Saga of Creatures〜Battle Galaxy~ 作:hinoki08
第一話
この惑星は、一度滅びている。クロスギアの手によって。
それは、一万年以上も昔のこと。彼らはその時代を『旧世界』と呼んでいる。
その時代では、クロスギアは今以上に普通の存在であった。今でこそクロスギアを持つものは「サムライ」と呼ばれ特別視されるが、その時代においてはクロスギアの力無くしての生活は、そしてクロスギアの力無くしての戦争は、ありえるものではなかった。
超獣たちはいつしかクロスギアへの畏敬を忘れ、代わりにその強大さに溺れ続けていった。
超獣たちはより強いクロスギアを求め続け、発掘を、開発を続け、クロスギアを使った世界戦争は激化の一路をたどっていった。
そして最後に彼らがたどり着いたのが、最終魔導具の悲劇(カタストロフィー)。
《カタストロフィー》の名を冠する5つの魔導具が発掘されたことが、すべての悲劇の始まりであった。
5つの魔導具はそれぞれ導かれるように5つの文明に納まり、そして……めいめい、所有者の力を離れて暴走し世界をその圧倒的な力で飲み込みだした。
世界戦争を行っていた5文明は、何の意思も、目的も、悪意もない、ただの『道具』であった彼らによって滅ぼされた。
……この惑星が滅びの危機に瀕したことは多々あれど、本当に「滅んだ」のその時だけの話。
《五体の王》の時代に現れた《龍炎鳳》、《不死鳥》の時代に現れた《ビッグバン・アナスタシス》、そして極神戦争の折に現れたボルフェウス・ヘヴン……世界を救う英雄たちも、その時ばかりは現れなかった。
僅かばかりの生き残りを残して、クロスギアは世界を破滅しつくした。
……そんな彼らと、なぜサムライはまた共に戦いだしたか。
極神戦争が終わってしばらくしたのち、そんなクロスギアを再び発掘したものがあった。
彼の名は《アルティメット・景虎・ドラゴン》……世界を救った英雄、武者・ドラゴンの息子であった。
呪われた武器が再びこの世に現れたことに、当然景虎の周囲の超獣たちは戦々恐々とし、今すぐにでも破壊しつくしてしまうようにと口をそろえて言った。この平和を護るためと。だが……景虎は、こう言ったという。
「見まごうな。ここに、罪の武器などない。そのようなものは、どこにもなかった。あったのはただ……彼らを通じ現れた、我々戦士の罪のみだ」
そしてその瞬間……世界で最初の「サムライ」が誕生した。
「魔導具を操る戦士」ではない、「サムライ」という存在が。
景虎は、クロスギアを修復した。
そして「信念」を持ち、彼らと共に在ることを決めた。
自分達の悲劇の歴史から、目をそらさないために。今度こそ同じ過ちを繰り返さないために。
……そんな景虎の子孫、すなわち英雄武者の子孫、当代のその名はボルメテウス・剣誠・ドラゴン。
そんな彼は今、自分の前に「無念です」と跪く二人の師範代を見据えている。
「何、面を上げよ。気にはするな。お前たちは、お前たちに出来る最善を尽くしたのだ。3位通過を果たせただけでも、立派なものではないか」と、剣誠は彼らに向かって言う。
「かの魔光大帝……67回大会で見た時から、まったく腕は落ちていない。さすがの実力だ」
奴の言う通りかもしれぬな、と剣誠はうなずいた。
「『新』の頭領が自己研鑽のためと予選免除を辞退したことに、ほとほと頭が下がる思いだ。お前たちをぎりぎりまで鍛錬しようかと思ったが……どうやら儂も、うかうかはしておられぬようだな」
その鷹揚な態度に、ボルグゲンパクとジオゴクトラも今一度頭を上げる。魔光騎士団に、新一派。このサムライの源流『誠道場』のライバル的存在は多いというのに、この剣誠は彼らにライバルとしての敬意は払えど、いたってピリピリとした敵視の感情は抱かない。常に穏やかだ。
