿だ。

 

 文字通り超獣という超獣に埋め尽くされたシャイン・コロシアムで……彼らは涼しい顔をしている。

「じゃ、帰ろっか。ヴィルジニアちゃんも、おなか空いちゃったよね」

「グギュルルル!」

 バイケンとジライヤの方等一切振り向かず、何なら自分に降りかかる歓声も一切気にせず、その場を立ち去ろうとするネロ・グリフィス。そんな彼の前に……現れる姿がある。

「あれ、ドンキノフにデ・アシス」

「ネロ様! 1位通過にございますかっ! さすがのご実力! このドンキノフ、僭越ながらお祝いへとはせ参じました!」

「えー、君らの試合は?」

「実は諸事情ありまして、もう終わりまして……」声を震わせながら返答するデ・アシス。

「えー、すごいじゃん。僕レベルの早さで勝ったんだ、それで……」ネロは紫の唇をにっこりと笑わせながら、上機嫌に言う。

「どっちが1位通過したのかなー?」

 

「え……ええっと……それは……」

「ネロ様! 我ら二人とも、敗退したにございます! 決勝戦は見事なるサムライ同士の戦いで在りました! いやあ、敵ながら天晴なものでして!」

 言葉を濁らせるデ・アシスだったがそれを無に帰すように、ドンキノフが意気揚々と事実を告げた。それと共に……。「は?」とネロは一瞬、黒いオーラをその場に漂わせる。

「え、ええっと、ネロ様、これはですね!」

「……黙って。デ・アシス」

 ネロは水晶玉を取り出し、何か操作していた。おそらくライト級の試合の様子を魔力を使ってさかのぼって見ていたのだろう。しばらくその場に立ちどまったのち……彼は言う。

「そーだね……ドンキノフは観客を沸かせたから、特別に許してあげよっかな。よくやったね。パートナーのバカがなかったら、絶対君が勝ってたよー」

「お褒めにあずかり光栄でございます、我が魔光大帝!」ネロの大きな手に頭を撫でられながら、ドンキノフは照れたように言った。……続いて、ネロは言う。

「あ。サムライに普通に負けたデ・アシスは許さない。ヴィルジニアちゃん、お仕置き」

「えっ、そ、そんなネロ様、どどどどうかお慈悲を、ア“ァ──ーッ!!」

 

 

「すげー奴だべな……ネロ様って……」

 シャイン・コロシアムは上空まで、空を飛べる超獣たちでいっぱいだ。その中にトドロキたちも混ざっていた。

 それほどの超獣の前で遠慮なく臣下にお仕置きを与える姿を見せても、なお鳴りやまないコールの嵐。キッドの言った、超ド級のスター選手……それこそがこの魔光大帝ネロ・グリフィスだった。

「なんにせよ、普段は代表にはあのフェルナンドを立ててめったに試合に出てこねえんだよ。この人込みも、その魔光家の当主を一目見たいって集まったからなんだよなあ」

「めったに出てこないというか」キッドが続ける。「第67回大会に気まぐれで初出場して、それっきりですよ……」

 

『魔光大帝ネロ・グリフィス選手! 良かったらインタビューの方、よろしいですかぁ?』

 パーネイチャーがラ・ウラ・ギガを操作して彼の下へ向かう。

「んー。別にいいけど」

『普段は試合に出ないあなた様……何故、第百回大会にご参加を?』

「えー、だって暇だったもん」さっくりと彼は答える。「ちょうどキリもいい数字だし、空前絶後の大規模開催っていうんなら、参加くらいしてあげてもいいかなって」

『で、では、逆に今まで参加なされなかった理由などはございますか?』

「そんなの決まってるでしょ」ネロは、淡々と述べた。

「一度優勝しちゃったら、もう飽きちゃったから」

 

「……えっ?」上空で、トドロキはキッドに聞いた。

「あいつ、1回だけしか参加したことないんじゃ無かったべ? なんで、優勝?」

「いえ、だから……」と、キッドは言う。「その67回大会で、初出場で優勝して、それっきりまた表舞台には出てこなくなってたんですよっ!」

「そんだけの相手だ、こんくらい観客も、集まるってもんだぜ……」

 

「ってか、インタビューにももう飽きた」最後にネロは言った。

「ヴィルジニアちゃんにご飯あげなきゃならないし、これでいいよね」

『あっ、はい! ありがとうございましたー!』

 

 今度こそ満場のネロ様コールの中、魔光大帝ネロ・グリフィスは静かにシャイン・コロシアムから立ち去っていった。ヴィルジニアとドンキノフ、……ボロボロになったデ・アシスを連れて。

 

「ふっ……さすがだな、ナイトの長……」

 バイケンはゆっくりと、コロシアムの中立ち上がりながら言う。

「だが……我らの計略に、狂いは無し……必ずや『目的』果たして見せよう……」

 

 

 

「いやー。すごかったべな―っ!」

「ええ……この戦国武闘会、あれほどの相手とも同じ舞台で戦うということなのですね……!」

 キッドはそう、自分自身を引き締めるかのように言った。

「そう思うと、なんだか……不安にならないと言えば嘘になりますが……それ以上に、胸が高鳴りますね」

「そう来なくっちゃ! だべ!」

「そうだぜ」ベンケイは笑う。「なんにしろ、おめーらはこれで予選も折り返し……次の試合からは、ミドル級の選手とも戦うことになるんだからな!」

 

 そうだ。

 トドロキたちは6回戦行われる予選のうち、これにて半分を通過したことになる。

 次の試合からは一回り大きい、ミドル級との垣根がなくなる。

「気合入れてくべ! キッド!」

「ええ……君とはいいパートナーでしたが」キッドは凛然たる声で告げた。

「君と当たったらその時には……容赦しませんよ!」

「そいつはこっちの台詞だべっ!」

 そう無邪気に笑いあう二人のもとに、「さすがだな……キッド。そう来なくては」と現れる姿がある。キッドはその声に、はっと振り向いた。

 

