Saga of Creatures〜Battle Galaxy~   作:hinoki08

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第五話

 

「おっ!? 誰かと思えば、ビワノシンどもじゃねえか。残念だったな、予選第三回戦。俺も、見てたんだぜ。トドロキと、おめーらの試合。でも、いい試合してたぜ、おめーらも」

「ご、ご覧になっていたでありまするか……光栄でございまする」

「い、いえっ! 今はそんなことより!」

 ようやくビワノシン達の存在に気が付いた信玄の声を、慌ててビワノシン二人は遮る。

「信玄兄様! 兄様にご子息様がいらっしゃったなんて、初耳でございまする!」

「ん、そういえばおめーらは、トドロキが自然文明に引っ越してから門下生になったもんな、トドロキのこと、よく知らねーよな」

 改めて紹介するぜ、と、信玄はトドロキを抱きかかえたまま言う。

「オレの息子のトドロキだ。これから、よろしくな」

「よ、よろしくでございまする……」

「トドロキ殿……よく道場に遊びに来られていたというのは、そういう事であったのでございまするね……!!」ようやく腑に落ちたという顔をするビワノシン達。戊辰の超人も「何を話しているかと思えば」と話に入ってきた。

「よくよく見れば、トドロキ君じゃないか。大きくなったものだな、もう武闘会に参加するようになったのか」

「わー! 戊辰兄ちゃん、久しぶりだべっ! だへへ、オラは順調に勝ち抜いているべよっ!」

 

「……いや、待て!」

 のどかな雰囲気になりそうなところ、入ってくる一つの声がある。バルガライザーのものだった。

「『あの』ボルベルグ信玄の息子だとっ!? 少年、貴様、そのようなことをもしかして……今まで黙ったまま戦国武闘会に参加していたのかっ!?」

「? そうだべ?」

 バルガライザーの慌てた様子に、トドロキはこともなげに返す。しかしビワノシン達も、「い、いえ、トドロキ殿! それは凄いことにございまするよっ!」とバルガライザーの肩を持った。

「何せ信玄兄様は、サムライの源流誠道場で唯一の免許皆伝を賜り、武者宗家の家宝たるクロスギアを賜った身……のみならず! ただでさえほぼいないミドル級での優勝経験の持ち主!」

「しかもその戦い、第97回大会決勝戦は……師匠たるボルメテウス・剣誠・ドラゴンとの一騎打ちの末の、盛大なる恩返し! 世界中が湧きたった戦国武闘会史に残る名勝負!」

「わかっているのか、少年!? 貴様の父は、それほどの存在なのだぞっ!」

 

「父ちゃんの決勝のことはよーく知ってんべよ、オラもちっちゃい時だけど、見てたべ! 父ちゃん、かっこよかったべなぁ!」

「あったりまえよ、お前の父ちゃんだぜ!?」

 またぞろのんきにじゃれ合いあうトドロキ・信玄親子。その二人を前に「いえ、だからっ!」とビワノシン達は声をそろえる。

「どうして、言ってくれなかったにございまするかっ、トドロキ殿! そうと知れば改めて、ご挨拶もしたかったものを……」

「確かに、それは不思議だな、トドロキ君」戊辰も、それには同調したようだった。「信玄兄様の子ともいえば、箔の一つもつくものを」

 

「ハク? ……オラ、よくわからんべ」

「ビワノシン、戊辰、それにあんた……確か流星バルガライザーだったな」信玄はトドロキを腕に抱いたまま話した。

「悪い悪い、確かにビワノシン達には水臭い結果になっちまったな。けどよ……こいつは、オレの教えでもあるんだ。トドロキには、『トドロキ』として初陣を飾ってほしかった。『信玄の息子』としてじゃなくてな」

「そ、そうなのでございまするか……?」首をかしげるビワノシン二人。だが「ああ」と信玄は返す。

「お前ら、トドロキに負けただろ? その時、ああこいつ強いなって、こんな強い奴がいるんだ、自分たちももっと精進しなきゃな、って思わなかったか?」

「はい、思いましたにございまする」

 二人そろって、返答するビワノシン。

「思っても見ろよ。それはトドロキの強さだろ。トドロキの強さが、お前らに届いた結果だろ。……けど、最初っからこいつが俺の息子だなんて知ってみろよ。お前たちは同じように思えたか? ……『なるほど。信玄の息子なら、強いのも当然だ』って思ったんじゃねえのか?」

 その言葉に、はっとするビワノシンたち。素直に聞き届けてくれたその様子に、信玄はさらに薄く笑いながら言った。

「だろ? 自分の強さが他人の手柄にされるなんて、悲しいじゃねえか。師匠位卓越した戦士ならばそれを自分のことにも昇華できるけどよ……トドロキには、そんなこと、まだまだ荷が重すぎらぁ。誰が世界一愛するてめえの息子に、そんな思いを味わわせるってんだよ」

