Saga of Creatures〜Battle Galaxy~   作:hinoki08

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第七話

 コロシアムに鐘が鳴り響く。

「JK兜パッパラ・ベンケイ、ジェネレート!」

 ベンケイがまず、自前のクロスギアを展開する。続いて、アクア・コテガエシの方も。

「《助太刀メモリー・アクセラー》、ジェネレートッ!」

 彼がそう叫ぶと同時に、小さなクロスギアが分裂し、それぞれがコテガエシの体を包む鎧のパーツとなった。注目すべきは、その両腕を強化するように嵌められたガントレットのようなもの……というより、疑似的な両手そのものだ。

 ベンケイは考える。あれでどうやって攻撃するのだろう? 腕力を強化して殴りかかってくるというのだろうか? それとも飛び道具か? コテガエシは刀も携えているから、あれはサポート系のクロスギアだろうか? 

 何にしても、自分にできることはまず、信じることだ。自分のパッパラ・ベンケイと……そして自分の運の良さを。

 

「さあ、飛び出て驚け! パッパラパラッパ!」

 ベンケイの声が響くと同時に、パッパラ・ベンケイから金棒のような形状のクロスギアを持った腕が現れた。……と、時を同じくして、コテガエシも動き出す。

「なるほど、それがお前の魔道具の力か……よろしい! その『知識』、もらってやる!」

 

 彼がそう言うと同時に、彼の左手のメモリー・アクセラーが急に飛び出した、それはパッパラ・ベンケイから伸びる腕をつかむ。

「なんの! 止めようたって無駄だぜ、こんなんにパワー負けするパッパラ・ベンケイじゃねぇやい!」

 

『ベンケイ選手、メモリー・アクセラーの攻撃を真っ向から受けて立ったぞ! そして……』

 ショーの実況が響いた次の瞬間。

 パッパラ・ベンケイの腕はメモリー・アクセラーの妨害をものともせずにずしん、と最大火力で金棒のクロスギアを振り下ろした。

 しかし、コテガエシは済んでのところでその一撃は躱して見せる。「チッ、ちょこまかしやがって」とベンケイは舌打ちした。……その時だった。彼の耳が、何やら不思議な音をとらえる。

 ピロピロピロ、という耳障りな電子音だ。どこから聞こえてくるのだろう? 

 ……頭上だ。パッパラ・ベンケイにまとわりつく魔道具の左手が、何か動いている。……これは、ただ自分を止めようとしたのではないな、とベンケイも気が付く。しかし、それが何かまでは分らないが……。

 

「見た目にも似あわぬ力……やはり、ボルベルグ信玄がチームメイトに抜擢するだけはある。兄者の言う通りだな」

 コテガエシの方はというと、メモリー・アクセラーを外した方の腕で腰の刀を抜いた。その刀身は水のように自在にうごめいている。まさに水文明のサムライの握る刀に相応しかろう。

「こちらもいくぞ! 行け、メモリー・アクセラー、ライト!」

 彼は右腕のメモリー・アクセラーを今度は拳の形に握らせたかと思うと、それベンケイに向かって飛ばした。やはり飛び道具か! ベンケイはいったん金棒を引っ込める。

「パッパラパラッパ!」彼が叫ぶと、今度は盾のクロスギアが出現し、拳のメモリー・アクセラーをガツンとはじき返した。しかし、そのすきにだ。ひらり、と身軽な身のこなしでコテガエシはベンケイの懐に入っていき、流れるような動作で一太刀を浴びせかける。

 

『おおっと! 最初に攻撃を入れたのはコテガエシ選手の方となったぜ!』

 しかし、ベンケイにとっては。

「なんでえ……意外と非力だな、おめえ」

 一太刀浴びせられたのにも関わらず、思ったほどのダメージは入らなかった。どうやら相手方はまだまだ、サムライとしては未熟なようだ。なるほど。そのパワーを補う、あのクロスギアか。

「わりーな兄ちゃん、俺ぁチビだが、力はそこそこにある方でね」

「……そのようだな」

 コテガエシは間合いを取りながら右手のメモリー・アクセラーを自分の下へ返す。しかし……左手の方は以前として、ベンケイにくっつけたままだ。

「兄ちゃん、こいつの方もとってくれねえかね? 邪魔でしょうがねえや」

「生憎だが、それは聞けない」

「そーかい。そりゃ残念だ」

 パッパラパラッパ! ベンケイはまたもや、掛け声を言う。メモリー・アクセラーは相も変わらず電子音を発し続けているが、パッパラ・ベンケイのクロスギア展開には一切の支障はない。ではこれは、一体なんだというのだろうか……? 