伝説の英雄、武者もそんな性格であったと聞く。血の気の多い火文明の土地には似合わぬほど、穏やかで聡明なドラゴンであったと。
『……お前はほとほと、武者に似ておるな』
『……昔を思い出す』
そして、彼の座す師範の間にいる『存在』がポツリとそうつぶやく。
『薩摩の超人はともかく……ネロ・グリフィスはお前をも滅ぼさんと考えておるぞ』
『《魔光神》は……我らの存在をよく思ってはおらぬ。奴も、神の思いのままに動こうぞ』
「ええ。ですから、後悔しておりますよ……予選を辞退したことをね」
剣誠はその声に厳かに返答する。神秘的にたなびく金色の体毛をキラキラと輝かせながら。
その声の主は《朱雀神ガリョウ》に《白虎神テンセイ》。……この誠道場を、サムライの源流を守護する《ゴッド》たち。
「儂も早く、彼らと覇を競いたい。そして……武者の悲願であったかような時代が、決して覇権争いの場ではないことを示さなくてはならないと、後悔しております」
『……ふっ。本当に、お前は欲がない』
『武者も、景虎もそうだった。だからこそ私たちは神でありながらサムライとなり……お前たちを守護しようと決めたのだ。武者宗家よ』
「儂も、漫然と構えている暇はない」剣誠はそう言い、1対のクロスギアに手をかける。
「本戦に進むまでに、少しでも自己を磨き上げねば……お相手頂けるか、神々よ」
『もちろんだ』
『相手になろうぞ』
「師匠!」二人の師範代たちも言う。
「我々も、及ばずながら……」
「嗚呼、勿論だ。是非とも、鍛錬に付き合ってくれい。……わが自慢の弟子たちよ」
武者の子孫、剣誠。彼が扱うのは、2つで1つの双剣。彼はすらりと、鞘からそれを抜いた。
『こちらミラクル・ショー! さてはて、大盛り上がりに盛り上がってる戦国武闘会予選も折り返しだ! そして……注目すべきは! 先日のネロ・グリフィス選手の圧倒的勝利を受けてか……彼の率いる魔光家に留まらず! 各地の予選でナイトたちの大活劇がサムライをもしのぐ勢いで繰り広げられてきたぞぉ──ッ!!』
『こちら、フィオナの森大4地区にて行われておりますライト・ミドルBブロック! すごい……これはある意味、騎士らしくもなく、そして誰よりも騎士らしい泥臭さです、《魔光王機デ・バウラ伯》選手!』
深い森の中で実況を行うのはJKパーネイチャー。Bブロックの試合は森の中で行われるバトルロイヤル形式だ。
そしてその中で……何人もの騎士の屍と共にたたずむ存在が一つ。
「無駄だと言っておるのが分からぬか!」
声の主は《バーサーカー》のサムライ、《陰陽の伝道師セイメイ》だ。
「私は新一派屈指のナイト・キラー。貴様らの魔弾の攻撃も、こざかしい魔銃の撃ち方も、一切私には通じぬ!」
「……ああ、そうだな。『新』のサムライ共の技術がここまで上がっているとは……俺たちとしても、予想外だったよ」
答えるのはボロボロになりつつも魔銃を下ろさぬグレートメカオーのナイト、魔光王機デ・バウラ伯。そう、セイメイの周囲に散らばるのは……彼と同じ魔光家のナイトたちだ。
セイメイの体を包む特殊なエネルギーは、魔弾の対抗策に特化している。生半可な魔弾では、彼の体を包むオーラに弾かれ、彼にダメージを与えることすらできはしない。
唯一の生き残りとなったデ・バウラも、あらゆる魔弾の攻撃を空かされたまま攻撃を食らい続け、疲労困憊の様相を呈してきている。
「ちっ、ここまでされちまっちゃ、全員ネロ様にお仕置きかな、こりゃ……」
「貴様も、そのようなざまをさらしておきながら尚も立ち向かってくるとは、無様な奴! さっさと降参せい!」