「なるほど……」嘆息したのはバルガライザーだった。

「親としてもサムライとしても、さすがに見事なものだな、ボルベルグ信玄」

「ありがとよ、バルガライザー」信玄は薄く笑う。

「それにトドロキのためだけじゃねえ。ビワノシンやほかの若いやつらのためにもならないしな」

「どういうことにございまするか?」

「簡単よ。強い奴の子供だから負けて当然だな、なんて思えてお前ら、楽しいか?」

 その言葉に、再度ハッとさせられる一同。「だろ?」と、信玄は言う。

「そいつ自身の実力で叩きのめされたんなら、お互い気持ちいい試合にもなる。けど、その後ろにその場にいない誰かがいたんじゃ、そのせいで負けたんだなんて思っちゃ、せっかくの楽しさが台無しだぜ。誰の子供に生まれるかなんて、自分じゃどうしようもないことに、勝敗を決されたんだなんて思っちゃな。……俺はトドロキにも、お前らにも、そう言う思いをしてほしくないだけだ。お前らには精一杯、勝っても負けても、楽しく戦ってほしいんだよ」

 

「信玄兄様……」

「我ら二人とも改めて、兄様と同じ道場で修業できたことを、誇りに思いまする……!!」

 ビワノシン兄弟はその言葉を聞き目をウルウルと輝かせている。

「私もだ」と戊辰の超人。「さすがは、免許皆伝を賜った兄様」

「だべー、父ちゃん、慕われてんだべなぁ!」

「トドロキよぉ」ベンケイはふっと一つ嘆息する。

「おめーは本当に幸せもんなんだぜ。それを当たり前に受け取りすぎて、気が付いてないかもしれねえけど……本当におめーは、幸せもんだよ」

 

 

「ところで、トドロキ!」

 バルガライザーと鍛冶の行商がファイナル・バルガアーマーの修理のため鍛冶の行商の鍛冶場に帰ってしまったあたりのタイミングで、信玄はバシリと言葉を切り替えた。

「見つかってよかったぜ、実はオレ、おめーのこと探してたんだ」

「だべ!? なんかあるんだべか、父ちゃん!」

 そのお言葉を聞くなりにやりと笑って、信玄は自分の参加者証を取り出す。そこに書かれているのは……。

 

「ライト・ミドル級予Aブロック、『戦国ドリームチーム大合戦』!?」

「そうだぜ、これこそがオレが次に配属されているブロックだ! そしてトドロキにベンケイ……お前ら、オレと組んで戦う気はねえかっ!?」

 

 

 ライト・ミドル級Aブロックの概要はこうだった。

 配属された選手たちは各自、自分を含めた5人のチームを自由に構成し、そのチーム同士で勝ち抜き戦のトーナメントを行う。

 通過は上位2チーム、計十名。

 どれほど強力なチームを組めるか否かが勝敗を決すると言っても過言ではないルールだ。そこを……。

「父ちゃん、オラを選んでくれるんだべかぁ!?」

「勿論よ、トドロキ! おめえはもうオレと一緒に戦えるだけの力もあるって、第三回戦を見ていてわかったからな」

「やったー! やったべ!!」ぴょんぴょんと跳ね上がって、トドロキは嬉しそうに笑う。

「オレももちろん一緒に行くぜ、信玄」ベンケイも笠を目深にかぶりなおして言う。「あと、二人、あてはあるのか?」

「誠道場の後輩どもからだれか選ぼうと思ってるぜ。どうせなら若いやつらの方がいいな。仮にも道場にゃ世話になった身だ、何かの形で後進の育成もしたいからよ」

「だとすれば、ぜひとも私から紹介したい相手がいますよ、信玄兄様」そう発言したのは戊辰の超人だった。

「お? どんな奴だ? 紹介っていうからには、オレの知らない奴か?」

「はい。最近入ったばかりなのですが……信玄兄様のことを剣誠師匠にも劣らぬほど尊敬しておりまして。のみならずその実力も才能も、確かなものです。信玄兄様と共に戦えたら、ぜひとも彼にとっても良い勉強になると思います。ビワノシン。《ソウジ》を探して、呼んできてはくれないか」

「わかりましたにございまする!」

「お待ちくださいでございまする!」

 その問いかけにぴょこんと跳ね上がって、たちまちのうちに走っていくビワノシン達。「ソウジ……それが、そいつの名前か?」

「はい。《電磁勇騎ソウジ》と申します」

「どんな奴だべかー!? オラも早く会ってみたいべ!」トドロキも目をキラキラさせて待ちわびている。……と、そこにだ。そのソウジよりも一足先に現れる影がある。

 