 今度出たのは、薙刀のクロスギアだ。パッパラ・ベンケイの腕はコテガエシに向かってそれを思い切り振る。「グッ!」と彼は、メモリー・アクセラーの右手でそれを受け止めたが……防ぎきれるパワーではなかったと見え、コテガエシはもんどりうって倒れた。

 だが……にやり、と彼は笑う。

 

「なるほど……すべてわかったぞ、お前たちの手のうち」

「な、なんでぇ?」

「私の本仕事はこれで終わりだ。後は……お前相手と、どれほど戦えるか。ふっ、少し荷が重いな。なんにせよ、お前は……999ものサムライのクロスギアを記憶したという『設定』のドリームメイトだからな」

 

「な?」その言葉に多少、ベンケイも動揺する。

 ドリームメイトとは「大作家」によって書きだされる、意思を持った夢の種族だ。彼らはそれぞれがそれぞれの「設定」を背負って生きている。

 だが、自分の「設定」を彼がなぜ知り得たか。……自分の頭上で煩く鳴り響く相手の魔導具の存在から導き出せる結論は、実に単純なものだ。

「なーるほどね。データの解析……それが、あんたのクロスギアの力ってわけかい。悪くはねえじゃねえか。だが……」

 ベンケイは兜から伸びる薙刀のクロスギアに思い切り火をともした。

「それを使いこなしきるには、少し非力すぎたようだな、兄ちゃん」

 

 薙刀のクロスギアは業炎に燃え盛る。「ベンケイ・バーニング!」彼が叫ぶと同時に、炎の薙刀はコテガエシを直撃。リキッド・ピープルの液状の体が、その熱によってジュウと音を立てて沸騰し、蒸発していく。

『あーっと! これはきついぜ、コテガエシ選手! 旧世界の戦争の時代より、火文明の業火はリキッド・ピープルの何よりの大敵だ!』

 文字通り体をえぐられる傷みに、反撃する暇もなく「ぐえっ……」と声を出すコテガエシ。「コテガエシ!」観客席の方からツバメガエシが言った。

「お前はもう負けだ。これ以上の無茶はするな」

「……そのようだな、兄者。ふがいない」

 だが、彼が負けを認めた……その時だ。

「それに、油断するなよ、風来の雲ベンケイ……言ったはずだ。私の本仕事は既に完了したと」

「なに?」

「メモリー・アクセラー!」

 彼は左手を伸ばし、初めてベンケイにしがみついていたメモリー・アクセラーの左手をくい、と操作した。

 すると、それはコテガエシの方に……戻ってはいかない。代わりに……。

 

『おっと、こいつはどうしたことだろう? アクア・コテガエシ選手のクロスギアが……マナ・エネルギーのあぶくに分裂して、会場を漂い始めたぞ!?』

 

 そう、助太刀メモリー・アクセラーはコテガエシの合図により一瞬でバラバラに分解したかと思うと、真っ青なマナ・エネルギーの泡となって会場を神秘的にふわふわと漂い始めた。

 

「これが私たちの……」弱弱しくも、勝ち誇った声で会場脇へ戻るコテガエシ。

「『手札』となる! ゴエモン、次は頼んだ!」

 

「了解! あいや、歌舞伎ロイド・ゴエモン、推して参るゥゥゥ!!」

 続いて大見栄を切って登場してきたのは、歌舞伎ロイド・ゴエモンと呼ばれたグレートメカオーだ。

 

「ふん。なるほど……」

 いち早く、そのあぶくの正体に気が付いた者がいるようだった。「信玄兄様」その存在は、ソウジである。

「あれは……」

「おっと、ソウジ。皆まで言うなよ」だが信玄は、厳しい声で言った。

「戦ってるのは、ベンケイだ。ベンケイが『あれ』に気付けないなら、既に相手に一本取られてんだ。……非力で未熟な相手だからって油断したな、ベンケイ」

 

 

「お控えなすって! お控えなすって! はてさてこれより見せまするのは仲間の仇討逆転劇ィ! 皆様皆様、どうぞご覧に入れてくだせェェェ!!」

「偉いこというじゃねえか、威勢のいい敵は嫌いじゃねえぜ。このオレの二人抜きの相手にゃちょうどいいか」

『ハイテンションのゴエモン選手に対して、その熱い炎によらずどこまでもクールだぜ、ベンケイ選手!』

 パッパラパラッパ! ベンケイは掛け声を唱える。とたんにパッパラ・ベンケイから、先ほどの金棒のクロスギアが飛び出した。

 グレートメカオーの金属の体には、炎の攻撃は効かない。物理的な力で押しつぶすのが一番、なるほど、今回もいい武器を引いた。

 それはずしん、と、まだまだ見栄を切っているゴエモンに直撃する。ゴエモンの方も、真っ向からそれを受けて立った。

 しかし、またもやベンケイの方がパワーは上だ。巨大なグレートメカオーの体もズルリと、その火力に押されつつある。

「ぬん! これはこれはなかなかの破壊力! コテガエシどのが引くのもわかる! しかしィィィ!」

 ゴエモンは身をひるがえし……そして、ばっと「あるもの」をその身にまとう。

「ここに取り出したるは我がクロスギア! 〈流装 インビジブル・ジンバオリ〉、あ、ジェ、ネェ、レェートォォォ!!」

 それは七色に輝く、陣羽織の形をしたクロスギアだった。そして、ゴエモンがそれを身に着けた瞬間……! 