セイメイが自分のクロスギアを抜き、デ・バウラに攻撃を仕掛ける。だがデ・バウラは「……お断りだね」とにやりと笑った。
「生憎だが俺は魔光家じゃ実力派で売ってるんだ。甘く見んじゃねえぞ。それにな……」彼はそれでも魔銃を構え、言い放つ。
「サムライ相手に降参することの、どこが騎士道だぁ!? どんだけボロボロになろうがなあ、騎士は決してサムライに頭なんて下げやしねえんだよ、それが騎士の誇りだ、覚えとけ!」
魔弾プラス・ワン! と彼は唱える。すぐさま、魔弾はバリアとなって彼を護った。
「無駄だ!」セイメイはそれを打ち抜く。だが……その時だ。
「悪いな。プラス・ワンは奇跡を起こす魔弾……洗練された使い手によれば、ただのバリアじゃなくなるんだぜ」
何? とセイメイがその言葉に反応せんとした時のことだった。破壊されたプラス・ワンのバリアの破片が空中に乱舞したまま……一気に発光する。
「《スーパー・スパーク》!」
「!! ……これ、は」
それは古典的な、戦闘相手を拘束するための光文明の呪文。魔弾とは違う代物だ。
「俺たち魔光家は最古の家門! 使えるのが魔弾だけだと思ってくれちゃ困るんだよな!」
「……しまった!!」
魔弾ではない呪文による拘束により、セイメイの体は動かなくなり、ガシャンと音を立てて地にひれ伏す。「ぐっ……」と彼はそれでも、クロスギアに手をかけるが……それよりも早くデ・バウラが彼にのしかかり、その巨大な銃口を彼に突きつけた。
「てめえに魔弾が効かないなら……砲撃の衝撃波をそのまま喰らわせてやるぜ!」
「お……おのれ!」
身動きが取れないセイメイにデ・バウラは攻撃用の魔弾を思い切り放ち、大量に飛び散る羽薬莢。魔弾はセイメイの体をよけ、その余波はデ・バウラ自身にも降りかかるが……彼はそれでも、魔弾を連射することをやめない。
「た……耐えてみせる。こんな、衝撃波如き……」
「俺のタフネス、甘く見んじゃねえぞ、サムライ野郎……!」
そして最終的に。
「……はっ。動かなくなりやがった。……俺の、勝ち、だな……」
セイメイはものも言わぬまま、至近距離で受けた魔弾の衝撃波に体とクロスギアを削り尽くされて、あえなく戦闘不能と相成った。
ボロボロのデ・バウラは森の中で一人、ガッツポーズ。
「やっぱり魔光屈指の実力派だな、俺! フェルナンド様に並ぶ魔光の光文明代表の座って、やっぱり俺のものになるんじゃね?」
『これにて制限時間! 魔光王機デ・バウラ伯選手、見事サムライ・キラー、セイメイ選手を下して1位通過です! 見事なまでに騎士のど根性、見せてもらいました!』
「や、やったぜ……ネロ様、ご覧になってますか……」
そのアナウンスと共にふらりと、デ・バウラも地面に倒れた。
『こちら地下闘技場4だぜぇ! ライト・ミドル級Cブロックの試合、一人の選手のおかげでめちゃめちゃに盛り上がってくれちゃってるぜぇ!』
ボッコグーの実況が響くのは、瘴気渦巻く闇文明につくられた予選会場の一つ。だがそこに響くのはその悍ましい世界にも似合わぬほど、華やかな歓声。
「《アヴァクーム》様―っ! 素敵―ッ!」
「シノビどもなんかやっちゃって──っ!」
そんな歓声を一身に受けるのは、闘技場の真ん中に立つ女性ダークロードのナイト、《邪眼ローズ・アヴァクーム公》だ。
薔薇色のマントをたなびかせた彼女は「ふっ……任せていたまえ、私の可愛い蕾たち」と低めの声で観客席に向かって笑いながら、自分に相対するシノビ、《威牙忍クロカゲ》に向かい合っている。
「それにしても本当にすごい人気だぜぇ、アヴァクーム選手! 噂によれば邪眼家のほかの誰のナイトよりも女性人気が高いとか……それにも頷けるくらい優雅さと実力を兼ね備えてくれちゃってるぜぇ!」