「《聖帝》様」

 それは進化を遂げた、大きなアーク・セラフィム。キッドは慌てて、お辞儀をする。

「おっちゃん誰だべ?」

「牛若剣士トドロキといったな。このライトニング・キッドと組んでくれて、ありがとう。……私は《聖帝リオン・ザード》。光文明はシルヴァー・グローリーで……予言者たちと共に、光文明のトップを担わせてもらっている」

「えっ、ってことは、光文明の王様みたいなものだべかぁ!?」

「そうですよ」とキッド。ベンケイが慌ててトドロキに頭を下げさせたが、リオンは「はは、結構だ、そんな態度を取らずとも」といった。

「キッド。試合を見ていたぞ。君は本当に、良きパートナーに恵まれたな」

「はい!」

「では、帰ろうか」

 リオンはキッドを連れて立ち去ろうとしたが、その時……トドロキは言った。

「キッド!」

「なんでしょう!?」

「オラたち、もうパートナーじゃないかもしれねーけど……ライバルになっても、ずっと友達だかんなっ!」

 

「……」その言葉に息をのんだのは、リオンであった。「少年」彼は言う。

「このキッドと、友人になってくれるのかね?」

「なるも何も、もう友達だべ? なあ、キッド!」しかし全く物おじせずに、トドロキも続ける。

「『戦いを通じて誰とでも仲良くなる』……それがオラがジュウベイに誓った、サムライ道だべよっ!」

 

「……そうか。ありがとう、少年」

 ほら、キッド、返事は? リオンにそう促されて、茫然としていたキッドも、初めて口を開いた。

「ええ! ありがとうございます、トドロキ……友人同士なればこそ、お互いに研鑽を積みましょうね、この戦国武闘会で! 今日は本当に、ありがとうございました!」

 そして今度こそ、光文明の二人は夕焼けが照らすコロッセオ・シティの雑踏の中に消えていく。

「キッド……来たるべき日の、聖霊王よ」リオンはキッドと共に歩みながら言った。

「君にも、必要であったのだな……友なる存在が」

「聖帝様」キッドもそれに続く。「そんなに、気負わないでください。僕は大丈夫ですから……全部、大丈夫。僕は皆の期待に、答えて見せます」

 

 

「行っちまったな……ライトニング・キッド」

「ちょっともったいないくらい、いいコンビネーションだったのにねー」

 急に頭上から降ってきた声にトドロキとベンケイが慌てて振り向くと、そこにはシャーマン・メリッサの姿。

 

「メリッサ姉ちゃん!」

「ウフフ、トドロキ、お疲れ! もう、優勝したコンビが急に空飛んで消えてっちゃうんだもの。あたしもショーさんも、収拾付けるの簡単じゃなかったのよ!」

 もっともそれどころじゃないくらい皆ネロ・グリフィス選手に夢中だったけどね……彼女はぼそりと呟いた。

「でも、最後の別れまでさわやかじゃない。トドロキ。そうね……あんた、誰とでも本当に、仲良くなっちゃうもんね」

「だへへっ、勿論! そこはオラのサムライ道だ、譲れんべよ!」

 

 

「ねえ……」

 夕焼けの中歩きながら、メリッサはトドロキに聞いた。

「そのサムライ道、って何? みんな言ってたわね。キビダンボーラー選手も、ヒゲマロ選手も、ビワノシン選手も、ムネミツ選手も、弥太郎選手も……みんな、全然言ってること違ったけど、何なの?」

「サムライ道はサムライ道だべ。特に決まりはないべよ!」戸惑うメリッサ。しかし普段の能天気さとは裏腹の凛とした声で……トドロキは続ける。

「みんな、自分の好きな『信念』を……自分のクロスギアに誓うんだべ。それがサムライ道。なんだっていいけどサムライなら必ず、持ってなきゃあかんものだべ」

「そうそう」それに続いたのはベンケイだった。

「サムライ道を持つこと。それが……サムライがクロスギアを握る絶対の掟だ。……『最終魔導具の悲劇(カタストロフィー)』を再び起こさねえためのな」

 武器は、戦うための道具だ。ベンケイも、そのとぼけた顔に似合わない真剣な声音で呟く。

「ただ力を振るうために在るんなら、オレたちは絶対に武器には叶わねえ。ただ強くなりたい、何でもいいから勝ちたいなんて奴は、最後には武器にのまれちまうのがオチだ。だから、そうならねえために、オレたちはクロスギアを持つ理由を、信念を持つんだよ……武器が、武器のままだけじゃ持てないもんを。心ある『戦士』だから持てるもんをな」

 

 ……クロスギア。魔導具。

 ……それはかつて、呪われた武器だった。

 

 遥か昔、この星は一回滅んでいる。そしてその悲劇は……クロスギアによるものだった。

 

 

 

 

「自由にある」

 誰もいなくなったブルー・コロシアム。

「師の教えを守る」

 一人の超獣が、そこに居た。

「剣術とはアート」「サムライに献身する」

 そこが自分の家でもあるように、我が物顔で。

「戦いを通じて、みんなと仲良くなる」

 不思議な、青い姿の超獣。トドロキを雪山で見かけていた彼女は……くすくすと笑う。

 

「面白いことを考えるわね。サムライたちは……クロスギアの力にのまれないために、と。かわいいこと。本当に……可愛い」

 その笑いは何からくるものであるか。

「所詮、すべては私の手の内なのに」

 

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