「トドロキ、ベンケイ! ごめんなさい、ちょっとトラブっちゃって、遅れちゃって……」

 ようやくやってきたメリッサだ。彼女は浮遊結晶の上から「あら?」とトドロキたちの方を見て首をかしげる。

「ボルベルグ信玄選手に、戊辰の超人選手? なんでまた、こんな……」

「あれ? 実況の姉ちゃんじゃねえか」信玄の方も首を傾げた。「こいつぁ、オレの息子だよ。戊辰もオレの後輩だから一緒に喋ってたまでだが……あんたの方こそ、トドロキとどういう関係なんだ?」

「息子!? ボルベルグ信玄の!?」結晶の上から降り立ちながら、メリッサも当然、その事実には驚きだ。「トドロキ……あんた、そんなこと今まで自慢せずに黙ってたのね……偉いじゃない。益々、好きになっちゃうわ」

「そーだべか? ありがとうだべ、メリッサ姉ちゃん」

 ボサボサ頭をわしゃわしゃと撫でながらトドロキを褒めるメリッサ。「んん?」と、その言葉に信玄は言う。

「何かしら?」

「今、あんた、こいつのこと好きって?」

「ええ、そうよ」メリッサは胸を張って言う。「なんにしてもあたしは、この子のファ……ちょっと、なんでそんなじろじろ見るの? 信玄選手」

 ふーむ、と信玄は顎に指をあてながら何かしら考えているようだったが、やがてにかっと笑っていった。

 

「そっかそっか、トドロキもこんな別嬪さんとなぁ……! 悪くねえな、トドロキの嫁さんにはよ」

 

「……は!?」と、ベンケイ。

「父ちゃん、何言ってんべ!?」

「そっ、そうよ! あたしの言った好きってのはそんな意味じゃなくて……というか、あたしとトドロキいくつ離れてると思ってるのよ!? あたし妖精よ! ヒューマノイドのあなた達の考える見た目よりも長い時間を生きてるのよ!」

「なーに、年上の女房は金の草鞋を履いてでも、なんて言うぜ!」信玄は慌てる三人とポカンとしている戊辰の超人を前にカラカラと笑う。

「シャーマン・メリッサって言ったかな? オレのこと、お義父さんって呼んでくれていいからな!」

「きょ……今日はどういう日なのよ……」先ほどのことも相まって、メリッサは片手で相変わらずトドロキを撫でながらももう片手で頭を抱えた。

「父ちゃん!」さすがにトドロキも慌てている。「オラとメリッサ姉ちゃんは仲良しなだけだべ、お嫁さんなんてそんなんじゃないべ! それにオラまだ十だべっ! お嫁さんもらうには早いべよっ!」

「そうだ、何を早とちりしてやがんだ信玄!」

「いやあ、母ちゃんが死んでからっていうものトドロキの成長が本当に楽しみでよ……トドロキには絶対に母ちゃんくらいにいい嫁さんをもらってほしいと……」

「し、信玄兄様……。少し他の皆さんの話を聞かれては……」

 

 

「信玄兄様!? 今、そう呼んだな戊辰兄様! 本物か!?」

 しかしだ。そんな流れをまたぞろぶった切る声が現れる。

「おお、お前かソウジ!」戊辰の超人が振り返って、ついでに信玄の注意をそれとなくメリッサから反らすかのように言う。

 その場に立つ、赤い鎧と長い髪、目にゴーグルを嵌めた、一見するとヒューマノイドの少年に見える超獣を指さして。

「信玄兄様。彼です」

「お初にお目にかかります!」彼の方も勢いよく、ぶんと頭を下げてお辞儀した。

「誠道場にて修行を積んでおります……《電磁勇騎ソウジ》と申します! 何を隠しましょう……第97回大会決勝戦、貴方の戦いぶりを見て、サムライの道を志しました! ビワノシン達より話は聞いております。ぜひとも、貴方のチームの一員としてお加えください! 決して足は引っ張らないと約束いたします!」

「ふーん……こいつか」

 信玄も彼の方に注目を向けて、少しの間黙っていた。だが、その沈黙もつかの間。彼は「……いいぜ」とにっと笑った。

「戊辰のやつが保証したんだ、間違いはねえだろう。ソウジ。お前の戦い、期待してるぜ」

「ほ、本当ですか!」その言葉にソウジは頬をぱっと赤く染めた。「ありがとうございます! 精一杯努めます!」

「なーに、お前の自然体でやりゃあそれでいいんだよ。さて。あと一人、誰にすっか……」

「あと一人……?」ソウジは首を傾ける。「もう二人は決まっていらっしゃるのですか?」

「あん? ビワノシン達からそれは聞いてなかったのか。ほれ」信玄はトドロキたちの方を指さす。「そこにいるオレの息子、牛若剣士トドロキと、その相棒の風来の雲ベンケイ。それがチームメイトだ、仲良くしてくれよ、ソウジ」