「どうも有難う、実況君。さてと……麗しき蕾たちをこれ以上焦らすのも忍びない」アヴァクームは魔銃を構え、その先端からは薔薇の文様の描かれた魔法陣が展開される。
「とっとと、君には消えてもらおうか! 魔弾デュアル・ザンジバル……『悲劇の赤薔薇』!」
とたんに会場中には、不気味なほど赤い色をした花を咲かせた茨が沸き上がる。クロカゲがそれに気が付き「クッ」と声を上げた。
「まだまだだ……出でよ、ライデン!」
「呼んだか、クロカゲ!」
クロカゲはアヴァクームの攻撃が本格的に始まる前にニンジャ・ストライクを発動。たちまちのうちに亜空間から現れた光牙忍ライデンが一瞬のうちに拘束光線を放ち、アヴァクームの動きを止めようとした……のも、つかの間。
「ぐっ……」
「どうやら、私の薔薇の魔力が発動する方が一足早かったようだな」
ライデンも、そしてクロカゲも、反撃する暇すらなく会場中に立ち込めた薔薇の香り……そのかぐわしき瘴気に包まれるとともに無様に倒れ伏す。そしてそれと同時に赤い薔薇たちは彼らの生命力を吸い取りでもするかのように、その強い緋色を増していく。
「弱きものは散りゆくのみ。それはまるで枯れ果てた薔薇のように」
アヴァクームはそう言い、指をパチンとならす。たちまちのうちに花を咲かせた茨たちは二人のシノビに襲い掛かり、ライデンが亜空間に戻るのを待つ暇もなく、彼らの生命力を吸い取り尽くした。
「勝者、邪眼ローズ・アヴァクーム公! だぜぇ!」
「アヴァクーム様、さすが―っ!」
湧き上がる歓声に「君たちのおかげさ、ありがとう、可愛い蕾たち」とアヴァクームは金の仮面越しにウインクを一つ。そして、魔銃の銃口を宙に向けて放つ。
とたんに空中に魔法陣が展開されたかと思うと、そこからは華やかな緋色の薔薇がパラパラと降り注いだ。観客たちははしゃぎながらそれを奪い合う。
「ファンサービス精神も旺盛だぜぇ、さすがは邪眼屈指のモテモテ選手!」
『こちら、山岳闘技場イ地区! ヘビー・ウルトラヘビー級予選Bブロック、巨大選手たちによるルール無用の大乱戦も、間もなく制限時間が近づいてきているぜ!』
火文明の果てしなく広がる枯れ果てた山岳地帯。そこにて行われる大乱戦を実況するのはチョッキーだ。
「〈鬼森モビル・ジャングル〉……まだまだ、私に力を貸せぃ!」
そう叫ぶのは誠道場に所属する《戊辰の超人(ヒジカタ・ジャイアント)》。まるで森が意思を持って動くかのような巨大な樹木でできた傀儡を携えて、一騎当千の活躍ぶりであったが……制限時間ちょうど寸前となり、それを止める存在が現れたのだ。
「そこまでやってくれるのならば、騎士としてこちらも喜ばしい限り」
リヴァイアサンと合体した超巨大サイズの精霊……天牙海聖キング・サプライズだ。巨大なジャイアントの体をもってしてでも圧倒されかねんばかりの迫力。
「魔弾ストリーム・サークル!」
「なんの! ともに受けきるぞ、モビル・ジャングル!」
リヴァイアサンのサイズの魔銃から膨大に放たれる水流。しかしそれをも吸収しつくす動くジャングルの傀儡。
そのすきに、戊辰の超人は自分自身でも肉弾戦を仕掛けに、キング・サプライズに襲い掛かる。
「この命、戦国の世に捧げん!」
ジャイアントとも思えぬ軽い身のこなしから、強大なキング・サプライズの身に入る強烈なボディーブロー。思わず、サプライズもうめいた。……その時である。
光線が一筋、ひらめいた。それはサプライズの攻撃を受け続けるモビル・ジャングルの方に直撃する。
「ユリウス!」