 

『なるほど、インビジブル・ジンバオリ……その名の通り、あっという間にゴエモン選手の大きな機体が見えなくなっちまったぜ!』

 七色の光を携えたそれは、水文明の技術によってつくられた光学迷彩を施したクロスギア。それを纏った相手は、姿を消す。

 

「ちっ、なるほど。こいつは厄介だな」

 ベンケイも、あっという間に目視が出来なくなったゴエモンの姿に、一先ず作戦を立て直そうかと頭をきょろきょろさせる。と……そんな中だ。会場中に沸き立つあぶくの一つがふわりと吸い込まれるように消えた。

「なんでぇ、そこじゃねぇか……! 兄ちゃんよ、味方の泡に足引っ張られてるぜ!?」

 ベンケイは思い切り金棒を振り下ろす。しかし……。

「なぁにぃ、気付かれることまでは、想定済みィィィ!!」

 ゴエモンのハイテンションな声だけが響いた。何もないように見える虚空から放たれたビームの一撃によって、その攻撃は止められた。

 金棒の手ごたえから伝わる限りでは、先ほどとそう大幅にパワーの差は変わっていないが……それをカバーするほど、あまりにもビームの方向性が適格。

 

 そして、その隙にだ。ベンケイの小さい両足が途端にがしり、と握りつぶすように掴まれる。かと思えば……。

「お前の力は拙者以上、だがしかしィここがお前の泣き所、よよいっ!」

 その声とともに、ベンケイの体がずしん、と地面に叩きつけられた。

 

「ちっ……やるじゃねえか。オレの弱点を見抜くとは」

 ベンケイも何とか、その一撃では倒れなかった。だが、かなりの傷は負ったな、と判断せざるを得ない状態で、彼はパタパタと飛び上がる。

 あの泡が、明らかに奴の戦いぶりを強化した。そうか、データ解析能力を持つ助太刀メモリー・アクセラー……その能力は終わっていなかったという事か。

 そう気が付いてみて初めて……ベンケイはまたもや、新たな事実に気が付く。会場中を舞うメモリー・アクセラーのあぶくは、戦いの中でどんどん、大きくなってきている。

 ……成長しているのか。

 それに、コテガエシは言っていた。自分の本仕事は完了したと。先鋒の自分のデータだけなら、あそこまで言い切られる筋合いはない。信玄のデータまでをすべて、解析されてしまったかもしれない。

「……やられたな、油断した」ベンケイはつぶやいた。だが、このあぶくをどうこうしつつ見えない敵と戦うのは難儀だ。まずはゴエモンの方を、どうにかせねば。

 幸い自分にはパッパラ・ベンケイがある。この状況でも、役に立つ武器が出てきてくれるはずだ。

「パッパラパラッパ!」ベンケイが唱えると、パッパラ・ベンケイの腕は金棒のクロスギアを引っ込め、代わりにゴーグルのような形のクロスギアを持って現れた。

 水文明のスコープだ。これで、奴の居場所を自分も知ることができるようになるはず。……しかし、その時だった。

 急に、視界が何も見えなくなった。

 

「あ、お前の運の良さはデータにもある通りィ! お前はここで解析機器を引いてくる、それは読んでいたぞォ! そしてそれでは……攻撃する隙も薄れよォォォ!!」

『ゴエモン選手……!! 何が出てくるか、そのタイミングさえ読んでいたかのように姿を現し! インビジブル・ジンバオリをベンケイ選手のクロスギアにかぶせたぜ!』

 

「あ、コテガエシどのの……」

 しまった! ベンケイが気づいた時には、もう遅かった。ゴエモンは再びベンケイの泣き所をがしりと掴み、そして片手にビームを充填させる。

 

「あぁだぁうぅちぃ~~~!!」

 ビームが見事に、ベンケイ本体とパッパラ・ベンケイに炸裂。パッパラ・ベンケイは力を失って、ただの笠に戻っていく。

「……参ったぜ、やるな」

 ベンケイの方も、パタリ、と地面にひれ伏した。

 

 

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