「息子……あなたの、ですか?」

「そうだべっ!」トドロキは跳ね上がってソウジに向かい合う。「ソウジ、よろしくなっ! おんなじヒューマノイドでおんなじくらいの年頃だべ、仲良くすんべよっ!」

「……生憎だが、僕はヒューマノイドじゃない」

「えっ!?」

「僕の本当の種族は、サイバーロードだ」

 

「サイバーロード!?」トドロキは驚く。だって目の前の彼はピロロンのような青い肌もしてなければ、体を護るカプセルにも入っていない。

 だがソウジは、自分の頬をつねって見せてこう言った。

「これはヒューマノイドのそれに似せて作った人造皮膚さ。それと一体化した人造筋組織こそ、僕の体を護るカプセル代わりだ。君の父……信玄兄様の体に似せて、ヒューマノイドのガワを作り上げたってわけさ」

「ひえー、何言ってるかなんもわからんべ……ソウジは頭いいんだべなぁ」

「さすが、サイバーロードだぜ」ベンケイも舌を巻いていたさなかのことだった。

 

「こらっ、《イザハヤテ》! 戻るにございまするよっ!」

「イヤ! ソウジマダ、アソブ!」

 ビワノシン達に止められながらやってくる一つの存在があった。

 それは白い体をしたパラサイトワーム。「イザハヤテ?」と、ソウジと信玄は振り返った。

「ついてきたのか」

「ソウジ、アソボ! タンレン、タンレン!!」

 彼は低い声でうなりながらも、無邪気な様子でソウジにその体を擦りつけた。

「父ちゃん、こいつは何だべかっ!?」トドロキは驚いて言う。

「パラサイトワームが、言葉をしゃべってる……?」続いてメリッサも驚いた。

 パラサイトワームは知性を全く持たない、狂暴な種族だ。旧世界より続く古い歴史を持つ種族でありながらも、パラサイトワームを使役できるとなれば強い魔力を持ったダークロード達を置いて他にはいなかったはず。それがたどたどしいながらも、言葉を操り、ダークロードではない誠道場の門下生たちと戯れているとは……。

「あー。そっか、こいつが入ったのはトドロキが引っ越した後だったもんな。こいつは《貴星虫イザハヤテ》。……誠道場の前に迷ってたのを、みんなで拾って育てたんだ」

「コンニチハ!」彼はトドロキたちに向けてぺこりと挨拶。

「イザハヤテは頭がいいのだ」戊辰が言う。「パラサイトワームにも似合わず大人しいし、このように言葉も話せるし、終いにはクロスギアの使い方まで覚えてしまってな」

「今では立派なサムライにございまする!」

「イザハヤテも、誠道場の一員にございまする!」

「……そうだ」信玄は面白いことを考えたという風に笑う。

「最後の仲間の一人はお前にするぞ、イザハヤテ! どれだけサムライとして腕を上げたか、見てやろうじゃねえか!」

「シンゲン? ナカマ?」イザハヤテはコテンと首をかしげて不思議そうに言う。

「シンゲンダイスキ! ナカマ、ナル!」

「よっしゃ! これで5人決まりだ!」

「あとは先鋒、次鋒、中堅、副将、大将を決めましょう……とはいえ大将は勿論、信玄兄様でしょうがね」ソウジが言う。

「よーしソウジ、そこはオレとお前で作戦会議だ。サイバーロードの頭の良さ、ばっちり見せてもらうぞ」

「それは勿論! 信玄兄様のためなら何なりと!」

 うきうきとした様子のソウジと、こちらもこちらで次の試合のことを考え楽しそうな信玄。「……どうやら」戊辰の超人は思い切り体をかがめてぼそりとメリッサに向かっていった。

「君のことはなんとかうやむやに終わりそうだな」

「ええ……びっくりしたわ。ま、忘れてくれるならもうそれでいいんだけど……」

 

 しかしだ。

 メリッサの厄日は終わらないと見える。

 

「メリッサさん! どこに行ってたんですか! とにかく俺の話、聞いてください!」

「だから帰れつってんのが分かんねーのかヴァルアーサーッ!!」

 

 ……自分をギリギリとくいとめんとする仲間たちを引きずってやってくるヴァルアーサーの姿がそこに現れたからだ。

 

 

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