その正体はサプライズと同じく、天雷のトップ三人衆をつかさどる存在、天雷の聖霊ユリウスの放ったもの。
「サプライズよ、お前は彼との戦いに注力しろ! モビル・ジャングルとの戦いは私が承った!」
「かたじけない……助けてもらおう、我が同胞よ!」
「何を!」戊辰の超人はそれに怯む様子も見せず、なおもサプライズにその素早さをもって攻撃を続ける。
「助けが来ようと同じこと! 我が相棒、そう簡単に敗れると思うな!」
「生憎だが……対クロスギアならば、私の大得意だ!」
そしてその言葉通り……ユリウスは自分に襲い掛かってくる、自分よりもはるかに大柄なジャイアントサイズの傀儡に、落ち着き払ったまま魔弾を1,2発放つ。すると……それはモビル・ジャングルの急所を的確にとらえ、たちまちのうちに彼を、攻撃する暇も与えずに、ぱらりとただの木々の塊へと変えてしまった。
「なっ……!」
あまりにもあっさりと自分の相棒が破られた姿を見て、動揺する戊辰の超人。そのすきにサプライズは「隙あり!」と魔銃の標準を彼に合わせる。
大量に飛び散る羽薬莢。戊辰の超人本体の姿も、宙に浮いた。
ジャイアントが倒れずしん、とその場に地震が巻き起こる。それと同時に。
『これにて、制限時間! ただいま戦闘可能な選手が、予選通過だ!』チョッキーの声が響く。
「チッ、時間切れか……詰まらんのぉ」
そういって現れた姿があった。……維新の超人だ。
「戊辰のやつ、こんなんに二人がかりでやられおって……オレが3人まとめて破ってやっても良かったぜよ」
「生憎だが、制限時間が来てしまったからね。これもルールの一環、これ以上の戦いは場外乱闘になってしまう」冷静に言うのはユリウスだ。
「君との戦いは、のちの楽しみにとっておくことにしよう」
「ふん、二人がかりじゃなきゃ戊辰を倒せなかった奴らが、生意気な口を利くのぉ」維新の超人は舌打ちして、二人の天雷の精霊を睨み付ける。
「オレのライバルを勝手に獲った罪は重いぜよ、そんことよぉ覚えておくぜよ」
「こちら、天空闘技場α。ライト・ミドル級Eブロック、ただいま、1位通過の選手が決定いたしました」
天空で冷静に響き渡るのはラ・ウラ・ギガプロトタイプ1号の声。「くっ……」と、悔しそうな声を出したのは鳥人種族《フェザーノイド》のサムライ。彼は傷ついた翼をかばいながら、「私の戦国武闘会も、これまでか……」と呟いた。だがそんな彼を背に乗せつつ空を飛ぶのは、一人のナイト。
「そう仰らずとも。貴方の戦いぶりも、見事なものでしたよ」
それは虹色の鎧に身を包んだ、実に美麗な種族《レインボー・ファントム》のナイト《幽騎士ブリュンヒルデ》……彼女こそがEブロックの1位通過を果たした実力者だ。
だが先ほどまで自分と戦っていたサムライを介抱するその姿には、ナイト特有のサムライへの蔑みのようなものは特に感じられない。……そもそも彼女の出自自体が特殊なのだ。《幽騎士》……四名家のどこにも属さずに、堂々と魔銃と魔弾を使う騎士。
「ふん、何を偉そうに」
隣を横切った天雷の騎士《天雷霊騎サルヴァティ》がその光景を見て忌々しげに吐き捨てた。
「1位通過だからなんだ……魔銃を与えられた恩義も忘れ、天雷を抜け出した裏切り者が。サムライ如き下賤な存在と馴れ合いおって」
「馴れ合ってなどいません。戦士として健闘をたたえ合うのが、それほどまでにおかしいことですか」
「我々ナイトは貴族として世界を統べるために在るのだ」だがサルヴァティは悪びれもせずに滔々と語る。
「貴様のようにシルヴァー・グローリーに仕えるためにと武術を学んだだけの者に、魔銃など相応しくはない」
「……我々レインボー・ファントムは旧世界の頃よりの『騎士』の種族。そういわれる筋合いはありません」
これ以上話しても無駄だ、とブリュンヒルデが帰ろうとした時だった。彼女の前にまたぞろ、現れる影がある。
「《オラシオン》」
「……姉上。1位通過とは、さすがです」
それは同じくレインボー・ファントムの……サムライであった。
「いいえ、たまたまですよ。……それよりも、オラシオン。どうですか、誠道場での修業は」
「はい。よき仲間のおかげで、何とかやれております」
「シルヴァー・グローリーにはいつ帰るのですか?」
「……」
試合が終わって、天空闘技場から多くの影が引き上げる中、キラキラと七色に輝く二人の戦士はこっそりと語り合っていた。
「お忘れなく、オラシオン。貴女と私は、シルヴァー・グローリーのため……この時代の武芸を学び身に着ける、そのために片や天雷騎士団、片や誠道場の門戸を叩いた身です」
「私は、姉上ほど優秀ではありませんよ」オラシオンはふっと切なげに笑って言った。
「まだまだ、道場を出るには修行の必要な身……とてもではありませんが」
「そうですか……」
ブリュンヒルデはフェザーノイドのサムライを背負いつつ、寂しそうにその場から去っていく。
「オラシオン……私は待っていますよ、サムライとナイトとして、シルヴァー・グローリーの番兵として二人肩を並べる日をね」
『さてはてこちらはヘビー級・ウルトラヘビー級Aブロック! 実況はミラクル・ショーがお送りするぜ! 世界各地でも予選が盛り上がっているが、武闘会の華コロッセオ・シティでの試合はやはり欠かせないぜ! ダーク・コロシアムでは第一試合から、サムライの快進撃をナイトもシノビも押しのけてまだまだ通さんと、一人の選手が登場だ! その名は前大会ベスト16《バルガレイズ・ドラゴン》改め……その身にサムライの魂を宿して登場だ、《流星バルガライザー》──ッ!』
そのアナウンスとともに現れたのは、一人のサムライのドラゴン。先ほどのミラクル・ショーの実況どおり、前大会ではベスト16まで勝ち残った猛者であり……そしてサムライとしては、今大会初出場のルーキー。
「ボルバルザーク・紫電・ドラゴン……本当に、見事な相手だった」
バルガライザーはそのアナウンスを聞き、そして自分のクロスギアに手を添えながら、ただ思う。
サムライも、ナイトもくだらないものと思い込み、ただ自分のあるべき道を進めばよいのだと思っていた自分。そんな自分の前にベスト16の戦いで立ちはだかった、伝説のチャンピオン。その圧倒的すぎる実力。
そして、最後に彼からかけられた言葉。
「見事な試合だった。ありがとう。バルガレイズ・ドラゴン」
たった、それだけ。しかしその言葉には確かに、対戦相手であった自分へのさわやかな絆を感じさせるものであり、そしてその瞬間自分は……サムライという在り方に惚れた。
そして、サムライとなった。クロスギアを得、サムライ道を心に刻んだ。
「自分も、誰かをサムライにしたいと思わせる戦いをしたい」……それが、バルガライザーが心に刻んだサムライ道。
この戦いはサムライとしての自分にとっては初陣。必ずや本選まで勝ち進み、そして……自分こそが、優勝を飾って見せよう。
『さあっ、対峙するは、ナイト、邪眼家から出場! 今回が初出場の……』
ナイト。相手にとって不足は無し。
サムライの戦いを見せつけるのに、ナイトより相応しい相手があろうか。その思いで現れた自分の対戦相手に目を向けたバルガライザーは……ぎょっとした。その、異様な風体に。
ここまで予選を潜り抜けてきたとも思えぬ、はかなげな雰囲気を漂わせたドラゴン。その胸にぐさりと突き刺さった、剣の形をした魔銃。
『邪眼の使徒シーザー選手! それでは両者……「決闘」スタートッ!』